フジテレビジュツのスタッフ

大道具

美術セットの大道具の大半は木製。クギとなぐり(かなづち)を手に、木工造形の技術を駆使し、
セットを作る時のリーダー的存在。他にも発泡スチロールやFRPなどによる造形も。

インタビュー

※所属・肩書きはインタビュー当時のものです

山口 健さん

東宝舞台 岩槻工場
制作部

山口 さん

平成9年入社(大道具歴25年)
担当番組:『めざましテレビ』『新しいカギ』『MUSIC FAIR』『ホンマでっか!?TV』『芸能人が本気で考えた!ドッキリGP』『居酒屋えぐざいる』『99.9 THE MOVIE』など

澁澤 拓さん

東宝舞台 岩槻工場
制作部 製作課

澁澤 さん

平成31年入社(大道具歴3年)
担当番組:『めざましテレビ』『新しいカギ』『MUSIC FAIR』『ホンマでっか!?TV』『芸能人が本気で考えた!ドッキリGP』『居酒屋えぐざいる』『99.9 THE MOVIE』など

東宝舞台 岩槻工場

ーこの仕事に入ったきっかけは?

山口

自分は映画が好きだったので、映画の仕事に携わりたいと思っていました。高校生だったんですけれど、就職担当の先生から「知り合いが働いている東宝舞台っていう会社がある」と聞いて、実際に見学に来てみたんです。その時は、映画じゃなくてテレビのものを作っていたんですが、そういう経緯ですね。電気や設備を勉強する工業高校出身です。電気の仕事じゃない方がよかったのもありまして(笑)。

澁澤

僕は工業高校で木工関係の学科に通ってまして、就職活動の際、学校で先生から舞台セット等を作っている会社があると聞いて、来ました。

ー就職するにあたって、他には迷わなかったですか?

山口

そうですね。当時はわりと決め手がなかったんです。電気メーカーというのもあったのですが、興味がなくて(笑)。もうちょっと面白いことがやりたいと思いました。

ー製作課とはどんな仕事を?

山口

主にセットの大工です、木工の。仕上げで色を塗ったり、壁紙を貼ったりする前の段階の、形を作る仕事ですね。東宝舞台の場合は造形と、仕上げとが分かれていまして、仕上げは美術課・背景課の仕事になります。

角材をカットする機械にセッティング

 

角度をつけてカット

 

工場内製作部全景

ー美術課と製作課の間で人事異動はあるのですか?

山口

今はないですね、仕事上やりとりは多いですが。製作課出身で営業に行ったりとか、NCルーターという機械で型を抜く部署に行ったりなどはあります。

ー製作課には何人ぐらいいますか?山口さんは社歴25年ですが、会社の中ではベテランになりますか?

山口

30〜40人ぐらいです。私は中堅ですね。60歳で定年ですが残って働いている方もいます。

ー最初はアルバイトからスタートですか?それとも入社試験を受けたのですか?

山口

私は正社員で入りました。

澁澤

僕も入社試験を受けて正社員で入社しました。

ー最初の頃に手がけて印象に残っている仕事・番組は?

山口

フジテレビではないのですが、『演歌の花道』という番組でセットを製作して、テレビに映ったのを見た時ですね。入社2〜3年目くらいの時です。班体制で仕事をしていますので、全てを自分で作ったわけではないのですが。

澁澤

少し前に、志村けんさんの番組で、過去の復刻みたいなコーナーをやりまして、子供の頃父と見ていた番組を、改めて自分が手掛けているのが、感慨深くて印象に残っています。入社2年目くらいの時です。

ー今までで一番大変だった仕事は?

山口

最近だと『ホンマでっか!?TV』です。携わっている人数が少ない中で、結果的にキャパオーバーの仕事を受けたんです。やってみると、人数は少ないけど徹夜すれば間に合うという問題ではなく、他社の人の手を借りなくてはできないだとか、必要な部材が入って来ないとか、いろいろあって。想定外の状況の中で、納期までに何とかしなくてはならないという状況がきつかったですね。部材が入って来ないと作れないものなので、営業に相談するしかありませんでした。

澁澤

『99.9 THE MOVIE』を、山口さんと同じ班で一緒にやらせていただいた時です。重い階段があって、特に支えもない現場で吊り上げるようなことでした。もともとそんなに班の人数が多くない状況で、鉄骨を持ち上げながら組まなきゃならなかったんです。鉄骨は自由が利かないのでこちらで(木工で)合わせていかなきゃならないのと、映画のセットということもあり綺麗に仕上げなきゃいけないので、その現場は技術面と人数面の両方で大変でした。

ー製作課で扱うのは木工のみですか?スチロールは?

山口

木工のみです。スチロールは別で、美術の造形課の担当になります。

ーこれまでの仕事の中での自信作、是非見てほしい作品は?

山口

『SP』という作品なんですが、現場も質の高い仕事をやっていたと思います。まあ異常と言えるくらいクオリティーの高いセットだったんじゃないでしょうか(笑)。

澁澤

他局のものですが『WBS』というニュース番組の仕込み(道具製作)です。その時初めて一人で担当したのですが、現場で完成したセットを見て、「頑張って出来たな」と思いました。

ー営業やデザイナーによってセットのクオリティーに影響はありますか?

