フジテレビジュツのスタッフ

大道具

美術セットの大道具の大半は木製。クギとなぐり(かなづち)を手に、木工造形の技術を駆使し、
セットを作る時のリーダー的存在。他にも発泡スチロールやFRPなどによる造形も。

インタビュー

岸 久雄さん

株式会社マエヤマ 
代表取締役

岸 久雄 さん

建具スタッフ歴38年。フジテレビのほぼ全てのドラマを担当。

ー大道具の中の「建具」スタッフの仕事内容を教えてください。

番組セットの中の建具を用意します。家や建物の障子、ふすま、窓、ドアなどですね。自動ドアも本物を使って、スタッフが遠隔操作で開け閉めをします。
テレビ美術の建具専門会社は弊社だけだと思います。建具の在庫は約2万本、7千種類で、1クール(=3ヵ月)の全番組で稼働するのは3千本、全体の15パーセント程です。

ー建具スタッフになった経緯は?

父がマエヤマを創業して、私は学生時代からアルバイトで手伝っていました。障子の紙を張り替えたり、窓ガラスを入れ替えたり、建具材を塗料で塗ったり。
でも実は、大学卒業後は学校の社会の先生になるつもりでした。ところが、教員採用試験に受かっても、当時は教員の数が有り余っている状況で、常勤で教えられる学校がなくて……結局、父の跡を継いだという訳です。そこから今日まで、数百の番組を担当させて頂きました。

ー担当した数百の中で、特に大変だった番組は?

『犬神家の一族』でしょうか。ドラマのセットでは、1つの空間の建具を替えることで別の部屋に見せることがよくあります。ふすまを入れていた所を障子に入れ替えたり、ふすまの紙を違う紙に張り替えたりして。
「犬神家」はすごく大きな家屋の設定で、建具が130本必要だったのですが、スケジュールがタイトでしたからふすまの紙を張り替える時間がなくて、ふすまごとどんどん入れ替えないと間に合いませんでした。どれからどれに替えるかを現場で考える余裕すらなかったので、倉庫から使えそうなふすまと障子を大量に現場まで運んだんです。
通常のドラマで使う建具は70本程度、和風建築の家でもせいぜい100本ぐらいですが、『犬神家……』ではのべ500本近くの建具を稼働させました。とにかく大変でしたが、ものすごくやりがいはありましたね。

ー変わった建具を使った番組はありますか?

『貴族探偵』で、老舗の温泉旅館の玄関扉に付けた鎌錠は、特にこだわったものの1つです。鍵を閉めて人を閉じ込めるシーンもあったので、骨董品で重みのあるものを探して、神社仏閣関係の品を扱う京都の金物屋まで買いに行きました。多少錆びている感じがまた良くて(笑)。

ーモットーとしていることは?

建具はあくまでもツールであって、我々は映像制作の一部門を担っている。建具屋ではなく、テレビ美術屋、映像屋だ、という意識で仕事をしています。
座右の銘は「勝って兜の緒を締めよ」。うまくいっていても決して安心しないよう、慎重にしていくことを心掛けています。

ー常に慎重に進めながらベストなものに行き着く、という感じですか?

いえ、終わった後は「もっと出来たんじゃないか」と思うことの方が多いです。例えば障子の組子――棧(さん)ですが、組子の太さが1.5mm違うと、映る画(え)の印象が変わってきます。『犬神家……』で使った障子は幅の広いものだったので、もっと太い組子を使った方が線みたいに見えなかったかな、とか。反省ばかりです。

ーこの仕事の魅力は?

セットはバラして(解体して)しまいますが、映像は記録にも記憶にも残りますよね。自分の仕事の成果が残る。反省もしますが、やはり大いなる活力になります。

ー今後やってみたいことはありますか?

ドラマ以外の番組で、建具の有効活用を考えていきたいです。情報番組のMC席の後ろにドアを幾つも置いてみるとか。建具で色々な番組を彩っていきたいですね。

(2019年5月)

茂 進さん

有限会社ダダ 
操作統括部長

茂 進 さん

大道具スタッフ歴32年。担当は「コード・ブルー」シリーズ、「犬神家の一族」「ようこそ、わが家へ」「西遊記」など主にドラマ番組。

ー大道具を扱って32年。大ベテランですね。

今まで数百の番組セットの建て込みとバラシ(解体)をやってきました。8割がドラマです。

ードラマのセットは基本的にはスタジオに建てるのですか?

