フジテレビジュツのスタッフ

ヘアメイク

出演者のヘア・メイク全般を担当します。役に合ったかつらの作成から付けヒゲ、メイクまで、
出演者の魅力を最大限に引き出す、魔法の手の持ち主。

インタビュー

※所属・肩書きはインタビュー当時のものです

佐野 泰葉さん

株式会社山田かつら 
メディア事業部かつら部

佐野 泰葉 さん

入社 22年目
主な担当番組:『とんねるずのみなさんのおかげでした』『ピカルの定理』『のだめカンタービレ』『花ざかりの君たちへ〜イケメン♂パラダイス〜』など

ーテレビ美術での「かつら」とはどんな仕事ですか?「ヘアメイク」との違いも含めて教えてください。

佐野

使用するかつらをセット・装着するのが「かつら部」、地毛をセットしスタイリングするのが「ヘアメイク」の仕事です。番組ジャンルを問わず、かつら・ウィッグ・エクステなどを作って、セットしています。ドラマでもコントでも、まず役柄に合ったヘアスタイルを決めたら、そのスタイルにするための長さ・色・サイズなどをみて、かつらをセレクトします。そして巻いたりカットしたりしながら仕上げて、現場で演者さんに装着するまでが仕事です。

かつらストック

ー色々なサイズがその都度必要になると思いますが、どのようにフィットさせるのですか?

佐野

かつら部内には膨大な枚数(※かつらの単位は枚)のストックがあるので、その中からベースとなるかつらを選んでいます。在庫がない場合は、演者さんの頭の型取りから始めて、植毛したりして、ゼロから作り上げていきます。

ーリアルなかつらとコントなどで使うかつら、どっちが難しいなどありますか?

佐野

どちらも難しさはあるのですが、リアルに見せるのは難しいですね。かつらの毛を一本一本植毛してリアルに近づけていきますが、フェイスラインも重要です。薄いチュールを使うとリアルで肌にも馴染みやすくなるのですが、チュールにも耐性の限界があり、すぐに破れてしまうので、ある程度の厚みが必要なんです。あとは、チュールがバレないように照明さんの力もお借りしています(笑)。

ー薄いものはもろいので使い捨てですか?

佐野

そうですね。薄いと使用頻度によっては破れてしまうので、ドラマや映画仕様のリアルなかつらは使い捨てになってしまうことが多いです。破損せずに残ったかつらは、人の頭髪と同様に、使用後はシャンプー・コンディショナーをして乾かし、ブラッシングして個別に保管していて、次の出番に向けて備えています。

佐野 泰葉さん

ーベースになるモデルは、定期的に作っておくのですか?

佐野

受注してからサイズ・色・長さをみてかつらをセットするので、在庫がなければそこで作ります。要望されたかつらがない場合でも、加工やヘアカットで対応できる在庫があれば、アレンジして作ります。作る作業は地毛でないだけで、美容室のヘアセットとほぼ同じです。

ーかつらではどんな毛を使っているんですか?

佐野

人毛もありますし、人工毛、化繊もあります。化繊はもともと熱に弱いのですが、耐熱化繊という熱に強いものもあります。耐熱化繊だと、ドライヤーやアイロンも使えるので人毛と同じようにセットできます。

ー時代劇の場合はどちらですか?

佐野

人毛です。

ー「バカ殿様」のようなバラエティーの時代劇かつらはどうですか?

佐野

あれも人毛です。化繊を使うのはサラサラしたロングヘアとかですね。人毛は色んな人の毛が混ざっているので、毛質が違うとゴワゴワになってしまってロングには向いていないんです。ヘアスタイルや用途によって、オール人毛だったり、混紡だったり、オール化繊だったり、という感じで使い分けていますね。

ー赤毛や金髪など特殊な色の発注があると思うのですが、それは作るのですか?あるものを染めるのですか?

佐野

両方ありますね。髪形によっては人毛以外でも用途によって唐毛(ヤクという動物の毛)を染めたり、既製の化繊の赤い毛で作ったりしますが、まずは髪形に合う種類の毛を選んで、それに色をつける感じです。

ー色んな番組がありますが、今かつらの需要が多い番組は?

佐野

昔はバラエティーだったのですが、最近はドラマですね。再現ドラマとか、コミック原作ドラマは特徴のある変わった髪形が必要だったりします。また、役者さんの髪を切れないけれどショートヘアにしたい場合もあります。そういったことが現代劇ドラマでも多いので、時代劇でなくてもかつらの需要はあるんです。

ー佐野さんがこの仕事を選んだきっかけは?

