フジテレビジュツのスタッフ

特殊装置

遊園地のアトラクションのような、バラエティでの大掛かりなゲームセットをはじめ
主に動く仕掛けの装置を担当。ほとんどがオーダーメイドです。

インタビュー

※所属・肩書きはインタビュー当時のものです

桑島亮太さん

株式会社テルミック
営業部

桑島 亮太 さん

社歴10年
主な担当番組:『新しいカギ』『芸能人が本気で考えた!ドッキリGP』『めざましテレビ』、
映画『マスカレード・ホテル』

ー特殊装置とはどんな仕事ですか?

桑島

台車を動かしたり、せり上がったり、回転したり…。「動きもの」と呼んでいるんですが、企画に合わせて装置の上げ方やスピードを変えたり、コントロールしたりすることをやっています。特殊装置は、モーターや油圧などを駆使して、鉄骨を溶接して作り上げます。

桑島亮太さん スタジオの現場

スタジオの現場

桑島亮太さん 工場での溶接

工場での溶接

ーそういう装置は工場で完成品を作り上げて来るのですか?現場で調節しながら組んでいくのですか?

桑島

その時によるのですが、主に工場で組んでいます。図面上で、他社(木工担当の大道具など)の作りや寸法、デザイナーの指定などをチェックして、工場で作り上げてきて、現場で組む時に時間がかからないようにしています。

桑島亮太さん 現場でチェック

現場でチェック

ー現場で寸法が合わないと鉄骨はその場で直すのが難しいですよね、そのためにも事前にチェックは入念にということですか?

桑島

そうですね。現場で溶接機を扱うには資格が要るのですが、それを持っている現場作業員はいないので、もし直しが必要な場合は、工場から資格を持った人が来て直すか、工場に持ち帰って直して現場に戻す、ということになります。例えば現場で切って済むだけなら、現場の作業でよいのですが、済まない部分はそういうことになりますね。

桑島亮太さん 現場でチェック

現場でチェック

ー元々大道具は木工が中心だったのですが、段々と装置が大型化、複雑化して、木工では支えきれないとか、制御できない部分が増えてきました。鉄骨やモーターなどが導入されて、今や特殊装置はテレビ美術には必要不可欠なものだと思うのですが、テルミックがテレビ美術に関わるようになったのは、いつ頃からですか?

桑島

僕が入社した時(10年前)には、会社はフジテレビからしっかりお仕事いただいてる状況でしたので、美術スタッフとしての特殊装置担当という環境は出来てました。

ーなるほど。‘80年代までは、鉄骨や電動モーターなどの専門会社はテレビスタッフにはいなかったので、ほぼ全部が手動か木工でしたが、’90年代後半くらいからドラマで手術室に無影灯(の重さを支える鉄骨)や自動ドアが必要とか、バラエティーで昇降油圧装置が必要とか、段々と特殊装置が必要な感じになっていきましたね。
そんな時期に現場でなんとかしてくれたのが、鳥海さん(テルミック前社長)でした。

ーこの仕事に入ったきっかけは?

桑島

大学時代からテレビ業界で働きたいと思っていて、卒業で就職活動をしている時にこの会社を見つけたのがきっかけです。

ー大学は理系ですか?テクニカルなテレビスタッフを目指していたんですか?

桑島

大学は理系なんですが、それを生かすというよりは、テレビの仕事がやりたかったので、美術会社、制作会社など、色々な会社の就職試験は受けました。

ーテルミックは社員何人くらいの会社ですか?

桑島

大体260人くらいですかね。

テルミック 工場作業場

工場作業場

テルミック 工場外景

工場外景

ー新卒採用は毎年やっているのですか?

桑島

そうですね毎年採用しています。

ー初めて担当した番組は?

桑島

僕は最初5年間、業務部(現場操作)にいまして、最初の担当は『ジェネレーション天国』という番組で、やった現場作業は「振りかぶせ」でした。現在は営業(装置の設計・調整)です。

ー現場操作担当と営業担当が分かれているんですね。営業担当だと色々な番組を掛け持ちするのでしょうか?

