<第7回> <第8回> <第9回>


<第7回>
 ガーディアンに代議士黒木達夫(団時朗)のボディガードの依頼が舞い込んだ。事務所にやって来たのは黒木の秘書、松坂芳江(戸田子)。黒木がナイフを持った暴漢に襲われた。芳江が自らの手に傷を負いながらも黒木の身を守ったという。「警察にも通報したのですが、全く見知らぬ男でした」。とはいえ政治家という仕事柄、どこで恨みをかっているとも限らない。「明日からでよろしいですか?」。京子(高島礼子)が黒木のボディガードを担当することになった。
 翌日、代議士事務所から京子に先導されて黒木と芳江が出てきた。「次は教育委員会でスピーチです。原稿は用意してあります」。芳江がきわめて有能な秘書であることに京子はすぐに気づいた。しかし黒塗りの高級車に乗り込む3人を物陰からじっと見つめる男がいることなど知る由もなかった。
 その頃、牧田(山口達也)は猿渡(寺田農)から命じられて、黒木を襲った男の素性を追っていた。牧田がバイクを飛ばしてやって来たのは、郊外の農村地帯。ごみ処理場の誘致問題をめぐって、黒木は地元農家ともめていた。
「おばあちゃん、この人知ってる?」
「帰れ!」
 牧田が黒木の写真を出すなり、その農家の平田道代(花原照子)は鎌を振り上げて、牧田を追い返そうとした。なんとか取りなして事情を聞き出すことができた。道代の土地がごみ処理場の候補地になったが、道代には先祖代々の土地を手放す気持ちはまったくなかった。ところが息子の明男(浅野和之)が勝手に実印を持ち出して、契約書に押してしまった。
「でも、それならこいつは黒木に恨みなんかないはずだろ」
「売った後にやっぱり思い直したんじゃないですか」
 牧田は自分が調べてきたことを立花(古尾谷雅人)に教えた。立花も上司からこの事件の捜査を命じられたのだ。とにかく明男という男が黒木を襲った可能性が高い。
「妻には何か予定が入ったと連絡しておいてくれ。南青山に行くから」「分かりました」
 事情が飲み込めないまま、京子も同行してみると、そこは黒木の愛人、安西美雪(中村綾)のマンションだった。
「ここはいいわ」
 芳江に言われて京子は車の中に残った。
 黒木を美雪の部屋に送り届けると、芳江はすぐさま車に戻ってきた。
「バカなことやってるって思うでしょ。日本の政治なんて、こんなもんよ」。黒木がいないので、芳江は少しぞんざいに京子にしゃべりかけてきた。芳江は初当選以来、20年ちかく黒木の秘書を続けているという。「彼とは関係あるの?」
「まさか」
 芳江はフンと鼻先で笑った。
 何気なく美雪の部屋を見上げた京子は、ハッと息をのんだ。男の手がカーテンをつかむと、見る見る間に血がにじんできた。
「来て!何か変だわ!」。京子が美雪の部屋に飛び込むと、黒木が血を流して倒れていた。おびえた美雪の前にはナイフを持った男がボウ然と立ち尽くしていた。明男だった。
「く、来るな!」。
 京子はナイフをかわすと、明男のみぞおちにパンチを叩き込んだ。「救急車を呼んで!」。
 芳江は受話器に飛びついた。
 黒木の手術は終わった。
「女の部屋にいたんでしょ」。病院に駆けつけた黒木の妻、美里(ただのあっ子)は芳江をなじった。「あなたのせいよ」。しかし芳江は動揺することなく、有能な秘書であり続けた。「事務所に戻ってマスコミ対策をしなければならないから、京子さん、ここに残って病室を見張っててもらえますか?」。党首選挙が近いので、黒木の容体を反対陣営に知られたくないという。芳江は足早に病院を出ていった。
 逮捕された明男の尋問は立花が担当した。
「美雪のためにやったらしい」。
土地売買の契約時に、明男と美雪は出会った。そして黒木が明男から買った土地を転売しようとしていることを美雪から教えられた。アメリカ資本のアミューズメント施設の計画があったのだ。「黒木を殺せばすべてが手に入ると、美雪にそそのかされたらしい。事件当日も美雪がドアの鍵をわざと外しておいたそうだ」。
 同じ頃、黒木の病室に張り付いていた京子は、ベッドの黒木を盗み撮りしようとした週刊誌のカメラマンをねじふせていた。その直後、黒木の容体が急変した。
「どうなった?」。京子からの連絡で芳江が病室に駆けつけた時、黒木はすでに息を引き取っていた。
 数日後、美雪の死体がホテルの浴室で発見された。手首を切っており、覚悟の自殺に思えたのだが、京子は何か釈然としないものを感じていた…。

<第8回>
