数々の有力選手を指導する長光歌子先生が
フィギュアスケート界を楽しく語ります!

歌子の部屋

vol.35

全日本選手権2018を終えて

5年ぶりの出場となる髙橋大輔選手と共に臨んだ全日本選手権。終了後に振り返っていただきました。

2019.1.28

長光歌子先生

髙橋大輔選手について―

■髙橋大輔選手の5年ぶりの全日本までのチャレンジ、ずっとそばで見てきていかがでしたか―

 夏の合宿の前あたりから(髙橋)大輔の滑りはとても良くなってきていたのですが、合宿中盤には内転筋の肉離れを起こしてしまい、9月に入って氷上練習を開始してからも靴が合わず膝の痛みが出たりして、近畿ブロック大会前は夏の良い時とはほど遠い状態でした。ですので、近畿ブロック大会直前には全部2回転ジャンプにしてもいいじゃない?とにかく西日本に進もうと大輔に話したほどでした。でも会場に入って、あれだけお客さんが入ってくれているのを見て、これはやはり変な演技を見せられないと感じました。それでも私としては大輔の足の状態が心配でしたし、演技の中でお客さんが求めているものの一端でも見せられればいいなという感じでした。ですが、大輔はあの状態でショートプログラムをノーミスで滑り切ったんです。本当に大したものだと驚きました。
 今季、靴に関しては本当に苦労しました。大輔の足の裏の感覚は特に床のダンスの舞台を経験してからは本当に繊細になり、膝の調子によってエッジの乗る位置が毎日変わってしまうほどで、本当に悩ましく感じました。西日本選手権までに靴のサイズを変えて、近畿ブロックより凄く良い状態で試合に臨め、4回転ジャンプを入れていないという課題は残しつつも優勝というお土産も貰えて凄く嬉しかったようです。あんなに嬉しそうにインタビューに答えているのを見て、私も嬉しくなりました。ソチの時は本当に悲壮感一杯で、周りもファンの皆さんもみんな心配をしてくださっていたので、西日本ではお客さんにも復帰を楽しんでもらえて本当に良かったなと思います。
 現役を退いていた間、アイスショーや舞台に出る時には現役の頃のような緊張感のあるいい目をしていたのですが、今シーズンは練習も含め、ずっと目を輝かせていて、私は側で見ていて本当に嬉しかったです。
 全日本選手権では、「2位になってもっと素直に喜べるかと思ったけど、今回喜べなかった、やっぱり順位じゃないんですよね、この結果は何かを啓示されている気がします」と大輔も言っていましたが、私もこれで辞めてほしくないと思います。あまりにも完璧に終われなかった全日本というのが、逆に大輔の次へのモチベーションになったのではないかなと感じました。もっと良いフリーを試合で見てみたいですよね。
 今回若い選手たちには、大輔の結果が悪かった時の人間性を見ていて欲しいなと思います。順位が落ちてしまった時や上手くいかなかった時、その人の人品が一番見えてしまう。大輔はそういう時の態度がとても良いです。ほかの生徒達にもそこを感じてほしい。特に(三宅)星南君にはよくそう言い聞かせています。

■全日本選手権の演技を見ての感想は―

 アイスショーやダンスの舞台を経験したおかげもあると思いますが、色々なうまみが増したと感じました。フリーの冒頭の独特の身体の使い方なんかは、大輔の他にできる選手は少ないんじゃないかと思います。また、エキシビションのアンコールの、マンボのステップも現役の頃よりもキレが増したと感じました。メダリスト・オン・アイス直前の練習を見ていましたが、ショーナンバーの衣装ではなく練習着でしたので本番より動きやすいこともあり、もうキレッキレやな!!とちょっと感動しました。
 西日本選手権から全日本までの試合へのアプローチは本当に奇跡のようで、さすが大輔!!とゾクゾクする思いで見ておりました。でもフリーは、あれだけ良い状態で臨んだのにあの演技しかできなかった。試合後しばらくしてから、4年間のブランクとはこれなんだ!!と納得しました。4年前の現役の大輔なら、あのプロセスであれば4回転も他のジャンプも全て決めたと思いますので。

長光歌子(ながみつ うたこ)
長光歌子(ながみつ うたこ)