2012年10月20日 ザ・コンパスで放送
社会・公共

科学立国・日本の未来は?

1:設問テーマの背景 (facts)>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>
10月11日、今年のノーベル賞(生理学・医学賞)の受賞が京都大学の山中伸弥教授(50)になることが発表されました。
(ジョン・ガートン博士(79)と共同受賞)

受賞対象となった研究は、細胞は成長する過程で遺伝子情報を捨てており元に戻らないとされてきた従来の常識を覆すiPS細胞(induced pluripotent stem cells)の開発で、基礎研究分野に属するものです。

山中教授自身は受賞会見のなかで、「9回失敗しないと1回の成功はやってこない。日常のストレスが大きく、何十回トライしても失敗ばかりで、泣きたくなる二十数年だった」と語るように、基礎研究は成否主義での評価がなじまないものです。

資金的なバックアップについて山中教授は、「私は無名の研究者だった。国の支援がなければ、受賞できなかった。日本という国が受賞した」と国の研究支援への感謝を表明しました。

国の支援の一方で、山中教授の約200名の研究チームの内の9割が非正規雇用であり不安定な待遇にあり、また山中教授自身がフルマラソンを完走することで「iPS細胞研究基金」への寄付を募るなど、
世界的な研究であっても日本での研究環境が厳しい状況であることが改めて浮き彫りになりました。

国の厳しい財政状況から、ここ数年の科学研究費は削減傾向にあります。日本の研究環境は国際競争力が失われ今後の頭脳流出も懸念される状況となっています。

2:番組として (our aim)>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>

 基礎研究に注力してきた科学立国としての取り組みが、戦後の日本の経済成長を推進したともいえますが、日本の基礎研究は、成否主義が判断基準として重視されるなかで、評価されない傾向が続き、さらに近年の厳しい国家財政から予算が削減されることによって、その環境は、世界のトップレベルとは言えず、アジアの近隣諸国との差も今後、更に縮まると見られる事態となっています。

 今回の受賞を受け、文科省は山中教授の研究に今後10年間に渡る異例の支援を決定しましたが、日本の研究環境全体についての厳しい環境は依然続くと考えられます。

 そこで番組としては、科学者、研究者の実情、国家の支援のあり方、有能な人材を育成し活用する方法などについて、さまざまな分野での研究や経営に携わる方も多いコンパス・オピニオンリーダーの皆さまからご意見をいただきながら、番組視聴者、ユーザーと共にこれからの科学立国日本のあり方、研究環境の支援のあり方について考えたいと思い、今回のテーマを企画しました。

オピニオンリーダーへの問いかけ

※コンパスで掲載された全ての意見・回答は各氏個人の意見であり、各氏所属の団体・組織の意見・方針ではありません。
Q1:現在の日本の研究環境は科学立国としてふさわしいと思いますか?
Q2:問1の回答理由をお聞かせください。
Q3:日本の研究環境(研究者/研究施設)が、科学立国にふさわしい研究を
実現するために、資金的なバックアップをするにはどんな手立てが考えられるでしょうか?誰(国・企業・民間団体・個人など)に、どんなことができ得るかアイディアをお聞かせください。
Q4:日本が科学立国として世界をリードしてゆく上で、必要なものは何でしょうか?中長期的に、日本からイノベーティブな研究・アイディアが生まれ日本で実用化されていく環境づくりに必要な方法などをお聞かせください。

オピニオンリーダーの回答

( 26件 )
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1. ふさわしいと思う

伊東乾
作曲家・指揮者 ベルリン・ラオムムジーク・コレギウム芸術監督
Q2. 「1 - ふさわしいと思う」の回答理由
現役の研究大学院大学教員として明言するが、現在のシステムの枠組みそのものがいけないとはまったく思わない。
欧米の研究環境・資金調達のシステムと比較するとき、各国で投機性が高く回収の見通しが大きな研究テーマに至近が集中する傾向が強いのと比較して、日本では、地味でも基礎的で重要な研究にしっかりと資金が提供され、だから無名だったころの山中氏も仕事を立ち上げることができた。現役の研究大学院大学教員として明言するが、現在のシステムの枠組みそのものがいけないとはまったく思わない。もちろん運用面など小さなことでは山のように注文はあるけれど。山中氏がマラソン、は200人の専従を抱える中小企業の社長が年間いくら調達してみなを食わせるか、と考えればおのずと納得がゆくものだろう。私も自分のグループの一族郎党みなが食べて行けるよう日々必死だが、そんなことは当たり前のことで、いつまでたってもおわりなどない。世界各国のあらゆるノーベル賞受賞者も同様のことを(マラソンは走らないにせよ)やっている。変な騒ぎ方はむしろ滑稽だ。
Q3. コメントする
行政には税制優遇措置など、制度的にキャッシュフローが生まれやすい環境を整備してほしい。企業には、短期の製品開発に直結するR&Dを超えて10年規模の国としてのサバイバルを、国や自治体にもサポートさせつつ整えてゆく重要さを認識していほしい。
Q4. コメントする
1にも2にも人材、そしてそれを育てる風土。あらゆるその他のものは、あとからついてくる。逆にいえば、人をつぶすな。そういう事例が多すぎる。
 
 
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2. まあふさわしいと思う

南淵明宏
医療法人社団 冠心会 大崎病院 東京ハートセンター  心臓外科医
Q2. 「2 - まあふさわしいと思う」の回答理由
学術会議を牛耳る特定大学出身の無能老害じじいどもの政治力を完全に封じ込めれば、もっと業績は上がるぞ!でもバカなマスゴミは肩書きにすぐだまされるんだよねぇ~。たとえば特任なんとやらに。
日本は科学立国がどうかはわからないが、研究者の環境は比較的整っているのではないか。ただし専門家集団であるはずの学会(学術会議)の痴呆化が著しく、また無駄も多い。肩書きの偉いヒトが形式上の功績を自分たちだけの「宇宙」で自画自賛し合う、とってもとってもお恥ずかしい「極小宇宙」が各分野にあまた存在し、これも平和安定社会の弊害だろう。有力大学の教授ならばどんなにカスでも(実際カスばかりだが)学会長をやり、年次総会を豪勢にやらかして周囲からのお世辞に埋もれて、それで「去年の会長だった彼奴より盛大だったぞ!」とほくそ笑んでそれでおしまい。じじいどもなにやっとんじゃ!全く時間と金の大無駄使いだ。こういうじじいどもはまたルサンチマンが強い!プライドだけ高く、嫉妬がえげつない。そしてやり方が陰湿だ。些細なことで「彼奴は悪い奴だ」「気に入らない」で若い芽が摘まれていく。ただしそういったpolicingは「本物」が育って行くための必要悪かも知れない。それにしてもお偉方というのはどいつもこいつも例外なくどうしてみんなかっこ悪いのだろうか?
Q3. コメントする
社会が、特に大新聞の「科学部」がリテラシーを向上させ、信賞必罰でしっかりと社会に紹介し、若い有能な研究者の賞賛の道筋をつくるべきだ。たとえば自然科学の基礎系なら50歳を過ぎたら研究者としては賞味期限切れだ。それまでにさしたる業績がないのなら、もう社会はそいつを相手にしてはならないのではないか?大学の教授のほとんどがそうなるが・・・。
Q4. コメントする
文部科学省が特定の大学出身者を依怙贔屓するためにしょうもない委員会とか作って研究をコントロールしようとしないこと。
 
 
福岡伸一
青山学院大学教授
Q2. 「2 - まあふさわしいと思う」の回答理由
研究のインフラ、研究をサポートする研究機材、資材メーカー、研究予算規模、研究者の数など一定の水準に達している。それとネットによる情報の共有、伝達。昔のように、わざわざアメリカに留学しないと得られない情報や装置、手技というようなものはない。
Q3. コメントする
(4にまとめて回答)
Q4. コメントする
3、4については分けられないのでまとめて記します。

私は研究をきわめて個人的なものだと思っています。独創的なアイデア、新しい発想、発見はすべて研究者の個人的な着想、構想、思考から出発します。つまり研究はすべて最初はスモールサイエンスとして出発します。iPS細胞の研究もそうでした。そしてその際、スモールサイエンスが将来、ビッグサイエンスに成長するかどうかは研究者本人も研究費を審査する側にもまったく予想不可能です。研究予算の配当にはある程度の「目利き」が必要ですが、初発のスモールサイエンスが、ものになるかどうかはどんな目利きにもほんとうはわかりません。