桑島

そうですね、現場操作よりは担当する番組は多いかな、と思います。

ー普段いるのは工場ですか、フジテレビですか?

桑島

普段はフジテレビにいて、デザイナーやアートコーディネーターからの相談や、発注に対応しています。それと関係各社と細かい点を詰めることが多くて、フジテレビにいた方が都合がいいのです。それを作る段階で、会社の鉄骨・技術関係やプログラム関係のことを相談する時は本社や工場に行ってます。

桑島亮太さん

『オムニバスGP』のセットに組み込まれた特殊装置。油圧駆動で人物が立った状態からバックドロップさせる仕掛け

ー特殊装置は表から見えない鉄骨構造の土台に設置されていて、見える部分は大道具だったりすることが多いと思うのですが、サイズなどのすり合わせや、仮組みはどこでやるのですか?

桑島

時間があれば、前もって大道具会社の工場に特殊装置を入れて合わせたり、逆にアクリル装飾のスタッフがうちの工場に来て合わせたりするんですが、時間がないと、もう現場合わせですね。

ー万が一現場で合わなかったら、鉄骨は無理となると外側の木工で合わせてもらうしかないですか?

桑島

基本的には木工で合わせてもらうことが多いですね。

ー会社の部門はどのような構成になっていますか?

桑島

特殊装置は、鉄骨のフレームを溶接などで作る部署が製造部・製造課で、その図面を作成する設計課があります。我々営業部もざっくりと図面を書くのですが、細かいモーターの選定とか、荷重計算など、細部を設計課が設計していきます。モーターなどの調達・改良も設計課が行います。企画に必要な速度を計算して、モーターに合う仕組みを作っていきます。
それから、塗装課にはウレタン塗装と焼き付け塗装の2つがあります。さらにレーザーカットで板を切り出すレーザー担当もいますがあります。
他にも、そうやって作られたものを実際に動かすシステムプログラム部があります。全体的な動きをコントロールするのですが、安全面も考えて、ここが開かないとスイッチが押せない、みたいなことも考えてプログラムを作っていきます。この数値を超えると危険です、という信号を送るようにすることもあります。
あと、クイズなどの早押しや、書いて回答するペンタブレットなどを考える、会社ではシステムと呼んでいるのですが、ボタンを押したら電飾が流れるなどの効果を考えて設計製作するのはシステム課が担当します。
電飾に関しては、自社の電飾ユニットを持っているのですが、それを設計製造する技術開発部というのがあります。外観のデザイン、LED基盤などの制御をどうするかというところまでゼロから作るという部署です。

ーそうやって開発した製品は、様々な展示会などで発表されていますね。LEDといえば映像制作もやってますよね

桑島

映像を作るのはCG課です。

ー『FNS歌謡祭』では、いつも素晴らしい映像を作っています。
テルミックの担当業務は、大きく分けて特殊装置部門と電飾部門、映像制作部門があるわけですね。仕事の分量はどのくらいの比率でやっていますか?

桑島

(フジテレビの仕事に限らず)会社全体でいうと、電飾・映像と特殊装置で半々くらいですね。でも社の各部署が連携して、新しい企画の装置を作り上げていく感じですね。

ーテルミックの場合、番組企画の発注を受けて作る以外に自社開発製品がありますが、その製品企画はどの部署が主導してやるのですか?

桑島

それは技術開発部が主導します。新しい装置は、番組などでこんなこと出来ないかっていう相談を受けて始まることの方が多いのですが、そういった相談が実現可能かを検証する過程で「こんなこともできる」とか、その派生で製品が産まれたりもします。

ー製品といえば自社製作に限らず、LEDビジョンも自社で持っているのですか?

桑島

はい、そうですね。

ー今までで一番きつかった仕事は?

