君が想い出になる前に
#8 哀しみの結末
和也(玉山鉄二)はちひろ(加藤あい)の病室で一夜を明かした。「ずっとついててくれたんですか」「ごめんな、俺のために」。検査の結果、数日で退院できるらしい。ちひろはホッとしたように目を閉じた。仕事を終えた奈緒(観月ありさ)は和也にこれから会いたいと連絡を入れた。明日両家の親たちが会うから、そのことも相談したかった。「ごめん。これから会議なんだ」「わかった」。だから奈緒はちひろを見舞うことにした。けれど奈緒は病室に入ろうとして思わず固まった。和也とちひろの親密そうなやりとりが聞こえてきたのだ。「スタイリストを続けてほしい。俺ができることなら何でもする」。そして立ちすくむ奈緒の姿にちひろが気づいた。
「会議が早く終わったんだ」「気にしてないから」。帰りは和也がクルマで送ってくれたが、車内の空気は重苦しかった。「じゃあ明日迎えに来るから」。奈緒が帰宅すると正治郎(小野武彦)が来ていた。光彦(椎名桔平)、祐輔(広田亮平)と食卓を囲んだ。「美穂の分も幸せになってくれ」。翌日ホテルのレストランで開かれた両家の顔合わせはなごやかな雰囲気で進んだ。正治郎は和也の父親、洋一(坂口進也)と意気投合してくれ、奈緒と和也は安心した。これで結婚に何の障害もない。あとは式場と日時を決めるだけだ。
その夜2人は親たちと別れると、思い出のレストランを訪ねた。昨年奈緒の誕生日を祝った店だ。「あれから1年なんて嘘みたいね」。和也は昨日ついた嘘をわびた。「わかってた」。奈緒も和也に黙って光彦と祐輔と海に行ったことをわびた。それがきっかけになった。もうこれ以上、奈緒は自分の気持ちを偽り続けることはできなかった。「私たち、このまま進めていいのかな。どっちも無理してる」。ぼう然とする和也にかまわず奈緒の告白は続いた。「和也はちひろちゃんのことが好きなんだよ。私ももう和也を以前のように見られない」「俺はまだ結論なんか出せない。勝手に決めるなよ」。和也はそれだけ言うのがやっとだった。
帰宅した奈緒が婚約解消を打ち明けると、正治郎は当然のごとく怒った。「理由は何だ。どんな非常識なこと言ってるか、自分でわかってるのか!」「ごめんなさい」。奈緒はひたすら謝ることしかできなかった。そして原因が自分にあることを察した光彦は、翌日和也に会った。「もう一度やり直してもらえませんか」。光彦の懇願に和也は内心の動揺を押し殺して聞き返した。「お兄さん、奈緒のことが好きなんじゃないんですか」。光彦は言下に否定できなかった。「これは俺たち2人の問題です。勝手な詮索はしないでください」。どちらにも苦い思いだけが残った。
和也は仕事を終えて病院に向かった。ところがちひろの姿は病室から消えていた。ちひろは看護師に手紙を託していた。スタイリストを辞めて田舎に帰るという。和也はちひろのマンションに向かった。「奈緒さんと幸せになってください」。ちひろはドア越しにそう繰り返すばかりだった。
和也は深夜の公園に奈緒を呼び出した。「奈緒の言うとおりだ。俺たち、もう終わってた。別れよう」。自分から切り出したとはいえ、奈緒はショックにうちのめされた。しかしもう引き返せない。「今のちひろちゃんには和也が必要だよ。3年間すごく楽しかった」「俺も」。2人は黙って見つめあった。「さよなら」。和也は奈緒に背を向けた。奈緒は帰宅すると光彦に伝えた。「お兄さんにまで心配かけてすいません」。そして寝室に下がると泣きくずれた。
事務所ではちひろの話題でもちきりだった。母親がちひろの荷物を引き取りにきた。同僚への挨拶もなく、ちひろは退職していった。「ひょっとして失恋でもしたのかな」。事情を知らない優子(中山 恵)たちの憶測を奈緒はとがめる気にもなれなかった。「ただいま」。奈緒が元気なく帰宅すると、真っ暗だった室内がいきなり明るくなった。「ハッピーバースデー」。自分の誕生日であることを忘れていた。折り紙の飾りつけと、テーブルには料理とケーキ。光彦と祐輔が心尽くしのバースデーパーティーを用意してくれたのだ。「ありがとう」。