山口

あると思います。チェックする姿勢も含めて志が高い、っていうんでしょうか。だから質も上がっていくというか。求められるハードルが高い感じですね。

ー映画の現場でも、スタジオで作っていくのですか?

山口

大道具会社とか、撮影所の営業の方によってやり方が違います。現場には“直し要員”で行く場合もありますし、本当にケースバイケースですね。

ーテレビの場合、東宝舞台ではセットは工場で作って、運んで、操作スタッフが現場に組んで、工場のスタッフは“直し要員”で行く、というスタイルが基本ですか?

山口

そうです。毎回ではないんですけれど、規模の大きなセットなどはそういうやり方です。

ー今まで失敗したことがあったら教えてください

山口

和骨のセットでは、常識として引き戸は「右の戸が前で左が奥」なんですが、それを間違えて作ってしまったことがありました。実際には開けない“見せかけ”のつくりで、図面通りには作ったんですけれど。まあ図面が間違っていたんですが、大工としては常識としてそういうところは気付かなきゃいけないですね。出来上がって、工場から出す前に分かったんで作り直しました。

澁澤

少し前の事ですが、6尺×9尺のパネルを作る時に、3尺×6尺のベニヤ板を3枚横に並べて組んだのですが、ついベニヤ板の長い辺の方向に桟を組んでしまったんです。それだと耐久性が劣るんですね。出来たパネルがフニャフニャで、もう一回バラして組み直さなきゃならなくなったということがありました。

ーちなみに今、パネルの桟は「小割り」ですか「垂木」ですか?
映画のパネルは「垂木」で組み、舞台やテレビセットのパネルは「小割り」で組むって聞いたことがあったのですが
(注:「垂木」は3×4cm、「小割り」は2×3cmの太さの角材)

澁澤

今は「一寸角」か「垂木」ですね。「小割り」も使いますが、頻度は高くないです。

ベニヤ板をカット

ベニヤ板に桟を打ってパネルに仕上げる

ーテレビセットも、昔は舞台のように組んだりバラしたりが多かったので軽い必要がありましたが、今は映画のように一回組んだら撮影終了までそのまま組んでおくことが増えたので、軽さよりも耐久性だという感じで変わってきたのかもしれないですね。

ー仕事にやりがいを感じる時は?

山口

同僚などに「あのセット、テレビで見たよ。よかったよ」と言われた時に、よかったんだと思います。

澁澤

実際にはあまり目にすることのない非日常的なデザインのセットや、今はない昔の建物などを実際に作って形にして、テレビなどのメディアを通して目にした時ですね。セットがうまく世界観を表していたり、セット自体が作品のように感じられたりした時に、この仕事をやっててよかったなあと思います。

ー工場に運ばれてくる時はベニヤや木材なのに、鉄になったりレンガになったり古い家になったりするんですものね。実際に作る皆さんは本当に凄いですね。スタジオに建ったセットに入ると、スタッフや出演者も「うわースゴい」って必ず言いますよね。言われなかったら失敗なんですけれど(笑)。

材料の木材のストック

 

ーこの仕事の魅力は?

山口

普通の会社員ではまず味わえない種類の仕事をしているってことだとは思います。達成感もありますし。

澁澤

もともとデスクワークは嫌いなので(笑)。そうですね、自分が動いて、段々と形になっていく作業に最初から携われるところですかね。

ー今後やってみたい仕事があれば教えて下さい

山口

今までいろんなセットをやってきましたけど、「舞台」とかまだやったことがない仕事を経験してみたいですね。

澁澤

僕が入る前までは和骨のセットが多かったと聞いていて、和の知識がまだないのでもうちょっと携われたらなあと思います。昔はコマ劇場関係でそういう仕事が多かったそうです。

ー趣味を教えて下さい

山口

二郎系ラーメンを食べることです。

澁澤

ランニングですね。家の近くにコースがあって、目標立てながら走ってます。

ーありがとうございました

(2022年3月)

高階 祥平さん

チトセアート本社工場
美術チーム(背景・仕上げ)

高階 祥平 さん

社歴8年
担当番組:『貴族探偵』『隣の家族は青く見える』『ルパンの娘』『イチケイのカラス』『ミステリーと言う勿れ』『潜水艦カッペリーニの大冒険』など

川本 容子さん

チトセアート本社工場
美術チーム(経師)

川本 容子 さん

社歴6年
担当番組:『教場Ⅱ』『イチケイのカラス』『SUITS2』『監察医朝顔2』など

チトセアートの工場では、主に大工作業をする製作チームと美術チームが働いています。
美術チームの中には、絵の具で絵を描いたりエイジングを行ったりする「背景チーム」と、壁紙や出力したシートを貼る
「経師チーム」があります。

ーこの仕事に就いたきっかけは?

