エジプト情勢に関する『日本のテレビ報道の在り方』
チュニジアでの「ジャスミン革命」は、エジプトでもムバラク大統領への退陣要求デモを引き起こし、2月7日には大統領が新内閣を発足させるなど、事態の沈静化を図っています。しかし、更なる混乱や、他の中東諸国への反政府運動の拡散の可能性も指摘されています。また、視点を変えると、中心的なリーダーが率いるのではなく、フェースブックやツイッターで繋がった民衆による反政府運動の在り方としても注目されており、中東の大国内の反政府運動という以上の意味で、今後の動向、国際社会への影響に関心が集まっています。
※コンパスで掲載された全ての意見・回答は各氏個人の意見であり、各氏所属の団体・組織の意見・方針ではありません。
Q1:フジテレビのメディア検証番組『新・週刊フジテレビ批評』(毎週土曜日朝5時〜6時 生放送)では、従来の反政府運動とは異なる運動の在り方が注目され、国際社会に大きな影響を与えるエジプト情勢について、そのテレビ報道の在り方を考えたいと思っています。エジプト情勢に関するこれまでのテレビ報道をどう感じていますか。
Q2:問1の設問について、回答の理由など、ご意見をお聞かせ下さい。
Q3:今回のエジプト情勢には、ソーシャルメディアによる影響、従来の反政府運動との違い、アメリカの中東政策、イスラム社会の変化、それに関連するエネルギー問題など、多数の視点が存在しています。こうしたことを踏まえ、日本のメディア(テレビ以外も含め)が現在と、これからのエジプト情勢を報じる際に、最も求められる視点や要素は何であるとお考えでしょうか。
ご意見がありましたら、下記のコメント欄にご記入ください。
(問2の回答と重複する場合などは、ご記入いただかなくて結構です。)
今回の回答では、エジプト情勢についてのテレビ報道について、リアルタイムで届けられる映像のライブ感やソーシャルメディアによる影響を客観的に報じているとの肯定的な評価がある一方、およそ1:2の割合で「評価できない」との意見が多数を占めました。
その理由としてほとんどのオピニオンリーダーがあげていたのが、「多角的な視点」が欠如している、との指摘です。いつ何が起こったかという「事実報道」だけでなく、国際関係における中東の枠組み、日本への影響など、もう少し大きな見地からエジプト情勢をとらえないと、その本質が視聴者に伝わらないのでは、との厳しい意見が数多く寄せられました。
オピニオンリーダーのみなさんの回答をご覧ください。
ご意見があれば、サイトを見た方からのコメントにご投稿ください。
( 22件 )
1. 評価できる
南淵明宏
医療法人社団 冠心会 大崎病院 東京ハートセンター 心臓外科医
Q2. 「1 - 評価できる」の回答理由
普段あまり関心も知識も交流もない遠い国で異変が起こっていることについて報道していただけることについてはありがたい。報道番組の一ユーザーとしての感想だが、どうしてあのような事態に発展したのか、これから何が起ころうとしているのか、ぜんぜんわからない。ただし、一般論として、大きな社会のうねりが起こっているとして、それをはっきりと「わかりやすく」解釈を加え伝えることは元来、誰においても困難だと思う。だから「とにかく大きな動きがあるんです」という事実だけを知らせることも大いに意義はある。
Q3. (これからのエジプト報道への)意見があります
メディアもしっかりとした情報もないし、論評しようがなかったのではないか。だからわけ知りな評論家がしゃしゃり出て来る余地もなかったのだろうと想像する。ただしやはり一般論として、本当に大きく社会が動き出したとき、大きなエネルギーが働いている事実は理解できても、その根本や行き先は誰にもわからないのではないか。また時系列の変化も読めないうだろう。禅の説く、「説示一物即不中」である。カイロで活躍する同業の友人につい思いをはせるが、現地の彼はもっとわからないと思う。従って、メディアも「誰にでもわかりやすい報道」を心がける必要はなく、「あるがまま」でいいと思う。
2. まあ評価できる
Q2. 「2 - まあ評価できる」の回答理由
