顔
#1 似顔絵が暴く心の謎
K県警の女性警官である平野瑞穂。彼女は自分の所属する広報課の職務を越えて、目撃した痴漢を単独で捕まえようと奮闘してしまうほど、正義感が強く前向きな女性。時には周りが見えずに突き進むこともある。
入署当初は、絵の腕を見込まれて、鑑識課の似顔絵捜査官を務めていた。しかし、ある事件で捜査を撹乱させるトラブルを起こし、広報課に左遷されたのであった。今村室長をはじめとする広報課の人々は、そんな瑞穂に何かと冷たい視線を向ける。
実は瑞穂には、ある特殊な能力があった。自分の描いた似顔絵の微妙な表情から、その絵の人物や、それを描かせた人の心を読みとる事ができるのだ。
一方、K県警刑事部捜査一課には、他署から移ってきたばかりの若手刑事、西島耕輔がいた。彼は、前の署でいわくつきの男。上司の強行捜査班六係リーダー・鶴田警部は、耕輔を案じながらも、刑事としての腕を買っていた。
その耕輔には、幼い頃、母親が何者かに殺され、自分がその第一発見者になるという過去があり、それが起因して、彼はある女性暴行事件の犯人を殺す寸前まで殴りつけるという騒動を起こし、K県警に異動になったのだった。
その事実を唯一知る鶴田警部は、カウンセラーの樋口京子の治療を受けるよう勧めていた。
そんな瑞穂と耕輔は、ある日県警の廊下でぶつかる。抱えていた資料を落としてしまった瑞穂は、何も言わずに歩いていこうとする耕輔に謝るように呼び止めたが、耕輔は瑞穂を睨みつけて足早に去る。
「警察に女はいらない」というのが、耕輔の持論なのだ。
管内では、連続した放火事件が発生していた。ライバル関係にある鶴田班と亀田班は競って捜査に乗り出していた。耕輔も、新米刑事の尾崎を連れて、連日徹夜で放火犯を追っていた。一度、耕輔は犯人らしき人物を目撃し、追いつめたが、寸手のところで尾崎のミスにより、取り逃がしてしまう。鶴田から大目玉をくらう耕輔。
一方、瑞穂は広報課で、放火犯を知っているという女性からの電話を受けた。それがただの悪戯とは思えない彼女は、警務課で同期の加奈子が止めるのもきかず、独りでその女性・中嶋しおりのもとへと向かった。
しおりは、瑞穂に、自分の叔父が犯人であり、いずれ自分のところへ復讐に来ると告白し怯えた。かつて、彼女の両親は放火によって殺され、その犯人として叔父・中嶋健二が捕まっていたのだ。
瑞穂の単独行動を知った耕輔は、「女が余計なことをするな!」と言う。そんな彼に向かって、「西島さんの顔が見えない」と呟く瑞穂。瑞穂には耕輔の本当の心が見えないというのだ。その言葉にはっとする耕輔。
一方で、捜査が停滞する放火事件をしつこく調べ回っていた記者の内村は、放火現場の写真を見ていた瑞穂と加奈子の会話から、ある人物に的を絞り、記事を書き始めていた。
耕輔に無理に中嶋健二の調査を依頼し、意外な事実を知る瑞穂。健二はすでに服役直後に自殺していたという。
瑞穂と耕輔は、当時事件を担当した元刑事・石田の家を訪れる。そこで、石田から、金や暴力でトラブルの絶えなかったしおりの父親に比べ、穏和で人柄の良かった健二が、しおりの母親と関係があり、しおりはその子供ではないかという推論をきく。
しおりの証言を元に描いた健二の優しい似顔絵の表情に気づき、実はしおりは健二を慕っていたのではないかと思う瑞穂は、西島と共にしおりを問う。
「憎んでいたのではなく、本当は愛していたのではないか」と。
しおりは戸惑いながらも、少しずつ記憶を取り戻す。
放火によって両親を殺したのは、実は5歳のしおりであった。父親からの虐待に堪えかねた幼いしおりが、両親の寝ている間に火をつけ、それを知った健二がしおりをかばって罪を被ったのであった。
健二の自分への愛を思い出して、涙を流すしおり。
しおりの部屋からの帰り道、瑞穂はある男とすれ違う。その男こそ世間を騒がす放火魔と確信した瑞穂は、跡を追い、路地裏に追いつめて果敢に立ち向かったが、逆に反撃をくらう。しかし、間一髪のところで耕輔達が駆けつける。暴力的な犯人を見て、発作的に犯人を殴り続ける耕輔。驚いた瑞穂が、必死になって耕輔を抑えつけた時には、犯人は逃げることもできなくなっていた。
捕まった放火犯は、消防隊の一員であった。彼は、自分でつけた火を、何食わぬ顔で駆けつけては消していたのである。それを、いち早く記事に抜いたのは、瑞穂の周りで抜け目なく目を光らせていた、内村のみであった。瑞穂を見かけて「サンキュー」と言う内村に、瑞穂は首をかしげるばかり。
翌朝、広報室へ出勤してきた瑞穂の目の前には、しおりの姿があった。
過去を全て清算し真の自分を取り戻すために、過去の放火事件の真相を告白しに来たしおりは、晴れ晴れとした表情で瑞穂に感謝の言葉を告げ、毅然と県警の中へ消えていった。
その後ろ姿を、瑞穂は「頑張って」と呟きながら、笑顔で見送る。
そんな二人を見つめる耕輔・・・。
耕輔は、単なる女性警官とバカにしていた瑞穂のことが気になる。
「なぜあいつだとわかった」という耕輔の問いに、瑞穂は放火現場の写真を見て、何となく犯人を見抜いたと答える。
「俺の顔、見えたかよ?」