高階

もともと大学は美術系(神戸芸術工科大学ビジュアルデザイン学科)だったんですが、最初は全く違う仕事に就職しました。実は警察官になって2年ほど働いたんです。でも、やはり物を作る仕事がやりたいなと思い始めて、色を塗ったりする仕事って何だろうと考えた時に、テレビ番組や舞台でセットを作ってる仕事はいいなと。色々ネットで検索して、チトセアートのスタッフ募集の広告が出ていたので応募しました。兵庫県出身なんですが、エンターテインメントは圧倒的に東京が多いので、チトセアートが不採用になってもどこかあるだろうと、決まる前に東京に出てきてました。勢いが大事だと思いまして(笑)。

川本

私も美大(多摩美術大学油画専攻)です。絵に携わっていきたいなと思っていた時に、同じような業界に就職してた友人から「ここが募集してるよ」って教えてもらいました。大学院に行くかちょっと迷ったんですが、やはり物を作りたいなと思って就職しました。自分の作品を作りたいということはあまりなくて、とにかく作りたい、描きたいっていう気持ちで。

ー初めて担当した番組は? また担当する最初のきっかけは?

高階

今なら、新人は徐々に仕事ができるようになってから現場へ行ったり、担当を持ったりするんですが、僕が入った時は、経師を4カ月やったくらいの頃にいきなり現場(スタジオ)に呼ばれました。建て込み現場で仕上げていくんですが、それからどんどん現場へ行くようになって、その流れで「よく現場へ行っているから、ドラマを担当してみろ」ってことでやり始めた感じです。
何年か経ってから担当した作品ですが、印象的だったのは『貴族探偵』ですね。大道具では結構珍しい、骨をたてて、テントを張って、そのテントにエイジングするみたいな仕事でした。ロケにもスタジオセットにもテントはあったんですが、僕はセットの方をやってて、ロケとのマッチングを作っていく作業が一番印象的でしたね。

川本

初めて任せてもらったのは経師じゃなくて絵だったんですが、『笑っていいとも!』の背景チーフから言われてコーナーの背景を描きました。それが最初ですね。毎回が試験みたいなんですよ。ここができるなら次の仕事がもらえるっていう。自分をアピールしていくって感じですね。

美術チームの塗装場

 

製作チームが作った額縁を美術チームが塗装して仕上げていく

ー背景と経師はどう分けられているんですか?

高階

以前は経師と背景は完全に分かれていて、塗り物が多い現場だと背景チームの誰かが行くってことだったんですが、今は工場で「塗り」も「貼り」も両方出来なきゃスタジオ現場には行けないので、年数が経てば両方出来るようになる感じなんです。どっちが得意ということはあるにせよ、全員両方出来ます。
一人で現場が出来たら一人前という感じですね。一人の場合は美術の「塗り」「貼り」に加えて、製作の大工の知識とか、大道具操作で必要な天井の高さなども分かってないとだめです。「ここまで塗っておけば大丈夫」とか、「ここは仕上げてないと見切れる」とかですね。

ーこれまでに一番きつかった仕事は

高階

湾岸スタジオで建てた『隣の家族は青く見える』でしょうか。コーポラティブハウスの中庭と各部屋を、全てスタジオに目一杯建てるというものでした。鉄骨を使った螺旋階段があるなど色々と複雑なセットでしたが、当初エイジングはありませんっていうことだったんで、まあそれでも背景スタッフも一人はいた方がいいだろう、というので行ったんです。経師チームは結構人数もいて作業してましたので、経師も手伝ったりしながら、ちょっとした色の変更だとか仕上げ作業をしていたんです。ところが、途中でエイジングをしたいと言われて「はい、わかりました。どこですか?」と聞いたら、“全部”って言われて…。4つの角部屋と、大きい中庭と、中2階の螺旋階段のあるところなどがありまして、そのセットにひたすら汚しをかけたのですが、工場で全く汚してない道具なのでやっぱり本当にキツくて(笑)。中庭でうずくまって休憩してたら「大丈夫か?」って営業に声かけられました(笑)。そのセットの現場が一番キツかったですね。

ーひどいデザイナーがいたもんですね(笑)。これは書いときましょう

川本

私の場合、直近では映画用のスタジオにセットを建てたドラマの現場です。2日間の建て込みだったんですが、湾岸スタジオみたいにビルの中じゃなく外に建ってるスタジオなので、ずっと扉が開けっ放しなんです。とにかくものすごく寒くて。そのまま夜中まで仕事して、ちょっと仮眠とって、また続きをやって、となったんですが、仮眠の時には、みんな凍死するんじゃないかって思ったくらいで(笑)。エアコンは一応あって、上の方は多少はマシだったんですけれど。

ースケジュールもですが環境ですね、これも書いときましょう

ー印象に残っている仕事、自信作は?