佐野

私は昔からバラエティー番組が大好きでして。特に『めちゃイケ』だったり『ごっつええ感じ』や、『みなさんのおかげです』がすごく好きだったので、それがきっかけです。もともと髪の毛を結ったり編んだりするのが好きだったので、最初はヘアメイクとして入社したのですが、どちらかと言えばメイクすることよりもヘアセットが好きでした。メイクは演者をきれいにするのがメインで、パンチパーマなんて巻かないじゃないですか。そういう面白い髪形を、色々セットしてみたいと思っていました。それまでテレビ局を担当する「かつら部」があるとは知らなかったので、そんな部署があるならすごく面白そうだなと思って、異動希望を出しました。その時、かつら部からは「人員補充はしていません」と言われたのですが、「欠員が出るまで待ちます」と嘆願したら、「そんなに熱意があるならやってみる?」と言われて。

ー山田かつらに入社する前は、美容系の専門学校などで学んだのですか?

佐野

そうですね。ヘアメイクになりたいと思ったのは高校生の時で、ヘアメイク専門学校の就職先を見ていたら、フジテレビのメイク室が「山田かつら」だと知り、山田かつらに就職した卒業生がいる学校を探しました。東京で就職するつもりでしたが、大阪にも憧れがあったので大阪の専門学校に行きました。美容師通信課程だと4年で資格を取れるのですが、大阪の専門学校は美容師資格が取れない学校だったので、高校在学中に勉強を始めて、専門学校卒業と同時に美容師の資格も取れるようにしました。

ーでは高校の頃から、目指した方向へ歩んできたという感じなんですね。

佐野

そうですね。わりと思った通りに進むことができました。

ー今までインタビューしたスタッフには、たまたまこの業界に入ったという人も多くて、高校の時から目標に向けてまっしぐらという人は、むしろ少数かもしれないという印象です。

佐野

それはそれで羨ましいですね、色んな世界を見て来られたはずですし。私も今になって、もっと色々やっていたらよかったのかなとも思います。もちろん、後悔はしていませんが。

ー自分はこういう方向の学校に進んでしまったから、今から変更は無理だと思い込んでいる学生さんもいるんじゃないかと思いますけれども、実際は佐野さんみたいに早くから目標を決めていた人も、20代後半からという人もいて、本当にきっかけは人それぞれだと思います。

ー今まで佐野さんが担当してきた番組は?

佐野

『ものまね王座決定戦』や『ものまね紅白歌合戦』とか、ちょっと前だと『とんねるずのみなさんのおかげでした』『ピカルの定理』などですね。

ー今までで大変だった仕事は?

佐野

大変だったというか、テレビの仕事をしていればみなさんそうだと思うのですが、収録が早朝から深夜まで続く番組があるということですかね。ただ大変な中にも楽しさがあるので、特に嫌だったということはありません。ただ、『ものまね王座決定戦』の場合だと勝敗が分からないので、使用しない分も作らなければいけないんですよ。3つ対戦があったら一人3枚以上は必要なのですが、負けた演者は使用せずに終わってしまいます。それが大変と言えば大変ですね。手間暇かけてすごくリアルにセットできたのに使われずに終わるということなんで(涙)。

ー失敗談はありますか?

佐野

ありません!思いつかないだけで、もしかしたらあったのかもしれないですが(笑)。

ー遅刻は?

佐野

ドラマだと担当メイクの場合は、朝早くから夜遅くまでやることがありますが、かつら部の場合は、時代劇じゃなければ役者さん全員がかつらということはまずありません。被せた役者さんだけを担当すればいいので、遅刻はないですね。バラエティーも朝が早い時もありますが隔週収録だったり、レギュラー収録でも1日だけ頑張ればいいので、寝坊も特にありません。

ー仕事のやりがいを感じる時は?

佐野

私は地方(名古屋)出身なので、一緒にいない両親に自分のやった作品のOAを見てもらえたり、同級生が番組テロップの名前を見て連絡をくれたりした時は、やっぱりうれしいですね。あとは、ディレクターや演者さんに褒めてもらったりした時はうれしいです。

ー仕事をやる上で大事にしていることは?

