顔
#4 死刑囚の証言
OLが絞殺体で発見された。ドアをピッキングで開けられ、遺留品はなし。ただ被害者の体中に赤いマジックで「性悪」「バケモノ」と書きなぐられていた。電話線は切られていたが、被害者のもとには携帯電話が残されていた。本間一課長(升毅)が「実は16年前にも、絞殺体に赤マジックで落書きする事件があった」と捜査会議で切り出した。興味を持つ耕輔(オダギリジョー)ら若手刑事。鶴田(益岡徹)が「迷宮入りだった」と無念がる。
翌朝、記者室では内村(海東健)や臼井(渡辺憲吉)らが、「OL殺人」と色めきたつ。瑞穂(仲間由紀恵)は「不謹慎」と怒るが、内村は一向に気にした風もなく悪ぶっている。その時、今村広報室長(近藤芳正)が瑞穂に「捜査一課に行くように」と命じに来た。
瑞穂が呼ばれた理由は、一課にかかってくる情報や苦情を受ける電話番を刑事の代わりにさせるためだった。中学生のいたずら電話、中年女性の怒りの電話・・・・・・ありとあらゆる電話が掛かってくる。加奈子(京野ことみ)や七尾(田中律子)も動員されていた。
聞き込みをしていた耕輔は、事件発生時に不審者を見たという有力な目撃情報を仕入れた。目撃した女子大生は、ぱっと見、女のようで「つん」とくる酸っぱい臭いがしたと言う。その夜の捜査会議で、容疑者を女性まで広げるなど指令が出た。
明けて、耕輔は16年前の事件簿をさらっていた。確かにその年「マジック落書き殺人事件」が発生していた。と、いつの間にか横に佐藤刑事(河原さぶ)が立っている。「担当は俺だった」と言う佐藤。「書かれていたのは『醜』という文字だ」と資料に書かれていない事実を教えてくれる。そこへ尾崎(品川祐)が飛び込んできた。「犯人を知っていると言う人が現れた」。驚く耕輔と佐藤。尾崎は言いにくそうに「問題ありですが・・・・・・」と続けるのだった。
瑞穂は耕輔に呼び出され、共に車中の人となっていた。向かうは犯人を知ると言う「柳邦彦」(六平直政)がいる拘置所であった。柳は6年前逮捕された死刑囚だったのである。柳の供述をもとに似顔絵を作成するのだ。
面会室で柳に対峙する瑞穂。瑞穂は二人きりにしてくれと頼んだが耕輔は捜査を理由に同席する。眼光鋭い柳が無表情に話し始めた。「若い女だ。右のこめかみに傷がある。昔の傷だ・・・・・・」。瑞穂は一心にペンを走らせる。出来上がった似顔絵を見て柳は興奮した。「この女だ、間違いない」。
耕輔は疑り深く柳に問った。「なぜ証言する気になったのか?」。柳は平然と「一つくらい良いことをしようと思った。信じるかしないかは刑事さん次第だ」と言い放ち、耕輔を睨み付けるのだった。
捜査一課の刑事たちは、似顔絵を眺めていた。そこへ鶴田が入ってきた。「被害者は1カ月前、暴行事件で被害届けを出している。相手はこの女だ」と写真を見せる鶴田。一同は絶句した。まさにその写真の女・飯田あゆみ(赤坂七恵)は、柳が話し瑞穂が描いた似顔絵そのものだったのだ。
飯田あゆみは半年前まで被害者と同じ美容院で働いていたが、あゆみの恋人が被害者のもとへ走り、逆恨みしたあゆみが被害者を再三困らせていたのだという。刑事たちの周辺捜査や張り込みが始まった。美容院勤めということで「つん」とくるパーマ液の臭いがする。さらに被害者の携帯にはあゆみからの100件近い着信履歴が確認された。事件の晩のアリバイもない。「三角関係の果ての怨恨殺人か」。刑事たちの心証は固まった。だが、死体に文字を書くことなど解けない疑問は残っていた。
瑞穂はカウンセラーの樋口(余貴美子)に飯田あゆみが犯人であるのか疑問を持っていることを打ち明けた。実は、樋口も疑問を抱き、その朝、柳に面会に行っていたのだ。樋口はあゆみのことより柳に興味があると言い出した。「死刑囚の目じゃない。目に生きようとする意志がある」と言う。瑞穂はその言葉で何か感じた。
