第3回 2005年1月27日(木)放送 あらすじ

初雪

 「森の時計」の寒い一日が始まろうとしていた。勇吉(寺尾聰)はめぐみ(大竹しのぶ)の遺影の前に自分と同じ質素な朝食を供える。もう十勝岳の裾まで雪が来ている……。
 ペンションオーナー滝川(納谷真大)が、美しい女性を伴って「森の時計」にやって来ていた。美可子(清水美砂)である。勇吉たちと話し終わって二人が帰ると、常連、音成(布施博)や佐久間(久保隆徳)らが「あの美女は?」と騒ぎ出した。勇吉たちが美可子は滝川の親戚で、旦那さんが亡くなり東京から転居して来た、と説明する。未亡人と聞いて常連はさらに大騒ぎするのだった。
 そんな午後、二人の男性客が現われた。水を持って行った梓(長澤まさみ)が、凍ったように調理場へ戻ってきた。「お姉ちゃん、あいつが来た!」とリリ(森上千絵)に言う。「あいつって?」とリリ。「松田先生よ!」。ただならぬ様子を不審に思った勇吉の気をそらすためリリは梓を買い物に出す。梓が外に飛び出すと、その松田(佐々木蔵之介)が追って来て「心配していたんだ、元気?」と親しげに声を掛けてきた。すかさずリリが「早く行きなさい」と叫び、梓は車に飛び乗った。
 二人が帰ってからリリは勇吉に、松田のことを説明した。松田は梓の初恋の相手だった。松田の方も妻がありながら積極的で、それが学校で話題になり、梓がいじめに遭った。松田はそのまま身を引いたが、梓は傷ついて学校へ行かなくなり、リストカットするまでになった……というのだった。
 そのころ梓は、スーパーでふと二人用鍋物セットに目を留め、かごに入れていた。
 夜になって拓郎(二宮和也)が家へ戻ると梓が待ち受けていた。「一緒にお鍋食べようと思って」と梓。拓郎は長く待ち続けた梓に感じ入り、鍵の隠し場所を教えた上で一緒に家の中に入るのだった。久し振りの一人きりではない食事を拓郎は楽しんだ。梓の身の上話を聞くことになった。梓は姉リリと暮らしている。リリの旦那は蒸発した。その前には、炭鉱事故で父親が死んだ後、母親も隣のおじさんと消えた、と梓は悲しい笑みを浮かべて話す。「今は姉ちゃんと『森の時計』で働いている」と言う。それは拓郎も知っている……。「かっこいい、謎のマスターなんだ」と梓。拓郎は複雑な気持ちになっていった。
 店を閉め、いつものようにめぐみ用の拓郎が作ったカップを置き、一人の時間を過ごしていた勇吉の前に朋子(余貴美子)が現われた。酔っている。「お見合いしたんですって、きれいな未亡人と」とからむ。離婚した元の亭主が死んだという知らせを受けていたのだ。「あんた、まだメグのことが忘れられないの」と勇吉を問い詰めると、突然「死んだ人間のこと考える暇があるなら、生きている人間のこと考えなさい。息子に会ってやんなさい」と怒り出した。「知ってるんですか、あいつの居場所を」と返す勇吉。朋子は一瞬の間をおいて「シーラナイ」と誤魔化した。……勇吉は、朋子の「北時計」でコーヒー店修行をしているある吹雪の日、突然現われた拓郎のことを思い出した。勇吉は父を慕ってやって来た拓郎を「もう切れたはずだ。お前は一人でやってきたし、これからも一人でやっていくと言った」と拒み、外へ飛び出したことを……。「一人でいて肌恋しくなったことないの」と言いながら、しなだれかかる朋子の様子で勇吉は現実に戻った。勇吉はあわてて朋子を送るため立ち上がるのだった。
 美可子が一人で「森の時計」にやって来た。富良野の静けさに目を覚ますこと、コーヒーミルの音で夫を思い出すことなどつれづれに語る美加子の側で勇吉は、生前のめぐみがこのコーヒー店のスタイルを提案したことを思い出していた。
 と、その時、リリの「やめてください」という声で我に帰った。松田が再び現われたのだ。勇吉は松田と対峙した。松田は自分が梓を傷つけたことを理解した上で「一言直接謝りたい。そうでないと気が晴れない」と言う。勇吉は「誰のために」と問い返した。松田は黙り、そして言った。「確かに自分のためかもしれませんね。ただこれだけは言っておいてください。僕は卑劣だったけど真剣だった、と」と言い残し、去って行くのだった。
 それを厨房の隅で聞いていた梓は拓郎に電話した。「今夜遊びに行っていい?」。だが拓郎の方は、皆空窯の六介(麿赤児)の長男洋一(星野源)が帰って来てジンギスカンをやるので無理という答え。梓は、拓郎と自分のために作ってきた弁当を捨てた。
 皆空窯に3年ぶりに洋一が帰って来た。大喜びの六介。と、洋一は結婚すると言い出した。それでも喜ぶ六介。だが洋一は相手を連れて来ていると言う。さらに喜ぶ六介はすぐに上げろと言い、宴は盛り上がる。紹介された美人の紀子(吉井怜)に六介、もっと喜ぶ。しかも妊娠中ときた。「おれたちも、じいさんばあさんか!?」。六介の喜びは絶頂に達した。拓郎は、六介家族の幸せな光景を見ながら、自分が別れの日に勇吉に言った言葉を思い出していた。「一人で生きます。これまでもずっと一人で生きてきましたから」。勇吉は激情をこらえて震えながら「お前はお母さんを死なせた上に、ショックなことを俺に言った。よく言った」。それで勇吉は拓郎の前から消えたのだった。拓郎は宴の場を離れ、車に乗り込んだ。
 「森の時計」では、勇吉がメグと話していた。「あの未亡人、きれいね。それとも朋子の方が趣味?」。意地悪な質問をするメグ。「あなたも再婚を考えたら?」。答えの出せない勇吉は、薪を取りに、外の小屋へ出た。何か物音がした。「狐か?」。
 それは涙でほほを濡らす拓郎であった。拓郎の頭に初雪が降りてきた。

キャスト

湧井勇吉 … 寺尾 聰
  ○
湧井拓郎 … 二宮和也
皆川 梓 … 長澤まさみ
  ○
松田 … 佐々木蔵之介
  ○
九条朋子 … 余 貴美子
天野六介 … 麿 赤兒
  ○
湧井めぐみ … 大竹しのぶ

 ほか

スタッフ

■原作・脚本
 倉本 聰
■監督・演出
 宮本理江子
■音楽
 渡辺俊幸
■制作
 フジテレビジョン
 フジクリエイティブコーポレーション(FCC)

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