第8回 2003年4月15日(火)放送 あらすじ

第8話 逃げる人

 秋山大治郎(山口馬木也)は田舎道で、中年の侍(古谷一行)が、ならず者に襲われた若い女を救う現場を目撃した。見事に相手を叩きのめすのを見た大治郎は、その腕をほめ、自ら名乗った。しかし侍は口をもごもごさせて去った。
 半月ほど後。大治郎が田沼道場からの帰りによく寄るそば屋「月むら」に、その侍が姿を見せた。高橋三右衛門と名乗り、おたがいに好感を持って盃を交わす二人だが、三右衛門は、「人と人との交わりは、浅く、長く」と、距離を置きたいようなことを言う。それから二人はしばしば「月むら」で会い、語り合った。お互いの素性については話さないような無言の約束が出来た。分かったことは三右衛門が諸国を広く歩き、今は寺に身を寄せていること。事情があってひどく孤独な人生らしいことだった。秋山小兵衛(藤田まこと)は大治郎に、「そんな出会いがあってもよい」と言った。
 不二楼のおもと(梶芽衣子)は三右衛門が身を寄せる寺の和尚と知り合いで、懇意にしている両替商のところに三右衛門が為替を取りに来る日を知った。興味を感じた小兵衛は、おもとに連れられて両替商に行き、三右衛門の姿を見た。両替商によると妙な為替で、出雲の松江からの送金だったが、次の送金の時には、別の土地の別の名前の者に転送するようになっていた。こうやって金の行方をたどれないようにしている。高橋三右衛門も偽名と思える。いつも名前を変えているから、大治郎にすぐ名乗れなかったのだ。
 その話を小兵衛から聞いた大治郎の顔色が変わった。三右衛門の本名が松江藩士の山本半之助であれば、年恰好からみて、大治郎の親友である河合又太郎(佐藤和久)が、生涯かけて父の敵と追っている男だと言う。しかも河合によると半之助の右肘の内側には刀傷があり、三右衛門も同じ場所に刀傷があった。河合は京都にいて敵を探しているが、近く江戸に来るという。河合は大治郎から一本取るほどの腕だ。親友には敵の所在を知らせたいが、二人が立ち会えば親しくなった半之助を失うことになる。
 大治郎は悩みぬいた。その末に、妻の三冬(寺島しのぶ)に頼みごとをする。三冬の父・田沼意次は、田沼便という、江戸から京・大阪まで三日ほどで届く飛脚を使っていた。半之助を見つけたという、河合あての書状を田沼便に託したのだ。
 小兵衛は大治郎の決断を聞き、半之助が旅に出ないよう自分が見張りをすると言った。半之助は何度も「月むら」に行き大治郎を待つが、もちろん大治郎は来ない。店の隅に小兵衛がいた。小兵衛はある時は、川岸で釣り糸を垂れる半之助のとなりに行き人生談義をする。半之助を見張る男がもう一人。半之助に顔を傷つけられた素行の悪い中間・仁助(草薙良一)だった。偶然半之助を見て復讐の機会を探していた。
 河合が江戸に来ると思われるころに、田沼便が未開封の大治郎の手紙と、河合の死を知らせる寄宿先の医者の手紙を届けた。河合の急病は手のほどこしようがなかったという。小兵衛は半之助が少し前に旅に出たのを知る。大治郎にも会えず、潮時と思ったのだろう。寺の和尚に去った方向を聞いて後を追うと、人影のない道で仁助と、彼が雇った四人の浪人に囲まれていた。半之助の腕はさほどでもない。小兵衛が助太刀に入り、「逃げられよ山本殿。お命捨てる場所は他にござろう」と言う。本名を言われて驚く半之助だが、浪人に一太刀浴びせると逃げた。小兵衛が仁助を斬ると、残る三人は刀を捨てた。
 半之助は河合の死を知らずに再び逃亡の旅に出た。小兵衛は、「今ごろは国許からつぎの追手が出ているだろう」と言う。「逃げ、苦しみながら一生を送る。それが己が手を下した者への供養となるのではないか。敵討ちは残酷なものだ。そんな中で、お前と心を開いた日々を山本殿は忘れまい」。大治郎と酒を飲みながら、小兵衛は言った。

キャスト

秋山小兵衛   ・・・ 藤田まこと
秋山大治郎   ・・・ 山口馬木也
佐々木三冬   ・・・ 寺島しのぶ
おはる     ・・・ 小林綾子

不二楼 おもと ・・・ 梶 芽衣子
板前の長次   ・・・ 木村 元
飯田 粂太郎  ・・・ 尾上 寛之
仁 助     ・・・ 草薙 良一
河合 又太郎  ・・・ 佐藤 和久
加 平     ・・・ 山田 吾一
与 助     ・・・ 楠 年明
如 空     ・・・ 徳田 興人
了 念     ・・・ 柴田 光

山本 半之助  ・・・ 古谷 一行
               ほか

スタッフ

企  画 ・・・・ 市川久夫
        金井卓也(フジテレビ)
        武田 功(松竹)
プロデューサー ・・ 能村庸一(フジテレビ)
          佐生哲雄(松竹)
原  作 ・・・・ 池波正太郎
        (新潮文庫刊)
脚  本 ・・・・ 野上龍雄
音  楽 ・・・・ 篠原敬介
監  督 ・・・・ 富永卓二
撮  影 ・・・・ 江原祥二
照  明 ・・・・ 中島利男
美  術 ・・・・ 西岡善信
殺  陣 ・・・・ 宇仁貫三
料理監修 ・・・・ 近藤文夫(銀座 近藤)

ナレーター ・・ 橋爪 功

制作協力 ・・・・ 松竹京都映画株式会社
制  作 ・・・・ フジテレビ
        松竹株式会社

バックナンバー