瑞穂は勝手にあゆみの美容院へ出かけあゆみにカットを頼んだ。そして「こめかみの傷」のことを探った。それは3歳の時についたという小さな傷であった。
外に出て瑞穂は耕輔たちに捕まった。「邪魔するな」と怒鳴る耕輔に、瑞穂は「あゆみは犯人じゃない。あの傷は、小さすぎて他人が分かるわけがない。柳との関係を調べるべきだ」と進言する。
瑞穂と耕輔は、あゆみが生まれた家を訪ねた。そこは空き家だったが、近所の老人が話してくれた。老人によると「柳が住んでいたのは20年前で、あゆみという3歳くらいの娘がいた。家庭内暴力で母娘は出て行った」と言う。柳とあゆみは親子だったのだ。
「なぜ、父親が娘を殺人犯だと証言するのか」・・・・・・。刑事たちは不思議がった。だが、耕輔だけは冷たく断じた。「捨てられた恨みだ。憎しみが深いから、小さな傷だって覚えているんだ」。その口調の強さに一同はまた驚かされた。実際、柳とあゆみが親子であっても殺人犯でない理由にはならない。
なんと、そこへ、また変質的な女性殺害の一報が飛び込んできた。耕輔たちが現場に急行するとマジックの書き置きなど全く同じ手口である。玄関には通販の荷物が。だが、なんと被害者はまだ生きていた。「救急車!」。叫ぶ耕輔たち。さらに驚くべき情報も飛び込んできた。その犯行時間帯は、あゆみにアリバイがあったのだ。耕輔は、もしや、この犯人は16年前の犯人と同一人物ではないかと疑い始めていた。
この事件を探る内村は、最初の被害者のマンションをもう一度調べに行った。ドアの前に通販の宅配カタログが置いてある。通り掛った主婦に声をかけた。主婦はその通販の宅配業者が感じが悪かったから取るのをやめたと、話してくれた。何かピンとくる内村。署に戻った内村は、瑞穂に「被害者は二人とも同じ通販を取っていた」と耳打ちする。
瑞穂はすぐに捜査一課に上がり耕輔にそのことを伝えた。耕輔もすぐに理解した。
が、被害者が生きていると聞いた瑞穂は、声を上げた。「危ない!」。
被害者が入院する病院を私服の刑事が取り巻いた。被害者の面会謝絶の病室に出入りする看護士は瑞穂である。と、そこへ見知らぬ女性看護士がやって来た。看護士は寝ている被害者の横で注射器をとりだした。「手を離せ!」。暗がりから飛び出してきたのは耕輔。「この野郎」と起き出した被害者は、なんと佐藤だった。耕輔が看護士に飛び掛るとかつらが飛んだ。女ではなく男であった。男はナイフを振り回し戻って来た瑞穂に切りかかる。かばう耕輔の洋服が切り裂かれ、素手で刃を受けとめた耕輔の手から血がしたたる。結局、男は取り押さえられ、「16年待った甲斐があった」と佐藤に手錠を掛けられるのだった。
男は山口(みのすけ)といい、自宅から16年前の事件を示す写真が発見された。山口は、その直後、別件で逮捕されて16年間収監されていた。「つん」とした臭いは写真の定着液だった。山口は女性になりたい願望があり、あこがれ愛しているのに嫌な目に遭わせる女に対し嫉妬と怒りを抱いていたのだ。
また、最初の被害者とあゆみの関係も本当のところは、加害者と被害者が逆だったことが分かった。恋人を奪ったのは被害者の方で、最近冷たくなったその恋人があゆみのもとへ戻ったのではないかと疑った被害者が、あゆみを追い回したのだった。
だが、柳は、なぜ実の娘を犯人と証言したのか? 耕輔と瑞穂は再び柳を訪ねた。瑞穂は「あの似顔絵の主・あゆみさんはあなたの娘さんだったのですね」と問い詰めた。だが、柳は山口が拘置所で一緒だったことは認めたものの「似顔絵は記憶違いかもしれない。あゆみなんて知らない。似顔絵が似ていたとすれば偶然だ」と立ち上がる。
そこへ、耕輔が怒鳴った。「上手く警察を利用したつもりかも知れないが、お前の壊した家族は二度と戻らないんだ。お前に人を愛する資格なんかない」と激昂する。柳は静かに振り向き、「娘に会えるなんて思ったことはない。私は家族が出て行った時に死んでるんだ。ただ、最後にあの子を守り抜くまでは生きるんだと思っただけだ」と答え、瑞穂に「あんたは本物だ。また娘に会えた」と言い残し扉の向こうへ消えていった。帰り道、耕輔と瑞穂は、互いに遠くを見つめるのだった。