高階

PON地区で(お台場のイベントなどを行う空地の地区名)やった『居酒屋えぐざいる』です。大きな会場のイベントで、毎年セットリニューアルしながらやっているのですが、1〜3回目までやらせてもらいました。1週間くらいかけて建てて、エイジング作業をしたりするのですが、スタジオセットに比べても規模がかなり大きいので、完成した時の達成感はありました。

川本

経師で番組を持たせてもらうようになってから、自分でちゃんと出来たなって実感しているのは『イチケイのカラス』ですね。経師は壁紙をきちんと仕上げるのが仕事なので、あまり見せ場っていうのはないのですが…。例えば柄を合わせるように貼って行く場合、スタジオの現場で合わせて貼るのは普通に出来ると思うのですが、実際には工場では道具はバラバラの状態なんです。台割などの段差があったらそれも計算した上で貼っておいて、それをスタジオで建てた時にピタッと合うようにするんですね。あと、壁紙は柄を追いかけて貼って行くのですが、部屋を一周したりするとどうしても辻褄が合わないところが出てくるのを目立たないようにする、とかですね。

ー大きな失敗はありますか?

高階

横浜の大きなイベント会場の仕事がありまして、工場の製作チームと美術チームあわせて10人くらいが行くような仕事でした。基本的には道具を運んで、操作の手伝いをやるような内容だったんですが、入ったばかりで現場で何をしたらいいか全く分からなくて。工場での仕事は塗る分野だったんで。
会場がものすごく広くて、チトセアートだけではなく、色んな業者がいて、全く関係ないイベントを設営している業者もたくさんいる感じだったんです。
で、新人だし遅刻しないように朝早く家を出て、結構早く着いてから待ってたんですけれど、チトセアートの人が誰も来ないんですよ。そうしているうちに、チトセアートが外注でよく頼む会社の人を見つけたので「よかったー」と思って、「どこですかー」って聞いたら、その人は別の仕事で来ていて、「あ、違うんだ」と思ってたら電話がかかってきました。
「どこに居るんだ!」
「着いてるんですが、場所が分からないんです」
場所を教えてもらって行ったら、また誰もいないんですよ。電話して「ここで合ってますか?」と聞いたら「違う!」と。まあそれは電話で教えてもらった場所が間違ってたんですけど(笑)。で、遅れて何とか合流したんですが、新人だったんでめちゃくちゃ怒られて(笑)。
入ったばかりの時の確認不足っていう感じです。

川本

『教場』で初めて経師のチーフをやった時です。壁紙は似たような型番でも微妙に色が違うのを、大勢でやってたので工場での貼り間違えに気付けなくて、現場で建ててみて、色が違うってなって焦りました。それが一番大きな失敗ですね。現場で全部貼り替えしました。

ー仕事上のこだわりを教えてください

高階

発注内容によっていろんな仕上げがあります。「古びた仕上げ」とか、「真新しいけど使用感がある仕上げ」とか。そういうエイジング系の仕事では、例えば「ここは築10年だから壁が剥がれ落ちたりとかだよ」って、先輩に教えてもらって吸収していくんですけれど、「人から聞いたことを間に受けない」ってことにはこだわっていて、それって本当かなって自分で調べます。
築10年の汚しって言われた時に、先輩の言う築10年の汚しは、自分で調べて見ると、そんなに汚れていないぞ、普通は人が住んでて掃除をするから、ある程度綺麗な状態を保たれたまま10年経っているので、言われたほどは汚れてないとか。でもキッチンは料理するからすごく汚れやすいとか。タバコを吸う人が住んでいたら入隅とかは黄色くなるとか、そういうことを調べます。行き帰りの電車でも、駅のホームですごく汚れているところを見たりしてます。もし電車のホームのセット汚しという仕事があれば、そういうことを思い出したりして、工場で作業する時にはエイジングの加減を調整しています。
今日は参考にエイジングのサンプルを持ってきました。

エイジングのサンプル 奥から順に6工程重ねて仕上げる

金属の錆汚しの完成サンプル

塩ビのパイプを絵の具で鉄錆パイプに仕上げる

工場にある塗りサンプル 塗装で様々な表現が可能

糊つけする機械に壁紙を取り付けているところ

川本

普段も歩きながら家の壁はこういうふうになってるんだとか、こういう風にカビが生えるんだとか、すごく見るようにしています。経師に関しては、とにかく正確に、早く時間内に仕事する、っていうのが一番大切です。

糊つけする機械に壁紙を取り付けているところ

ー壁紙にエイジングする場合、絵の具がのりにくい素材とかがあると思うのですが、そういう時はアドバイスするんですか?

工場の壁紙ストック

高階

壁紙の上にエイジングする場合、エイジングできる紙かどうかは営業が発注する前に聞きにきますね。

ーステンレスのように反射する壁紙は、下地の凸凹を拾って金属に見えにくくなってしまう場合もあると思うのですが、そういうやりにくい発注がきた時は、これは違う方がいいとか提案することもあるんですか?

川本

その場合は、「下地をひたすらフラットにする」ですかね(笑)。

高階

基本的にオーダーには従うんですけど、一回仕上がった物を営業に見せます。「こんな感じなんですけれど大丈夫ですか?」っていう感じで。それで大道具営業とデザイナーがやりとりして、それでGOならばそれでいきますし、これだとキツイなってなると、違うやり方や材料で、というやりとりをしています。

ー発注側が間違えることもありますしね。

川本

作業する前から、これはどう考えてもうまくいかないだろうって、容易に想像がつく場合は発注の確認をとってもらいますね。

ーこの仕事をやっていてよかったと思う瞬間は?

