Q2. 「1 - 多いと思う」の回答理由
国家の戦略を論じることができ、少ない歳費でも仕事をしたいという使命感あふれた国会議員で構成される国会を実現するために、議員数の削減、歳費の削減を大胆にすすめるべし
「国会議員の適正人数」は、政治的イシューでもあるので、最初にお断りしておきたい。特定のグループや政党が、国会議員定数の削減に言及してきた。ここで削減数について具体的に言及すると、特定の政党や政治グループを支持するというニュアンスがどうしても出てしまうから、みんな慎重になる。「回答しない」としたほうが無難だから、今回のBSコンパスの有識者全体の回答数は減ると思う。しかし、私は過去、いかなる政治活動もしたことはないし、現在、どこかの政党を支援しているわけでもないので、国会議員の人数について、自分の考えていることを書く。その結果、どこかのグループの言っている数字と一緒であっても、それは結果として、そうなっただけであることを、お断りしたい。
スェーデンの人口が 886万人で国会議員が349人で、国民2.5万人に1人の議員。イギリスの人口が 5950万人、国会議員が 1050人で、 5.7万人に1議員。日本が人口 12000万人で国会議員が722人で 16.4万人に1議員。アメリカ合衆国の人口は 28142万人で議員が 535人、52.6万人に1議員。この数字から「日本の国会議員は多すぎることはない」と言うのは間違っている。各国の政治のありかたは多様であり、国会議員の仕事の内容が違うので、人口数をもとに国会議員の人数を決めるわけにはいかない。人口比というのは、あくまで参考の数字だ。
欧州各国の場合、人口比にすると国会議員の数が多いけれども、「減らせ」という声が大きくならないのは、欧州では国会議員にかかる経費が少ないからだ。「費用対効果比」の視点は不可欠だから、歳費についてもあわせて説明をすると、国会と国会議員を維持するために、日本人は高額のカネを支払っている。日本の総理大臣の年間報酬は4,022万円、アメリカ大統領3,600万円、イギリス首相3,100万円、フランス大統領2,900万円、インドネシア大統領240万円、フィリピン大統領52万円。イギリス、フランスは、人口比で日本よりも議員の数は多いけれど、議員の報酬が半分だ。イギリスの議員数は1,050人で報酬は年間8,900,000円、フランスが898人の議員で年間10,000,000円。日本はひとりの国会議員が年間24,000,000円を受け取っている。アメリカは年間18,000,000円だそうだ。地方議員になると、イギリスが年間730,000円、フランスが年間100,000円、アメリカが年間640,000円。日本の県会議員は、国会議員と同じで年間21,190,000円。フランスやスイスは、地方議員になると、ほとんど無報酬の名誉職らしい。議員数が多いか少ないかという話は、「国政を行なうのに、国民はいくらを支払うか」という問題と関連するので、議員定数削減と歳費削減の声が同時にでてくるのは当然だろう。日本で公務員給与を減額し続けていることに合わせて、歳費を減額してゆくことは可能であるはずだ。欧米なみの歳費を目標にして、議員報酬は半分にもってゆく。
では、議員定数はどうするか。「国会はどれだけの仕事をしているので、どれだけの人数が必要なのか」ということになる。問4で説明するように、国会議員は多忙だし、すべき仕事の量も多いが、仕事内容を整理すべきだ。国会は立法府であり、法律を作る仕事がある。現在の法律が妥当かを調べて、足りないものがあると立法する。ところが本来、議員が立法すべきであるところを過度に官僚に依存している。それを是正しつつ、議員の数を減らすには、国政に関係ない事項は地方に移管すること、そして、議員秘書には議員立法の能力がある有能な人を採用する。議員立法の青写真を自分でスラスラ書いてしまうような秘書を4人持てばよい。
また、衆参両院の役割は重複しているし、政党に属さない議員、議員立法をしない議員、委員会に属さない議員は、時間が余っているのではないか。日本では衆議院と参議院の役割があいまいだし、外国の上下両院の区別と比較したとき、よくわからない。衆議院1つにして良い。そうなると、自動的に242人が減る。衆議院でも、各地域からの代表としての国会議員は必要だが、各地域を細分化するから議員定数が増えてしまう。小選挙区の区分けをもっと大雑把にする。すると、国会議員数は半分くらいになるのではないか。議員数は350人にする。ただし、議員定数を半分にするのは、相当の混乱が生じるので、徐々に実施するとして、当面は、議員の数を現在の3分の2にする。
