フジテレビジュツのスタッフ

アクリル装飾

アクリル造形の担当。
アクリル以外にもセットの床を敷いたり、大きいサイズの出力印刷や特殊印刷も担当します。

インタビュー

※所属・肩書きはインタビュー当時のものです

犬塚 健さん

株式会社ナカムラ綜美 
フジテレビ担当チーフ

犬塚 さん

社歴22年

ーこの仕事に就いたきっかけは?

犬塚

もともと働いていたのは昭和記念公園で、公園・駐車場・プールの管理や、チケット切り・自転車貸し出しなどの運営スタッフを6年くらいやってました。公園では季節ごとにイベントがあって、スタッフが予算内での企画を自分たちで考えるんです。どうやったらお客さん入るだろうとか、冬に花火やったらどうだろうかとか。そういうイベントで大道具さんを見かけて、カッコいい職業だなと思ったのがきっかけです。
ちょうど国土交通省が財団法人を民間に委託する時期で、どこか地方に転勤しなきゃならなくなったので、別の仕事を探すことにしたんです。当時「ガテン」という求職雑誌に掲載されていたナカムラ綜美の募集を見て応募しました。テレビ業界にすごく興味があったわけではないのですが、募集にテレビ、CM、イベントなどの設営と書いてあったのを見て、やってみようかなと。

ー会社に入って最初の仕事は?

犬塚

最初は本社業務部で、モーターショーなどのイベントの手伝いや、トラックの運転手をやってました。あとはモノを覚える毎日ですね。昔ながらの職人気質の会社なので、自分の仕事は自分で見つけなさいという感じで、「運転はできるから私やります!」みたいな。で、ある時から会社が残業などの「働き方の問題」で仕事を担当で分けるようになって、ずーっと運転手ばかり(笑)。「俺はドライバーで入った訳じゃないから、このままなら辞める」って言ったら、「お前は異動が決まっているからまあ、待て」と引き止められて、フジテレビ担当に配属されました。

ーでは入社2年くらいでフジテレビ担当になって、そこからずっとですか?

犬塚

そうですね。フジテレビ担当になって20年くらいです。その時は“野猿”のメンバーだった平山さんの代わりってことだったので、プレッシャーが大きくて(笑)。お台場に移転してちょっと経ったくらいで、とにかくフジテレビが盛り上がってた頃ですね。

ーフジテレビ担当になってから最初の番組は?

犬塚

『雨ニモマケズ』っていうバラエティーのレギュラー番組だったんですが、印象に残ってます。こちらが面白いものを作って認められれば認められるほど、デザイナーがいい意味で“手を抜いて”くるんですね(笑)。つまり任せてくれる。「何が合うか考えて下さい」みたいなことも増えてきて、それがうまくハマると嬉しかったですね。デザイナーとの関係性が分かってくると、任せてもらった時どうやったらいいかという自分の中での基準もできてきます。発注の時にデザイナーから平面図をもらうじゃないですか、それが白紙で来た時は燃えましたね(笑)。

ーえ?白紙?

犬塚

全体のイメージ図はあるんですよ。でもまあそのおかげで「こういうのどうですか?」とデザイナーと話す回数も増えますし、そういうことがないと育たないな、と思います。

ー印象に残っている仕事は?

犬塚

かつて『春の祭典』の中で、「駒沢公園でバーベキューをしている」というシチュエーションがあって、駒沢公園の一部を縮小して美術セットをV4スタジオに建てようということになったんです。発注が終わった後、真っ先に駒沢公園に行きました。テレビを観た人に「あれ?これ駒沢公園かな?」って思わせるアイテムを作るのはやりがいがありましたね。街灯の形が同じだとか。
あとは、自分を大きく成長させてもらった『SMAP×SMAP』でしょうか。長い間担当していましたし。特に歌のセットに関しては、出演者に100%合わせて作っていて、カメラも照明も、その人のPVを撮るくらいの意気込みでやってました。セットはCGじゃなく、曲の中で大転換しているので、毎週運動会みたいでしたね。レディー・ガガの時は日本の祭りのセットで、自分も褌1丁で神輿担がされたりしました(笑)。あの歌コーナーは見どころが満載で、他局の担当者から「あの仕掛けはどうやってるの?」って質問されたこともあります。そこから生まれる発見も多かったので、よかったかなって思います。

ー一番大変だった仕事は?