高階

デザイナーから、また自分に背景をやってほしいと言われる時ですね。自分の能力が上がってデザイナーの目にかなってるんだなと思うと、きつい現場でもやりがい感じます。
例えば、他の人だと難しいとか、どうすればいいか分からないっていうのを、自分が対応できた時とか、自分がレベルアップするのを実感できるのがこの仕事の魅力ですね。

エアブラシに絵の具を仕込む

筆などの手入れや管理も大事な仕事

製作図面を見ながら確認して作業を進めていく

高階

あと、工場で製作チームと営業とで打ち合わせして、「どうしてもこれはダメだろう、難しい」って行き詰まる時があるんですけど、「仕上げで何とか出来ないかってな」って思い、仕上げることが出来た時は、僕の中では幸せを感じます。どうだ!って感じで(笑)。

川本

私は普通に、目の前でベニヤとか木材から美術セットが出来上がっていくのを見るのが好きなので、汚しまで終わって、装飾、照明などが全部入った状態を見たとき、もうそれが一番幸せです。

製作図面を見ながら確認して作業を進めていく

工場にあるサンプルで作ったエンジン。
木で作ってあるが塗装で金属らしく仕上げ可能のサンプル

ー工場では全部ベニヤや木材ですが、それがセットになったらコンクリートになったり、金属になったりしますもんね、本当にすごいことです。

ー今後どんな番組をやってみたいですか?

高階

美術セットは、ドラマでもバラエティーでも大きいものが多いじゃないですか。逆に小さいものですごくクオリティーの高い、価値の高いものを作ってみたいです。

工場にあるサンプルで作ったエンジン。
木で作ってあるが塗装で金属らしく仕上げ可能のサンプル

特殊な貼り方で仕上げたセット

川本

私はドラマが好きなのですが、ファンタジーというかちょっと非日常みたいな、変わった形のセットも面白そうだなと思っています。

特殊な貼り方で仕上げたセット

ー日常生活で出てしまう職業病は?

高階

僕は3つあるのですが、一つ目は行き帰りの電車とか普段の生活の中で、汚れた建物なんかをつい見てしまい、「こんな汚しになってるな」とか、「ここは汚れてないのに、ここはすごく汚れててなぜなんだろう」とか、「この差があるから汚れてるって感じるんだろうな」などと想像することです。
二つ目は休みの日とかに、他の業者さんがやってる展示、例えばショッピングモールに作り物があったら、「あ、この塗装剥がれてる」とか粗をつい探してしまいます。「この艶あり塗装に、こんな艶消し目貼りで処理してる」とか(笑)。三つ目はホームセンターに行った時に、個人的には何も買うつもりもないんですが、塗料とかあるとつい見て、「あ、これいいんじゃないか」と思ったらこっそり買って、工場で仕上げに使ってみるとか。買った塗料でナグリの柄を塗って自分オリジナルにしようとか、そういうのにハマってしまいますね(笑)。

川本

私も同じで、旅行へ行った時でも、気づいたら「汚しの写真」を撮ってたりとか、そんな感じですね(笑)。それと、壁紙が貼ってある店や家なんかでも、「あ、あそこ浮いてるな」とか、そういうのを見てしまいます。

ー趣味は何ですか?

高階

ドラマとか自分でやった番組はチェックするのですが、物語としてはあまり見ていないかもしれません。海外の映画を観ても、自分の仕事と重ね合わせて「外国の仕上げってこうなんだ」みたいな。職業病の項目かもしれないですが(笑)。映画はよく観ます。海外の戦争物とか好きです。

川本

休日にやってるのは刺繍とか。あと、ここ(チトセアートの工場)で猫を2匹保護したんです。野良猫が大工さんの箱に子猫を産んじゃって。誰も引き取りに来なかったので保護して、ひたすら可愛がっています。

ーありがとうございました

(2022年2月)

岸 久雄さん

株式会社マエヤマ 
代表取締役

岸 久雄 さん

建具スタッフ歴38年。フジテレビのほぼ全てのドラマを担当。

ー大道具の中の「建具」スタッフの仕事内容を教えてください。

番組セットの中の建具を用意します。家や建物の障子、ふすま、窓、ドアなどですね。自動ドアも本物を使って、スタッフが遠隔操作で開け閉めをします。
テレビ美術の建具専門会社は弊社だけだと思います。建具の在庫は約2万本、7千種類で、1クール(=3ヵ月)の全番組で稼働するのは3千本、全体の15パーセント程です。

ー建具スタッフになった経緯は?

父がマエヤマを創業して、私は学生時代からアルバイトで手伝っていました。障子の紙を張り替えたり、窓ガラスを入れ替えたり、建具材を塗料で塗ったり。
でも実は、大学卒業後は学校の社会の先生になるつもりでした。ところが、教員採用試験に受かっても、当時は教員の数が有り余っている状況で、常勤で教えられる学校がなくて……結局、父の跡を継いだという訳です。そこから今日まで、数百の番組を担当させて頂きました。

ー担当した数百の中で、特に大変だった番組は?