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一票の格差をゼロにすることはできない。国会議員は、地域の代表という意味も兼ねているから、一票の格差がある程度あるのは当然だ。過疎地域でもその地域の代表を国会に送る権利がある。一票の格差をゼロにすると、北海道の広い地域から1人、神田神保町の電信柱3本分のブロックから国会議員1人というということになりかねない。これでは、政治が成り立たない。政治とは異なる利害を持つものの間の利害調整なのだから。2011年、最高裁が2009年の衆院選の「1票の格差」について、違憲状態と判断した。2011年9月の時点で、有権者数が最少の高知3区と比較したとき、格差2.30倍以上の選挙区は、野田首相の千葉4区、神奈川県10区など5つになったという。最高裁が法の下の平等を保障した憲法に反するとして違憲状態と判断したまま、国会はその判決を放置しておくことはできない。選挙制度を改革しないまま、次の選挙を迎えることはできないという危機感が国会議員のなかにあるのだろうか。次の選挙で最高裁が選挙無効判決を出したらどうするのだろうか。大混乱で尖閣諸島、竹島、北方領土どころではなくなってしまう。
Q4. コメントする
国会議員の歳費は高すぎる。国会議員一人あたりの年間経費(歳費含む)は、文書通信交通滞在費、立法事務費、賞与、交通機関の無料クーポン公設秘書給与を含めると、年約7500万円、各政党には、政党助成金として、総額319億4000万円/年が国から支払われている。日本経済がその歳費を負担し続けることができるときは、皆は黙っていたが、いまはそうはいかなくなった。歳費が高すぎるという結論に至る。
ただ、議員は忙しい。国会本会議に出席し、質問をする。質疑に参加する。委員会の報告を聞き法案の採決に参加する。法案の審議を各委員会で行うとき、委員長、理事、委員として国会議員が参加する。委員会によっては、多忙な委員会(予算委員会)とそうでない委員会がある。国会での出席記録は残るので、休むと何かとあとあとまで響く。委員会に所属しない議員は委員会出席の義務がないが、政党に所属していると、政党の仕事で多忙になる。大臣、副大臣、政務官、官房長官、官房副長官になると、さらに忙しい。自分は大臣への直接のブリーフィングを何度もしてきたが、大臣の仕事は5分刻みだった。そのほかに、政党の部会(外交部会、防衛部会など)や、議員らが作る政策勉強会がある。いろいろな政党の総会、部会と勉強会で講演したことがあるが、議員の予定が詰まっているため、議員が会場に出たりはいったり。冒頭の10分間だけ聞いて退出される方もおられる。議員会館で議員にブリーフィングをしたとき、講演の冒頭、「北朝鮮体制は長持ちしそうです。これが私の結論。ご多忙の議員は退出していただいても結構です」と言ったら、苦笑いされた。国会関係では、1990年代はじめ、参議院のいくつかの委員会に参考人として出席して、「金正日体制は崩壊する兆しはない。儒教文化をベースにした特殊な体制であり、耐久力があることを前提に情勢分析をしなければならないし、北朝鮮に対する外交と防衛力整備をしなければならない」と何度が報告したことがある。その説明に対して「崩壊秒読みの北朝鮮」と考える大臣、議員、官僚から袋叩きにされたのも、いまは良き思い出だ。金日成死去から20年近くがすぎた。いま「崩壊秒読み」の金正恩体制が日朝協議を始めている。政党の部会、勉強会は、専門家にとって政治の現場の人々の関心を知る良い機会だし、有識者の見解に国会議員が触れる良い機会であり、これは省略する必要はない。
話は戻って、比例区で当選した議員よりも小選挙区で当選した議員は、選挙区に戻って、地元に説明する必要があるから多忙だ。これらは、国会会期中は、国会に出席しながら週末は選挙区に戻るという日程になる。これらの仕事を抱えて、歳費は多すぎるのか、議員定数は多すぎるのかを考える。実態を考えると、議員立法が少なくて、官僚に立法の作業を指示してきた。官僚には過重の負担がかかり、夜中まで常に待機していなければならない。官僚も大変だが、議員の労力は軽減されてきた。ヒマな議員は誰か。政党に所属せず、政党の仕事がなく、議員立法の業績がない議員の一覧表を、わかりやすい形で国民が閲覧できるようにする。国会出席日数が少ない議員の一覧表も。そのとき、「こんなに国会議員の数は多かった」「この人が国会議員だった」と驚く人も多いのではないか。
このように考えているうちに、ヒマな国会議員の数の分は、ひとまず削減すること、多忙な国会議員の仕事の量を減らすことが先決であることがわかってきた。そうすれば、官僚への過度の依存も減る。ドイツ、フランス、スイスは、地方議員数が多く、国会議員の仕事を絞り込んでいる。日本のように、地方議会がすべきことを国会議員がしているということはない。地方議員は、ドイツ、フランス、スイスでは、無報酬であるか、あるいは最低限の必要経費のみを受け取る。
橋下市長が人気を得ているのは、国が権限と財源を地方に移譲して外交や社会保障などに専念すべきという主張が正論だからだろう。最近、とみに国会での天下国家の論議、国家戦略についての討論を聞く機会が減った。それなのに国会議員として以外の仕事の量がやたらと多い。そして時間に追われて議員立法の数が増えない。その結果、日本国のソフトパワーの力が低下してきたのである。