光彦、祐輔と過ごす時間の中で奈緒は少しずつ元気をとり戻してきた。「私はやっぱり奈緒さんの笑顔が好きです」。光彦のさりげない一言に奈緒はドキリとした。公園でのキャッチボールを終えて帰宅すると、ドアの前に見慣れぬ男が立っていた──。
「会議が早く終わったんだ」「気にしてないから」。帰りは和也がクルマで送ってくれたが、車内の空気は重苦しかった。「じゃあ明日迎えに来るから」。奈緒が帰宅すると正治郎(小野武彦)が来ていた。光彦(椎名桔平)、祐輔(広田亮平)と食卓を囲んだ。「美穂の分も幸せになってくれ」。翌日ホテルのレストランで開かれた両家の顔合わせはなごやかな雰囲気で進んだ。正治郎は和也の父親、洋一(坂口進也)と意気投合してくれ、奈緒と和也は安心した。これで結婚に何の障害もない。あとは式場と日時を決めるだけだ。
その夜2人は親たちと別れると、思い出のレストランを訪ねた。昨年奈緒の誕生日を祝った店だ。「あれから1年なんて嘘みたいね」。和也は昨日ついた嘘をわびた。「わかってた」。奈緒も和也に黙って光彦と祐輔と海に行ったことをわびた。それがきっかけになった。もうこれ以上、奈緒は自分の気持ちを偽り続けることはできなかった。「私たち、このまま進めていいのかな。どっちも無理してる」。ぼう然とする和也にかまわず奈緒の告白は続いた。「和也はちひろちゃんのことが好きなんだよ。私ももう和也を以前のように見られない」「俺はまだ結論なんか出せない。勝手に決めるなよ」。和也はそれだけ言うのがやっとだった。
帰宅した奈緒が婚約解消を打ち明けると、正治郎は当然のごとく怒った。「理由は何だ。どんな非常識なこと言ってるか、自分でわかってるのか!」「ごめんなさい」。奈緒はひたすら謝ることしかできなかった。そして原因が自分にあることを察した光彦は、翌日和也に会った。「もう一度やり直してもらえませんか」。光彦の懇願に和也は内心の動揺を押し殺して聞き返した。「お兄さん、奈緒のことが好きなんじゃないんですか」。光彦は言下に否定できなかった。「これは俺たち2人の問題です。勝手な詮索はしないでください」。どちらにも苦い思いだけが残った。
和也は仕事を終えて病院に向かった。ところがちひろの姿は病室から消えていた。ちひろは看護師に手紙を託していた。スタイリストを辞めて田舎に帰るという。和也はちひろのマンションに向かった。「奈緒さんと幸せになってください」。ちひろはドア越しにそう繰り返すばかりだった。
和也は深夜の公園に奈緒を呼び出した。「奈緒の言うとおりだ。俺たち、もう終わってた。別れよう」。自分から切り出したとはいえ、奈緒はショックにうちのめされた。しかしもう引き返せない。「今のちひろちゃんには和也が必要だよ。3年間すごく楽しかった」「俺も」。2人は黙って見つめあった。「さよなら」。和也は奈緒に背を向けた。奈緒は帰宅すると光彦に伝えた。「お兄さんにまで心配かけてすいません」。そして寝室に下がると泣きくずれた。
事務所ではちひろの話題でもちきりだった。母親がちひろの荷物を引き取りにきた。同僚への挨拶もなく、ちひろは退職していった。「ひょっとして失恋でもしたのかな」。事情を知らない優子(中山 恵)たちの憶測を奈緒はとがめる気にもなれなかった。「ただいま」。奈緒が元気なく帰宅すると、真っ暗だった室内がいきなり明るくなった。「ハッピーバースデー」。自分の誕生日であることを忘れていた。折り紙の飾りつけと、テーブルには料理とケーキ。光彦と祐輔が心尽くしのバースデーパーティーを用意してくれたのだ。「ありがとう」。
光彦、祐輔と過ごす時間の中で奈緒は少しずつ元気をとり戻してきた。「私はやっぱり奈緒さんの笑顔が好きです」。光彦のさりげない一言に奈緒はドキリとした。公園でのキャッチボールを終えて帰宅すると、ドアの前に見慣れぬ男が立っていた──。