数々の有力選手を指導する長光歌子先生が
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歌子の部屋

vol.12

対談企画 ゲスト:前田真美さん

ISU公認のジャッジで、国内外の大会ではジャッジやレフェリーなどを行う前田真美さんにお話を伺いました。

ジャッジの新体制について

前田真美さん

昨シーズンまでは、ジャッジの採点は匿名制でしたが、今シーズンから採点した方のお名前が出るようになりましたね。それについてはどう思いますか?

ジャッジの方は、みんな喜んでいると思います。難しい試験を通過して皆さんすごく勉強してジャッジという立場に立っているわけですから、やりがいにもなりますし、自分のつけた点数が名前と一緒に出ることで責任感ももっと出てくると思います。匿名だとジャッジが誰でもいいじゃないかって思われますから

前田さんにとって印象に残っている試合

前田さんが今まで見てきた大会の中で印象に残っている試合はありますか?

いっぱいあるんですけど、ジャッジになってすぐに行ったインカレが思い出に残っています。その試合で引退される女性のパフォーマンスが心にぐっときて忘れられないですね。音楽の感じ方が本当に素晴らしくて、今でも覚えています。後は札幌での全日本選手権(2012年)の髙橋大輔さんのフリースケーティングも覚えていますね。あの演技はすごかったですね。ジャッジ席に座っていると選手のエネルギーを強く感じるんですけどあの時の演技は、体が震えました。

あの時は、ショートプログラムの結果への怒りもあったと思います。

人間は動物なんですよね。エネルギーをものすごく放出するんだと思います。ジャッジの体調って本当に大事で、体調が悪いと選手のエネルギーにやられてしまうんです。

確かにあの時の(髙橋)大輔のエネルギーはすごかったですね。リンクサイドにいる私も感じました。中々ああいった魂を震わすような演技には出会えないですから、出会えたことを喜ぶべきですよね。

スポーツ選手は、そういう動物的な感覚って必要なんですよね。

それがスポーツだと思います。動物的な強さとかエネルギーが、観ている人を魅せるんですかね。

人が他人に印象を与える時にはそういったものが多少なりとも必要ですよね。いくら上手く踊ってもそれがないと感動はないんですよね。

ジャッジ視点から見るフィギアの楽しみ方

前田さんならではのフィギュアスケートの観戦の方法などはありますか?

スケートの面白さっていうのは、やっぱり「滑る」っていう事ですよね。『エッジ的表現』っていうのがあると思いますが、わかってもらうのはすごく難しいんですよね。どれだけ自在にエッジの深さやスピードコントロールができるかによって表現できることが全然違ってくるじゃないですか。真っすぐしか滑れない人はどこまで行っても直線的な表現しかできないけど、滑る、カーブを自在に操れるっていう人は表現できる幅が全然違いますよね。そこを見るのが私は好きです。

パトリック・チャンを見ると、自分の体の一部のようにエッジを動かしていますよね。

そうですね。ジャッジはエッジの滑る音を耳でも聞いてるんですよ。滑っているときにガチャガチャしている人はスケーティングスキルが低いと判断される場合があるんです。エッジと氷が摩擦のないように滑っていければどんな動きをしても、音はしないんですよね。印象に残っているのは小塚崇彦さんです、本当に滑りが上手いですよね。

小塚さんは素晴らしかったですね。才能もあったと思いますが、小さい頃お父様からコンパルソリーをしっかり教えられたんだと思いますね。

才能と努力の賜物だと思いますね。スケートはスケーティングに始まってスケーティングに終わるものですから。

将来ジャッジを目指す人へ

これから将来のジャッジの未来について考えたりしますか?

ほとんどのジャッジの方が本業はサラリーマンです。社会的に正規雇用が増えない時代でいい加減に仕事はできないじゃないですか。そんな中でもジャッジはジャッジとしてのキャリアも積んでいかないといけないので継続的な努力が必要なんですよね。そういう状況でもこの仕事に魅力を感じてくれる選手がいたらとても喜ばしいことだと思います。私たちはそういう人を育てていきたいですし、現役を引退した後にもジャッジという選択肢があることを知っておいてほしいですね。

前田さんの頑張っている姿を見ると、ジャッジはそうそう簡単にできる事じゃないと思います。

やりたくても職場の理解もないとできないですしそこが悩ましいところですね。それでも、より多くの人にジャッジになってもらいたいと思います。選手時代の経歴がどうであれジャッジになるとまた一からの勉強になるんです。だからトップの選手じゃなくてもできるのがジャッジだと思います。

選手時代に努力してできなかったことでも、それからの努力次第でジャッジになれるということは、選手にとっても希望になりますよね。でもその努力は本当に厳しそうですけど。

そうですね。今の時代は特に難関です。それでもがんばってジャッジを目指してほしいと思います。

前田さんは、ジャッジを通してどのようにフィギュアスケートに貢献したいなどありますか?

そうですね…。ジャッジとして、いかにスケートに関わるかですが、先生たちは日々選手を注視していらっしゃるから選手たちを直接励ましたりできますけど、私たちはそれができないじゃないですか。だから、演技に対して正しい評価を出すことで、やる気を出してもらえたらなど、コーチとはまた別の角度からスケーターと一緒に育っていけるといいなって思っていますね。

前田先生が真面目に選手をやってきて、ひたむきにジャッジをやってきたことが今につながっているんですね。

選手だったら全員、ちゃんとしたジャッジに点数をつけてほしいって思いますよね。だったら自分がそんなジャッジになろうって思うのは全然不思議な事ではないと思いますよ。

その考えが、私たちコーチにしてみてもうれしいです。他人を評価するっていうのは本当に難しいですよね。でも私は前田真美さんや、岡部由紀子さん、小塚あゆみさんのような若い方々がこれからジャッジの世界を引っ張っていって、もっともっと若いジャッジの方々やこれからジャッジを目指す方々の憧れになって欲しいと思っていますよ。

そういうキャラかどうかわからないですけど、頑張ります!

今日は長い時間本当にありがとうございました。

ありがとうございました。

前田真美さん
長光歌子(ながみつ うたこ)
長光歌子(ながみつ うたこ)