『犬神家の一族』でしょうか。ドラマのセットでは、1つの空間の建具を替えることで別の部屋に見せることがよくあります。ふすまを入れていた所を障子に入れ替えたり、ふすまの紙を違う紙に張り替えたりして。
「犬神家」はすごく大きな家屋の設定で、建具が130本必要だったのですが、スケジュールがタイトでしたからふすまの紙を張り替える時間がなくて、ふすまごとどんどん入れ替えないと間に合いませんでした。どれからどれに替えるかを現場で考える余裕すらなかったので、倉庫から使えそうなふすまと障子を大量に現場まで運んだんです。
通常のドラマで使う建具は70本程度、和風建築の家でもせいぜい100本ぐらいですが、『犬神家……』ではのべ500本近くの建具を稼働させました。とにかく大変でしたが、ものすごくやりがいはありましたね。

ー変わった建具を使った番組はありますか?

『貴族探偵』で、老舗の温泉旅館の玄関扉に付けた鎌錠は、特にこだわったものの1つです。鍵を閉めて人を閉じ込めるシーンもあったので、骨董品で重みのあるものを探して、神社仏閣関係の品を扱う京都の金物屋まで買いに行きました。多少錆びている感じがまた良くて(笑)。

ーモットーとしていることは?

建具はあくまでもツールであって、我々は映像制作の一部門を担っている。建具屋ではなく、テレビ美術屋、映像屋だ、という意識で仕事をしています。
座右の銘は「勝って兜の緒を締めよ」。うまくいっていても決して安心しないよう、慎重にしていくことを心掛けています。

ー常に慎重に進めながらベストなものに行き着く、という感じですか?

いえ、終わった後は「もっと出来たんじゃないか」と思うことの方が多いです。例えば障子の組子――棧(さん)ですが、組子の太さが1.5mm違うと、映る画(え)の印象が変わってきます。『犬神家……』で使った障子は幅の広いものだったので、もっと太い組子を使った方が線みたいに見えなかったかな、とか。反省ばかりです。

ーこの仕事の魅力は?

セットはバラして(解体して)しまいますが、映像は記録にも記憶にも残りますよね。自分の仕事の成果が残る。反省もしますが、やはり大いなる活力になります。

ー今後やってみたいことはありますか?

ドラマ以外の番組で、建具の有効活用を考えていきたいです。情報番組のMC席の後ろにドアを幾つも置いてみるとか。建具で色々な番組を彩っていきたいですね。

(2019年5月)

茂 進さん

有限会社ダダ 
操作統括部長

茂 進 さん

大道具スタッフ歴32年。担当は「コード・ブルー」シリーズ、「犬神家の一族」「ようこそ、わが家へ」「西遊記」など主にドラマ番組。

ー大道具を扱って32年。大ベテランですね。

今まで数百の番組セットの建て込みとバラシ(解体)をやってきました。8割がドラマです。

ードラマのセットは基本的にはスタジオに建てるのですか?

ドラマのセットの建て込みには3パターンあります。スタジオに建てる、オープンセット、ロケ飾りの3つです。オープンセットは屋外の空き地に一から建てるセットです。ロケ飾りというのは、既存の建物を装飾で変えてセットにするやり方です。

ースタジオセットで一番大掛かりだった番組は?

『西遊記』かな。巨大なスタジオセットの中に、洞窟や山道、池を作りました。発泡スチロールのパネルを組み合わせて洞窟や崖を作るのですが、洞窟のシーンが多くて、毎週、トラック15台分のパネルを搬入……。通常のドラマで搬入する大道具はトラック4台から多くても10台、それも第1話用に搬入したらドラマが終わるまでは建てっぱなしです。それが毎回15台ですからね。建て込み時間も、普通8時間ぐらいのところ、『西遊記』初回は36時間かかりました。

ーオープンセットになると更にスケールの大きいものがありそうですね。

『ようこそ、わが家へ』では空き地に街を丸ごと作りました。当初はロケで撮る予定でしたが、ストーカーに付きまとわれる家の話でいいイメージではなかったので、場所を借りるのはやめてオープンセットになったんです。住宅街、丘、公園……電線も這わせて、街灯も10本立てました。1ヵ月かけて。
『坊っちゃん』を撮った時は、坊っちゃんが赴任した中学の校舎の壁と校庭、それに町全体もオープンで建てました。町並みと駅、船着き場も。学校も町も1週間で作りました。校庭を作る時は、勾配がある山をブルドーザーで整地するのに3日かかりました。
個人的にはオープンセットが好きですね。色々と勉強になることが多いんです。測量の仕方とか。

ーロケ飾りでセットを作った番組は?

