みんな昔は子供だった
#2 ないてもいいよ
山村留学第1日目の朝は晴れあがった。「おはようございまーす」。田所(筧利夫)は柾(瑛太)とまず宿泊センターの男子部屋を開けた。風太(高木優希)、新(熊谷知博)、ワタル(糟谷健二)は眠そうにしながらも起き出した。女子部屋のモモ(伊藤沙莉)と詩音(野村涼乃)はすでに着替えを済ませていた。矢吹(陣内孝則)が気合をいれて作ってくれた朝食がテーブルに並んだ。アイ子(国仲涼子)は龍平(深澤嵐)と顔を見合わせて「すごいね」と驚いた。みんな初めての山村留学生を迎えて張り切っているのだ。保護者に付き添われた朝食が終わるとアイ子は元気よく玄関に飛び出した。子供たちを引率して森の水小学校まで歩いて行くのだ。アイ子は「今日から3ケ月、楽しくやりましょう!」と満面の笑顔で振り返ったが、龍平は彼女がぎゅっとこぶしを握っているのを見てしまった。
アイ子は模擬授業でかりんジュースの作り方を教えることにした。いきなり風太の母親が「来年受験があるのに」と不満の声を上げた。夫がたしなめたが、風太の母親は「失敗したら先生が責任取ってくださるんですか」と引き下がらない。風太はいたたまれず顔を上げない。けれどアイ子はき然として見つめ返すと「大丈夫ですから」と笑顔で答えた。
その頃、龍平の家では矢吹と田所が不機嫌そうな女を前にして頭を抱えていた。宿泊センターの持ち主・ハタ爺の孫娘、旗ゆかり(白石美帆)はこの村出身で、今は仙台の大学で天文学を勉強している。それが天体観測の研究のために突然戻ってきたのだが、宿泊センターになっているあの家を使うと言い出したのだ。田所は「何とかするから」ととりあえずその場を取り繕った。
職員室では佐上校長(大杉漣)が保護者たちと向かい合っていた。ワタルの母親やモモの母親も勉強の遅れに対する不安を漏らした。駆けつけた田所が必死に勉強の充実を訴えたが、保護者たちは納得いかない。ようやく黙って聞いていた佐上校長が口を開いた。「自分のお子さんの力を信じてください。この村には彼らの力を伸ばす何かがあります」。その信念に満ちた強い口調にやっと保護者たちは引き下がった。
アイ子は一言もしゃべらない詩音の様子が気になっていた。ふと思いつくと子供たちを校庭に連れ出して糸電話を手渡した。「みんな恥ずかしがらずに話してみてください」。風太とモモ、新とワタルはそれぞれ片言ながらしゃべりはじめたが、詩音だけはペアを組んだ龍平がいくら「聴こえてる?」と繰り返してもうつむいたまま。アイ子は龍平と交代すると微笑みながら語りかけた。「詩音ちゃんの声を聞かせてください」。すると鳴くような小声ながら「もしもし」と答えてくれた。詩音の肉声が聞きたくて「もっと大きな声で」と叫んだ。ほんの少しだが詩音はアイ子に心を開いてくれたようだ。
ふてくされたように見えた他の子供たちもいざ親との別れが迫ると、心細そうな表情をのぞかせた。送迎バスに親たちが乗りこむと一番年上の風太は涙ぐんだ。風太の母から「先生に預けたこと、後悔させないでください」と頭を下げられたアイ子は「はい」とうなずいた。子供たちと保護者の気持ちすべてを笑顔でしっかりと受け止めた。
「自分の名前を書いてください」アイ子は子供たちに名前シールを配ると下駄箱に貼らせた。これまで2人きりだったのが急ににぎやかになって龍平はうれしかった。龍平は宿泊センターでみんなとの夕食を終えて自宅に戻った。しばらくするとワタルから電話がかかってきた。「どうしたの? もしもし?」。ワタルの返事がない。異変を感じた龍平は父親と共に宿泊センターへ向かった──。
アイ子は模擬授業でかりんジュースの作り方を教えることにした。いきなり風太の母親が「来年受験があるのに」と不満の声を上げた。夫がたしなめたが、風太の母親は「失敗したら先生が責任取ってくださるんですか」と引き下がらない。風太はいたたまれず顔を上げない。けれどアイ子はき然として見つめ返すと「大丈夫ですから」と笑顔で答えた。
その頃、龍平の家では矢吹と田所が不機嫌そうな女を前にして頭を抱えていた。宿泊センターの持ち主・ハタ爺の孫娘、旗ゆかり(白石美帆)はこの村出身で、今は仙台の大学で天文学を勉強している。それが天体観測の研究のために突然戻ってきたのだが、宿泊センターになっているあの家を使うと言い出したのだ。田所は「何とかするから」ととりあえずその場を取り繕った。
職員室では佐上校長(大杉漣)が保護者たちと向かい合っていた。ワタルの母親やモモの母親も勉強の遅れに対する不安を漏らした。駆けつけた田所が必死に勉強の充実を訴えたが、保護者たちは納得いかない。ようやく黙って聞いていた佐上校長が口を開いた。「自分のお子さんの力を信じてください。この村には彼らの力を伸ばす何かがあります」。その信念に満ちた強い口調にやっと保護者たちは引き下がった。
アイ子は一言もしゃべらない詩音の様子が気になっていた。ふと思いつくと子供たちを校庭に連れ出して糸電話を手渡した。「みんな恥ずかしがらずに話してみてください」。風太とモモ、新とワタルはそれぞれ片言ながらしゃべりはじめたが、詩音だけはペアを組んだ龍平がいくら「聴こえてる?」と繰り返してもうつむいたまま。アイ子は龍平と交代すると微笑みながら語りかけた。「詩音ちゃんの声を聞かせてください」。すると鳴くような小声ながら「もしもし」と答えてくれた。詩音の肉声が聞きたくて「もっと大きな声で」と叫んだ。ほんの少しだが詩音はアイ子に心を開いてくれたようだ。
ふてくされたように見えた他の子供たちもいざ親との別れが迫ると、心細そうな表情をのぞかせた。送迎バスに親たちが乗りこむと一番年上の風太は涙ぐんだ。風太の母から「先生に預けたこと、後悔させないでください」と頭を下げられたアイ子は「はい」とうなずいた。子供たちと保護者の気持ちすべてを笑顔でしっかりと受け止めた。
「自分の名前を書いてください」アイ子は子供たちに名前シールを配ると下駄箱に貼らせた。これまで2人きりだったのが急ににぎやかになって龍平はうれしかった。龍平は宿泊センターでみんなとの夕食を終えて自宅に戻った。しばらくするとワタルから電話がかかってきた。「どうしたの? もしもし?」。ワタルの返事がない。異変を感じた龍平は父親と共に宿泊センターへ向かった──。