デモの様子など、最前線の広場近くでの生々しいレポートを映像で見せていただいているのは評価できる。ただし、YouTube、フェイスブック、twitterでも動画をミクロ単位で見ることができる時代である故、断片的な情報を統合するような情報の整理がほしいと思う。
Q3. (これからのエジプト報道への)意見があります
「短期的、長期的に日本が国としてどう対応すべきか」という視点で画一的ではなく、多面的な論理展開をしてほしいと思う。
Q2. 「2 - まあ評価できる」の回答理由
新しい動きであるソーシャル革命を客観的に報道していたと思う。
Q3. (これからのエジプト報道への)意見があります
ネットによる情報流通の根本的な変化が起こっている。このことが社会、国家、体制に与える影響をさらに深掘りしてほしい。
浜辺陽一郎
青山学院大学大学院法務研究科(法科大学院) 教授,弁護士
Q2. 「2 - まあ評価できる」の回答理由
多角的な報道がされているように感じられる。エジプトの事情、アメリカの思惑、世界的な政治情勢、日本への影響、中国への影響その他、いろいろな切り口から、さまざまな人たちからのコメントが提供されているという印象である。
Q3. (これからのエジプト報道への)意見があります
日本にとっては、日本への影響が最も知りたいところ。経済、政治、メディアの影響など、周辺諸国を通じた間接的な影響も含めて、日本人や日系企業に対して、エジプトの今後の動きがどのようなインパクトを与えるのかに注目している。ふだん、あまり馴染みがないので。
Q2. 「2 - まあ評価できる」の回答理由
現在の日本人は、種々の問題を抱えて閉塞感が強いが、一部のネット世界を除いては、なかなか自身が声を挙げて立ち上がろうとしない。まさにキング牧師の指摘する「沈黙と無関心」を守っている状態だ。今回のエジプト報道は国民が立ち上がれば、政府や国を変えることができることを、リアルタイムで紹介している。その点は評価したい。
Q3. (これからのエジプト報道への)意見があります
今回の動きの根底と今後の流れに宗教間対立の問題が潜んでいると感じ、ある種の恐れさえ感じられる。2000年以上未解決のままの問題を冷静に直視し、客観的に分析すべき時だ。グローバル化した世界で人類の平和を模索するため、今後私たちは宗教だけでない何を規範に、どう生きていくべきかを考える良いチャンス、そのような視点の番組を望みたい。
Q2. 「2 - まあ評価できる」の回答理由
なんといっても映像のインパクトは絶対。ただ、スタジオのキャスターから現場の記者への質問はほとんど必要ないように思う。せっかく現地に行って取材しているのだから、実感を伴ったもう少し長いレポートが聞きたい。
Q3. (これからのエジプト報道への)意見があります
多角的な視点で報道してほしい。フェースブックなど新しいツールの果たした役割、アメリカとイスラエルとの関係、外交的に優等生であるエジプトの内政はどうだったのか、中国はこれをどう伝えているか、今後のシナリオは、など。特にアメリカにとっては、市民による民主主義を歓迎する一方、自分たちにとって都合のいい政権が崩壊することへの不安もあるが、その両面について解説してほしい。
3. どちらとも言えない
Q2. 「3 - どちらとも言えない」の回答理由
エジプト情勢に関する各局の報道をつぶさにチェックしたわけではないので、評価は控えます。ただ、いくつかの番組を部分的に見た印象では、外国で反政府運動が起きたときのパターン化した報じ方から抜け切れていない印象は受けました。
エジプトのような独裁的な指導体制の強権国家でデモが起きると、「民主化を求める市民が勇気を振り絞って立ち上がった」という視点でニュースを眺めがちです。しかし現実には多くの場合、デモに参加している人々の動機や参加意識には温度差やギャップがあり、真に民主化を願っている人々や政治的な打算で動くグループがある一方で、まともな食べ物や仕事、自由なナイトライフを保証してくれればあとはどうでもいいと思っている市民が大半だったりします。