『犬神家の一族』。大きな民家のお蔵を借りて、庭師の作業部屋に仕立てたんです。お蔵の中の物を全部出して内装をガラリと変えて、外側も白い壁を板張りにして、窓のサッシに木枠をはめ込んで隠して、昔の家屋風に作り変えました。
ロケ飾りは実際の建物をお借りするので、復旧しなくてはいけない、というのが気を遣うところですね。あとは時間の制約。建て込みを夜通しさせてもらう訳にもいかないので、手早く済ませる必要があります。ほかにも、材料を搬出入するスペースがあるかとか、脚立を立てられるかとか、一定の条件で問題なければそこでいこう、となります。

ーこれまでの自信作は?

『コード・ブルー』は見て欲しいですね。トンネル崩落事故のシーンでは、使われなくなったトンネルを借りて、平台(木製の台)を4tトラックで6台分運んでがれきの下地を組み立てて、その上に発泡スチロールで作ったがれきを大量に置きました。電車事故のシーンでは、“脱線して転がった車輌”を作ったり、切れた線路を木で作ったりして現場に運び入れました。

ー大道具で意外なものを作ることもありますか?

花畑を作ったことがあります。画面にはっきり映る手前の方の花は生花装飾スタッフが用意しましたが、奥の方だけ、赤い壁紙を固まり状にして何万個も置いて、赤い花畑に見えるようにしました。雪のシーンでも、“遠くに積もる雪”を見せるのに、白い布を広げて敷くことがあります。画面を通すと意外にそれっぽく見えるんですよね(笑)。

ーモットーとしていることは?

とにかく「安全第一」。それと、コミュニケーションです。安全につながりますから。現場に初めて入るスタッフには、まず最初に危険ポイントを説明するようにしています。

ーこの仕事の魅力は?

ゼロから作り上げて、一気に完成形まで持って行けるところです。そういう仕事は他になかなかないのでは、と思っています。

ー仕事で幸せを感じるのはどんな時ですか?

建て込んだセットを見たスタッフみんなが、驚きの声を上げてくれた時です。出来上がりの完成度が高いと、見た仲間達から「おおーっ」と、どよめきの声が上がるんです。
それを聞くと、達成感が高まって、大道具スタッフとして幸せを感じますね。

(2019年5月)

篠本 匡介さん

國新産業株式会社 
テレビ・舞台事業部 営業部 課長

篠本 匡介 さん

大道具スタッフ歴23年。担当は「MUSIC FAIR」「FNS歌謡祭」「とくダネ!」など。

ー仕事内容を教えてください。

篠本

大道具の営業職として、デザイナーが描いたセットデザインを、実作業に即した寸法の図面に落とし込む仕事です。うちの会社はとりわけ造形、スチロールアートを得意としていますので、造形作品を作るコーディネーションというのは國新産業だからできる仕事だと思います。

『FNS歌謡祭』

『FNS歌謡祭』

『MUSIC FAIR』

ースチロールアートとはどのようなものですか?

篠本

発泡スチロールを使った、あたかも木彫りに見えるような作品です。スチロールを彫って、塗装して、長期や外での使用にも耐えられるようにコーティングします。例えば『とくダネ!』の後ろの壁は、スチロールにナイフで細かい流線形の溝を入れています。『FNS歌謡祭』では柱や壁などにスチロールのレリーフを置いています。『MUSIC FAIR』でも大きなオブジェを出しています。

ー作品を扱う時の営業職の苦労は?

篠本

仕上がったものを現場に入れて、サイズがきちんと合っているかを確認するのですが、大きい制作物が多いので、ほぼ毎回合わない(笑)。いつも現場で直しを入れています。

ー仕事の上でのこだわりはありますか?

篠本

デザイナーが表現したいイメージがきちんと形になっているような作品を出せるよう心掛けています。社内で実際に彫る者は彫刻や日本画を専門にしてきたスタッフ達ですが、皆、全て手作業で作り上げています。機械でも作れますが、エッジが甘くなってしまうんです。スチロールアートは手を入れれば入れるだけ、良い作品が出来上がります。
それと、いかにスチロールに見えないようにするか、いつも気を配っています。それには特に、発泡スチロールの泡の目が出ないよう、ウレタン樹脂やゴム系の塗料を使ったコーティングに神経を使います。

『とくダネ!』

『とくダネ!』

ーこの仕事の醍醐味は?

篠本

作品の完成形を現場で最初に見られることです。大きなものが多いので、製作工場では全体像はなかなか見られません。図面は描きますが、あくまでも図面ですし。現場で建て込みをして初めて、なるほど、こうなったか、と新鮮な感動がありますね。そこに照明が入るとさらに作品が映えます。作品のきれいな完成形を現場で見ると、やはり嬉しい気持ちになりますね。

(2019年4月)

浅見 大さん

株式会社チトセアート 
営業グループリーダー

浅見 大さん

大道具歴19年。担当は「VS嵐」「ジャンクSPORTS」「FNS歌謡祭」「すぽると!」など。

ー大道具の「営業」というのは、売り込みをするのですか?