「人の顔なんて、そう簡単に見えるものじゃありません」
と茶目っ気たっぷりに微笑み、明るく仕事に向かうのである・・・。
入署当初は、絵の腕を見込まれて、鑑識課の似顔絵捜査官を務めていた。しかし、ある事件で捜査を撹乱させるトラブルを起こし、広報課に左遷されたのであった。今村室長をはじめとする広報課の人々は、そんな瑞穂に何かと冷たい視線を向ける。
実は瑞穂には、ある特殊な能力があった。自分の描いた似顔絵の微妙な表情から、その絵の人物や、それを描かせた人の心を読みとる事ができるのだ。
一方、K県警刑事部捜査一課には、他署から移ってきたばかりの若手刑事、西島耕輔がいた。彼は、前の署でいわくつきの男。上司の強行捜査班六係リーダー・鶴田警部は、耕輔を案じながらも、刑事としての腕を買っていた。
その耕輔には、幼い頃、母親が何者かに殺され、自分がその第一発見者になるという過去があり、それが起因して、彼はある女性暴行事件の犯人を殺す寸前まで殴りつけるという騒動を起こし、K県警に異動になったのだった。
その事実を唯一知る鶴田警部は、カウンセラーの樋口京子の治療を受けるよう勧めていた。
そんな瑞穂と耕輔は、ある日県警の廊下でぶつかる。抱えていた資料を落としてしまった瑞穂は、何も言わずに歩いていこうとする耕輔に謝るように呼び止めたが、耕輔は瑞穂を睨みつけて足早に去る。
「警察に女はいらない」というのが、耕輔の持論なのだ。
管内では、連続した放火事件が発生していた。ライバル関係にある鶴田班と亀田班は競って捜査に乗り出していた。耕輔も、新米刑事の尾崎を連れて、連日徹夜で放火犯を追っていた。一度、耕輔は犯人らしき人物を目撃し、追いつめたが、寸手のところで尾崎のミスにより、取り逃がしてしまう。鶴田から大目玉をくらう耕輔。
一方、瑞穂は広報課で、放火犯を知っているという女性からの電話を受けた。それがただの悪戯とは思えない彼女は、警務課で同期の加奈子が止めるのもきかず、独りでその女性・中嶋しおりのもとへと向かった。
しおりは、瑞穂に、自分の叔父が犯人であり、いずれ自分のところへ復讐に来ると告白し怯えた。かつて、彼女の両親は放火によって殺され、その犯人として叔父・中嶋健二が捕まっていたのだ。
瑞穂の単独行動を知った耕輔は、「女が余計なことをするな!」と言う。そんな彼に向かって、「西島さんの顔が見えない」と呟く瑞穂。瑞穂には耕輔の本当の心が見えないというのだ。その言葉にはっとする耕輔。
一方で、捜査が停滞する放火事件をしつこく調べ回っていた記者の内村は、放火現場の写真を見ていた瑞穂と加奈子の会話から、ある人物に的を絞り、記事を書き始めていた。
耕輔に無理に中嶋健二の調査を依頼し、意外な事実を知る瑞穂。健二はすでに服役直後に自殺していたという。
瑞穂と耕輔は、当時事件を担当した元刑事・石田の家を訪れる。そこで、石田から、金や暴力でトラブルの絶えなかったしおりの父親に比べ、穏和で人柄の良かった健二が、しおりの母親と関係があり、しおりはその子供ではないかという推論をきく。
しおりの証言を元に描いた健二の優しい似顔絵の表情に気づき、実はしおりは健二を慕っていたのではないかと思う瑞穂は、西島と共にしおりを問う。
「憎んでいたのではなく、本当は愛していたのではないか」と。
しおりは戸惑いながらも、少しずつ記憶を取り戻す。
放火によって両親を殺したのは、実は5歳のしおりであった。父親からの虐待に堪えかねた幼いしおりが、両親の寝ている間に火をつけ、それを知った健二がしおりをかばって罪を被ったのであった。
健二の自分への愛を思い出して、涙を流すしおり。
しおりの部屋からの帰り道、瑞穂はある男とすれ違う。その男こそ世間を騒がす放火魔と確信した瑞穂は、跡を追い、路地裏に追いつめて果敢に立ち向かったが、逆に反撃をくらう。しかし、間一髪のところで耕輔達が駆けつける。暴力的な犯人を見て、発作的に犯人を殴り続ける耕輔。驚いた瑞穂が、必死になって耕輔を抑えつけた時には、犯人は逃げることもできなくなっていた。
捕まった放火犯は、消防隊の一員であった。彼は、自分でつけた火を、何食わぬ顔で駆けつけては消していたのである。それを、いち早く記事に抜いたのは、瑞穂の周りで抜け目なく目を光らせていた、内村のみであった。瑞穂を見かけて「サンキュー」と言う内村に、瑞穂は首をかしげるばかり。
翌朝、広報室へ出勤してきた瑞穂の目の前には、しおりの姿があった。
過去を全て清算し真の自分を取り戻すために、過去の放火事件の真相を告白しに来たしおりは、晴れ晴れとした表情で瑞穂に感謝の言葉を告げ、毅然と県警の中へ消えていった。
その後ろ姿を、瑞穂は「頑張って」と呟きながら、笑顔で見送る。
そんな二人を見つめる耕輔・・・。
耕輔は、単なる女性警官とバカにしていた瑞穂のことが気になる。
「なぜあいつだとわかった」という耕輔の問いに、瑞穂は放火現場の写真を見て、何となく犯人を見抜いたと答える。
「俺の顔、見えたかよ?」
「人の顔なんて、そう簡単に見えるものじゃありません」
と茶目っ気たっぷりに微笑み、明るく仕事に向かうのである・・・。