ですから科学研究の芽を育てる方法はひとつしかありません。スモールサイエンスの可能性を育むため、若手の無名研究者の予算申請に対して、薄く広く、ベーシック予算をばらまくことしかないと私は思います。その規模はほんの数百万から一千万規模でいいのです。

それと同時に若手研究者(とくにポスドクからスタートアップ(助教、准教授レベル)期)の雇用を守り、受け皿を広げる必要があるでしょう。
 
 
小幡績
慶應義塾大学ビジネススクール准教授
Q2. 「2 - まあふさわしいと思う」の回答理由
米国には劣るが、世界第二位の環境にある
よく米国と比べて劣っていると言うが、米国は例外。凄すぎる。他の国と比べれば、総合的には依然、世界第二位の環境にあるのではないか。
Q3. コメントする
日本は個人献金の慣習がない。政治も科学もベンチャーも一緒だ。

研究資金については、政府、文部科学省が中心なのは、現状、やむを得ない。そこを根本から否定するんどえなく、この枠組みでの改善を図るべき。

要は、文部科学省の資金配分の能力を高めればよい。これまでは、その分野の第一人者、実績があり、一般には高齢で、その分野の日本でのドンみたいな人の判断に多くをゆだねてきたが、そこをプロフェッショナル化し、優秀な人材を質量ともにあつめ、資金配分の検討自体にカネもエネルギーも使うようにしたら良い。
Q4. コメントする
日本の企業における研究開発は素晴らしい。

大学間の競争を激しくして、企業ともうまく協力しないと勝てないようにすれば良くなるはず。

端的には、東大のライバルを作るべき。かつては京大などがあったが、いまや多くの分野で東大が飛びぬけてしまっている。

東大のライバルを作ると同時に、東大がアジアのほかの大学をライバルと考えるような環境にすることも重要。
 
 
にしゃんた
羽衣国際大学教授/落語家
Q2. 「2 - まあふさわしいと思う」の回答理由
 今の日本の研究環境は、それなりにふさわしいのではないだろうか。アメリカ並みにと背伸びしてもほかへの影響(国家予算支出)が出てくるし、また、自然科学偏重との批判も出てくる。今の日本でも、そこそこ、今の日本なりに研究成果が上がっていると思う。

ノーベル賞も、そこそこ受賞しているし、日本人ばかり、というわけにもいかないだろう。文学賞も村上春樹氏が確実と言われる中で、中国の莫言さんが貰って、これはこれでいいのではないだろうか。ノーベル賞だけではなく、イグノーベル賞なども、今年、日本の若い研究者が受賞している点も素晴らしい。
Q3. コメントする
 「山中さんがノーベル賞もらったから、今後その研究のために、200~300億出す」、というのなら、『権威』付けされる前に出してあげてよ、と思ってしまう。この寄付金を、もっと出しやすくするために、国もメディアもPR活動をもっとやるべきである。税法上の所得税控除などの優遇措置も、国民に広く理解されているとはとても思えない。そして、お金持ちが100万、1000万の単位で寄付すれば、僕たちも研究のためにと、1000円、1万、の寄付が、より身近なものに感じられるようになるだろう。
Q4. コメントする
 山中さんの受賞で思ったのは、日本のノーベル賞受賞者にも、こんな庶民的な雰囲気の人がいるのだ』ということであった。コテコテの大阪人ですね。数年前に受賞した益川さんなんかを除くと、日本人受賞者はみな、『権威』という仮面をかぶり、『権威』という正装で身を固めているような気が致します。

実は、『権威』が、科学立国日本の伸び悩みの原因だと考える。例えば、日本で最も権威ある賞である、文化勲章、毎年受賞するのは、年寄ばかり。たまに若い人が受賞することがあるが、その人は、直前に例えばノーベル賞など、とんでのない外国の賞を貰った人に限られる。文化勲章の受賞者を選定するのも、『権威』に身を固めた人たち。若い学者による新発見があっても、外国で高い評価をされないと文化勲章受章者には選ばれない。外国の権威ある賞をもらうと、若い人であってもあわてて文化勲章の受賞者に付け加える。

大学の研究室も、権威の象徴たる年とった教授がいて、准教授がいて、助教がいて講師がいる。もちろん講師、助教は教授にたてつけない。准教授も教授に異論を挟むと干される。結果、研究は教授の成果を上回るようなものはいつまでたっても出てこない。

大学・学部の“頂点”に立つ東大も、元々は近代日本の指導層を育成する場所だったが、100年以上たっても、『権威の象徴』としての存在は変わらない。東大で勉強というのは、国家公務員上級職の試験に受かるための「受験勉強」のようなもので、霞が関では長い間「東大にあらずんば人に非ず」と言われたとも聞きます。最近では私立からも中央省庁に採用されていても、東大(特に法科)の壁は厚いようである。

このような権威に繋がる、大学に入るため、高校、中学、小学校、果ては幼稚園まで、入学・入園試験が難しくなってきているようだが、その入学試験のための勉強は、ただただ憶えること。余計な疑問は持たなくていい。持つ必要がない。1たす1は2だけど、1かける1は0。なんで?どうしてそうなるの?という疑問は受け付けない。ただただ、1たす1は2、1かける1は0、と憶える。疑問をはさむことは許されない。疑問は排除される。それが『権威』に近づいていくための『受験勉強』なのです。

科学は疑問からスタートすると思うのだが、『権威』は権威に従順な姿勢を示すものだけを召し抱えていく、異論を唱えるものは干される日本文化を引き継ぐよう日本の子供が組み込まれているようではダメだろう。

ノーベル賞受賞者は京大に多く、東大は少ない、と言われて久しいが、自由研究の空気があるのと、権威が威張っているのとでは、結果が違ってくることを何よりも象徴しているのではないだろうか。
 
 
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3. あまりふさわしいと思わない

永濱利廣
(株)第一生命経済研究所 経済調査部主席エコノミスト
Q2. 「3 - あまりふさわしいと思わない」の回答理由
米国立衛生研究所の幹細胞研究費と日本の2013年度幹細胞・再生医学関連予算を比較するだけでも、資金面でふさわしいとはいえない。
知財専門家についても、米国では寄付による基金を利用した常勤雇用が中心に対して、日本は研究費から支払う不安定な有期契約が中心であり、雇用面でもふさわしいとはいいにくい。
日本の三倍の経済規模を持つ米国の国立衛生研究所の幹細胞研究費が年間900億円に対して、日本における2013年度の幹細胞・再生医学関連予算が概算要求で120億円であることを比較するだけでも、資金面でふさわしいとはいえない。
また、知財専門家についても、米国では寄付による基金を利用した常勤雇用中心に対して、日本は研究費から支払う不安定な有期契約が中心であり、雇用面でもふさわしいとはいいにくい。
Q3. コメントを控える
Q4. コメントする
若者の理系離れを食い止めることが必要。
事実、大学生総数に占める理学部・工学部学生の割合を見ると、90 年代後半から下降の一途を辿っており、深刻な状況。
要因としては、ゆとり教育の弊害等が指摘されているが、理工学生の減少は専門分野の人材不足につながることからすれば、日本の科学立国としての発展にとって重大な問題といえる。
 
 
浜辺陽一郎
青山学院大学大学院法務研究科(法科大学院) 教授,弁護士
Q2. 「3 - あまりふさわしいと思わない」の回答理由
一部ではあるが、有能な研究者が海外流出しているケースがあることからすると、大学、企業それぞれの事情、その規律の在り方など、いろいろな問題がある。
一部ではあるけれども、有能な研究者が海外流出しているケースがあることからすると、問題があるのだろう。

民間営利企業では、成果をあげることが強く要請されざるをえず、他方、研究開発に振り向ける資源にも限界がある。それに加えて、成果をあげた従業員への職務発明に対する対価は、それに頓着しない人もいるけれども、それが不十分であることが問題であるという研究者もいる。

他方、大学では、研究費の削減や将来の不安定さなどが問題。さらに大学で博士などになって、うまく就職できればいいが、博士の就職には、まだ課題がある。
http://sangakukan.jp/journal/journal_contents/2009/11/articles/0911-06/0911-06_article.html

大学と企業の連携については、公的資金の公正な利用のためのチェックもまた必要であり、利益相反の問題が起きないようにすることも必要であり、このあたりのルールの明確化も期待されるところだが、そのあたりのケアーが必ずしも十分ではないところもある。