ドラマのセットの建て込みには3パターンあります。スタジオに建てる、オープンセット、ロケ飾りの3つです。オープンセットは屋外の空き地に一から建てるセットです。ロケ飾りというのは、既存の建物を装飾で変えてセットにするやり方です。

ースタジオセットで一番大掛かりだった番組は?

『西遊記』かな。巨大なスタジオセットの中に、洞窟や山道、池を作りました。発泡スチロールのパネルを組み合わせて洞窟や崖を作るのですが、洞窟のシーンが多くて、毎週、トラック15台分のパネルを搬入……。通常のドラマで搬入する大道具はトラック4台から多くても10台、それも第1話用に搬入したらドラマが終わるまでは建てっぱなしです。それが毎回15台ですからね。建て込み時間も、普通8時間ぐらいのところ、『西遊記』初回は36時間かかりました。

ーオープンセットになると更にスケールの大きいものがありそうですね。

『ようこそ、わが家へ』では空き地に街を丸ごと作りました。当初はロケで撮る予定でしたが、ストーカーに付きまとわれる家の話でいいイメージではなかったので、場所を借りるのはやめてオープンセットになったんです。住宅街、丘、公園……電線も這わせて、街灯も10本立てました。1ヵ月かけて。
『坊っちゃん』を撮った時は、坊っちゃんが赴任した中学の校舎の壁と校庭、それに町全体もオープンで建てました。町並みと駅、船着き場も。学校も町も1週間で作りました。校庭を作る時は、勾配がある山をブルドーザーで整地するのに3日かかりました。
個人的にはオープンセットが好きですね。色々と勉強になることが多いんです。測量の仕方とか。

ーロケ飾りでセットを作った番組は?

『犬神家の一族』。大きな民家のお蔵を借りて、庭師の作業部屋に仕立てたんです。お蔵の中の物を全部出して内装をガラリと変えて、外側も白い壁を板張りにして、窓のサッシに木枠をはめ込んで隠して、昔の家屋風に作り変えました。
ロケ飾りは実際の建物をお借りするので、復旧しなくてはいけない、というのが気を遣うところですね。あとは時間の制約。建て込みを夜通しさせてもらう訳にもいかないので、手早く済ませる必要があります。ほかにも、材料を搬出入するスペースがあるかとか、脚立を立てられるかとか、一定の条件で問題なければそこでいこう、となります。

ーこれまでの自信作は?

『コード・ブルー』は見て欲しいですね。トンネル崩落事故のシーンでは、使われなくなったトンネルを借りて、平台(木製の台)を4tトラックで6台分運んでがれきの下地を組み立てて、その上に発泡スチロールで作ったがれきを大量に置きました。電車事故のシーンでは、“脱線して転がった車輌”を作ったり、切れた線路を木で作ったりして現場に運び入れました。

ー大道具で意外なものを作ることもありますか?

花畑を作ったことがあります。画面にはっきり映る手前の方の花は生花装飾スタッフが用意しましたが、奥の方だけ、赤い壁紙を固まり状にして何万個も置いて、赤い花畑に見えるようにしました。雪のシーンでも、“遠くに積もる雪”を見せるのに、白い布を広げて敷くことがあります。画面を通すと意外にそれっぽく見えるんですよね(笑)。

ーモットーとしていることは?

とにかく「安全第一」。それと、コミュニケーションです。安全につながりますから。現場に初めて入るスタッフには、まず最初に危険ポイントを説明するようにしています。

ーこの仕事の魅力は?

ゼロから作り上げて、一気に完成形まで持って行けるところです。そういう仕事は他になかなかないのでは、と思っています。

ー仕事で幸せを感じるのはどんな時ですか?