翌朝、記者室では内村(海東健)や臼井(渡辺憲吉)らが、「OL殺人」と色めきたつ。瑞穂(仲間由紀恵)は「不謹慎」と怒るが、内村は一向に気にした風もなく悪ぶっている。その時、今村広報室長(近藤芳正)が瑞穂に「捜査一課に行くように」と命じに来た。
瑞穂が呼ばれた理由は、一課にかかってくる情報や苦情を受ける電話番を刑事の代わりにさせるためだった。中学生のいたずら電話、中年女性の怒りの電話・・・・・・ありとあらゆる電話が掛かってくる。加奈子(京野ことみ)や七尾(田中律子)も動員されていた。
聞き込みをしていた耕輔は、事件発生時に不審者を見たという有力な目撃情報を仕入れた。目撃した女子大生は、ぱっと見、女のようで「つん」とくる酸っぱい臭いがしたと言う。その夜の捜査会議で、容疑者を女性まで広げるなど指令が出た。
明けて、耕輔は16年前の事件簿をさらっていた。確かにその年「マジック落書き殺人事件」が発生していた。と、いつの間にか横に佐藤刑事(河原さぶ)が立っている。「担当は俺だった」と言う佐藤。「書かれていたのは『醜』という文字だ」と資料に書かれていない事実を教えてくれる。そこへ尾崎(品川祐)が飛び込んできた。「犯人を知っていると言う人が現れた」。驚く耕輔と佐藤。尾崎は言いにくそうに「問題ありですが・・・・・・」と続けるのだった。
瑞穂は耕輔に呼び出され、共に車中の人となっていた。向かうは犯人を知ると言う「柳邦彦」(六平直政)がいる拘置所であった。柳は6年前逮捕された死刑囚だったのである。柳の供述をもとに似顔絵を作成するのだ。
面会室で柳に対峙する瑞穂。瑞穂は二人きりにしてくれと頼んだが耕輔は捜査を理由に同席する。眼光鋭い柳が無表情に話し始めた。「若い女だ。右のこめかみに傷がある。昔の傷だ・・・・・・」。瑞穂は一心にペンを走らせる。出来上がった似顔絵を見て柳は興奮した。「この女だ、間違いない」。
耕輔は疑り深く柳に問った。「なぜ証言する気になったのか?」。柳は平然と「一つくらい良いことをしようと思った。信じるかしないかは刑事さん次第だ」と言い放ち、耕輔を睨み付けるのだった。
捜査一課の刑事たちは、似顔絵を眺めていた。そこへ鶴田が入ってきた。「被害者は1カ月前、暴行事件で被害届けを出している。相手はこの女だ」と写真を見せる鶴田。一同は絶句した。まさにその写真の女・飯田あゆみ(赤坂七恵)は、柳が話し瑞穂が描いた似顔絵そのものだったのだ。
飯田あゆみは半年前まで被害者と同じ美容院で働いていたが、あゆみの恋人が被害者のもとへ走り、逆恨みしたあゆみが被害者を再三困らせていたのだという。刑事たちの周辺捜査や張り込みが始まった。美容院勤めということで「つん」とくるパーマ液の臭いがする。さらに被害者の携帯にはあゆみからの100件近い着信履歴が確認された。事件の晩のアリバイもない。「三角関係の果ての怨恨殺人か」。刑事たちの心証は固まった。だが、死体に文字を書くことなど解けない疑問は残っていた。
瑞穂はカウンセラーの樋口(余貴美子)に飯田あゆみが犯人であるのか疑問を持っていることを打ち明けた。実は、樋口も疑問を抱き、その朝、柳に面会に行っていたのだ。樋口はあゆみのことより柳に興味があると言い出した。「死刑囚の目じゃない。目に生きようとする意志がある」と言う。瑞穂はその言葉で何か感じた。
瑞穂は勝手にあゆみの美容院へ出かけあゆみにカットを頼んだ。そして「こめかみの傷」のことを探った。それは3歳の時についたという小さな傷であった。
外に出て瑞穂は耕輔たちに捕まった。「邪魔するな」と怒鳴る耕輔に、瑞穂は「あゆみは犯人じゃない。あの傷は、小さすぎて他人が分かるわけがない。柳との関係を調べるべきだ」と進言する。