一方、実務と研究の交流も重要であるところ、たとえば医師の人数を制約するといった政策がかつてあって、多少増加させる方向のようだが、どうも既得権益を守るために人数抑制によって有望な若者の将来をくじいているような面はないか問題。どこの領域にもある新規参入者抑制のようなことは、なくしていかなければならない。

さらに、こうした研究開発の分野に進む若い人たちへの教育、学力レベルの低下が懸念されていて、すそ野がより強く広がったものにならなければ、将来が危うい。その点で、理数系の学力がかつてと比べて低下の傾向があることは問題。

ただし、学力が低下しているから、人数(たとえば医師の人数)を抑制する口実とするといったようなことはよくない。むしろ、少子高齢化であるから、大事な人材を育てる可能性を重視すべきだろう。
Q3. コメントする
基本的には国力を増強することがが必要であるから、人材を育成し、国を豊かにするための経済政策が重要。資金的なバックアップは、貧乏ではできないわけで、経済の足を引っ張っているだけの政権には後退していただき、もっと優れた経済政策、金融政策を実現できる態勢が必要。

小手先の対応では長続きしない。また奇策でどこかからお金が捻出できるわけでもないだろう。せいぜい、研究機関の税務上の優遇とかだろうか。ただ、悪用されるリスクもあるから、偏った政策はあまり好ましくはない。

もちろん、限られた資源を有効に配分することも重要で、無駄遣いをやめて、より可能性のある領域に資金を配分すべき。その点で、将来性が低いのに、政治力でお金を集めるようなところがあると、そのしわ寄せが他の重要な分野に及ぶことになる。この点は政治と行政の質と力が問われる。
Q4. コメントする
研究開発の分野に進む若い人たちへの教育、学力レベルを向上させる施策がまずは必要。それによって、まずは有能な若者のすそ野を広げることが重要。

さらに、選抜された人たちに対する高等教育をさらに洗練させ、伸ばしていくことが求められる。大学のカリキュラムの改善などが期待される。

大学を卒業した後の進路が有望であるような企業社会の採用も重要。勉強が不十分な学生を青田刈りすることは理系分野では少ないようだが、まだまだ採用、そして処遇の面で改善できるはず。特に職務発明の問題をはじめとして、それぞれの企業においても研究者に対する処遇をより魅力的にしていくことが課題。

また、研究者と実務家の交流、行き来ができるということも、働きやすい環境のために重要。たとえば、医療の研究と治療にあたる医師の両方をどんどん育てていくことが重要なのだから、その資格者の人数を抑制するといったことは、人材育成にマイナスである。すそ野を広げて教育の範囲を広げることこそが重視されるべきだろう。
 
 
潮匡人
国際安全保障学者,拓殖大学客員教授
Q2. 「3 - あまりふさわしいと思わない」の回答理由
途上国と比べれば、恵まれているが、先進国の一員としては改善の余地が大きい。日本人ノーベル賞受賞者らも海外留学し、海外で研究してきた。米国籍を取得した受賞者もいる。他方、日本での研究を希望する外国人は少ない。日本の研究環境が充実していれば、こうはなるまい。
Q3. コメントする
研究助成を事業仕訳しているようでは話にならない。公的資金に加え、民間からも十分な支援を得られるよう環境整備すべき。米国の大学や教会は、多くが民間のバックアップで支えられている。寄付金や助成金の税額控除を含めた大胆な税制改正が必要では。
Q4. コメントする
数年先の生活すら不安定な状況下では、安心して研究に専念できない。「出る杭は打たれる」日本の風土にも問題あり。「成功は失敗の連続から生まれる」。失敗しても再チャレンジできる基盤、革新的な才能や努力が報われる社会的な基盤が必要。
 
 
有馬晴海
政治評論家
Q2. 「3 - あまりふさわしいと思わない」の回答理由
日本の優秀な研究者が、日本を離れて研究していらっしゃいます。
最近のノーベル賞受賞者は、国籍は日本だけど活動は海外という方が目立ちます。
それを見ても、明らかです。
しかも、世界中からアメリカやカナダの研究室に参加しているにもかかわらず、
日本の科学者は少ないと聞きます。
つまり活動費も乏しく、渡航さえままならないとも聞きます。

環境はあまりいいとはいえない状況でしょう。
それは、山中教授の活動をみれば明らかです。
財政的に見ても、財源不足の中「二位じゃダメなのか」という
この国のスタンスにも表れています。
どの分野を削るのか、どういう国にするのか。
お金がないから科学の分野は諦めるということであれば仕方ありません。
国の方針かせわからない以上、
我々が焦っても何の解決にもならないのではないかと感じます。
科学は二の次さんの次でいいのかどうかということ。
Q3. コメントする
手っ取り早いやり方は、研究団体を指定し、
その団体に寄付をした場合の税金の控除をする。
頑張っている、関連会社が一緒になって発展できるという考えができた場合、
寄付をする。
控除がされることにより、一般会計として税金を取られるより
形を変えた「納得のいく納税」という解釈で、
資金の提供が受けれる。
頑張ってれば、その分評価をされ、直接資金提供が受けられる。
わかりやすく言えば、個人や企業団体が納税する分の
二割成り三割成りを指定団体に寄付できるという制度。
割合は、国が決めればいい。
Q4. コメントする
国内で研究されたものを、世界に打ってお金に変えるという国策というものを考えるべきだ。
賛否はあるが、原発分野では原発システムを世界に売り
原発ビジネスを積極的に水しているのだから、モデルはあるはず。
日本は優秀な技術者はいるが、
育たない。
育てる場を提供し、世界でのビジネスにつなげるという仕組みをつくることが必要だ。
 
 
飯田泰之
明治大学政治経済学部准教授
Q2. 「3 - あまりふさわしいと思わない」の回答理由
「元が取れる研究」は国がやらなくてよい研究
「元が取れない研究」は国がやる必要がある研究
●「元が取れる研究」は国がやらなくてよい研究
元が取れるならば企業が勝手にやります
●「元が取れない研究」は国がやる必要がある研究
元が取れない,何の役に立つかわからない(そもそも役に立つのかもわからない)研究は私企業の研究機関・私企業による寄付によって遂行することは出来ません.だからこそ公的な支援が必要になるのです.
●役に立つ可能性は限りなく低い……からこそ
大学で行われる研究のほとんどは目に見える成果に結びつきませんし,その「成果」のなかで実際に役に立つものはもっと少ないです.「いつの日にか役に立つ」ものを創り出すためには膨大な失敗の山が必要なのです.このように書くと,役に立つ研究成果を挙げる人を選んで研究費を支給するといった意見が出てくるかもしれません.しかし,コレは全くの誤りです.どれが成功するか,役立つかが事前に全くわからない,だからこそ科学政策は「数を打つ」を基本に考えなければなりません.
●国際公共財の供給者になるか利用者になるか
研究補助は税金によって行われます.しかし,科学の成果は人類全体のものになる.このように考えると,外国に研究してもらいそれを利用する側に回った方が安上がりだと考える人もいるでしょう.経済的には確かにこの方が「合理的」です.しかし科学の進歩は人類の公共財です.その供給の一翼を担うことに名誉を感じることが出来るかどうか.山中教授はその名誉心を鼓舞してくれるすばらしい発言をしてくれたのでは無いかと思います.

