緋の十字架
昭和十七年、夏。幼いころに母を亡くし、父・大河内将造のもとに引き取られた直哉は二十五歳。大河内製鉄の次男として家業を手伝うかたわら、敬虔なキリスト教徒として教会に通っていた。将造の本妻・美也子は妾の子である直哉に冷淡で、長男・将一も異母弟の直哉にライバル意識を燃やす。ある日、パーティに出席させられた直哉は、軍人・隆彦から妹の清香を紹介される。将造は直哉と清香を政略結婚させようと企むが、直哉は結婚を頑なに拒む。実は、直哉には忘れられない幼馴染み・ゆきえがいた。高校生の時、ゆきえは突然、直哉の前から姿を消してしまった。そのゆきえが直哉の前に……。