現地で取材を行っているメディアはそうした「わかりにくさ」を認識しているはずなので、「わかりやすさ」を求めてパターン化した解釈にとらわれがちな視聴者の捉え方をもっと意識的に変えようとする報道が望ましいと思います。
自分が見たかぎりでは、今回のエジプト情勢についてはアメリカやヨーロッパのメディアもまた、そうした直線的な報道を完全には避けられていませんでした。言い換えれば、中東やアラブ諸国に歴史的な因縁や地政学的にダイレクトな利害をもっていない日本のメディアこそ、中立的な報道ができるはずだし、報じる側と受け取る側の両方が中立的な視点を共有すべきではないかと思います。
Q3. (これからのエジプト報道への)意見があります
問2の回答にも書いたように、中東的な視点、欧米的な視点とも距離を置いた、中立的な視点が重要と思います。
中津孝司
大阪商業大学総合経営学部教授,国際問題評論家
Q2. 「3 - どちらとも言えない」の回答理由
概して、日本の報道は目先の出来事にとらわれ、物事の本質を描くことが苦手のようだ。今回のエジプト情勢についても、民衆のデモにばかり報道が偏り、なぜデモがエジプトに飛び火したのか、政権側の意図は何か、日本に与える影響はどうかといった描き方をしない場合が散見できる。また、中東地域に限定すると、アラブに同情的でユダヤには厳しい判断を下す傾向がある。報道はあくまでも中立的立場を貫くべきだろう。今回の暴動の根幹には食料価格の急騰が民衆の台所を直撃したことがある。これが反体制運動に発展した。ムバラク大統領が次期大統領選に出馬せずとの意向を表明したことで一応の決着はついている。しかし、エジプトは中東地域で戦略的に重要な位置にある。ポストムバラク政権が親米政権となるのか、それとも嫌米政権になるのか。イランなどの反米勢力が台頭すると、中東の勢力均衡がたちどころに崩れ、ワシントンの中東戦略が修正を余儀なくされる。同盟国日本にとって由々しき事態となる。同時に、スエズ運河が封鎖されれば、原油の国際価格は一時的にせよ、1バレル150ドルを一気に目指す。世界経済が再び麻痺し、これが新たな暴動を誘発する。要するに、日本の報道では戦略的視点が欠如するものが多い。
Q3. (これからのエジプト報道への)意見があります
戦略的視点に尽きる。
ソーシャルメディアの普及は広い意味での社会的インフラの整備。インフラが整備されれば、否応なく民主化が進展する。実際、産業革命で欧州の民主化が推進された。東欧革命ではベルリンの壁が倒壊したことが民主化ドミノを誘発した。しかし、今回の場合、ソーシャルメディアの普及が民主化を促している。米国の中東政策を批判することは容易いが、日欧米諸国が中東に原油を依存している現状を考慮すると、エジプトをよりどころとするのは致し方のない戦略であったと考える。ただ、ポストムバラクを描ききっていなかったことが痛手だろう。日本としては、エジプトに進出した日系企業やエジプトに在住する邦人の安全確保を所与とするならば、米国の同盟国であることを肝に銘じた戦略的視点が不可欠である。中東地域が有事となったときには日本としてどのような協力姿勢を打ち出すのか。外交的立場を鮮明に示す必要がある。これは日本がイスラム世界をどのように接するのかとも大いに関係する。上辺だけの、あるいは人道的立場といった綺麗ごとではなく、外交戦略上、日本がイスラム社会とどのように接すれば、日本の国益に合致するのかをイスラエルファクターも踏まえたうえで、吟味することが肝要だろう。今後は欧米を含む国際社会全体がエジプトに成立する新政権とどのような立場を打ち出すのかに着目する視点が不可欠と考える。外交問題と軍事問題とを切り離せないことも肝に銘じるべきだろう。
吉崎達彦
株式会社 双日総合研究所副所長主任エコノミスト
Q2. 「3 - どちらとも言えない」の回答理由
いい意味でも悪い意味でも、日本は中東に対して手を汚していない。
その点、欧米はムバラク大統領を過去30年間支援してきたという
「原罪意識」があり、報道にもさまざまな感情がこもっている。
日本の報道は、どういう態度をとったらいいかを決めかねていて、
非常にナイーブな扱い方になっているように見える。