●追加で
山中教授が研究員の不安定な雇用情勢に言及してくれたのはうれしい限りです.おまけのようについてきた森口氏の問題もその根っこはココにある気がしてなりません.
Q3. コメントを控える
Q4. コメントを控える
 
 
森信茂樹
中央大学法科大学院教授 東京財団上席研究員
Q2. 「3 - あまりふさわしいと思わない」の回答理由
問題は予算総額というより配分の方法にある。仲良し型均等配分をやめ、厳しい評価(必ずしも成果主義ではない)とセットで競争的配分を行うべきだ。
日本の科学技術予算の増額は、決して先進諸外国と比較して劣るものではない(科学技術要覧2012年版GDP比参照)。問題は、その配分のあり方にある。日本型の村型仲良し配分をやめ、厳しい評価制度とセットで、競争型配分を目指すべき。
Q3. コメントする
米国の科学技術予算は、源流(科学)から出口(技術)まで一気通貫で同一の省庁が担当してることが多いが、わが国では、上流(文科省)と出口(厚生労働省、経済産業省・・)が分断されて予算措置されているので、効率が悪いといわれている。改める点ではないか。
Q4. コメントする
限られた予算の中で、選択と集中を進めていくこと。(難しいが)科学技術の目利きを育てること。
 
 
雨宮処凛
作家
Q2. 「3 - あまりふさわしいと思わない」の回答理由
研究チームの9割が非正規雇用という不安定な立場であることに
驚きました。
他の国の事情はわかりませんが、安定した立場になければ長い時間をかけた研究も
なかなかできないのではと思います。
大学における非常勤講師や非常勤職員の不安定雇用の問題は深刻だと思います。
Q3. コメントを控える
Q4. コメントを控える
 
 
土居丈朗
慶應義塾大学経済学部教授
Q2. 「3 - あまりふさわしいと思わない」の回答理由
研究費の金額以前の問題として、日本の大学では教員に雑務を悪平等的に担わせる慣行があり、これが研究環境を悪くしている。大学教員が雑務をせずに済み研究・教育に専念できる環境を整えることこそが、最優先で実行されるべきものである。
大学の運営にかかわる雑務を直営的に教員に担わせる慣例がある。大学教員は皆が皆研究に卓越しているわけではないこともあって、(相対的に)研究ができる人もできない人も悪平等的に雑務の負担を割り当てようとする。山中伸弥教授も試験監督をなさったという話も聞く。

象徴的には、アメリカの大学では、自ら獲得した研究費の一部を大学に上納することによって、負わされる予定の雑務を回避することができるが、日本では雑務の回避を金銭的に償うことが認められていない。

こうした大学内の悪弊を改めなければ、日本の大学で欧米の大学並みの研究環境を整えることはできない。
Q3. コメントする
研究資金は、国が税金を財源として支援することが最低限必要である。山中伸弥教授がノーベル賞受賞後最初の記者会見で、税金で国から研究資金をサポートしてもらったことに謝辞を述べたことにはとても感動した。

他方、事業仕分けで研究費に対する批判が出たときに、歴代ノーベル賞受賞者が事業仕分け自体を批判したが、そこには国の研究資金が税金で賄われていることへの謝辞はなかった。極言すれば、自らの研究には国から研究費が与えられて当然という姿勢にも見えた。

国から研究資金を受けている研究者(私を含む)は、納税者に謝意を表しながらありがたく研究費を使わせて頂くという精神で臨めば、国が資金的に研究支援を行うことへの国民的理解も浸透し、減額されずに継続してバックアップしてもらえる環境が整うと考える。
Q4. コメントする
グーグルや新興IT企業で、社内の施設にアイディアを育みリラックスできる部屋や環境を整えている模様が報じられている。これらの企業ではイノベーティブな企画やアイディアを大切にしているという。もちろん、これらの施設や環境は、これらの企業が自らあげた利益によって作られたものである。

これに倣えば、日本の大学(を中心とした研究機関)にも、同等の施設や環境があれば、日本からイノベーティブな研究・アイディアがさらに生まれてくる可能性があるように思われる。

日本の大学(を中心とした研究機関)では、これらの企業の環境とは比較にならないほど悪い環境にある。これらの企業内では徹底している分業や役割分担(研究開発部門と間接部門の仕事)が、日本の大学では不徹底になっていることも一因である。
 
 
細川昌彦
中部大学教授
Q2. 「3 - あまりふさわしいと思わない」の回答理由
研究開発のプレーヤーたる産官学それぞれに構造的問題を抱えている。しかもこれらはこれまでも指摘されていても変える動きが極めて鈍く、世界の潮流に後れを取っている。その結果、優秀な研究人材の頭脳流出が後を絶たない。頭脳流入している米国、シンガポールなどと正反対。

(産業界)
① 企業の研究開発はリーマンショック以降大きく減少(主要国で日本だけ、中国、韓国に抜かれる)。
しかも企業に余裕がなく、短期に偏重(9割が既存技術の改良)。将来に目を向けた長期的な新製品開発へのイノベーションにつながらず。
日本は同業他社が多く、同じような研究に重複投資が行われていて日本全体として非効率。

② 自前主義で外部との連携に消極的(世界のオープンイノベーションの潮流に取り残される)。
国際的な共同研究などグローバルなネットワークから孤立した存在になっている。諸外国は海外の人材、技術も取り込んで自国内で研究開発を効果的に行っている(例えばEUは欧州域外国も含めて国際共同研究を実施している)

③ 実用化において日本企業に蔓延するリスク回避症候群。日本の大企業が石橋をたたいても渡らないうちに、サムスンなど海外企業が日本の大学の研究成果を積極的に買い取って実用化するケースも最近目立つ。

(国)
① 諸外国は軍事予算での研究開発が大きいので、絶対額の少なさはある程度は仕方がないが、ここ数年の予算削減はいただけない。特に「事業仕分け」の弊害もあってか、国の研究開発もかつてに比べて、小粒(1/3)で短期((1/2)になってしまった。
かつて通産省がやっていたサンシャイン計画は20年がかりの長期プロジェクトで、その結果、太陽電池で2007年まで世界シェアトップや家庭用燃料電池の開発に結実したが、そういう「長い目で見た大仕掛け」がなくなった。

② 役所間の縦割りと規制の弊害。
国の研究開発予算の7割を持つ文科省が基礎研究を担うが、それと実用化に近い応用研究を担う経産省、厚労省などとの連携が相変わらず悪い。
研究開発プロジェクトは単に研究開発だけでなく、その後の事業化への戦略も含めて一体的に取り組むべきもの。
特にライフ・イノベーションの分野は厚労省の薬事法の規制が実用化の最大のネック。研究開発だけいくら資金投入してもダメ。再生医療の実態に合わない現行の規制を続けている限り、山中教授の素晴らしい研究成果も実用化になかなか結び付かず、諸外国に遅れをとる結果になりかねない。


(大学)
①研究人材の問題。特に大学院、ポスドクの著しい質の低下により、産業界の求める研究人材を大学が供給できていない(特に最近はゆとり教育の影響か)。

②大学の硬直的な制度。たとえば給与制度など、産学連携に積極的に取り組むインセンティブがない。
大事なのは長老教授陣よりも研究スタッフに十分な人材を確保する仕組み。

(産官学共通の問題)知的財産の管理など研究開発のマネジメントが不可欠だが、その人材が決定的に不足している。
Q3. コメントする
1国としての研究開発予算の大幅な拡充は不可欠だが、同時に効率的、効果的予算の使い方が重要。そういう観点から
①省庁の枠を超えて、国として基礎研究から実用化までを一体的に推進する仕組み作りが必要(今年からの文科省と経産省の連携は一つのモデルとなる)。
②産官学の組織の枠を超えて「つなぐ仕組み作り」(つくばでのナノテク拠点がモデル)
③大学の産学連携の活動を評価する仕組みを作り、それに基づいた資金配分する。そして外部資金を獲得してくるインセンティブを大学研究室に大胆に与える。

2民間企業に対しては研究開発減税も資金的バックアップとしては効果的。日本は他の先進国に比べてあまりにお粗末。財務省も法人税引き下げと引き換えに縮減するのは世界の潮流に反しているし、みみっちい。
Q4. コメントする
1まずはグローバルな人材誘致戦略を。そのための生活環境の整備も含めて特区に。
シンガポールのバイオ・ポリスをモデルにする。

国家戦略で2400億円の資金で一挙に世界トップのバイオ・メディカルの拠点になった。ポイントはグローバルな人材誘致戦略。2000人の研究者のうち、半分は世界から優秀な外国人研究者を誘致。研究費の多さ、研究者の待遇、研究以外の書類作成などの雑用からの解放など、いわば「研究者天国」で、世界から英知が集まる。そしてその人材を求めて世界の製薬メーカーがシンガポールに投資をしている。

2 海外のグローバル企業の研究開発拠点の戦略的誘致
現在は逆に流出が続いているが、これを逆転すべく、シンガポールの施策に対応できる大胆な政策が必要。シンガポールは企業のR&D支出の250%を法人税の課税所得控除、企業のR&Dを支援する15億ドルの「国家研究基金」を設立


3実用化されるためには規制緩和が不可欠。まず手始めに薬事法の改正をシンボリックに行う。
再生医療、医療ロボットなどライフイノベーションの目玉としての取り組みで、本気度を示す。
 