建て込んだセットを見たスタッフみんなが、驚きの声を上げてくれた時です。出来上がりの完成度が高いと、見た仲間達から「おおーっ」と、どよめきの声が上がるんです。
それを聞くと、達成感が高まって、大道具スタッフとして幸せを感じますね。

(2019年5月)

篠本 匡介さん

國新産業株式会社 
テレビ・舞台事業部 営業部 課長

篠本 匡介(きょうすけ) さん

大道具スタッフ歴23年。担当は「MUSIC FAIR」「FNS歌謡祭」「とくダネ!」など。

ー仕事内容を教えてください。

篠本

大道具の営業職として、デザイナーが描いたセットデザインを、実作業に即した寸法の図面に落とし込む仕事です。うちの会社はとりわけ造形、スチロールアートを得意としていますので、造形作品を作るコーディネーションというのは國新産業だからできる仕事だと思います。

『FNS歌謡祭』

『FNS歌謡祭』

『MUSIC FAIR』

ースチロールアートとはどのようなものですか?

篠本

発泡スチロールを使った、あたかも木彫りに見えるような作品です。スチロールを彫って、塗装して、長期や外での使用にも耐えられるようにコーティングします。例えば『とくダネ!』の後ろの壁は、スチロールにナイフで細かい流線形の溝を入れています。『FNS歌謡祭』では柱や壁などにスチロールのレリーフを置いています。『MUSIC FAIR』でも大きなオブジェを出しています。

ー作品を扱う時の営業職の苦労は?

篠本

仕上がったものを現場に入れて、サイズがきちんと合っているかを確認するのですが、大きい制作物が多いので、ほぼ毎回合わない(笑)。いつも現場で直しを入れています。

ー仕事の上でのこだわりはありますか?

篠本

デザイナーが表現したいイメージがきちんと形になっているような作品を出せるよう心掛けています。社内で実際に彫る者は彫刻や日本画を専門にしてきたスタッフ達ですが、皆、全て手作業で作り上げています。機械でも作れますが、エッジが甘くなってしまうんです。スチロールアートは手を入れれば入れるだけ、良い作品が出来上がります。
それと、いかにスチロールに見えないようにするか、いつも気を配っています。それには特に、発泡スチロールの泡の目が出ないよう、ウレタン樹脂やゴム系の塗料を使ったコーティングに神経を使います。

『とくダネ!』

『とくダネ!』

ーこの仕事の醍醐味は?

篠本

作品の完成形を現場で最初に見られることです。大きなものが多いので、製作工場では全体像はなかなか見られません。図面は描きますが、あくまでも図面ですし。現場で建て込みをして初めて、なるほど、こうなったか、と新鮮な感動がありますね。そこに照明が入るとさらに作品が映えます。作品のきれいな完成形を現場で見ると、やはり嬉しい気持ちになりますね。

(2019年4月)

浅見 大さん

株式会社チトセアート 
営業グループリーダー

浅見 大さん

大道具歴19年。担当は「VS嵐」「ジャンクSPORTS」「FNS歌謡祭」「すぽると!」など。

ー大道具の「営業」というのは、売り込みをするのですか?

浅見

いえ、他の業種で言うところの営業職とは仕事内容は全く違います。自社技術の紹介もしますが、通常業務としては、デザイナーが描いたセット図面から、運搬・搬出入・建て込みがしやすい寸法を出し、全ての素材を揃え、製作場に発注するための実寸図面を作成することがメインです。デザイナーが描くのは完成予想図で、我々が描くのは設計図ですね。
そのあとはセットの建て込み人員の手配もし、バラシ(解体)の最終確認までします。「営業」ですから、もちろんコスト調整も需要な仕事です。一言で言えば、「大道具コーディネーター」といったところでしょうか。

浅見さん作成の設計図

浅見さん作成の設計図

ー「大道具のコーディネーション」で特に重視していることは?

浅見

第一に「現場での建てやすさ」です。建て込みに十分な時間が与えられることはめったにないので。
そのためには、「作る時は面倒だけど、ここで切った方が建てる時に楽か」という視点で図面を描くようにしています。
もう1つは「デザイナーが描いているイメージの尊重」。一番怖いのは、デザイナーが想像していたのと違うものに仕上がってしまうことです。そうならないよう、各段階で写真を送ったりして、確認はとことんします。

ーやりがいのある番組は?