Q3. (これからのエジプト報道への)意見があります
SNSについてはやや過大評価ではないか。識字率30%の国で、
電子媒体がそれだけ大きな役割を果たせるとは考えにくい。
むしろ食料価格の高騰の方が重要な役割を果たしていると思う。
今の報道で欠けている視点は、現在の中東和平の枠組みが1978年の
キャンプデービッド合意にあり、エジプトとイスラエルの和解が重要な役割を果たしてきたということ。その後のオスロ合意などの努力は、すべてこの大枠の下にぶら下がっている。
従って、エジプトに新政権が誕生し、それが反米、反イスラエル的になる、あるいはイスラム色を深めた場合に、中東情勢は相当な混乱が懸念される。ここが最大のポイントであるはずだが、過去の中東和平の歴史を解説するような報道はあまり多くないのが現実だと思う。
4. あまり評価できない
Q2. 「4 - あまり評価できない」の回答理由
以前からチュニジアをはじめ、それが波及したエジプトなどの不安は指摘されていた。そうした流れがあったにもかかわらず、突然あのような事態が起きたような印象を受ける報道だった。またあの地域が不安定化することは、アメリカの中東政策を根底から覆すものであり、それが原油の調達だけでなく広い意味で日本にも大きな影響を及ぼすことになるが、それについても対岸の火事であるような報道だったことが不満である。
Q3. (これからのエジプト報道への)意見があります
基本的に上記と同様であるが、日本の特にテレビメディアの国際報道の問題は、面白ネタ以外は基本的に興味と関心が薄いこと。外国の問題を日本と切り離して報道していることである。それに加えて今後のエジプト報道を考える場合に、「誰がどうなる」というような政局報道や日々の細かい動きのみを中心に報じるのではなく、中東情勢の枠組みとそれにともなう世界情勢の変化、その中での日本の対応という政策的な視点で報じるべきである。ソーシャルメディアについては、それが今回力をもったことは事実であるが、盛り上がりを見せるだけの構造的な問題がすでにあったわけで、あまりソーシャルメディアそれ自体を注目するのは誤りだと思う。
Q2. 「4 - あまり評価できない」の回答理由
ニューヨーク・タイムズ紙のベテラン中東問題記者ダナ・シュミットは私にこう言ったことがある。「中東で明日のことを予言するのは間違いのもとだ。当事者さえなにが起こるか分からないのだから」
米国のテレビをはじめ各国の報道は、明日にでもムバラク政権が崩壊するかのように報道してきたが、社会的背景がまったく違うチュニジアで起きた市民革命が、エジプトでも必然かのように毎日伝えていったのはミスリーディングだろう。
Q3. (これからのエジプト報道への)意見があります
間違えると、アラブ最大の国が「第二のイラン」になりかねない危機をはらんでいるのに、米国のオバマ大統領が「人権」を旗印にムバラク大統領に退陣を迫っているのは、イランで失敗したカーター大統領の二の舞を踏むのではないかと懸念されること。
Q2. 「4 - あまり評価できない」の回答理由
現在のエジプト情勢は、①エジプト内政、②アラブ・イスラエル関係、③グローバル戦略レベルのパワーシフトという3つの側面から同時かつ複合的に捉える必要がありますが、欧米の報道と比べると、日本の報道は②と③の視点が希薄です。
勿論、日本のメディアが日本国内の視聴者の視点・関心を念頭に置くことは当然ですが、もう少し地政学的見地からエジプト内政を捉えないと、日本の視聴者にも今回のエジプト騒乱の本質が伝わらないのではないかと思います。
Q3. (これからのエジプト報道への)意見があります
問1の答と同じです。
Q2. 「4 - あまり評価できない」の回答理由
☆ニュースの優先順位
エジプト情勢だけでなく、日本のメディアは国際社会に大きな影響を与える海外ニュースでも、他のニュースよりも優先順位を低くく報道しているように思われます。チュニジア政変以降、モーリタニア、アルジェリア、スーダン、サウジアラビア、ヨルダン、イエメンなどの各国で反政府デモや抗議デモが広がっています。「インターネット大衆革命」現象が、中東・アラブのパワーバランスを大きく変えようとしていて、エジプト情勢によってはさらに拡大しそうです。こうした世界情勢を左右するニュースが、スポーツや芸能より少ない時間しか与えられないということは、大変悲しく残念なことです。メディア自身によるニュースバリュー、報道順位の検証・評価が必要だと思います。
