フジテレビジュツのスタッフ

小道具・装飾

小道具の飾りを担当。椅子やテーブル、出演者が食べるお料理まで、これらは全て小道具・装飾の担当。
どんなものでも用意します。ドラマでは欠かせない存在。

インタビュー

※所属・肩書きはインタビュー当時のものです

横山 公一さん

株式会社千葉洋行 
代表取締役

横山 公一さん

装飾スタッフ歴25年。フジテレビのドラマ、バラエティー番組のほとんどを担当。

ー仕事内容を教えてください。

横山

「装飾」の中でも、弊社が担当しているのはセットの飾りではなく小道具、とりわけ特殊小道具です。買えないもの、作る必要があるものですね。バラエティー番組では着ぐるみ、被りもの、演者さんをかたどった銅像やトロフィーなど、ドラマだとダミーのナイフや拳銃とか。報道・情報番組でも、地震の解説で使う活断層の模型などを作ります。

株式会社千葉洋行 横山 公一さん

ー制作物で代表的なものは?

横山

『めざましテレビ』の「めざましくん」、バレーボールの「バボちゃん」、「ペットのPちゃん」(『SMAP×SMAP』登場キャラクター)、「オカレモン」(『めちゃ²イケてるッ!』)、『のだめカンタービレ』のマングース……。ほかにも、男性がグラマラスな女性に扮装する時の肉襦袢なども作ります。ウレタンを削って布を被せた、言わば補正下着に肉を付けたようなものです。

ー作るのに大変だったものは?

横山

バラエティー番組の“ドッキリ”企画で作ったワニの造形物でしょうか。演者さんが海で泳いでいると水面にワニがいる!という設定だったのですが、見た目をリアルに近づけて作ると、重くて水に沈んでしまうんです。なので、水に浮くFRP(繊維強化プラスチック)とウレタンの混合素材を使って、いかに本物っぽく見せるかで苦労しました。
着ぐるみで潜水をする時も大変ですね。着ぐるみはワニとは逆に、水を浸み込むまでは浮いてしまうので、潜らせるためには水を通して抜く穴をどこに開けるかを考えます。反対に、浮かべる時は、水が浸み込まないようにコーティングをする必要があります。

株式会社千葉洋行 横山 公一さん
株式会社千葉洋行 横山 公一さん
株式会社千葉洋行 横山 公一さん

ー作品制作で気にかけていることは?

横山

演者さんに直接触れるものを作るときは、けがをさせないこと、衣裳に塗料が付かないようにすることに気を配ります。
あとは、途中で壊れないように作ること。以前、バラエティーのゲームコーナーで頭に被る装置で、ゲームが始まって本人が紐を引くと頭上にたらいが落ちるはずが、まだゲームの説明をしている最中にたらいがコツンと落ちてしまったことがあって……。それはそれで笑いが取れて良かったのですが(笑)。やはり、時間が許す限りテストはします。問題はその時間があるかで、たらいの時もそうでしたが、本番直前までスタジオ前の廊下で作っていることもあります。
限られた時間で必死に作ったものを演者さんが身に着けて、本番終了後、持って帰りたいほど気に入った、と言われると、それまでの苦労を上回る達成感が得られますね。それがこの仕事の醍醐味です。

(2019年11月)

若林 一也さん

株式会社KFライズ 
取締役副社長

若林 一也さん

小道具スタッフ歴38年。担当は「東京ラブストーリー」「愛という名のもとに」「ドリフ大爆笑」
「欽ドン!良い子悪い子普通の子」「オレたちひょうきん族」など。

ー職歴38年の大ベテランですが、特に思い出深い担当番組は?

若林

ドラマもバラエティもたくさん経験させて頂きましたが、ドラマでは、まだ駆け出しの頃に担当した『北の国から』でしょうか。部屋の隅に古新聞が積まれている設定のセットだったのですが、新聞紙を古く見せるには、水で薄めた醤油を刷毛で塗って、ガラスに貼り付けて乾かすんです。それを何十枚も作るから、部屋中が醤油臭くなるわ、手はベタベタになるわ……。それでようやく出来たと思ったら、先輩に「汚れにむらがある。新聞汚しのセンスがない!」と怒られましたね。
バラエティでは『オレたちひょうきん族』が大変でした。『タケちゃんマン』のコーナーで、毎週違う小道具、しかも変わったものを用意しなくちゃならなくて。プロデューサーからは「とにかく面白いものを持って来て」と、漠然と言われるだけなんです。毎日、面白いものないかな、と探す日々で、ある時、横浜の中華街で見つけた、巨大な人の頭の被りものを用意したら、出演者が皆大喜びしてくれて。毎週本当に大変でしたけど、楽しかったですね。

若林 一也さん

ー小道具スタッフになったきっかけは?

