優しい時間
#9 傷痕
大吹雪の夜、リリ(森上千絵)のアパートでリリとミミ(高橋史子)は梓(長澤まさみ)を待っていた。そこへ電話が鳴った。慌てて応対するリリの表情が変わる。瀕死の梓を収容した病院からの連絡であった。
翌朝、梓は病院のベッドで目を覚ました。美しいナース(小泉今日子)が傍にいる。ナースは梓のリストカットに話を進めた。ナースは「本当に死ぬ気だったら切るとこ違うわよ。ここよ」と笑って自分の傷を見せる。「それでも死ねなかったけどね。問題も解決しないし、誰も同情もしないわ。残るのは傷だけよ。下らない事もうやめなさい」と梓は諭されるのだった。
「森の時計」では美可子(清水美砂)たちの遭難話で盛り上がっていた。梓の話は避けていたのだが滝川(納谷真大)が勇吉(寺尾聰)に「アズちゃん大丈夫?」と尋ねてきた。勇吉は「吹雪で車ごと吹き溜まりに突っ込んで凍死寸前だった。もう心配要りません」と常連の興味を封じた。
勇吉は梓からもらった銀のペンダントを着け、見舞いに向かった。梓は涙を浮かべ、ペンダントを着けてくれた勇吉に素直に喜んだ。勇吉は、梓が拓郎(二宮和也)に会いに行ったことを察し、会えたのか聞いた。だが向かう途中だったことを知り、拓郎に連絡を取ろうかと提案するが、梓はきつく断る。そこへ美可子が現れた。梓は勇吉のペンダントに気付いて微笑み、梓にブレスレットのお土産を渡す。リストカットの傷が隠れることを考えてのことだ。勇吉はなぜ美可子が知っているのか訝るが、問い詰めはしなかった。美可子は「昔の自分を見るみたい」と意味深なことを言う。梓は退院したら、銀細工を習いたいと美可子に申し出る。
勇吉はその足で朋子(余貴美子)の「北時計」を訪れた。朋子は美可子の騒ぎは知っていたが、梓のことは知らなかった。勇吉はそれとなく拓郎と事件の関係を仄めかし、拓郎に梓のことを教えてやってくれと、朋子に頼む。「あんたも段々老獪になってきたわね」という朋子も勇吉の気持ちを思いやる。
立てるようになった梓は裏口に出て、拓郎の携帯に電話をする。出ない。と、後ろから例のナースが「二度出ないのは三度目も出ない。入んなさい」と促す。喫煙所に入りナースは「ボーイフレンドね。あんたは私と似てる」と言い、梓と拓郎に肉体関係がないことを聞くと「彼は本当にあんたが好きなのかもね」と微笑むのだった。
そのころ拓郎は制作に集中していた。ふと人の気配を感じると、入り口に堂本(徳重聡)が立っている。堂本は、「皆空窯」に立ち寄った理由を、勇吉に教えられたからだ、と教え、勇吉が頼んだ通り「会いに来るように伝えて欲しいと言われたんだ」と拓郎に話した。拓郎は感激に声を高めつつも「多分、近々、会いに行くつもりです」と答えた。「会えるだけの自分を作りたいんです」と胸に秘める決心を露にした。それからというもの、拓郎は、無心に制作に没頭した。六介(麿赤兒)も徹底して指導を心がけた。
そうこうするうち、工房に朋子が現れた。併設された六介と洋子(朝加真由美)の作品が並ぶギャラリーを歩きながら朋子は「お二人は作品で愛を交わしてるわ」と喝破しつつ、梓の話を持ち出した。拓郎は冷静を装っていたが、梓が「皆空窯」に来る途中でリストカットし、それを勇吉が「伝えてくれ」と朋子を差し向けたことを知ると、穏やかでいられるわけが無かった。が、だからこそ、拓郎はさらに陶芸に没頭した。
退院した梓は、美可子の自宅を訪ね銀細工を習い始めた。
拓郎は六介に頼まれ、入り口のオブジェを移動させようとした。中からお守りが落ちる。勇吉が置いていったものである。拓郎は、思いを巡らしつつそれをポケットに入れ、六介に外出を申し出た。そして梓の携帯に電話した。「ちょっとだけ会えるかな」。梓は「待ってる」と即答した。
富良野のファミリーレストランで久し振りに二人は会った。梓は勇吉とおそろいのペンダントを拓郎も着けているのを見て喜ぶ。拓郎は梓のリストカットに触れた。「バカだな」。「淋しかったから」と梓が言う。「俺がメールするなと言ったからか」と拓郎が問うと、「そうかも」と梓。拓郎はそれが制作に集中するためのことだったと説明する。梓は下を向き「最低だね、自分の肌を傷付けるなんて」と反省の表情を見せた。と、拓郎が「まだいいさ」と言う。怪訝な梓に、拓郎はシャツをめくって「死神」の刺青を見せるのだった。驚く梓。拓郎は岸神の話を聞かせた。だが「そのことが親をどれだけ傷付けたことか」と独白する。ふと、拓郎はお守りのことを思い出し「これ、有難う」と梓に礼を言った。が、梓は自分じゃないと否定する。拓郎は不思議がった。
夜の「森の時計」。勇吉はめぐみ(大竹しのぶ)と語り合っていた。「拓郎が赤ん坊のころ、きれいな肌をなでまわしたな」「俺たちもあんな肌をしていたんだろうか」……。