Q3. (これからのエジプト報道への)回答を控える
伊東乾
作曲家・指揮者 ベルリン・ラオムムジーク・コレギウム芸術監督
Q2. 「4 - あまり評価できない」の回答理由
今回のエジプト情勢に関する日本のテレビ報道は、多々改善の余地があると思う。そこで「あまり評価できない」を回答とした。これについて、限られた範囲ながら番組(「新・題名のない音楽会」テレビ朝日系列)を作ってきた経験も踏まえ、建設的な可能性を考えてみたい。
放送は何より視聴者あってのものだ。そこで視聴者の事を考えよう。まず、人数的には少ないながら、もとから中東情勢に関心の高い視聴者は、すでにインターネットなどで日本のテレビより先に情報を得ており、アル・ジャジーラや欧米の番組を通して密度の濃い報道に接しており、日本国内のテレビ放送は極めて物足りなく見えてしまう。
つぎに、多数を占める中東情勢に関心の薄い視聴者には、何月何日、どこで何がありましたといった「事実報道」の羅列になりやすい日本の放送を通じて、エジプト情勢の本当に大切な部分は殆ど理解されずに終わってしまう。いずれにしても、番組制作に改善の余地は間違いなく存在すると思う。
以前「サキヨミ!LIVE」でご一緒したとき、池上彰さんから、この後者の「ニュースを聞いてもちっともピンと来ない」のが大半だった子供たちを相手に「こどもニュース」を長年続けて「そうだったのか!」と判りやすい、ニュースの表面から背景にさかのぼった解説を工夫するようになった、と伺った事がある。
例えばアメリカのメディアであれば、カーター大統領時代のキャンプ・デイヴィッド会談で中東和平とイスラエルの承認を実現した相手であるエジプトで、サダト大統領暗殺以来30年続いたムバラク政権の危機について、2歩も3歩も踏み込んだ解説がなされる。より我が国に近い例を挙げるなら、中国国内ではインターネットで「エジプト、デモ」といったキーワードの情報にアクセスする事が出来ないという。ここから中国政府がエジプト情勢に神経を尖らせている事が判るのみならず、チュニジアや中東のみならず東アジア圏においても地域を越えて時代の問題が動いているのがよく判る所だろう。こうした観点は、単に論評するのみならず、私自身各種メディアでの発信を心がけているものである(例えば昨日の日本ビジネスプレス連載 http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/5418)。
個別のどの番組の何、といった指摘はここでは避けるけれど、各種ネットワークメディアがこれだけ発展している今日、テレビというメディアの中心であるべき存在が、もし「対岸の火事」風の紹介に邦人の安否のみついた「浅い報道」に留まるならば、むしろ役割自体を問われることになるのではないか?
Q3. (これからのエジプト報道への)意見があります
「エジプト情勢を論じる際に」という限定以前に、まず時代の中でのテレビというメディアの立ち居地を確認したい。
(地上波の)「テレビ」は何と言っても国民的メディアとして日本国に完全に普及している、間口の広さが圧倒的なメリットになっている筈だ。だがそれが、前項で指摘したような「浅い報道」として、テレビの世界だけで自己完結してしまうならば、「ソーシャルネット革命」といった活字が躍り、メディアの複層化が急速に進む時代の中で、テレビの未来は閉ざされてしまうだろう。今年夏に完全移行が予定されている地上デジタル放送化は、テレビとネットワークの間の垣根を飛躍的に低くする一つの機会になりうるものと考える。テレビは他メディアと排他的にでなく、もっと連携して情報伝達機能を深めて行くべきと思う。他ならずこの「COMPASS」自身がそうした果敢な取り組みの一つと思って参加している。