 
稲増龍夫
法政大学教授
Q2. 「3 - あまりふさわしいと思わない」の回答理由
研究助成全体もそうだが、研究者が経済的に報われる仕組みになっていない。
かつては研究者自身も、研究成果を上げることに使命感を感じ、また社会的にも、そうした活動を尊敬する社会的風土があったが、科学者が特別なエリートではなくなったために(これは科学者にとどまる話ではなく、エリートの存在価値が下がっているのは時代の趨勢である)、今では、諸外国に比べ、経済的に報われない事実だけが残り、そうなると、優秀な頭脳の海外流出が起きるのも必然である。
Q3. コメントする
今の国家レベルの研究助成システムで言えば、申請時の審査が厳しいわりに、途中経過や成果に対する精査がゆるいので、申請書面の体裁が重要視され、実際はずさんな研究に資金が与えられて無駄使いになっていることが少なくない。もっと、途中経過の審査を厳しくして、成果が上がってなければ研究費を返却させ、逆に、予想以上の成果が上がりそうなら増額するなどの仕組みになれば、研究者のモチベーションやインセンティブもあがるだろう。
Q4. コメントする
山中教授がマラソンに出場してまで資金援助を求めている姿は研究者の常識からすれば驚嘆に値する。売名行為とかポピュリスムという批判もあろうが、従来の研究者は、象牙の塔の権威に甘んじていた部分が多く、もっと、自分たちの研究の意義を広く一般にわかりやすくアピールして、一人一人からは小額であっても、研究に直接関わりのない個人から寄付や援助してもらう「研究サポーター」システムが定着してほしい。
もちろん、すべての研究がこのやり方になじむわけではないが、科学も細分化されてしまい、かつてのように、「夢の未来」のビジョンが明確に描けないからこそ、科学者自らが「広告塔」になって、啓蒙していく努力が必要になってくるだろう。
 
 
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4. ふさわしいと思わない

本田宏
医療制度研究会副理事長
Q2. 「4 - ふさわしいと思わない」の回答理由
日本は低予算以外に、医師不足を放置しているという大問題点がある。日本の人口当り医師数は先進国平均の2/3。その結果全国各地の医療崩壊だけでなく、大学医学部の研究者も不足し、この数年日本の医学論文は減少の一途だ。予算増額に加えて、医師不足を抜本的に解決し研究者も増員しなければ科学立国は望めない。
 今回の山中教授は生理学•医学部門での受賞だが、日本は基礎研究の低予算という問題以外に、先進国と比較して絶対的に医師が少ないことを放置しているという問題点がある。現在日本の人口当り医師数は先進国平均の2/3。その結果全国各地の医療崩壊だけでなく、大学医学部の研究者も不足し、この数年日本の医学論文は減少の一途だ。予算増額に加えて、医師不足を抜本的に解決し研究者も増員しなければ科学立国は望めない。
Q3. コメントする
 政権交代前にシロアリ退治が必要と現総理が指摘したように、日本は天下りや原発村等の既得権益に流れる金が多すぎる。
 日本の金の流れを根本的に見直さなければ、国•企業•民間団体•個人含めて、いくら資金があっても足りない。
 「金は天下の回りもの」誰か既得権益を持った者が金を集めすぎれば、本当に必要な成長分野に必要な人と金が集中できないのは自明。局所の問題でなく、俯瞰的な国家像を探っていくことが、この問題の真の解決策となる。
Q4. コメントする
 格差拡大による教育の格差を放置していては、せっかく日本人に与えられた才能が伸ばせられない可能性が高い。
 個々人の才能を伸ばすためには、幼児期からの教育(オランダや北欧では教育に十分金と人をかけて個人の能力に会った教育と職業選択ができるように工夫されている)を見直すことが最優先課題だ。
 人は石垣人は城、日本はその教えをすぐにでも見直し活かすべきだ。
 
 
山田昌弘
中央大学教授
Q2. 「4 - ふさわしいと思わない」の回答理由
大学教員の採用人事が硬直化しており、独創的な研究が評価される状況ではない。
大学教授のポストが終身雇用であり、わざわざ独創的な研究をするというインセンティブがない
理系(数学除く)と文系(一部の心理学除く)では、その研究方法(特に、組織で大規模実験装置を使用して行うかどうか)に違いがあることを除いて、社会学の分野で起きていることを中心に述べる。
大学教員の採用人事が硬直化しており、独創的な研究が評価される状況ではない。

私が院生だった30年前、私は生意気な院生で、大家と言われる先生の批判ばかりしていた。それでも、私を評価してくれる先生に拾っていただいて、大学に職を得て研究を続けることができた。それは、大学院生の数が少なく、ポストに容易につける環境だったので、いい論文を出せば、分かってくれる人がいて、就職できると確信していたから独創的な論文を出すことができた。
今の院生は、大先生に気に入られるような論文、そこまでいかなくても、無難で手堅い論文を書いている。そのような論文が何本もないと就職できないからであり、一人、理解者がいても、競争相手も多く、それで就職できるほどの状況にはないからである。どうしても、無難に流れる。

大学教授のポストが終身雇用であり、一度正規の准教授、教授になってしまえば、よいものを出さなくてもその地位、名誉、ある程度の研究費は安泰である。わざわざ独創的な研究をするというインセンティブがなくなる。
Q3. コメントする
1若手用
 意欲ある若い研究者に自由に研究させる資金、人員を提供する。一定期間で成果が上がらなければ、研究費を取り上げる。これにも公正な評価機関が必要だが。

2.既存の研究者用
大学の教授や研究室を評価するシステムを作り、研究費だけでなく、給与を査定制にする。給与を教育分と研究分に分け、教育分は高校教師程度とするとか。(全大学で同じ給与体系を採用することが前提ですが)
もちろん、研究が、短期的で受けがよい研究に偏るという弊害もあるが、インセンティブがないよりましだと思われる。
(たとえば、哲学で大著をまとめるのに10年かかったとしても、10年目に大著が出たときに、大金を払うというシステムにすれば、励みになるかも)
まず、できないと思いますが。
Q4. コメントする
適切な個人的インセンティブ。というよりも、独創的でなければ職や収入を失うというようなディスインセンティブ。
今、香港やシンガポールの大学では、優秀な科学者を世界から集めるために、高額の給与というインセンティブを払っている。もちろん、一定期間で成果を上げられない人はほっぽり出されている。その位の思い切ったことをしなければ、このグローバルな環境の中で、なかなか立ち直らないのでは。
 
 
武貞秀士
拓殖大学大学院特任教授
Q2. 「4 - ふさわしいと思わない」の回答理由
世界レベルの日本人科学者が「日本の研究環境は悪い」と言っている。研究予算が少なく、研究者をめざす人の数が減り、ゆとり教育と知識偏重でクイズ形式のテストを中学校、高校で繰り返し、科学する心が希薄になり、日本の科学技術力が低下してきた。その逆をすれば、それが改善策になる。
 第一に、世界最高水準の成果を出している科学者が、「海外で基礎能力を身につけた」「日本の科学技術研究の環境は劣悪だ」といっているだけでも、日本国内の研究環境が整っていないといえる。社会科学分野での自分の経験からいうと、政府の支援の予算が少なすぎる。早い段階での成果を求めすぎる。研究者が研究に没頭するには、余分の作業、会議、調整の集まりなどが多すぎる。資料を整え専門家を助ける助手の数が足りない。専門家自身も、資料を丹念に読み込んで、自分独自の論理を展開するという覇気ある人が減ったなどの問題があると思う。
 第二に、日本の科学技術の将来をになう子供たちが、世界の数学などのオリンピックで、圧倒的な優位を維持しているわけではない。子供たちの数学、化学、地学、生物学の能力が世界でどのあたりにあるかということは、将来のその国家の科学技術発展と関係があると思う。2011年の数学オリンピックの成績は、参加国101ヶ国564名中、日本の国際順位は12位だったそうだ。国際順位は上位から、1位中国、2位アメリカ、 3位シンガポール、4位ロシア、5位タイ、 6位トルコ、 7位.北朝鮮、8位台湾とルーマニア 10位イラン、11位ドイツ、12位日本、 13位韓国、14位.香港、 15位ウクライナとポーランド、17位カナダとイギリス、 19位イタリア、20位ブラジルとブルガリアだったという。 2012年は 17位 (銀4, 銅1)だったそうだ。もちろん、これがその国家の科学技術力を示しているものではなく、この試験の準備のために時間と投資をした国家が上位にゆく傾向がある。国際化学オリンピックの場合、各国の一次選考への参加人数は2009年の時点で中国が15万人、ロシアが5万人、インドが2万5千人であり、日本は3千人である。そのなかから選ばれて国際大会に出ることを考えると、日本の高校生たちは優秀だということになる。しかし、欧米の一流大学の教授たちは、「日本からの留学生の数が減った」「留学生の学力が、中国、韓国、シンガポールからの留学生と比較すると落ちる」と言っている。