浅見

『VS嵐』ですね。不定期で新しいゲームを出すのですが、大規模なゲームのセットを建て込んで、シミュレーションをして、うまく作動するようにしていく過程がワクワクします。

ー過去に大失敗した経験はありますか?

浅見

はい、セットを造り忘れたことがありまして……。コント番組で、4つのうち1つのセットを製作場に発注していなかったんです。図面だけ描いて発注したつもりになっていて……。それで、製作場の人と2人で、冷や汗をかきながら2、3時間で作りました。幸い小規模なセットだったのでどうにか。
最も怖いのが納期の間違いですね。納品日を収録翌日にしてしまっているとか。それをやらかすのが恐ろしくて、常にiPhoneを持ち歩いてスケジュールのチェックをしています。

ー仕事でモットーとしていることは?

浅見

「妥協しない」。デザイナーからの発注に対して、自分で自信を持って出せるもの以外は納品しません。「時間がない」「部材がない」せいにはしない。自分で納得できないものは、結局、現場でもダメなんです。

ー職業病のようなものはありますか?

浅見

どこに出かけても、つくりや内装をチェックしちゃいますね。材質を確かめたりして。釘の打ち方や木材の組み方がずれていたり、壁紙が重なっていたりすると、もう気になって(笑)。
家でも自分で好みの壁紙に張り替えました。普通の家では使われていなさそうなやつですね。

ー最後に、どんな時に幸せを感じますか?

浅見

収録後、デザイナーに「セット、良かったね」と言ってもらえる瞬間が一番嬉しいです。デザイナーのイメージをちゃんと汲み取れてたんだ、って。
なんて言いつつ、やっぱり休みはありがたいです。1年で幸せな日は1月2日から4日の3日間。年末年始の番組が終わって、何も考えずに寝られる貴重な3日間なので。この3日を励みにずっと頑張ってます。

(2018年10月)

松本 達也さん

東宝舞台株式会社 
操作部チーフ

松本 達也さん

大道具操作歴26年。
担当は「さんまのお笑い向上委員会」「ネタパレ」「笑う犬」シリーズなど主にバラエティ番組。

ー「大道具操作」という仕事の内容について教えてください。

松本

番組セットの建て込み・バラシ(解体)の現場監督、といったところでしょうか。番組収録開始までにスタジオセットが完成するようにスケジュール・搬入の段取りを決めて、現場では20~30人いる大道具スタッフに建て込み・バラシが素早く進むよう指示を出す役目です。

ー26年間で最も大変だった仕事は?

松本

20年前ですが、元日の夜に4時間放送される『新春かくし芸大会』のセットを、全く時間がない中、皆で死に物狂いで建て込んだことがありました。『かくし芸』はメインセットのほかに出し物も多いので、建て込みには通常3日くらいかかります。ところがその年は、同じスタジオでドラマ『踊る大捜査線』をギリギリまで撮っていて、それが終わったのが『かくし芸』収録スタートのほぼ24時間前で……。『踊る』のバラシに7時間、そこから3日かかるところを、まる1日すらかけられない中で何とか間に合わせました。あの時は生きた心地がしませんでしたね(笑)。

ー職業柄、つい出てしまう癖はありますか?

松本

長さを「尺」で言っちゃうことかな(笑)。「㎝」で言われてもピンとこなくて。あと、「右」でなく「上手(かみて)」と言いますね。

ー今後やってみたい番組は?

松本

コント番組をまたやりたいですね。『リチャードホール』のような。シチュエーションに沿って1つずつ建てていくのが好きなので。大道具をやりたいと思ったのも、『オレたちひょうきん族』を見てなんです。「タケちゃんマン」も「懺悔室」も、セットあってのコントじゃないですか。あの番組がなければ、故郷の長野で寿司屋になっていたかもしれません。

ー仕事で一番のこだわりは?

松本

「セットアップのスピード」です。現場では、一分一秒でも早く建てることを常に心掛けています。もちろん、安全第一で進めます。

(2018年10月)