犬塚

何年か前の『27時間テレビ』ですね。テーマが“食”で、台湾の九份という街をメインスタジオに建てるというプランでした。実際の街の資料を参考にして、街並みの構造を考えながら一つ一つ手作りでアイテムを作り上げたんですが、時間もかなりかかりましたね。建て込み工事の前には、タイルシートなどを全部手作業で切って、面取りをして、色を塗って、質感をつけて作り物を準備します。スタジオでの建て込み現場でも、石畳の目地を打ってました。セット全体の床は“床(ゆか)屋”として全部やりますと。大道具の“汚し屋”スタッフも入っていましたが、一緒に我々も“汚し”をやるカンジです。
街並みを再現するために色々な素材を駆使しましたし、単純にセットの面積が広くて大変でした。リノリウム床材にパテなどで凸凹つけて絵の具を塗っていくんですが、仕上がったものを巻いて運べるのか?などいろいろと気にしながら。まあ、「アクリル装飾」って範疇を超えているんですが。でもその作業はいい経験になってます。

ー単に売っている床材料を敷くのではなくて、加工して作るってことですね。市販の型番から選んで敷くってことは基本であるとしても、コストや時間などの制限ある中で、それを加工したりしてオリジナルで作るって本物に近づけるのは映画セットなどとも違う、建てバラシのあるテレビセット特有の技術ですね。テレビ美術の中で何十年かで進化した部分の一つだと感じます。

犬塚

品番で発注されたものを飾るというのは普通の施工会社なので、現場としてはプロの職人にならなきゃいけないですから、エンターテインメントの美術を作っていきたいです。床だから塗っちゃダメ、なんて決まりがあるわけじゃないですし。

ー今までで、失敗したことを教えて下さい。

犬塚

そうですね、小さい失敗はまあ人間なんで誰でもあると思うんですが、支障をきたすくらいの失敗はないかなあ。基本的には一人でやる仕事ではなくて、他の会社の人も含めて仕事をやるので。例えば大道具スタッフがミスしたら我々がフォローして何とかなれば、ミスがあったことも忘れちゃいますね。ミスでへこんでる時間はないし。その観点から言うと失敗はないってことになりますかね。何とかするというか。何かミスをして怒られたとか、穴をあけたって記憶はないです。

ーまあそうですよね。ミスというか思った通りにならなかったことはありますか?

犬塚

僕の場合、発注を受けてからサンプル作りを次の日にはやっていたので、実際のミスには繋がらないというか、間違いがないかチェックするためにサンプルを作るので、その時点で気が付きますし。あ、一つだけあります(笑)。
『水曜歌謡祭』という番組のレギュラーセットで、“ベルビアン”というシートを張り分けた床材を作成するという作業がありまして、僕はデータと品番をイラストレーターで起こして会社に発注したんですが、出来上がってきたら全然違う色のシートが貼られていたんです。茶色のはずが白になっていて。調べたら僕の送った品番が白だったんです。何で間違えたのかと思ってカタログを見直したら、“ベルビアン”の見本帳はシールになってるから剥がれるんですよ。誰かが別の発注の時に何枚か剥がして、白と茶色を戻し間違えていたのが分かったんです。あれは冷や汗ものでした。それで急遽発注しなおして、上から貼りました。

ー型番間違いでなくとも、見本帳と本物のイメージが違ってたって事はよくありますね。

ー仕事でやりがいを感じる時は?

犬塚

やっぱり放送を見た時ですかね。その時の現場の記憶も、記録されてて残ってますから。あとは、デザイナーなどに現場で「図面のイメージ通りのものが建ったね」と声をかけられた時とかですかね。現場の人はみんなそうだと思います。人間は何歳になっても「いいねー」って褒めてもらえると嬉しいというか。本番前、照明が入って、収録が始まるまでの時間にいろいろと感じます。デザイナーの凄さも感じますし、逆に甘さを感じる時もありますけれど(笑)。みんなで完成させたという達成感もあります。

ーそれに、いいセットだと出演者も喜びますよね。

犬塚

そうですね、いいセットだとテンションが全然違いますよね。

ースタジオの収録現場がいい感じで、オンエアの時があれ?ってことはないですか?