 
Q3. コメントする
 第一に、すでに設置されている総合科学技術会議の役割は大きい。科学技術を発展させるための国家としての指針作りが不可欠だから。国家として科学技術発展のための戦略がどうあるべきか。分野別ではなく、総合的な見地から、どこに重点をおくべきか。どのように連携してゆくか。どれだけの予算が必要か。これらの点について総合科学技術会議で毎年指針を出している。日本が直面している重要課題の達成のために科学技術イノベーションの実現を国家戦略の根幹と位置付けている。財界、学界、官界が連携をしながら、発展させてゆくことを重視している。その通りである。企業の日本の大学への助成を奨励していることも、そのとおりだ。そこで指摘しているように、企業のより積極的な大学への助成、大学は企業の助成に答えるべき質の高い研究の実施、より厳密な研究成果の評価をより厳密にすることが大事になる。
 第二に、専門家の卵が若いときから独創的な研究をできるように、科学研究費の助成を若手に対して積極的に行なうようにする。社会科学の場合、40歳代までは、科学研究費を自由に使うことが難しいという現実がある。ほんとうに研究者としての基礎を固める時期に、自由に使う科学研究費が回ってこない。私など、50代まで1年間の研究費が年間20万円で(学術雑誌購読費用を含めて)あった。航空会社のマイレージで、ワシントン、ロンドン、パリの大事な国際会議に参加して発表をしていた。若手にも研究費を回すべく、研究費の支給については、年齢による差別、区別は行なわないようにする。
 第三に、日本の企業の大学への助成を、一層奨励する。ハーバード大学、スタンフォード大学、コロンビア大学などの資料を見ると、日本の企業の名前を冠した講座や行事やプログラムが多いことに驚く。それだけ、企業のカネは欧米の大学に注入されているのに、日本には、それほどではない。日本の企業は日本の大学の中身充実のための助成を強化すべきだ。
 手本になるのは韓国の科学技術奨励策だ。韓国大田(テジョン)市には、KAIST(カイスト、英称:Korea Advanced Institute of Science and Technology)がある。1981年に設置された科学技術専門の国立大学で、韓国の科学技術研究の中心的役割を担っている。韓国政府の援助による科学技術分野のみを専門とする大学院であり、KAISTは世界の主要な研究中心の大学の一つとなりつつある。科学技術省が管理し、財政、教育、研究開発分野で優遇を受け、学部間の連携を重視しており、教授の研究室や研究センターの協調、専門家が担当するプログラムの連結を推進し、魅力にあふれた旧弊を打破したカリキュラムを学生に提供している。「経済学部の教授は工学部の教授の顔を見たこともない」などといったことは起きない。風通しが良いので、学生も教授も自由な発想で討論を楽しんでいる。外国の世界大学ランキングでは、アジアの最高教育研究機関として、KAISTは常にトップクラスの位置にある。
 日本の問題点は、科学振興のための素材としての国民の資質は優秀なのに、制度とその運用の仕方に問題があり、素材を台無しにしてしまっている。日本人は考えることを大事にし、好奇心を大事にするし、ユニークな発想、その人にしかない視点を大事にして、その見方を聞くという社会的な了解ができている。だから、独創性に富んだ科学者を生み出す下地というものがある国民だ。その点は間違いなく誇りに思って良い。そして、いま、働き盛りの科学者たちが世界で大活躍しているのは、そのような特性を持って、子供のころから基礎的な学習を重ねてきていたからだ。
 昔、日本は世界で技能、化学、数学を競い合うと、かならず上位にはいっていた。いまは、韓国、香港、台湾、中国の若者が上位を占める。これらの国々から、どんどん世界のトップレベルの科学者たちが輩出することは間違いない。数学嫌い、物理学嫌いの子供たちが増え、一流大学の大学院で後継者になれそうな学者の卵を探すと、外国からの留学生ばかりだったという話を聞くと、日本の将来は明るくないと思う。文学とか政治学とか法律家の勉強をする人の数を増やしても、国家の科学技術発展の基礎にはならない。
Q4. コメントする
 もっとも必要であるのは、人間の教育、人材の育成だ。吸収力があり自分の特性を活かして新しい視点で研究成果をまとめ上げる若者が、日本の大学と研究機関に大勢いるのかどうかで、日本の科学技術の将来は決まる。人間が減れば、成果も減る。小学校時代から、「なぜ」「なぜ」と先生が問いかけながら、科学する心を持った子供たちを育ててゆく。クイズ式の問題ばかり小学校から教えていては、科学する心を持った人間は育たない。それに「ゆとり教育」という発想を捨てる。自由に発想するという能力は、繰り返し、繰り返し苦しみながら失敗し、基礎学力を身につけた人だけが可能だ。基礎的な学力をつけるためには、成長期に苦しいとは思いながら基礎能力をつける必要がある。テレビのドラマを見てコーラを飲んでいるよりも、博物館で科学現象の仕組みの模型を覗きこんでいる子供の数を増やしたい。幼児教育から、日本は見直した方かよいのかもしれない。「なぜなんだろう」と科学する心を持った子供を育てるのである。
 
 
若狭勝
弁護士
Q2. 「4 - ふさわしいと思わない」の回答理由
今や、そして、今後はますます、科学の力が国力を図るバロメーターになってゆく。
特に、資源が乏しい日本国においては、この科学の力が今後の国力を支えることになる。
それにもかかわらず、仕分け人(蓮舫議員)が「2番じゃダメなんですか」などというようでは、基本的な問題意識に欠けていると言わざるを得ない。仕分け人(蓮舫議員)がそのようにいうような環境下では、ふさわしいとはとてもいえない。
Q3. コメントする
国の科学技術に対する予算を増加させる。ただ、国の財政状況が厳しいので、企業及び個人からの寄付を促すため税額控除を拡げる。所得控除ではなく、税額控除(全額でないにしても)を検討する。相続税の算定時における寄付控除を拡大する。実際に、山中さん側への寄付がノーベル賞を取った直後に多くなされていることから、寄付を促す制度をもっと設ければ、もっと寄付が増加するはず。
Q4. コメントする
形式的平等教育(機会均等等)を打破し、天才的に優れた子供・学生には、自由な学問を促す。飛び級・編入等の促進。
天才とまでは言えない優れた子供・学生にも、枠に縛られず、自由な発想を最大限生かせる教育制度を作る。画一的教育では、どうしても能力が埋もれていく危険がある。
 
 
倉田真由美
漫画家
Q2. 「4 - ふさわしいと思わない」の回答理由
今の日本人他国に比べては国レベルの大きさの問題に関心が薄い。
日本人は国レベルの大きさの問題について、関心の寄せ方が軽いと思う。

尖閣や竹島、原発問題など、国を挙げて対策を講じるべきことについても、熱くなる人は一部だけ。そのため結局どの問題もほとんど動かないし、変化しない。尖閣国有化については、石原都知事が一人で決めたようなものだ。

ノーベル賞という最高の栄誉、国際的に見てもっとも価値のある賞をとっても、いまいち反応が弱い。逆に候補に挙がりながらとれないとか、候補にすら挙がらないことについて、もっともっと悔しがるべきだし。

「とれたらラッキー、とれなくてもまあ、仕方ない」

くらいの感覚しかない。

尖閣も竹島も間違いなく日本の領土なのに、先方の「熱さ」にすっかり押されてしまっているのが現状。

教育、研究は未来への最大の投資。何に予算を使うって、ここに使わなくてどうする。
でも今の日本人の多くは、個人のことに精一杯で、国レベルの視野をなかなか持てていない。
Q3. コメントを控える
Q4. コメントを控える
 
