2023年6月9日更新
特別番組
2023年5月13日(土) 16:05~17:30放送
気温マイナス90度、風速は90メートルに達することもある過酷な雪と氷の世界。
地球最後の秘境「南極」で、地球環境の異変を察知するための研究・観測を行う人たちがいます。南極観測隊です。
フジテレビは、観測隊に同行しその限界に挑む姿を取材しました。
取材期間 2022年11月~2023年3月 132日
撮影映像 400時間以上
今回の観測では、地球温暖化の影響と思われる大きな発見がありました。
さらに、テレビとして初めて南極の海底映像の撮影に成功。学術的にも貴重な記録を残しています。
激烈な荒波を乗り越え、移動すること42日。
海上自衛隊が運用する砕氷艦「しらせ」で向かうのは、南極「昭和基地」です。2022年12月下旬、第64次南極観測隊の84名が到着しました。基地には、研究者のほかに医者や料理人、機械のメンテナンスなど専門分野を持つ職人たちもいます。観測隊はここを拠点に、南極の気象や地質・生物を観測します。今回、同行取材をしたのは、短い夏の間だけ主に野外活動に携わる「夏隊」です。
まず取材班が密着したのは、アイスコアの採取。
深さ300メートルにある400年前の氷・アイスコアを掘り出して分析することは、過去の地球環境や、これまでの気象の変化と原因を知る大きな手掛かりとなります。
陸地の97%が雪と氷で覆われている南極は、地球上で最も汚染されていない場所。
何万年という時間をかけ、雪が降り積もってできた厚い氷の層「氷床」に含まれる小さな空気の粒の中には、各時代の空気がタイムカプセルのように封印されています。
ブリザードに見舞われるなど過酷な環境でトラブルも多く、食糧も燃料も、そして時間も限られる中、急ピッチで氷床から柱上のアイスコアを取り出す作業が進められました。
ここで、地球温暖化の影響と思われる大きな発見がありました。
それが氷床の間にできた「厚い氷の板」です。
これは雪が一度溶けて再び固まったもの。過去に南極で猛暑のような異常気象が起き、この氷の板ができた可能性があるといいます。
南極を覆っている巨大な氷は、地球上の氷の90%、淡水の70%に相当します。南極のすべての氷が溶けると、世界の海面60mも上昇するといわれており、そうなると世界中で多くの国や地域が水没してしまいます。掘り出したアイスコアは持ち帰り、過去の地球環境を探るためのさらなる調査・分析が行われます。
昭和基地には、好奇心旺盛な訪問客がたびたび姿を見せます。
アデリーペンギンです。
人懐こく、観測隊による海洋生物の生態研究の中でも不動の1位を誇る人気者。
普段は氷の上で群れを作って暮らし、子育てをしています。しかし、地球温暖化によって海の氷が溶けることで、今、生活の場を失いつつあるのです。
海洋生物の研究は、陸地だけでなく、南極の氷の下、海の中でも。
今年度から新たに加わったプロジェクトがあります。その研究を行うのが、通称「おさかなチーム」。
彼らの研究で、絶対に欠かせないのが…魚釣りです。
釣った魚を解剖し、年齢や何を食べているのかを調べたり、発信器を取り付けて魚の動きや移動範囲など行動パターンを調べます。時には、食べることも!
その魚たちが住む南極の海底、厚い氷の下には、どんな世界が広がっているのでしょうか。フジテレビの取材チームも生態調査に協力しました。
水中ドローンを投入すると…
そこは、思いもしなかったような色鮮やかな世界でした。
優雅に泳ぐ「ウミシダ」に「ショウワギス」。
このあたりでは、見つかったことがないという「メガネカモグチウオ」の姿も。
これまで撮影できなかった南極の魚が泳いでいる姿をカメラに収めることに成功し、学術的にも貴重な映像を残すことができました。
今回は、氷の下の海中探査に最新型のロボットが導入されました。その名も「MONAKA(モナカ)」。最新の調査によると、南極では海にせり出した氷床の部分、「棚氷」の下で激しい氷の融解が起きていることが分かってきています。
その詳細なデータを集めることがモナカのミッション。モナカの開発者たちは2017年から5年かけ、準備を進めてきました。調査地点は、昭和基地から20キロほどの地点にあるラングホブデ氷河です。
モナカは、AIを搭載した世界初の自立型水中ロボット。自動航行で海底の地形データを集め、探査をします。モナカの“ひとり旅”。隊員たちは無事の帰還を祈り見守ります。
予定時間を過ぎ、隊員たちが待ちわびる中ようやく戻ってきたモナカが集めてきたのは、まだ誰にも発見されていない詳細な海底地形のデータでした。モナカは世界で初めて、ラングホブデ沖での棚氷の探査に成功したのです。
世界で今、同時多発的に発生し激甚化している洪水、干ばつ、森林火災などの自然災害。その引き金となっているのは、人間が引き起こした気候変動です。地球の変化が如実に表れる南極での調査は、この地球環境の急激な変化にストップをかける手がかりをつかむ重大な任務。
南極の短い夏が終わり、これからやってくる長く厳しい暗闇の冬。
夏隊が去った後も越冬隊による調査が続けられます。
南極観測隊に同行した大塚隆広プロデューサー
どこを見渡しても美しく、壮大な景色だが、内陸部に行くと生命の存在が全くない世界。ブリザードを経験し南極の恐ろしさを体感した。そんな過酷な世界で観測隊は、毎年調査・研究を続けている。地球を紫外線から守るオゾンホールが薄くなっている箇所があることを発見したのは日本の観測隊。
この問題は、南極で発見されたのを機に世界が一致団結したことで、解決に向かっている。温暖化と異常気象も南極での調査研究によって原因が分かれば、世界が一つになって解決に向かうと期待したい。