数々の有力選手を指導する長光歌子さんが
フィギュアスケート界を楽しく語ります!

歌子の部屋

vol.40

対談企画 ゲスト:池田美佳さん

有名アーティストのMVにも出演し、コンテンポラリーダンサーとして活躍する池田美佳さんに、ダンスについてお話を聞いて来ました。

床と氷上の違いについて―

長光歌子先生

私、髙橋大輔さんの演技に興味を持つようになってからもの凄いフィギュアスケートを見ていたので、自分でもきっと滑れるものだと思っていたんですが、滑ってみたら全然滑れなくてびっくりしました。頭の中じゃ華麗にスピンとかしてるんですけど、一歩前に進むのも困難で…(笑)

初めからしっかり指導を受けると全然違うんですよ。道具も貸し靴ではなく、ちゃんとした靴を履くことで全然違いますよ。

そうなんですね!そういえば以前、髙橋大輔さんが舞台で踊られたことがあったじゃないですか。

はい、ありましたね。

それを観に行った時に、わりとコンテンポラリーな動きがあったり、コンテのフロアテクニックをやられていて、おっ!!っとなりました!感動しました。

観てくださったのですか?恥ずかしいです。私あれ見た時、胃が痛かったですから…

そうなんですか?

スケートと全然違って、床でバランスをとるのは本当に難しいと本人は言っていました。

確かに感覚は違うと思いますね。

スケートだったらエッジを倒したらバランス取れるじゃないですか。

いやいやいや、逆に氷の上でバランスとる方が難しいですよ!(笑)

池田さんの凄く高く足を上げて、片足でしっかり立って時間を取って、そこから動き始める動きなんか、本当に素晴らしいですよね。池田さんのような動きでスケートされたら選手は皆困ってしまうと思います。

私は逆に氷上で滑っているかのように滑らかに床で踊りたいなと思っています。髙橋大輔さんの舞台を観た時もいろんな可能性を感じました。

あの時、ダンサーさんは本当にみんな身体が柔らかくて、大輔はへこんでいましたね。

舞台・演技を魅せるということについて―

私の尊敬するダンサーの方曰く、我々は普段鍛錬してる身体や情熱が常に削り削られていっていて、その破片のキラキラがお客さんに届くんだと言っていて、確かにそうだなと思って。その日、その瞬間に最高の演技を魅せるために日々を過ごしているし、その一瞬の感動をお客さんと共有出来た時は幸せですよね。

私は動画でしか池田さんの演技を見ていないのですが、心を乗っ取られるという印象がありました。でも、そうしてやるぞ!という感覚はないんですか。

そうですね、そこまではないです。でも、コンクールなどの採点の場では、スタート位置、最初の一歩目で空間を支配する、というような人が強いですよね。髙橋大輔さんも最初のスタートの姿勢で皆の心を掴みますよね。人の心を掴むことに関しては、そうやってコンクールや競技の場でソロの3分なり4分を1人で成立させることを経験してきた人はやはり強いなと思います。

モダンバレエのコンクールでは時間制限はありますか。

コンクールによって違いますが、私が出ていたのはジュニアは予選1分、本選3分で大人になると予選2分、本選4分とかだったでしょうか。

フィギュアのショートとフリーみたいですね。

でもジュニアの1分とかの短時間で魅せたり掴むことの方が難しいんですよね。

それは凄く大変ですよね。

最初に舞台に出てきた時の雰囲気、そして最後に余韻を残して帰る人は「上手そう」っとなるし、続きが見たいと思わされますよね。

やっぱり印象に残るかどうかって大事ですよね。

コンクールによっては予選で半数から3割くらいに絞られるので、やはり短時間での印象は大事ですね。

スケートもブロック大会なんかは凄い人数でやるんですよね。ジャッジの方が点数をつけるんですが、その中でもずっと見ていて、記憶に残っている子は凄いなと思います。順位の出来不出来なんかはあったとしても、記憶に残っている子たちが上に行っている気はします。

ほんとに記録より記憶ですよね。私も最近大会の審査員をすることがありますが、順位なんてたまたまだなと思うことがあります。そこにいる審査員の点数を足していったら勝った子はいるけど、あとでみんなで話をしたら印象は他の子の方が強かったなんてこともあります。

フィギュアスケートの競技でも、私の受けた印象と順位が違うことがままありますね。魅せるということでフィギュアの選手が本当に恵まれていると思うのは30m×60mのリンクを独り占めできる事だと思うんですよね。

そうですね!バレエやほとんどの舞台は正面が前、お客様は一方方向だけですからね。

本当に贅沢な競技だと思います。

フィギュアスケートという競技について―

フィギュアスケートの難しいところって失敗が失敗だと明らかにわかってしまうところだなぁと思うんです。クラシックバレエも規定がある分失敗がすぐにわかってしまうのですが、コンテンポラリーとかでは例え失敗した時もそれを失敗に見せないようにいかにカバーするかも見せ方の妙だったりするので、例えばターンやジャンプの軸がずれたらそれもそれで面白い動きに変形させたりして失敗を踊りでで隠せるんですよね。なので成功・失敗が一目でわかってしまうフィギュアスケートは、本当にシビアだと思います。でも芸術は芸術、技術は技術でいいじゃないか!とダンサーとして思うこともあります。

技術の審査員と芸術の審査点を分けようって話はよく出ますね。

フィギュアスケートは本当にスポーツと芸術の瀬戸際ですよね。競技を見ていてソチオリンピックの時なんかは夜中じゅう、胃をキリキリさせながらテレビにかじり付いていました。テレビでもあんなに緊張するんだから歌子先生はそれはもう大変なんじゃないでしょうか。

池田さんも何度も経験を積まれているのでわかると思うんですが、私なんかは最近心臓に毛が生えだして(笑)

でも何だか経験を積むほどにだんだん緊張していく事もありませんか。

うーん、そうですね。緊張はするんですけど「今こういう舞台にいるんだな」というゾクゾク感が強いです。緊張はするんですけど「ここにいることの喜び」みたいなことを強く感じますね。そこに来たくて頑張ってきた子たちがいるんだからって。

それはありますね!舞台の袖で出番を待っている時や、舞台上から見る景色を見たときにはその喜びを感じますね。

観客の顔は見えるんですか。

見えません。と言うかあまり見ないようにしています…(笑)

舞台は上にありますし、リンクは下にあるから見え方も違いますよね。フィギュアの選手は先生の顔が見えたりなんかします。

確かに、随分目立つところにいらっしゃいますよね。

叫んだりフェンス叩いたりしていますからね(笑)

あれって本当に叫んでいるんですか?

本当は叫んじゃいけないんですけど、叫んでますね(笑)

よく見ますね(笑)あと、フィギュアスケートを見るようになって、これまで聞かなかったタイプの曲を聴くようになりました、プログラムを見てより興味深く聴こえるようになった曲もあります。

そういわれるとスケート選手は喜びますよ。どんな曲が好きなんですか。

私は坂本龍一さんの曲のような感じの曲とか、映画音楽とか、ドラマのある壮大な曲が好きなんですが、昔はもう少しマニアックな、ノイズだけの曲とかで踊っていました。

それは凄いですね。スケーターでも、上手い人ほどリズムがなくても表現できるんですよ。

長光歌子(ながみつ うたこ)
長光歌子(ながみつ うたこ)