かつてアメリカで民間放送は「ダイニングキッチンに進出したネオンサイン」お茶の間の電気広告塔として大きく発展した歴史がある。2011年の今日、時代は変わりメディアは多様化したけれど、依然としてテレビの占める国民的メディアとしての圧倒性、中心的位置は変わっていない。
「エジプト情勢を論じる際」に日本のテレビは、決して「対岸の火事」への無関心な放送とならぬよう留意する必要がある。前項にも記した通り、これは私たち現代の日本人と、時代とメディア、国際的なパワーバランスなど、様々なグローバル背景を共にして起きている事態で、経済面にも影響が出始めているし、仮に類似の現象が東アジアに飛び火する可能性もゼロとは言えない。
テレビは以前以上にメディア横断的に、この問題を取り扱うべきだろう。報道に興味を持った視聴者が、他メディアの情報にも積極的にアクセスするための「見出しメディア」としてテレビに機能してもらいたい。また多極分散化した情報ユーザが、再び戻ってきて情報共有できる「共通の広場」として、地デジ時代の新しいテレビのあり方を模索してゆく必要がある。アル・ジャジーラやネットメディアが明らかに先行してしまう今回のエジプト情勢へのテレビの取り組みは、こうしたチャレンジへの大きな試金石になっている。
Q2. 「4 - あまり評価できない」の回答理由
一般的に、日本では海外のことについて、観光・文化面での報道や紹介が主であり、通常時からの政治・経済に関する報道が極めて少ない。世界が注目するような大事件になってからようやく報道するだけで、世界の一員として足りるのか?世界的には大問題なのに日本では報道されないことも多い。日本のメディアはもっと世界的な視点を持って考えて欲しい。
Q3. (これからのエジプト報道への)回答を控える
5. 評価できない
宋文州
ソフトブレーンマネージメント・アドバイザー
Q2. 「5 - 評価できない」の回答理由
今後の世界に多大な影響を与える情勢にも関わらず、テレビ報道は現場取材と独自分析がきわめて貧弱。量と質がともに低レベル。
Q3. (これからのエジプト報道への)意見があります
民主主義も多様化する時代だ。イスラエルは民主主義だが、最もエジプトの民主主義を恐れている。ソーシャルメディアのお陰で民衆の真の声をしやすくなり、特定の利益団体と政治勢力がメディアを誘導する力が弱まるだろう。アメリカ(イスラエル)のメディアを通じて中東を見る日本メディアはもっとイスラム世界に視点をシフトすべきだ。
藤巻健史
株式会社 フジマキ・ジャパン代表取締役社長
Q2. 「5 - 評価できない」の回答理由
フジに限らずNHKまでも、ニュース番組で「相撲の八百長事件」を連日、トップニュースに据えていたのは腑に落ちない。エジプト情勢は日本の国益に非常に影響を与える事件なのに、なにか他人事の取扱いであった。これでは、ますます日本人が平和ボケになってしまう。
また、「独裁政治」か「民主化か?」という極めて単純な方程式で解説している番組もあった。アラブ諸国においては現在、「独裁政治」国家と「イスラム原理主義」国家しかなく「独裁政治」が倒されると自動的に「民主政治」が達成されるわけではない。「イスラム原理主義」国家になってしまう可能性がある。欧米諸国が悩んでいるのは、その点にあり、「独裁を許す米国はじめ欧米はけしからん」的な番組構成はやめるべきである。
Q3. (これからのエジプト報道への)意見があります
日本にどういう影響があるかを報道するべきである。
アラブ諸国においては現在、「独裁政治」国家と「イスラム原理主義」国家しかなく「独裁政治」が倒されると自動的に「民主政治」が達成されるわけではない。「イスラム原理主義」国家になってしまう可能性がある。
もし、連鎖的にどんどん「イスラム原理主義」国家が出現すれば石油の値段上昇は不可避であろうし、北朝鮮が武器輸出を通じてアラブ諸国と結びつきを深めるかもしれない。
そのような観点(他人事でじゃない、という点)を重点的に報道すべきである。
Q2. 「5 - 評価できない」の回答理由
イスラムには国境概念がなく、新世代の民主化運動と価値観に対し、湾岸・中東各国をどうみるか?
