大奥 第一章
#1 負け犬からの脱却
寛永16年(1639)、徳川幕府開府より40年。時は将軍家光(西島秀俊)の天下であった。江戸城大奥では、正室孝子(木村多江)が待つが、その後ろには、さらに威光に包まれた春日局(松下由樹)が控えていた。「男子禁制」を始めとする大奥法度を定め、1000人とも言われる大奥の女たちを統括する最高権力者である。
そんな中、若い女中のお玉(星野真里)は、お中臈の朝比奈(梶芽衣子)に春日局の生い立ちを尋ねた。朝比奈は静かに諭すようにお玉に語った。「あのお方の権勢のまばゆさの裏には、並ならぬ不幸と苦難があるのじゃ……」。
そこから約35年前、美濃は稲葉正成(神保悟志)の家。正成は、関ヶ原の戦いで知将として知られる武士であったが、不遇を得て荒れた生活を送っていた。その妻がおふく、後の春日局である。夫婦には千熊、七之丞、まだ乳飲み子である常磐丸の三人の男児がいた。だが、正成は村の女を妾として家に連れ込んだり、客人を連れ帰ったりと、おふくを困らせる。おふくが辛抱強かったのは、父・斎藤利三が本能寺の変で織田信長を討った明智光秀の重臣であったことで、逆賊の娘と烙印を押され、石持て追われる生活を体験した辛い過去の記憶があるせいであった。
ある晩も、正成が武将を連れて帰って来て、妾を呼びこみ派手に騒いでいた。だが、夜が更けると武将たちは夜盗に変身。家人を縛り上げ金品を要求する。子供部屋に押し入ろうとした武将の前に立ちはだかったおふくのことを武将が犯そうとする。その時、おふくは魔物に取りつかれたように無我夢中で自分を襲う夜盗を刺してしまうのだった。
正成は、「自分の評判に関わる」とおふくに離縁を申し付ける。おふくは唇を噛みしめ一言の言い訳もなく、荷物をまとめ三人の幼い子供たちを置いて家を出た。子供たちが追いかけてくるが、おふくは強い言葉で二人を追い返す。涙をこらえながら歯を食いしばって歩いていくおふく。それから苦難の旅路が始まるのだった。
おふくは、母と逃亡生活を送っていた幼少の頃、匿ってくれた公家の京都・三条西家に一旦は身を寄せるがその待遇は冷たいものであった。おふくは、決して負け犬のまま終わらないと、置いてきた我が子たちに誓う。
まさにこの頃、江戸城では、二代将軍秀忠(渡辺いっけい)の正室・お江与(高島礼子)が懐妊していた。秀忠との間にはすでに三人の娘がいたが、世継ぎの男児誕生を待ち望んでいた。
街道筋で、「将軍家の乳母求む」という高札を見つけたおふくは、藁にも縋る思いで京都所司代と将軍側室・阿茶局の面接を受ける。阿茶局は、おふくを一目見て、前半生の苦労と仕事にかける意気込みを見て取った。「人は捨てたものが大きいほど生きる力は大きくなる。離縁は人選に関係ない」という阿茶局の言葉に、おふくは心打たれる。
見事乳母に内定したおふくは、阿茶局に連れられて家康(藤田まこと)に目通しされることになった。家康は、お江与とおふくの「仇関係」などは戦乱の世の習いと切り捨て激励する。
その後、江戸城大奥へ参上したおふくは秀忠と臨月のお江与と面会する。お江与はこれまで産んだ三人の娘は、政治的な理由で生まれてすぐさま養女に出され、自分で育てることができなかったことを悲しんでおり、乳母の存在が気に入らない。冷たく権高におふくを見据える。
そして、いよいよお江与の出産の時がやって来る。
そんな中、若い女中のお玉(星野真里)は、お中臈の朝比奈(梶芽衣子)に春日局の生い立ちを尋ねた。朝比奈は静かに諭すようにお玉に語った。「あのお方の権勢のまばゆさの裏には、並ならぬ不幸と苦難があるのじゃ……」。
そこから約35年前、美濃は稲葉正成(神保悟志)の家。正成は、関ヶ原の戦いで知将として知られる武士であったが、不遇を得て荒れた生活を送っていた。その妻がおふく、後の春日局である。夫婦には千熊、七之丞、まだ乳飲み子である常磐丸の三人の男児がいた。だが、正成は村の女を妾として家に連れ込んだり、客人を連れ帰ったりと、おふくを困らせる。おふくが辛抱強かったのは、父・斎藤利三が本能寺の変で織田信長を討った明智光秀の重臣であったことで、逆賊の娘と烙印を押され、石持て追われる生活を体験した辛い過去の記憶があるせいであった。
ある晩も、正成が武将を連れて帰って来て、妾を呼びこみ派手に騒いでいた。だが、夜が更けると武将たちは夜盗に変身。家人を縛り上げ金品を要求する。子供部屋に押し入ろうとした武将の前に立ちはだかったおふくのことを武将が犯そうとする。その時、おふくは魔物に取りつかれたように無我夢中で自分を襲う夜盗を刺してしまうのだった。
正成は、「自分の評判に関わる」とおふくに離縁を申し付ける。おふくは唇を噛みしめ一言の言い訳もなく、荷物をまとめ三人の幼い子供たちを置いて家を出た。子供たちが追いかけてくるが、おふくは強い言葉で二人を追い返す。涙をこらえながら歯を食いしばって歩いていくおふく。それから苦難の旅路が始まるのだった。
おふくは、母と逃亡生活を送っていた幼少の頃、匿ってくれた公家の京都・三条西家に一旦は身を寄せるがその待遇は冷たいものであった。おふくは、決して負け犬のまま終わらないと、置いてきた我が子たちに誓う。
まさにこの頃、江戸城では、二代将軍秀忠(渡辺いっけい)の正室・お江与(高島礼子)が懐妊していた。秀忠との間にはすでに三人の娘がいたが、世継ぎの男児誕生を待ち望んでいた。
街道筋で、「将軍家の乳母求む」という高札を見つけたおふくは、藁にも縋る思いで京都所司代と将軍側室・阿茶局の面接を受ける。阿茶局は、おふくを一目見て、前半生の苦労と仕事にかける意気込みを見て取った。「人は捨てたものが大きいほど生きる力は大きくなる。離縁は人選に関係ない」という阿茶局の言葉に、おふくは心打たれる。
見事乳母に内定したおふくは、阿茶局に連れられて家康(藤田まこと)に目通しされることになった。家康は、お江与とおふくの「仇関係」などは戦乱の世の習いと切り捨て激励する。
その後、江戸城大奥へ参上したおふくは秀忠と臨月のお江与と面会する。お江与はこれまで産んだ三人の娘は、政治的な理由で生まれてすぐさま養女に出され、自分で育てることができなかったことを悲しんでおり、乳母の存在が気に入らない。冷たく権高におふくを見据える。
そして、いよいよお江与の出産の時がやって来る。