浅見

いえ、他の業種で言うところの営業職とは仕事内容は全く違います。自社技術の紹介もしますが、通常業務としては、デザイナーが描いたセット図面から、運搬・搬出入・建て込みがしやすい寸法を出し、全ての素材を揃え、製作場に発注するための実寸図面を作成することがメインです。デザイナーが描くのは完成予想図で、我々が描くのは設計図ですね。
そのあとはセットの建て込み人員の手配もし、バラシ(解体)の最終確認までします。「営業」ですから、もちろんコスト調整も需要な仕事です。一言で言えば、「大道具コーディネーター」といったところでしょうか。

浅見さん作成の設計図

浅見さん作成の設計図

ー「大道具のコーディネーション」で特に重視していることは?

浅見

第一に「現場での建てやすさ」です。建て込みに十分な時間が与えられることはめったにないので。
そのためには、「作る時は面倒だけど、ここで切った方が建てる時に楽か」という視点で図面を描くようにしています。
もう1つは「デザイナーが描いているイメージの尊重」。一番怖いのは、デザイナーが想像していたのと違うものに仕上がってしまうことです。そうならないよう、各段階で写真を送ったりして、確認はとことんします。

ーやりがいのある番組は?

浅見

『VS嵐』ですね。不定期で新しいゲームを出すのですが、大規模なゲームのセットを建て込んで、シミュレーションをして、うまく作動するようにしていく過程がワクワクします。

ー過去に大失敗した経験はありますか?

浅見

はい、セットを造り忘れたことがありまして……。コント番組で、4つのうち1つのセットを製作場に発注していなかったんです。図面だけ描いて発注したつもりになっていて……。それで、製作場の人と2人で、冷や汗をかきながら2、3時間で作りました。幸い小規模なセットだったのでどうにか。
最も怖いのが納期の間違いですね。納品日を収録翌日にしてしまっているとか。それをやらかすのが恐ろしくて、常にiPhoneを持ち歩いてスケジュールのチェックをしています。

ー仕事でモットーとしていることは?

浅見

「妥協しない」。デザイナーからの発注に対して、自分で自信を持って出せるもの以外は納品しません。「時間がない」「部材がない」せいにはしない。自分で納得できないものは、結局、現場でもダメなんです。

ー職業病のようなものはありますか?

浅見

どこに出かけても、つくりや内装をチェックしちゃいますね。材質を確かめたりして。釘の打ち方や木材の組み方がずれていたり、壁紙が重なっていたりすると、もう気になって(笑)。
家でも自分で好みの壁紙に張り替えました。普通の家では使われていなさそうなやつですね。

ー最後に、どんな時に幸せを感じますか?

浅見

収録後、デザイナーに「セット、良かったね」と言ってもらえる瞬間が一番嬉しいです。デザイナーのイメージをちゃんと汲み取れてたんだ、って。
なんて言いつつ、やっぱり休みはありがたいです。1年で幸せな日は1月2日から4日の3日間。年末年始の番組が終わって、何も考えずに寝られる貴重な3日間なので。この3日を励みにずっと頑張ってます。

(2018年10月)

松本 達也さん

東宝舞台株式会社 
操作部チーフ

松本 達也さん

大道具操作歴26年。
担当は「さんまのお笑い向上委員会」「ネタパレ」「笑う犬」シリーズなど主にバラエティ番組。

ー「大道具操作」という仕事の内容について教えてください。

松本

番組セットの建て込み・バラシ(解体)の現場監督、といったところでしょうか。番組収録開始までにスタジオセットが完成するようにスケジュール・搬入の段取りを決めて、現場では20~30人いる大道具スタッフに建て込み・バラシが素早く進むよう指示を出す役目です。

ー26年間で最も大変だった仕事は?

松本

20年前ですが、元日の夜に4時間放送される『新春かくし芸大会』のセットを、全く時間がない中、皆で死に物狂いで建て込んだことがありました。『かくし芸』はメインセットのほかに出し物も多いので、建て込みには通常3日くらいかかります。ところがその年は、同じスタジオでドラマ『踊る大捜査線』をギリギリまで撮っていて、それが終わったのが『かくし芸』収録スタートのほぼ24時間前で……。『踊る』のバラシに7時間、そこから3日かかるところを、まる1日すらかけられない中で何とか間に合わせました。あの時は生きた心地がしませんでしたね(笑)。

ー職業柄、つい出てしまう癖はありますか?

松本

長さを「尺」で言っちゃうことかな(笑)。「㎝」で言われてもピンとこなくて。あと、「右」でなく「上手(かみて)」と言いますね。

ー今後やってみたい番組は?

松本

コント番組をまたやりたいですね。『リチャードホール』のような。シチュエーションに沿って1つずつ建てていくのが好きなので。大道具をやりたいと思ったのも、『オレたちひょうきん族』を見てなんです。「タケちゃんマン」も「懺悔室」も、セットあってのコントじゃないですか。あの番組がなければ、故郷の長野で寿司屋になっていたかもしれません。

ー仕事で一番のこだわりは?

松本

「セットアップのスピード」です。現場では、一分一秒でも早く建てることを常に心掛けています。もちろん、安全第一で進めます。

(2018年10月)