 
長田渚左
スポーツジャーナリスト
Q2. 「4 - ふさわしいと思わない」の回答理由
研究者が長期の研究の間に励まされる環境にない。
未来のための研究なのに大変に肩身狭くやり続けなくてはならないのは気の毒です。
Q3. コメントする
研究者や研究を支援しやすい環境を作る。民間企業団体へは税金への配慮や軽減を
しっかりやるなど。
そのための申請手続きを簡単にしてほしい。
優良企業の公表なども大切。
Q4. コメントする
口を出さず金を出す環境作りが大切。
日本が世界をリードできるものは、昔からアイディア、思考、研究だったと本気で認識してほしい。
目先のことばかりにとらわれない夢のある環境にならないと、子供たちにとっても研究で
生きていこうなどと思わない。
 
 
飯塚正人
東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所教授
Q2. 「4 - ふさわしいと思わない」の回答理由
若手は生活費を稼ぐのに精いっぱいで研究に専念できない。正規雇用の研究者も、本来の研究以外のことに奪われる時間が多過ぎる。しかも、長期に国外で研究や調査を続けることのできる制度も必ずしも整ってはいない。
 国の厳しい財政状況を考えれば仕方のないことかもしれないが、若手研究者の多くが非正規雇用に甘んじざるを得ず、そうした状況を反映して、文部科学省や日本学術振興会の定義する「若手研究者」の年齢が年々上昇し、いまや40代半ばでも「若手研究者(=正規雇用予備軍)」と位置づけられているような状況では話にならない。特に文系の場合、非正規雇用者の大半は国公私立大学の非常勤講師であり、毎週10コマ授業をやっても年収300万円程度にしかならないうえ、それだけの時間を授業に費やせば、研究に向ける時間などなくなってしまうのが実情である。
 一方、幸いにも正規雇用の待遇にある研究者の場合も、研究に必要な予算を継続的に確保しようと思えば、国と社会に対して研究の意義や成果に関する説明責任を果たさざるを得ず、そのために多くの時間を奪われて、本来の研究に費やすべき時間が大幅に失われている。国民の血税を使って研究する以上、一定の説明責任を求められるのは当然だが、実は研究の中身が先端的・革新的であればあるほど、その意義や成果を専門家以外の相手に説明することは難しく、他人任せにはできなくなってしまうため、研究者自身が自分の研究時間を削って対応せざるを得ない。
 さらに我が国の大学に所属している場合、正規雇用者は授業のため、また非正規雇用者も長期にわたって大学を離れれば非常勤講師の職すら失いかねないために、国外で継続的に研究や調査を実施できるのはせいぜい夏休みの2カ月が限度であろう。正規雇用者の場合には数年に一度、半年や一年の特別研修を認めている大学もあるものの、「科学立国」を掲げる諸外国には、より柔軟に国外での継続的な研究・調査を可能にする制度が整備されているケースもあり、それと比較すると、現在の日本の研究環境は極めて劣悪と考えざるを得ない。
 もっとも、「科学立国としてふさわしい」かどうかはまた別の問題で、自然科学はともかく、日本がそもそも人文科学や社会科学で立国できるのか、という疑問がないわけではない。人文科学や社会科学で立国するということは、たとえば国際的に高い評価を受けて、多くの留学生が学びにやってくるというイメージであろうが、外国人にとって日本語の壁は厚く、英語やフランス語で学ぶことのできる国々の大学がやはり優先されるのではないかと思われる。
Q3. コメントする
国も企業も厳しい経営環境にあり、資金的にいまよりも大きなバックアップをほとんど期待できない以上、国民個々のバックアップに頼るしかないのではあるまいか?具体的には、国が「研究奨励基金」のようなものを創設し、そこに企業や民間団体、個人が寄付した場合には、その額を免税にするといった方策が考えられる。
Q4. コメントする
 いちばん大事なことは、研究者には研究だけさせることである。言い換えれば、研究以外で現在、研究者が抱えさせられている仕事は、別途プロフェッショナルを雇用して担当してもらう、また非正規雇用の研究者が研究に専念できるよう、正規雇用を進めることが肝要と思われる。
 国の厳しい財政状況のなかで、非正規雇用の若手研究者は生活費を稼ぐことに追われ、正規雇用の研究者も研究費を獲得するための申請書作りや評価書の作成に追われて、それぞれ研究に回すべき時間を大量に奪われている。もちろん、限られた文教予算のなかで、支援すべき研究を選択するためには、研究計画や進捗状況、研究成果の評価が不可欠であるに違いないが、たとえばフランスの場合、日本よりもはるかに頻繁に研究評価を行っていながら、そのために研究者の研究時間が大幅に削られてしまうということはない。政府が各研究機関に申請書や評価書を作成するプロを配置して、研究費に関する折衝は基本的にすべて彼らが担当しているからである。
 しかるに日本の場合、厳しい財政状況・経営状況を反映して、大学や研究機関の事務職員が大幅に削減され続けてきた結果、研究資金の獲得に留まらず、以前は事務職員が担当していた仕事まで教員(研究者)が担当せざるを得なくなっている。しかしながら、これはどう見ても資源の無駄使いと考えざるを得ない。研究者はまさに研究者であるがゆえに(当人に研究をさせるために)、事務職員よりも高額の給与で雇用されているはずなのだから、そういう高額給与の人間を研究から遠ざけて、以前は事務職員が担当していた仕事をやらせるというのは、人的資源と同時に人件費の無駄遣いでしかないと考えるべきだろう(米国などでは、極めて合理的にそう考えるがために、日本のような事態は起こらない)。研究しない研究者に高額の給与を支払うのと同じく、研究している研究者から研究するための時間を奪うこともまた、人件費の無駄遣いなのである。
 他方、研究者の非正規雇用が常態となれば、将来的に研究者を目指す若者が激減して、「科学立国」など夢と消えてしまう恐れもある。研究者を目指そうという若者が自分の将来に希望を抱くには、研究で食べていけるという見通しが不可欠であり、将来と現在に不安を抱いたまま、研究に専念することはできない。
 なお、少子化が進んで、日本国内で研究しているだけでは知的刺激が弱まることも危惧されるものの、この問題は数年、外国の大学や研究機関に籍を置き、そこでの競争的環境を目の当たりにして、自分もそこに加わるようなシステムを構築できれば解決可能だろう。その意味でも、若手研究者が将来に不安を抱くことなく、国外で数年、競争的環境の刺激を受け、イノベーティブな研究やアイデアに結び付け得るような環境の整備が必要と思われる。
 最後に蛇足ながら、自分の専攻する現代中東研究・イスラーム研究の分野にひきつけて言えば、日本の研究者が現地に滞在して研究・調査できる期間が前述のように最大でも1年程度であるのに対して、たとえばフランスは国家事業として中東研究等に研究者が専念できる研究所を持っており、そこに所属する研究者は各国大使館に付設された現地研究所にほとんど無期限に滞在しながら研究・調査を続けることが可能である。こうした環境の違いが両国の中東研究やイスラーム研究の進展、また現地でのプレゼンスの度合いに大きく影響していることは疑いないが、興味深いことに、国立の研究所に所属する研究者の多くは現地での長期にわたる調査研究を終えた後は、大学に移って教育に携わるという。研究者が若いうちは、生活を保障しつつ現地に設置した研究所での研究(と自国の宣伝)に従事させ、一定の年齢になったら大学での教育に携わらせるという発想は日本にはほとんどなかったように思われるが、世界各国における日本のプレゼンスを高めるうえでも考えていいシステムかもしれない。
 
 
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5. その他(設問・選択肢以外の視点・考え方)

松田千恵子
首都大学東京教授/マトリックス株式会社代表
Q2. 「5 - その他(設問・選択肢以外の視点・考え方)」の回答理由
幾つか違和感がある点として、

① 「科学立国として」とあるが、科学立国の定義や目指すところはそもそも共有されているのか?
 科学立国をどういうものと位置づけて研究環境を論じているのか、この問いでは不明確なのではないか。

② 文系の者が言うとやっかみにとらわれかねないのでそういう意味ではないと断ったうえで、
 なぜ「芸術立国」や「文化立国」ではないのか? あるいは、科学の成果をきちんと守るような
 知的資産戦略を担う社会科学と切り離して技術偏重の科学立国を語ることはできないのではないか?