佐野

昔からなりたかった仕事に就けているというありがたみを感じつつ、楽しい仕事をさせていただいているので、職場の雰囲気を明るくしたいと心掛けています。たとえプライベートで嫌なことがあっても、その空気を持ち込まないようにしています。

ーこれからやってみたい仕事は?

佐野

今は時短勤務でレギュラー番組を持っていないので、フルタイム勤務に戻ったらコント番組をやりたいと思っています。最近は少なくなってしまいましたが。最近、新卒で入ってくるスタッフはテレビ好きがあまりいないんですよ。コント番組を見たことがないスタッフも多くて、「あの番組好きなんだ。私やってたよー」という会話もできないので、テレビが好きな若い人が増えてほしいなと思います。もっとテレビで面白いことをたくさんやれば、テレビが好きな人が入ってくるのかな(笑)。

ー山田かつらはテレビ以外にも舞台、イベント、CMなどもやっていますよね。テレビが好きじゃなくても志望する人もいるんじゃないかと思いますけれど。

佐野

そうですね。時代劇は本社でやっていますし。入社後は、希望を聞かれて配属される感じですね。他部署の状況はわかりませんが、テレビ希望の人はだいたいテレビ局に配属されます。でも、本当に好きじゃないと続かないんですよね。

ー趣味を教えてください。

佐野

ミュージカル観劇です。劇団四季など色々なミュージカルを観ています。大阪の専門学校に行ったのも、もともと学生時代に宝塚が好きだったからなんです。結果、趣味が日々の仕事への刺激になっています。

ーありがとうございました。

(2023年1月)

小林 希さん

株式会社山田かつら

小林 さん

ヘアメイク歴2年。担当は「バイキング」「めざましテレビ」「プライムニュース イブニング」など。

ーテレビのヘアメイク担当としての仕事の特徴を教えてください。

小林

報道・情報番組の仕事について言えば、今のテレビはすごく高画質で、日常用のメイクだけではレンズを通すと顔色が悪く見えることもあります。そういった、テレビ画面上できれいに見えない部分を補正する、といったところでしょうか。女性は普段からお化粧していますが、男性はしていないので、女性と並んだ時に映りの差が出てもいけないですし、男性でも肌がきれいに映る方が印象もいいので。
ドラマやバラエティ番組では、きれいに見せるのではなく、キャラクターの顔を役柄やシーンに応じて作り上げていきます。

小林 希さん

ーこの職に就いたきっかけは?

小林

昔からテレビや映画のヘアメイクの仕事に興味があって、学校でも友達の髪をアレンジしたりしていました。それで高校卒業後は美容学校に行って、その後3年半、美容院で仕事をしていました。
ですが、美容院だと髪の毛を扱うだけで、メイクの仕事は成人の日以外にする機会がなかったので、やっぱりもっとメイクもやりたい、と思って山田かつらが運営するヘアメイクスクールに入り直しました。

小林 希さん

ー念願だったメイクの仕事を実際してみて、どうですか?

小林

すごく奥が深くて、まだまだ勉強することだらけです。例えば傷メイクでも、包丁で切った傷もあればやけどもありますよね。やけどでは薬品のやけど、熱湯のやけど、火のやけどの3種類の作り方を練習しています。粘土のようなもので凸凹を作るのですが、テストで火のやけどが上手く作れなくて、先生に「火の気持ちになりなさい」と叱られました(笑)。

ー“火の気持ち”とは……?

小林

火はどの方向から来たのか、何から出た火なのか、大きさはどれくらいなのか。それによって、やけどの場所も、色も、大きさも、すすの付け方も変わってくるので。

ードラマとバラエティ番組ではメイクの仕方も違いますか?

小林

はい。寝癖とか、徹夜明けの顔、病人の顔などを作る際、ドラマではリアリティを追求しますが、バラエティではオーバーメイクにします。ドラマの病人メイクでは唇の血色を消したり、顔を黄色っぽくして黄疸に見せたり、熱を出している設定なら頬を赤くして脂汗を付けたりするのですが、やりすぎるとバラエティのキャラクターに見えてしまうので、その加減が難しいんです。

ー普段から自分のお化粧にもこだわっていますか?

小林

メイクの仕方というよりも、私は肌が弱いので、役者さんに使う化粧品はまず自分で試してみて、肌に大丈夫かを見ます。
自分の顔は実験台ですね(笑)。

(2019年1月)