偽りの花園
涙の身の上話
昭和六年五月、美禰子が新橋に来て、一年が過ぎた。ある日、お使いの帰りに美禰子が喫茶店で休んでいると、見知らぬ若い男が親しげに話しかけてきた。橋川と名乗るその男は、特高刑事に追われており、カムフラージュのために、美禰子と知り合いのようなふりをする。特高の手を逃れた橋川は慌しく去っていく。美禰子は知る由もなかったが、橋川は実は、早瀬川熙道伯爵の息子・顕彦だった。華族を嫌い、左翼運動に関わっている顕彦は、プロレタリア作家・石母田を自宅に匿う。その石母田を権蔵が追っていた。数日後、美禰子は喫茶店で顕彦と再会する。意気投合した二人は…。