瑞穂と耕輔は、あゆみが生まれた家を訪ねた。そこは空き家だったが、近所の老人が話してくれた。老人によると「柳が住んでいたのは20年前で、あゆみという3歳くらいの娘がいた。家庭内暴力で母娘は出て行った」と言う。柳とあゆみは親子だったのだ。
「なぜ、父親が娘を殺人犯だと証言するのか」・・・・・・。刑事たちは不思議がった。だが、耕輔だけは冷たく断じた。「捨てられた恨みだ。憎しみが深いから、小さな傷だって覚えているんだ」。その口調の強さに一同はまた驚かされた。実際、柳とあゆみが親子であっても殺人犯でない理由にはならない。
なんと、そこへ、また変質的な女性殺害の一報が飛び込んできた。耕輔たちが現場に急行するとマジックの書き置きなど全く同じ手口である。玄関には通販の荷物が。だが、なんと被害者はまだ生きていた。「救急車!」。叫ぶ耕輔たち。さらに驚くべき情報も飛び込んできた。その犯行時間帯は、あゆみにアリバイがあったのだ。耕輔は、もしや、この犯人は16年前の犯人と同一人物ではないかと疑い始めていた。
この事件を探る内村は、最初の被害者のマンションをもう一度調べに行った。ドアの前に通販の宅配カタログが置いてある。通り掛った主婦に声をかけた。主婦はその通販の宅配業者が感じが悪かったから取るのをやめたと、話してくれた。何かピンとくる内村。署に戻った内村は、瑞穂に「被害者は二人とも同じ通販を取っていた」と耳打ちする。
瑞穂はすぐに捜査一課に上がり耕輔にそのことを伝えた。耕輔もすぐに理解した。
が、被害者が生きていると聞いた瑞穂は、声を上げた。「危ない!」。
被害者が入院する病院を私服の刑事が取り巻いた。被害者の面会謝絶の病室に出入りする看護士は瑞穂である。と、そこへ見知らぬ女性看護士がやって来た。看護士は寝ている被害者の横で注射器をとりだした。「手を離せ!」。暗がりから飛び出してきたのは耕輔。「この野郎」と起き出した被害者は、なんと佐藤だった。耕輔が看護士に飛び掛るとかつらが飛んだ。女ではなく男であった。男はナイフを振り回し戻って来た瑞穂に切りかかる。かばう耕輔の洋服が切り裂かれ、素手で刃を受けとめた耕輔の手から血がしたたる。結局、男は取り押さえられ、「16年待った甲斐があった」と佐藤に手錠を掛けられるのだった。
男は山口(みのすけ)といい、自宅から16年前の事件を示す写真が発見された。山口は、その直後、別件で逮捕されて16年間収監されていた。「つん」とした臭いは写真の定着液だった。山口は女性になりたい願望があり、あこがれ愛しているのに嫌な目に遭わせる女に対し嫉妬と怒りを抱いていたのだ。
また、最初の被害者とあゆみの関係も本当のところは、加害者と被害者が逆だったことが分かった。恋人を奪ったのは被害者の方で、最近冷たくなったその恋人があゆみのもとへ戻ったのではないかと疑った被害者が、あゆみを追い回したのだった。
だが、柳は、なぜ実の娘を犯人と証言したのか? 耕輔と瑞穂は再び柳を訪ねた。瑞穂は「あの似顔絵の主・あゆみさんはあなたの娘さんだったのですね」と問い詰めた。だが、柳は山口が拘置所で一緒だったことは認めたものの「似顔絵は記憶違いかもしれない。あゆみなんて知らない。似顔絵が似ていたとすれば偶然だ」と立ち上がる。
そこへ、耕輔が怒鳴った。「上手く警察を利用したつもりかも知れないが、お前の壊した家族は二度と戻らないんだ。お前に人を愛する資格なんかない」と激昂する。柳は静かに振り向き、「娘に会えるなんて思ったことはない。私は家族が出て行った時に死んでるんだ。ただ、最後にあの子を守り抜くまでは生きるんだと思っただけだ」と答え、瑞穂に「あんたは本物だ。また娘に会えた」と言い残し扉の向こうへ消えていった。帰り道、耕輔と瑞穂は、互いに遠くを見つめるのだった。