③ 研究環境だけを嘆けば幾らでも嘆けるが、そこには研究者の努力という点が無視されていないか?
米国の研究環境が良いといわれるが、それは研究者のたゆまぬ外部との連携努力、そしてそれを
マネジメントしきる能力によるもの。
山中教授の成功も、そうした能力と努力を教授自身が最大限活用したからであり、外部環境を
嘆く前に、研究者として外に開いて活路を得ようとする姿勢や、民間企業などと連携してプロジェクトを
マネジメントしていく能力が必要。そうした能力を身に付けなければ一流の研究者とは言えない
のではないか。

④  山中教授のプロジェクトメンバーの9割が非正規職員であることを挙げて環境が悪いとしているが、
 それは環境の悪さなのか? プロジェクトメンバーがその時々のベストアンドブライテストが集まる
 プロフェッショナル形式になっているとすれば、非正規であることはむしろ当たり前であり、将来的な
 知的労働の形を表しているだけではないか。一昔前の常識を以て環境の良し悪しを語れないはず。
Q3. コメントする
より中長期的な戦略視点は必要だろうが、国が行っている研究拠点の重点化や、複数年度予算化、競争的資金化、産学連携等の方向性は別に間違っていないと思われるし、それが「手立てを考えなければならない」ほど
貧困だとは思わない。むしろ、研究者個人がどのように自分の研究を外部に発信し資金を得る価値のあるものだと
認めさせるか、またそれは当然研究者個人だけではできないので、研究者を支える研究施設(大学であれば
事務局)が如何にそれをサポートするかが非常に重要であると考える。
また、研究投資に資金を付けるファンドなどはもっとあってもよいのでは。
Q4. コメントする
他流試合を増やすこと。研究施設も民間企業も自前主義で殻に閉じこもっていれば閉塞感を生むだけ。
企業も同様だが、イノベーションを生み、アイデアを生かしていくためには多様性の確保が必須であり、
組織内部でも、また外部とのアライアンス等という意味でも多様な「他」と触れ合うことがまず必要。
そういう意味では、文理融合や学際的研究をより進めていくことは効果的だと思われる。
また、そうした組織間、個人間をつなぐプロデューサー的な人間の育成を行うこと
(決してアヤシイフィクサーではなく)。
 
 
原田曜平
博報堂ブランドデザイン若者研究所リーダー
Q2. 「5 - その他(設問・選択肢以外の視点・考え方)」の回答理由
同じ研究者という立場として思うことは、成果がどうなるか分からない研究に資金
的なバックアップがつきにくいのは仕方のない側面もあると思います。
民間企業で言えば、すぐには成果につながらないかもしれないが、未来の売上につ
ながる可能性を感じさせる研究に企業は投資しているわけで、全く何も感じさせない
研究に多額の投資をすれば、その企業は潰れてしまうことにつながるかもしれません。
国も同様だと思います。
そうでないと、全部が「無駄」の研究を続けることにもつながってしまいかねませ
ん。
たまたまノーベル賞の受賞者が出たからと言って、急に闇雲に基礎研究のバック
アップ体制の必要性が説かれる風潮には多少の危惧を抱きます。

ノーベル賞が受賞されなかったら、恐らくどのメディアもこの問題を
取り上げなかったのではないでしょうか。
ですから、まずはバックアップ側のあり方の話をするよりも、そもそも研究とは基
本的にはそういうものだということを研究者側がはなから受け入れ、お金を引き出す
引き出し先を探す力、そして、そこを説得できるプレゼンテーション
能力を身につけるのが大変重要だと思います。昔から芸術と有力なパトロン探しが
表裏一体であったように、研究者もそうした前提を受け入れ、それに対応した
意識・スキルを身につけるべきだと思います。
Q3. コメントする
問2で書かせて頂いたことが原理原則ではあると思いますが、とは言え、この「失
われた20年」の間、
日本や日本企業は「必要無駄」まで削る傾向が出てきたのは事実だと思います。研
究においてもこれが成り立つと思います。
「無駄の無駄」は断固として削るべきですが、「必要無駄」はむしろ積極的に創っ
ていかなくてはなりません。
この両者の見分け方が本当に難しく、研究者のプレゼンテーション能力に依拠して
専門家によって判断されるしか方法はないと思いますが、いずれにせよ、国家も
企業も毎年の予算の中に一定の割合で
「必要無駄」枠を作り、その上限は絶対に超えないという前提で、見込みのある基
礎研究には注力していくべきだと考えます。
Q4. コメントする
生活者発想だと思います。
いろいろな日本企業を見ても、技術・研究志向が強過ぎ、どうしても技術や研究が
先行し、それを享受する生活者の気持ちが後回し・結果論にされてしまう傾向が多いように
思います。
イノベーティブという言葉もよく使われますが、社会にとってどうイノベーティブ
なのか、誰にとってどうイノベーティブなのか、という発想が、研究をはじめる前になされるべき
で、技術単独のイノベーションは、イノベーションとは呼ぶべきではないと思います。
今後、特に重要なのは、世界で大きな影響力を更に持つようになる「アジアの生活
者発想」だと思います。
アジアの人々の心理や行動を理解した上で、彼らを幸せにしたいという思想が土台
とされるべきだと思います。
 
 
中津孝司
大阪商業大学総合経営学部教授,国際問題評論家
Q2. 「5 - その他(設問・選択肢以外の視点・考え方)」の回答理由
研究者の所属機関によって研究環境が異なるので、一概に判断できない。ただ、研究者がどのような研究機関に所属しているのかはあまり研究成果に関係なく、結局は研究者個人の資質の問題だと思う。
 研究者の所属機関によって研究環境が大きく異なるので、一概に良い、悪いは判断できない。もっとも研究環境が劣悪なのは国公立の研究機関(大学を含む)だろう。年間の研究費には制限がある上に、研究費それそのものの金額が低い。給与も低く、研究費も低いとなれば、科学研究費や財団の研究費に申請せざるを得ない。理系の研究費は一般に潤沢だが、文系の研究費の場合、申請しても認められないことが多い。
 民間の研究機関(私立大学を含む)であれば、国立の研究機関よりも研究環境は格段に良い。民間シンクタンクには豊富な資料を収集できる予算があり、私立大学の場合でさえも国公立大学よりは研究環境は良好だろう。
 ただ、研究環境が良くても、研究者の研究態度が悪ければ、良き研究結果は出ない。ノーベル賞を受賞なさった諸氏の研究環境は決して良いとは言えないと思う。しかし、立派な賞を受賞なさっておられる方々は国立の研究機関に所属なさっておられる方が多いのではないか。要するに、研究の質とは研究環境や研究費とは関係なく、研究者個人の努力、才能に大きく左右される。
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 国の補助金や研究費の場合は財政上の問題もあって、増額は困難だと思う。その空白を民間が埋めていかざるを得ない。民間企業、財団などがこれまで以上に積極的に研究費を積み上げていくことが重要だと思う。その場合、民間企業、財団などはどこに、どのような才能が埋もれているかを探す努力をしなければならない。研究者からの申請を待っている現状では、なかなか才能を発掘できない。
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 画一教育を打破することに他ならない。能力別のクラス編成、能力別の教育機関編成が必要だ。伸ばせる能力を伸ばす区別化(差別ではない)した体制の構築が求められる。画一教育からは才能、天才は育たないし、逆に才能、天才をつぶしてしまう。この意味で英才教育が必要である。
 
 
沈才彬
多摩大学大学院フェロー(中国ビジネス研究所代表)
Q2. 「5 - その他(設問・選択肢以外の視点・考え方)」の回答理由
 今回のノーベル受賞者山中伸弥教授を含む、これまで自然科学分野における日本人受賞者は次の二つの共通点を持つ。
 ①受賞者のほとんどは高度成長期に学校教育を受けること
 ②ほとんどは欧米で留学する経験があること
 上記特徴から次の2点がわかる。1つは科学研究と経済成長は、実に切っても切れない関係にある。もう1つは近代科学技術の発祥地は欧米にあり、日本は科学立国するために、多くの優秀な人材を欧米先進国に留学させなければならない。
 従いまして、いわゆる環境づくりは、大切なのは2つ。1つは国内の環境づくりで、いかに経済成長をさせること。もう1つは国際環境づくりで、海外留学支援策を充実させることである。。
 
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今、日本の若者たちは内向きで、外国留学の意欲が衰えていることは心配だ。これは若者たちの責任よりは、むしろ社会システム全体の問題ととらえたほうがいい。閉塞感が漂う社会環境の中で、かつて日本人がもっていたハングリー精神、チャレンジ精神が失われ、現状に安住する雰囲気が充満している。
 いま必要なのは、日本は科学立国として、世界をリードすることではなくて、謙虚に貪欲的に世界に学ぶことだ。
 
 
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