夜桜お染
#10 迷子石
新十郎(内藤剛志)と半田彦四郎(益岡徹)が、三人のやくざにからまれている商家の娘おなみ(松本麻希)と乳母のおさだ(浅利香津代)を助ける。実際に相手を倒したのは新十郎だが、おなみとおさだは彦四郎を命の恩人だと思う。おなみの実家は、日本橋の相模屋という裕福な呉服店だった。
新十郎と同じ元信州阿賀山藩士で勘定方だった彦四郎は、わがままな家つき娘で、一度亭主に逃げられているおなみに惚れられ、主人の徳兵衛(須永克彦)にも認められて、帳場に座るようになった。
ある日、彦四郎は相模屋への到来物を売るために佐野屋に行き、伊三郎(遠藤憲一)に会う。伊三郎の二の腕の火傷の傷を見て、ひっかかる彦四郎。やがて、阿賀山藩を混乱に陥れ、ついには取り潰しに追い込まれたお家騒動のきっかけを作った商人の腕に、伊三郎と同じ傷があったことを思い出した。話を聞いたお染(若村麻由美)は伊三郎を訪ね、阿賀山藩にいたことはないかと問いただしたが、伊三郎は否定した。
菊川座の座頭・おたつ(平淑恵)は奉行所同心の笹原弥平(山崎銀之丞)と長い間、今で言う不倫の仲である。しかしおたつは、たまたま笹原が妻と仲良く一緒にいるところを目撃したことで心が揺らぐ。辛くなったおたつは、一座を率いて東海道を名古屋から大垣あたりまでの旅興行に行くことを決める。
「高砂」でお染、新十郎、甚六(火野正平)らが話をしているところへ、彦四郎が来る。さらに伊三郎が現れ、「嘘を隠すのが辛くなった。自分はかつて隠密として非情な務めをしていた」と言い、阿賀山藩での活動を認めた。新十郎が刀に手を掛ける。お染が「もう敵討ちをする気がないと言ったではないか」と止める。だが新十郎は、「藩の騒動で死んだ者の無念が分かるか」と言って、伊三郎に挑みかかる。
表で闘いが始まるところに弥平が現れ、「お届けがなければただの私闘」と制止する。新十郎も伊三郎も素手になって取っ組み合った。倒れ、転がり、また取っ組みあって二人は地面にのびた。そこに雨が降ってきた。どうやら新十郎の気は晴れたようだ。
「高砂」に戻った伊三郎が身の上話を始めた。火事でみなし子になり、大目付け配下の下級役人に拾われた。育ての親の後を継ぎ、諸藩探索の仕事をした。人には言えない過酷で汚い仕事もした。それが嫌になり、自分は死んだように偽装してやっと足を洗った。
やはり火事で両親を亡くし、仙吉という兄と二人で暮らしたお染も身の上話を始める。あまりの空腹で店先の饅頭を盗んで逃げ、兄とはぐれて迷子になった。聞いていた甚六が、「迷子石に書付を貼っておけば良かった」と言った。
火事や祭りで迷子が多い江戸では、橋のたもとや神社や寺など、人のよく集まるところに迷子石を置いた。「こういう子供を知りませんか」、「こんな子を預かっています」などと書いた紙を石に貼り付けて、手がかりを求める。今の掲示板のようなものだ。お染の話にじっと耳を傾けていた伊三郎が、お染に酒をついだ。
菊川座が旅興行に出た。弥平が見送りに来て、「待っている」とおたつに言う。伊三郎も佐野屋の店をたたんでいなくなった。お染と新十郎の前に音次(片岡愛之助)が現れ、やはり江戸を離れるという。屋根屋だと言い張った音次だが、抜け荷を取り締まる隠密が本業のようだ。別れ際に音次が、根津権現に面白い迷子石があったと言った。