若林

この仕事に就くことは、中1の頃から決めていました。小学生の時からお笑い番組が大好きで、中学の卒業謝恩会では企画を考えて構成台本を書いたりもしていましたね。とにかくお笑い番組に関わる仕事がしたくて探していた時に、たまたまアルバイト雑誌でテレビの小道具・装飾スタッフの手伝いの仕事を見つけたのがそもそもの始まりです。最初に就いた番組はバラエティ番組ではなくドラマでしたが、それでも、これは面白い仕事だなぁと、もう最初からハマりました。

ー念願の職に就いて、実際はどうでしたか?

若林

毎日がもう楽しくて、つらいと思ったことは一度もありません。苦労もたくさんありますが、苦労した分だけ、視聴者にも演者にも喜んでもらえますから。本当にやりがいのある仕事です。
それと、「テレビってすごいな」と思いますね。大ヒットのドラマを担当していた時には、自分が探してきた物が世間で爆発的に売れるんです。主役がしていた腕時計とか、ヒロインが着たコートや持っていたカバンとか。テレビって怖い、とすら思いました。下手なことは出来ないな、と。

ープライベートでも職業癖が出たりしますか?

若林

はい、デパートやスーパーに行くと、ずっときょろきょろし通しです(笑)。遊園地に行った時も、家族そっちのけで施設や土産物屋を見て、「これを番組で使ったら笑いが取れそうだな」とか「この商品は積み方を変えたらもっと売れるのに」とか一人で言ってます。家族は白けてますね(笑)。

ー座右の銘はありますか?

若林

「とにかく楽しく。何でも楽しく」。なかなか手に入らなそうな物を求められることも日常茶飯事で、特に昔はインターネットなどないので、とにかく足が頼り。ひたすら歩いて情報収集するしか方法がなかったですからね。それでも、あそこに行けばそれらしい物くらいはあるかな、と思う所から当たっていくと、最後には大概見つかるんです。ネガティブな思考からは何も生まれない。いつも楽しく、常にポジティブでいれば、必ず道は開けると思っています。

(2019年4月)

野本 隆行さん

株式会社テレフィット 
ドラマ装飾チーフ

野本 隆行さん

装飾歴19年。担当は「貴族探偵」「HERO」「救命病棟24時(第5シリーズ)」、
映画「マスカレードホテル」(2019年1月公開)など主にドラマ、映画。

ー「装飾」の仕事内容を教えてください。

野本

文字通り、収録現場を飾り込む仕事です。役者さんの衣裳と手持ちの小物以外の全てが対象で、料理などの「消え物」も含みます。まず台本を読んで自分なりのイメージを持った上で、デザイナーが描くイメージに合わせて、実際に在る物を揃えて具体的な形にしていく作業です。「装飾コーディネーター」、英語で言うと「アートデコレーター」ですね。

野本 隆行さん

ー現場のあらゆる物を揃えるというのは、相当大変なのでは?

野本

はい。デザイナーが「こんな感じで……」と言うイメージをきちんと理解して、それに沿う物を揃えていくので、イメージの「つかみ」が違うと大きく変わってきてしまうんです。「答え」がない世界でひたすら追求して、選んで、揃える。自分の中で揃えられる物の引き出しをいかに多く持っておくか、経験値がものを言います。

ーマニアックな仕事だと思いますが、この職に就いたきっかけは?

野本

ドラマの制作現場を見てみたくて今の会社にアルバイトで入ったのが最初です。その時はもちろん何一つできないし、怒鳴られるし、1日で辞めようと思いました(笑)。ところが、どうにか踏ん張っているうちに、だんだん面白いと思えるようになってきて、「もしかしたら自分に合ってるかも……」と。それがまさか19年も続くとは思ってもみませんでしたけどね。

ー一番大変だった番組は?

野本

『Dr.コトー診療所』です。沖縄・与那国島のロケで1ヵ月半ずっといたのですが、足りない物を調達したくても、本土へは飛行機でないと行けない。島で買った物も多く、売っていない物は島民の方から借りることもありました。体調を崩してもすぐ移動できないし。体力的にも精神的にもキツいロケでしたね。

野本 隆行さん

ー仕事で心掛けていることはありますか?

野本

役者さんが入るセットの飾りは、時間の許す限り、細かいところまでこだわるようにしています。画面に映らない、引き出しやゴミ箱の中まで。装飾という仕事は、台本の世界観を作り込むことが第一の使命ですが、プラス、役者さんが役に入り込む手助けもできればと思っています。役者さんが「この人はこういうペンを使うタイプなのか」「この女性はこんな物まで引き出しに大事にしまっておきたいんだ」と、小道具がわずかでも役のイメージを膨らませるツールになって、それでより良い作品になれば本望ですね。

ー最後に、仕事上のモットーはありますか?

野本

「好きこそものの上手なれ」。合格点が取れる物をとりあえず揃えるだけでは、この仕事で成長しません。「モノが好き」で、物に愛着を持たないと。答えがない作業の中で、自分なりの最高の答えを探し出して、作品の中に据える。「モノが好き」であればこそ幅を拡げられる仕事だと思います。

(2018年10月)