犬塚

ごく稀に、「うわ、CGこんなに入れるの?」みたいに感じる時はありますけど(笑)。

ー仕事上のモットーを教えて下さい。

犬塚

個性ですかね。オリジナリティ。自分なりの工夫なんでしょうが、会社の後輩にも色んな個性があって、変なもの作る人間もいれば、キッチリやる人間もいます。最初はみんなやったことがないから立ち止まる時があるんですが、その人が考えたプランができるかできないか教えたり、一緒にやったりしながら、それぞれの個性は大事にして基本的に否定はしないで育てます。

ーこれからやってみたい仕事は?

犬塚

いままではテレビ番組の仕事を中心にやってきたのですが、アクリルのプロでなくてはいけないと思っています。つまり「アクリルって何だ?」「何を求められてこの職種があるのか?」っていうところでは、透明で何か作れたらなあと思っています。「これを透明で作らない?」みたいなことをやりたいです。小さい頃、ガンダムのプラモデルで中身が見える透明のものがあったんです。そんな風に「照明のバリライトをスケルトンで作れないかな」とか、今までいろんな提案はしてきたんですが、大体却下されているんで(笑)。誰か僕の夢を一緒にやってくれないかなと思います。3Dプリンターとかいろんなものが進んでる中ですが、是非「職人技」で。イベントとか、とにかく肉眼でお客さんが見てカッコいいなと思われるものを作ってみたいです。やっぱり透明なものってカッコいいですよね。氷の彫刻にしてもそうなんですが。

ーなるほど。家具やギターでも透明なものがありますが、かっこいいですね。

犬塚

アクリルではないんですが、「フジテレビジュツ博」の時に、氷の吊りブラケットを作ってみたくて、ペットボトルを輪切りにして電球にサランラップを巻いて凍らせたものを展示しました。その下に水槽と金魚を入れて。昔、「氷の中に閉じ込められた人」みたいな氷柱オブジェを作ったんですが、そういうのも面白いかなと思います。もともとうちの会社は「中村ガラス」という硝子屋だったので、もう少し硝子も勉強したいなと思います。今、ガラスって昔の型が無いんですよ。だから「昭和の色んなガラス」はもう製造していないので、古民家の素材がリサイクルで商売になってると思うんです。飴ガラス風なものも作ってる会社は数社しかないので、そういう無いものを作りたいなと思います。

ー趣味を教えて下さい。

犬塚

子供とバイクですね。息子は事務所に所属して芸能活動をしているので、いつか現場で会えたらいいなと。ダンスをして歌うという練習をしつつ、幼少時代の役とかでドラマも出ています。セット建て込み現場にも手伝いに来ていたので、美術スタッフや出演者にも可愛がってもらってました。
バイクは古いのが好きなんですが、今は比較的新しい年式のSR400っていうバイクを古い感じに仕上げて乗っています。改造するのが好きで、全部自分でいじります。車体はネットとかで良さそうなのを見つけて、パーツを変えてカスタムして仕上げています。車検も自分で取りますし、エンジン載せ替えくらいなら出来ます。

ーエンタメとモノづくりが生活と趣味にも反映されてるんですね。ありがとうございました。

(2022年9月)

永山 淳さん

株式会社ナカムラ綜美 
フジテレビ担当マネージャー

永山 淳(じゅん) さん

アクリル装飾歴28年。担当は「FNS歌謡祭」「奇跡体験!アンビリバボー」「僕らの音楽」など。

ー「アクリル装飾」の仕事内容について教えてください。

永山

広く言うと、アクリル樹脂……プラスチック素材の透明や色付きの板ですが、これを扱う部分全般を受け持ちます。セットの床、MCテーブルの天板、アクリル製の飾りとか。
とはいえ、実際には、スタジオに建てたセットの「床」を敷く仕事が全体の8割でしょうか。
デザイナーから上がってきた図面に合う色・素材・模様の床を揃えて、現場で素早く敷く。『FNS歌謡祭』では100パーセントが
床仕事でした。

FNS床パネル各種

FNS床敷き段取り

ー『FNS歌謡祭』のような生放送で床を敷くのは、相当大変な作業なのでは……?

永山

そうですね。CMの間に床の上に載っている物を全てどかして張り替えなくてはならないので、緊張感はハンパないです。間に合わないと放送事故になりますから。しかも、床を敷いた後にドラムやパーカッション等のバンド台が入って、マイクが入って、音声さんがケーブルをつなぐ――それが全部CM中に終わってないといけないので、床は何よりも最初に整える必要があります。どのセクションの人達も、1秒でも早く自分の仕事を済ませたいですからね。

ー床を速く敷くコツはありますか?