お守りを見つめる拓郎は気付いた。「来てくれたんだ、おやじが……」。拓郎の目から涙がとめどなくあふれ始めた。
翌朝、梓は病院のベッドで目を覚ました。美しいナース(小泉今日子)が傍にいる。ナースは梓のリストカットに話を進めた。ナースは「本当に死ぬ気だったら切るとこ違うわよ。ここよ」と笑って自分の傷を見せる。「それでも死ねなかったけどね。問題も解決しないし、誰も同情もしないわ。残るのは傷だけよ。下らない事もうやめなさい」と梓は諭されるのだった。
「森の時計」では美可子(清水美砂)たちの遭難話で盛り上がっていた。梓の話は避けていたのだが滝川(納谷真大)が勇吉(寺尾聰)に「アズちゃん大丈夫?」と尋ねてきた。勇吉は「吹雪で車ごと吹き溜まりに突っ込んで凍死寸前だった。もう心配要りません」と常連の興味を封じた。
勇吉は梓からもらった銀のペンダントを着け、見舞いに向かった。梓は涙を浮かべ、ペンダントを着けてくれた勇吉に素直に喜んだ。勇吉は、梓が拓郎(二宮和也)に会いに行ったことを察し、会えたのか聞いた。だが向かう途中だったことを知り、拓郎に連絡を取ろうかと提案するが、梓はきつく断る。そこへ美可子が現れた。梓は勇吉のペンダントに気付いて微笑み、梓にブレスレットのお土産を渡す。リストカットの傷が隠れることを考えてのことだ。勇吉はなぜ美可子が知っているのか訝るが、問い詰めはしなかった。美可子は「昔の自分を見るみたい」と意味深なことを言う。梓は退院したら、銀細工を習いたいと美可子に申し出る。
勇吉はその足で朋子(余貴美子)の「北時計」を訪れた。朋子は美可子の騒ぎは知っていたが、梓のことは知らなかった。勇吉はそれとなく拓郎と事件の関係を仄めかし、拓郎に梓のことを教えてやってくれと、朋子に頼む。「あんたも段々老獪になってきたわね」という朋子も勇吉の気持ちを思いやる。
立てるようになった梓は裏口に出て、拓郎の携帯に電話をする。出ない。と、後ろから例のナースが「二度出ないのは三度目も出ない。入んなさい」と促す。喫煙所に入りナースは「ボーイフレンドね。あんたは私と似てる」と言い、梓と拓郎に肉体関係がないことを聞くと「彼は本当にあんたが好きなのかもね」と微笑むのだった。
そのころ拓郎は制作に集中していた。ふと人の気配を感じると、入り口に堂本(徳重聡)が立っている。堂本は、「皆空窯」に立ち寄った理由を、勇吉に教えられたからだ、と教え、勇吉が頼んだ通り「会いに来るように伝えて欲しいと言われたんだ」と拓郎に話した。拓郎は感激に声を高めつつも「多分、近々、会いに行くつもりです」と答えた。「会えるだけの自分を作りたいんです」と胸に秘める決心を露にした。それからというもの、拓郎は、無心に制作に没頭した。六介(麿赤兒)も徹底して指導を心がけた。
そうこうするうち、工房に朋子が現れた。併設された六介と洋子(朝加真由美)の作品が並ぶギャラリーを歩きながら朋子は「お二人は作品で愛を交わしてるわ」と喝破しつつ、梓の話を持ち出した。拓郎は冷静を装っていたが、梓が「皆空窯」に来る途中でリストカットし、それを勇吉が「伝えてくれ」と朋子を差し向けたことを知ると、穏やかでいられるわけが無かった。が、だからこそ、拓郎はさらに陶芸に没頭した。
退院した梓は、美可子の自宅を訪ね銀細工を習い始めた。
拓郎は六介に頼まれ、入り口のオブジェを移動させようとした。中からお守りが落ちる。勇吉が置いていったものである。拓郎は、思いを巡らしつつそれをポケットに入れ、六介に外出を申し出た。そして梓の携帯に電話した。「ちょっとだけ会えるかな」。梓は「待ってる」と即答した。
富良野のファミリーレストランで久し振りに二人は会った。梓は勇吉とおそろいのペンダントを拓郎も着けているのを見て喜ぶ。拓郎は梓のリストカットに触れた。「バカだな」。「淋しかったから」と梓が言う。「俺がメールするなと言ったからか」と拓郎が問うと、「そうかも」と梓。拓郎はそれが制作に集中するためのことだったと説明する。梓は下を向き「最低だね、自分の肌を傷付けるなんて」と反省の表情を見せた。と、拓郎が「まだいいさ」と言う。怪訝な梓に、拓郎はシャツをめくって「死神」の刺青を見せるのだった。驚く梓。拓郎は岸神の話を聞かせた。だが「そのことが親をどれだけ傷付けたことか」と独白する。ふと、拓郎はお守りのことを思い出し「これ、有難う」と梓に礼を言った。が、梓は自分じゃないと否定する。拓郎は不思議がった。
夜の「森の時計」。勇吉はめぐみ(大竹しのぶ)と語り合っていた。「拓郎が赤ん坊のころ、きれいな肌をなでまわしたな」「俺たちもあんな肌をしていたんだろうか」……。
お守りを見つめる拓郎は気付いた。「来てくれたんだ、おやじが……」。拓郎の目から涙がとめどなくあふれ始めた。