桑島

『マスカレード・ホテル』の時ですね。最初は特殊装置という立場で参加したのですが、映画ということで、電飾も一緒にやらせてもらうことになりました。セットがどんどん変わっていって、東宝撮影所の現場に行ってみたら「あれ?図面から様子が変わっているな」という感じでした。
それに対応してる時に、たまたま『志村けんのバカ殿』も担当していてそっちの装置が本当に特殊な装置だったのですが、それを並行してやっていたんです。こっちはどんどん変わっていくし、志村さんのは複雑な装置で設計が大変でした。
私は営業になって2、3年目の時で、もし今なら何とかこなせるのかもしれないのですが、その時の私にはヘビーな仕事が重なってしまって、きつかったですね(笑)。

ー自信作、「やり切ったぞ」と思う仕事を教えてください

桑島

『めざましテレビ』ですね。私が担当になってから初めてのフルセットチェンジで、鉄骨で象徴的なタワーを作ったのですが、デザインが3次元というか曲線が多くて、セットも立体的で、ただスタジオは狭いという状況でした。
その上、旧セットをV9 スタジオからV8へ移動するのもあって、移動とニューセットへの建て替えのスケジュールと、搬入搬出などの条件の中で、どうするのか一番いいか、安部デザイナーのデザインを見ながら考えて打ち合わせをしました。それが現場でピタッとすんなり収まった時、「よかったなー」と思いました。

ー鉄骨だと0.5mmでもずれたらボルトが入らないですよね。そういう意味では図面上だけでは分からない現場の状況確認と、緻密な計算が必要ですね。

桑島

あと、鉄骨は強度を期待されますが、鉄骨自体が重いので「あまり細いと自重で支えられない」みたいなこともあり、強度とデザインの兼ね合いで工夫が必要になります。まあ、そこが面白いところでもあり、大変なところでもあります。

ー仕事上のこだわりは?

桑島

私は営業ですが、実際にセットを作るのは工場のスタッフで、建てるのは操作スタッフなので、実際に自分は何をやっているのかといえば、受けた仕事を、会社の中でうまく振り分けていったり、大道具会社やフジアール、フジテレビのデザイナーと、仕様を詰めていったり、調整、段取りをつけるのが仕事なんですが、事前の「細かい詰め」を大事にしています。
番組ディレクターや、デザイナーがやりたいと思っていることをうまく汲み取って、その熱量を自分の会社の各部署に伝え、実際に形にする時に生じる問題の妥協点や、こだわるところを橋渡しする。それがスムーズに、うまくいくように考えながらやっています。

ー仕事をやっててよかったと思う瞬間は、どんな時ですか?

桑島

オンエアで見た時ですね。特殊装置って意外とレギュラー化していくと、カットされてることが多くて(笑)。
「本当にこれ使われるのかな」とか、「本当に自分が頑張ったところって、どういう使われ方するのかな」って思いながら現場を見ているので、オンエアを見て「ああ、ちゃんと使われているな」と思います。

ー特殊装置はきっかけで動かすものが多いので、本番でそれが決まった時、現場で「おおーすごい」なんて声が上がる時もあると思うのですが。

桑島

そうですね、こちらはその瞬間うまくいったってことよりも、最後までちゃんと動かすってことに集中していますね。
「1回目はうまくいったけど。2回目は大丈夫かな」とか、そっちの不安の方が強くて終わるまで気が抜けないです。
それで終わってホッとして、やはりオンエアで見て「ああ、よかったなあ」と思います。

ー今後やってみたい番組などは?

桑島

最近は『FNS歌謡祭』などの音楽番組をやらせてもらっているのですが、自分が最初から立ち上げた音楽番組をやったことがないので、大掛かりなセットを組んだ新しい音楽番組をやってみたいです。

ーテレビ番組だと、年々大掛かりなセットを組んだ番組が少なくなってますが、テルミックとしては、アーティストのステージやライブなどの仕事はやっていますか?

桑島

そうですね、うちもライブなどで装置はやっています。

ー趣味を教えて下さい

桑島

独身時代に憧れてたのは「酒、タバコ、ギャンブル」みたいなライフスタイルだったんですが(笑)。
結婚して子供もできた今は、子供を喜ばせるためにDIYでクリスマスイルミネーションを飾る時に、「市販の仕込み方じゃダメだな」とこだわってアレンジしてみたり、そういうのが楽しいですね。

ーありがとうございました

(2022年4月)