永山

リハーサルを何度もするのはもちろんですが、それ以外にも、事前につなげられるものは何枚かをつなげた状態にしておきます。数枚を合わせたものを最低4人で運び入れるのですが、生放送では舞台裏でずっと作戦会議ですよ。誰が何番(のアクリル)を持ってどこに張るか、っていう。
ですから、チームワークも大事です。自分1人が理解していてもだめ。全員が張る場所、タイミングを理解して、呼吸を合わせないと、短時間に張り替えはできません。

ーこの仕事に求められるものは?

永山

細かさ、緻密さ、でしょうか。床を張る時には少しでもずれていたらいけないので、きれいに張れるセンス、そういう所をきちんとやりたい人が向いてると思います。
厳密にいえば、冬場、スタジオが寒い時は、「ミリ開け」といって、基本1ミリずつ隙間をあけてつなぐんです。塩ビ(塩化ビニル)は温度によって膨張するので、冷えている板が照明の熱で膨らんでも継ぎ目が盛り上がらないようにするためです。その微妙な感覚は経験で身に付けるしかありませんが。

ープレッシャーをはね除ける精神力も必要なのでは?

永山

生放送の緊張感がすごすぎて、最後の床転換が終わった途端、全員がへたり込みます。慣れない頃は、建て込み前日が精神的に辛かったですね。そんな時は「失敗しても死ぬわけじゃない」と自分に言い聞かせてました。
慣れてきた今では、どうすれば少しでも短い時間で出来るか、張り替えのやり方を考えるのが楽しいです。そこがテレビならではの、この仕事の醍醐味かな。大変な仕事を終えた後に飲むお酒は格別ですね(笑)。

(2018年12月)

鈴木 竜さん

株式会社ヤマモリ 主任

鈴木 竜(りゅう) さん

アクリル装飾歴18年。担当は「マスカレード・ホテル」「レ・ミゼラブル 終わりなき旅路」
「グッド・ドクター」「99人の壁」など。

ー仕事内容について教えてください。

鈴木

ドラマの場合、セットの中に置くアクリル素材の装飾品はほとんど作ります。棚や柱の装飾、オブジェとかですね。そしてもちろん床もやります。家のセットにはフローリングやカーペット、学校や病院ならそれらしい床材を揃えます。実際の建物に使われている本物の素材を使うこともありますし、塩ビ素材を加工して本物に似せたものを作ることもあります。

ーこれまでで大変だった仕事は?

鈴木

映画『マスカレード・ホテル』でしょうか。とにかく規模が大きい上に、何もないところから始めて2週間で全てのセットを建てるという突貫工事。ホテルにあるあらゆる表示板や、エレベーターのボタン、壁に貼り付けるホテル名の英字ブロック、踊り場に立てるホテルのロゴ入りフェンス、もちろん床も……アクリルを使っているもの全てを作るのは本当に大変でした。
ただ、その分、すごくやりがいがあって、終わった後の達成感も大きかったですね。でも、もう一度やってみるかと言われると、即答はできませんが(笑)。

ー守備範囲がすごく広いように思いますが……。

鈴木

そうですね。木とかでなければ、大概の物は作れます。アクリル板は透明なものだけでなく色付きももちろんありますし、表面もクリアなもの、半透明、ざらざら、凸凹……とあらゆるものを揃えられます。ステンドグラスをアクリルで似せて作ったこともあります。
塩ビ板の加工だけでなく、その上にカッティングシートというさまざまな色のシートを貼ったりもします。ドラマでよく、ビルの窓ガラスに「〇〇商事」とか書いてあったりするのも我々が作っているものです。
大道具の一部でもあるし、小道具の一部でもある。“何でも屋”ですね(笑)。

ー仕事上のこだわりは?

鈴木

「見えない所にも手を抜かない」。画面に映らない部分だから、といって手を抜くと、見えないようでいて、やっぱり何らかの形で表れるんです。あらゆる部分で“なあなあ”にならないよう気を付けています。

アクリル板

カッティングシート

ー仕事で楽しさを感じる瞬間はありますか?

鈴木

デザイナーがある程度任せてくれて、それに対しての提案がハマった時です。自分でも試行錯誤して、デザイナーと一緒に作り上げた結果、良い感じの世界観を生み出すものが仕上がった時は嬉しいですね。

(2018年12月)