お染と新十郎が根津権現に行くと、迷子石に新しい張り紙があり、「お染、達者で。仙吉」と書かれていた。「兄さんはあの伊三郎さんだ」と新十郎は言う。「わたし、兄さんとめぐりあったんですね」。そう言ってお染は、張り紙を石からはずし、小さくたたんで懐に入れた。
新十郎と同じ元信州阿賀山藩士で勘定方だった彦四郎は、わがままな家つき娘で、一度亭主に逃げられているおなみに惚れられ、主人の徳兵衛(須永克彦)にも認められて、帳場に座るようになった。
ある日、彦四郎は相模屋への到来物を売るために佐野屋に行き、伊三郎(遠藤憲一)に会う。伊三郎の二の腕の火傷の傷を見て、ひっかかる彦四郎。やがて、阿賀山藩を混乱に陥れ、ついには取り潰しに追い込まれたお家騒動のきっかけを作った商人の腕に、伊三郎と同じ傷があったことを思い出した。話を聞いたお染(若村麻由美)は伊三郎を訪ね、阿賀山藩にいたことはないかと問いただしたが、伊三郎は否定した。
菊川座の座頭・おたつ(平淑恵)は奉行所同心の笹原弥平(山崎銀之丞)と長い間、今で言う不倫の仲である。しかしおたつは、たまたま笹原が妻と仲良く一緒にいるところを目撃したことで心が揺らぐ。辛くなったおたつは、一座を率いて東海道を名古屋から大垣あたりまでの旅興行に行くことを決める。
「高砂」でお染、新十郎、甚六(火野正平)らが話をしているところへ、彦四郎が来る。さらに伊三郎が現れ、「嘘を隠すのが辛くなった。自分はかつて隠密として非情な務めをしていた」と言い、阿賀山藩での活動を認めた。新十郎が刀に手を掛ける。お染が「もう敵討ちをする気がないと言ったではないか」と止める。だが新十郎は、「藩の騒動で死んだ者の無念が分かるか」と言って、伊三郎に挑みかかる。
表で闘いが始まるところに弥平が現れ、「お届けがなければただの私闘」と制止する。新十郎も伊三郎も素手になって取っ組み合った。倒れ、転がり、また取っ組みあって二人は地面にのびた。そこに雨が降ってきた。どうやら新十郎の気は晴れたようだ。
「高砂」に戻った伊三郎が身の上話を始めた。火事でみなし子になり、大目付け配下の下級役人に拾われた。育ての親の後を継ぎ、諸藩探索の仕事をした。人には言えない過酷で汚い仕事もした。それが嫌になり、自分は死んだように偽装してやっと足を洗った。
やはり火事で両親を亡くし、仙吉という兄と二人で暮らしたお染も身の上話を始める。あまりの空腹で店先の饅頭を盗んで逃げ、兄とはぐれて迷子になった。聞いていた甚六が、「迷子石に書付を貼っておけば良かった」と言った。
火事や祭りで迷子が多い江戸では、橋のたもとや神社や寺など、人のよく集まるところに迷子石を置いた。「こういう子供を知りませんか」、「こんな子を預かっています」などと書いた紙を石に貼り付けて、手がかりを求める。今の掲示板のようなものだ。お染の話にじっと耳を傾けていた伊三郎が、お染に酒をついだ。
菊川座が旅興行に出た。弥平が見送りに来て、「待っている」とおたつに言う。伊三郎も佐野屋の店をたたんでいなくなった。お染と新十郎の前に音次(片岡愛之助)が現れ、やはり江戸を離れるという。屋根屋だと言い張った音次だが、抜け荷を取り締まる隠密が本業のようだ。別れ際に音次が、根津権現に面白い迷子石があったと言った。
お染と新十郎が根津権現に行くと、迷子石に新しい張り紙があり、「お染、達者で。仙吉」と書かれていた。「兄さんはあの伊三郎さんだ」と新十郎は言う。「わたし、兄さんとめぐりあったんですね」。そう言ってお染は、張り紙を石からはずし、小さくたたんで懐に入れた。