(イ)湾岸中東地域の指導者はロシアの脅威に対し、嫌いな米国の
利用、信用のない中国に対し、日本は信頼できる友好国
(ロ)湾岸中東への石油依存度はEU27ヶ国で年間8兆円に対し、
日本は30兆円
(ハ)湾岸中東諸国は、民主主義国家ではない、なぜならば納税の
義務がない。そして、指導者の違いは、王族か、軍人か、
宗教家の違いのみで、富の分配。所謂、不労所得の国家群。
以上の3点から民主化運動に対し、湾岸・中東各国の指導者が富の分配推進の見直しができるかどうかを考察すべきと考える。
Q3. (これからのエジプト報道への)意見があります
1924年エジプトで誕生したムスリム同胞団の大衆団体運動が、パレスチナ・ガザ難民(ハマスもムスリム同胞団のパレスチナ支部)の状況変化と、今までのムバラク大統領によるイスラエルへの関係のバランスがどうなるか注視した報道も期待したい。
Q2. 「5 - 評価できない」の回答理由
イスラム圏で独裁者が倒れ民主化が成功するとすれば、それは
イギリスの名誉革命、アメリカの独立革命などと同じくらい重
大な歴史的大事件である。
そのような歴史的瞬間(がエジプトというアラブの盟主国で起
こるかもしれない可能性)をとらえるための十分な取材報道体を、
日本のメディアがとっていないことは明らかで、不十分である。
アメリカでは、すべてのネットワークが、局のメインのアンカー
たちを現地に派遣し報道する体制をいち早くとった。
かれらは、時には大統領支持派たちに囲まれ妨害されていたが、
そういうことをリアルに伝えることで、エジプト民衆が長年耐
えてきた言論の弾圧や政治的自由の欠如を実感できる報道とな
るのである。
日本のメディアが「危険だから派遣しない」というのでは、
話にならない。各ジャーナリストたちは、自分たちこそ、
世界を平和にする主体であり、世界を安全にするエイジェ
ントである、という自覚がなければならない。
たとえば小向なんとかいうどうでもよい元アイドルの取材の
ためのフィリピンへは安全だから取材陣を送り込み、安全が
確保されないエジプトへは本社からメインキャスター級を送
らない、というようなことがあれば、日本のジャーナリズム
は、いつまでたっても、歴史的転換点に立ち会えないという
汚点を続けていかざるをえない。
Q3. (これからのエジプト報道への)意見があります
エジプトで蜂起している人々が多様であること。
ムスリム同胞団のこれまでの活動。
もしエジプトが原理主義に転じてしまった時の、さまざまなシナリオの検討(ガザ、イスラエルとの和平、イランとの連携)など。
ソーシャルネットワークによって民主化革命が起こってしまったことに、中国がどう反応し、それが日本にどのような影響を及ぼすか。
世界が、イスラム原理主義を背景にしたテロを安全保障上の脅威と見なす国々(アメリカ、イギリス、ヨーロッパ、そしてロシア)と、そうでない国々(日本、中国など)とに、分極化されつつあるという現状。そして、それが今後の世界政治に与える影響。
6. そのほか(設問・選択肢以外の考え方、視点)
中山俊宏
青山学院大学国際政治経済学部国際政治学科教授
Q2. 「6 - そのほか(設問・選択肢以外の考え方、視点)」の回答理由
今回はもっぱらアルジャジーラの英語版をネットで見ていたので、日本のメディアについて評価することができない。一般論としていえば、テレビ報道の醍醐味が臨場感(その場にいるという擬似的感覚)だとすると、今回はツイッターやネット上の情報に接している方が、はるかに臨場感があり、リアルだった。
Q3. (これからのエジプト報道への)意見があります
現地情勢も重要だが、コンテキストをわかりやすく伝えることがより肝要。そもそも日本がムバラク政権との関係においてどのような姿勢をとってきたのか、それがいかなる国益・価値にもとづいて選択された政策だったのかについての検証がほとんど行われていないような印象を受ける。日本にひきつけて論じることが必要では。
Q2. 「6 - そのほか(設問・選択肢以外の考え方、視点)」の回答理由
TwitterなどのIT手段が事態の伝播速度を早めたのだろうが、それはそれとして、今回の民衆の動きの根底にあるエジプトの経済社会の変遷こそ深堀りされるべき。エジプト大統領の長期独裁がいかにも悪の根源の如くこれみよがしに叩くのは、非常に違和感を覚える。エジプトといえば世界的観光地でもあり、それは治安の良さのなせる業であったはず。多くの日本人も、かの地を訪れてきた。すなわち、ムバラク長期政権には失点もあっただろうが、得点も相当あったはず。それでもなお今回の事態に至った遠因がどこにあるかについて、冷静に分析しながら報道していただきたい。我が国も、ひょっとすると他人事ではなくなるかもしれない。
Q3. (これからのエジプト報道への)回答を控える
権力者が倒されることに快感を覚えるようなものではなく、冷静さと客観性を持ちながら、権力が瓦解した経緯と背景を報じるべき。そして、権力者は何をしてきて、かつ、何をしてこなかったのか、についても論じる環境を醸成してもらいたい。
Q2. 「6 - そのほか(設問・選択肢以外の考え方、視点)」の回答理由
これは、特定のリーダー、アジテーター、戦略本部のない新しい形の社会・政治改革なので、映像では伝えきれないのかなと思います。
Q3. (これからのエジプト報道への)意見があります
『絵になる』現象の背後にある人口増、若者の失業、食料価格の上昇など、丁寧に解説する新しい手法を開発する必要がある。
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