数々の有力選手を指導する長光歌子さんが
フィギュアスケート界を楽しく語ります!

歌子の部屋

最終回

対談企画 ゲスト:村元哉中選手&髙橋大輔選手

 今回で歌子の部屋は最終回を迎えることとなりました。そこでジュニア時代から長光歌子先生に師事し、現在は現役の日本男子選手で最年長である、バンクーバーオリンピック銅メダリスト髙橋大輔選手と、そのパートナーでオリンピアンの村元哉中選手にアイスダンスや歌子先生についてお話を聞いてきました。

アイスダンスの面白さについて

ふたり

どちらも面白いんですが、始めるまではダンスがこんなに奥が深いとは思ってなかった…。まずルールがすごく難しい。

ISUのコミュニケーション(通達)に競技のルール説明があるんですが、シングルとかペアのルールが10ページくらいだとすると、アイスダンスは30ページくらいあるんです。

シングルの先生で良かった(笑)。

本当に細かいんだよね。

そう。細かいし「嘘でしょ?」っていうルールがあるんです。たとえば『パターンダンスの時にリンクの半分を超えちゃダメです』って、でもそれでディープに滑れって言うんです。ディープに滑ったら半分越えちゃうよね!みたいな(笑)。なんかそういう細かいルールがいくつかあって、アイスダンスはその中で独創性を出さなきゃいけないんです。

ストップ(静止)は5秒2回か10秒1回だけとか。

ステップ中にループを描いちゃダメとか。

ループないの?

ループはないんですよ。

ステップ中だとちょっと戻る感じでも「ああ、これループだね」って減点取られちゃう。まっすぐはいいんだけど、ちょっとでもカーブつくと…って基準が難しい。振付をする時にルールに従って振付をしないといけないので、それが大変ですね。

大変やねー!

細かいルールはもっとたくさんあります(笑)。

全日本の時はリンクにスケート連盟のマークが真ん中にあるだけで、両脇の線(アイスホッケーのライン)がないじゃない?シングルの選手たちはそれがないからスタートやジャンプの位置がよくわからなかったり、ちょっと迷ったりすることがあるのね。それで、大輔に「全然線がないけど大丈夫なの?」って言ったら、「線がないことに助けられてることがある」って聞いて、「へえそうなん?どういうことなん?」って聞いて、その時にそういう難しいルールがあるんだって私は初めて知りました。

真ん中越しちゃうとステップがカウントされなくなっちゃう。

若干そのラインが曖昧だったよね(笑)。あと公式練習の一発目の練習が本当に緊張するね。

緊張する?

普段は小さいリンクで練習しているけど、試合会場に行くと急にスピードが出るし距離感がわからなくなって、同じことをしていても全然違うんです。

フロリダのハーツのリンクはノースアメリカンサイズ(長さ約61m、幅約26mで幅が約4m小さい)なの?

そう。氷もちょっと汚い氷だよね。

わざと汚い氷で滑らされるんですよ。

でも本当に汚い時もあって(笑)。

そろそろ言った方がいいよね。滑ってて本当に汚くて(笑)。だから試合に行くと氷が綺麗すぎてスピードが出すぎるんです。前回の世界選手権でも「滑りやすいでしょ」って言われて、滑るけどちょっとスピード出すぎて怖いみたいな(笑)。

そうなるよね。

急に空間が広くなるから距離感がわからなくなって、『いつものところとこんなにも違うんだ』って。前半はそれがすごすぎて毎回緊張してました。シングルでは自分の感覚で調整できるけど、アイスダンスは公式練習から試合なんです。シングルは本番で何が出るかわからないし調整が結構できるんですけど、アイスダンスは公式練習で順位が決まってくるんです。

アイスダンスの公式練習は、絶対にジャッジもスペシャリストもみんな見に来ていて、もう採点が始まっているような感じですね。だから絶対みんな衣装とメイクをして練習に出ます。

曲かけは絶対に見られるから、プレッシャー半端ないです(笑)。

曲かけも全部通すチームはあんまりいないんですけど、どこを見せたら良いかとかは考えています。だからもう全部考えなきゃいけない。

公式練習で失敗できないんです。だから公式練習の集中力の高さはシングルの時とは違いますね。

それだと試合までにすごく疲れるね。

シングルだったら「ジャンプで転んだ、回転が足りない」とかなんですけど、アイスダンスだとリフトでもいろんな要素を組み込んでレベルが決まるので、それを1回本番で見ただけではスペシャリストが判断できない場合があるんです。なので公式練習からどのキーポイント、どの要素を入れてレベルを取っているかというのをチェックも兼ねて見ているんです。順位をつけているわけではなく、技術力を把握する感じですね。

大きいミスがない競技なので細かいところを見られますね。

どのくらいのレベルかなとか、どういう要素を入れてるのかなって見られていますね。

あとはスケーティングのパターンとか、緊張して本番で急に使えない時もありますからね(笑)。

シングルだと公式練習に誰も来てない時はあるけど、どんなに小さな試合でも審判には見ておいてもらいたいよね。この選手はどれくらいのレベルなんだとかステップはどうだとか見ておいてほしいと思うところがありますね。ダンスはそうなんだ。

だいたいジャッジの人は来ますね。

競技の見方も変わるよね。本番1回見ただけではレベルもわからないし…。面白い!

大輔

シングルの頃からアイスダンスは見ていた?

僕はアイスダンスも大好きで、小さい時から見ていました。

ジュニアの時から好きで試合も観に行ってたよね。

昔のダンスチームは大ちゃんの方が詳しいんですよ。

昔はね。あとニコライ(・モロゾフ)の所にいた時は、アイスダンスの人たちの中で練習させてもらっていました。

あの頃はアイスダンス5・6組いたよね。

そう、5・6組いてその中で1人だけシングルの練習してた。今思えばすごく邪魔だったと思う。本当にダンスやりだして最初の頃は周りが見えなくて、すごく練習が難しかったんですよ。こんなにもダンスのカップルの人たちって周りが見えてなかったんだって思って、トップ選手は見えてると思うけど、シングルより1人が顔動かしただけでコースとかパターンが変わっちゃうから、あんまり動かせなくて、ちょっとの動作でぶつかって、周りも見たいんだけど危ないから逆に引っかかってしまって。

そうなんだ!

だから相手を信じるしかないんですよ。

でも今回の世界選手権はすごかった。落ち着いて周りを見れてて、絶対譲らないみたいな。

そうだね。自分でびっくりしました。

私もびっくりしました。

普段は譲りがちなんだけどね。

でも公式練習でも怖いよね。よくやってるなと思う。

怖い。みんな強いから譲らないよね。

どかない。こんなに怖いとは思わなかった。ビビりだからね。

大輔は昔から動体視力がいいから、来るなと思ったらすっと避ける方だったでしょ。それを最後まで押してるからすごいと思って。

怒られる、避けたら怒られる!と思って(笑)。やっぱりアイスダンスは強さも出していかないといけないから。

長光歌子(ながみつ うたこ)
長光歌子(ながみつ うたこ)