 「ボディガードなど必要ない!経費の無駄だ」。京子(高島礼子)と牧田(山口達也)は思わず表情を強張らせた。
高城(東幹久)は証券会社の人事課長。リストラ対策本部のチーフを任されてから、脅迫状まで送りつけられている。総務部からボディガードを依頼されたのだが、本人には動揺の色は全くない。それでも爆弾小包を送りつけられるにいたって、京子のボディガードを黙認するようになった。「ただし人前ではわたしの部下で通してもらう」。それが高城からの条件だった。
 人事会議で高城はリストラ要員として、営業部の清水(岸博之)をリストアップした。部員から反対意見があがると、高城は興信所からの報告書を取り出した。清水は部下の女子社員と不倫していた。
「こういうものを上手く使うんだ」。あまりにダーティなやりかたに、人事部員たちは不快感で黙りこんだ。
「私は自主退職などしないよ」。営業成績に自信のある清水は強気だったが、それも高城から興信所の報告書を見せつけられるまでだった。「月末までに辞表を出して下さい」。清水は肩を落として部屋を出ていった。
「何か言いたいのか?」「別に」。
京子は私情を殺して、ボディガードの職務に専念するつもりだった。
 数日後、京子が高城に付き添って社員食堂に行くと、社員たちがあからさまに反感の目を向けてきた。さらに聞こえよがしの非難も耳に入ってきた。「業績を立て直しさえすれば、クビにされた者を呼び戻すことだってできるんだ」。気色ばむ社員をとりなしたのは山下取締役(河西健司)だった。それでも高城を憎々しげに見つめる社員もいた。「今に報いを受けるさ」。松川(市川勇)もそんな1人だった。
 「いつもは牧田をなだめているけど、今回ばかりは誰かなだめ役がほしいわ」。バー“ペイパーバッグ”に立ち寄った京子は、珍しく猿渡(寺田農)や由加里(立河宜子)相手にグチをこぼした。そこへ立花(古尾谷雅人)が浮かない表情でやって来た。新しい上司が同期で、おりあいが悪いらしい。
 「爆弾小包の手がかりは?」「素人の手口だ。普通のサラリーマンでも作れるものさ」。犯人へはつながりそうにない。
 経理部のオフィスで清水が首吊り自殺した。デスクのパソコンの画面には遺書めいた文字が残っていた。幼い娘を抱きしめて、妻の由希子(安藤香代子)は泣き崩れた。しかし高城は「バカな男だ」と吐き捨てるようにつぶやいた。
 その夜、京子が高城をマンションに送り届けてくると、暗闇から男が襲いかかってきた。「あんたのせいで清水さんは死んだんだ」。松川だった。高城はひるまなかった。「きれいごとを言うな。お前は自分の素行が調べられているのに気づいたんだろう」。松川はギャンブルで多額の借金を抱え込んでいた。逆上した松川の腕を京子がねじりあげた。「帰んなさい」。松川は逃げ去った。
 「会社が生き残るためには誰かがやるしかないんだ」。高城の苦悩を京子は垣間見た。
 牧田が有力な容疑者をつかんだ。鈴木明仁(井田州彦)。リストラ社員の1人で、退職後に自宅を手放して離婚。現在はアパートで1人暮らし。周囲に高城を殺してやりたいともらしているという。しかも鈴木の出したゴミから爆弾製造法の本が見つかった。「張りついて、何か変化があったら知らせてちょうだい」。京子は牧田に鈴木の監視を命じた。
 「鈴木が私を狙っているのか?」「まだなんとも」。高城には思い当たるふしがあるようだった。
 京子が高城とレストランで食事をしていると、意外な人物が姿を現わした。山下取締役だ。「私をリストラチームの責任者に任命したのは彼なんだ」。社員食堂で動揺する部下をなだめすかしていた山下には、全く正反対の隠された顔があったのだ。高城と京子は自殺した清水の家へ向かった。
 「帰って下さい」。高城の差し出した慶弔金を由希子は受け取ろうとしなかった。しかも仏壇の前には鈴木の怒りに満ちた顔もあった。「よくも顔を出せたな」。高城はおとなしく引き下がった。京子は気づいていた。あの慶弔金が実は会社からではなく、高城個人が用意したものであることを。
 その夜、残業を終えた高城と京子が駐車場に下りてくると、帽子で顔を隠した男たちが襲いかかってきた。京子は負傷しながらもなんとか高城の身を守りぬいた。立花が現場検証にやって来たが、残された車は盗難車で、指紋すら検出されなかった。
 「リストラされた恨みでここまでするものかしら」。京子の心にわき上がった疑惑は、立花から聞かされた清水の死因でさらに大きくなった。清水の首に残っていた跡は首吊りの状態とズレていたという。「つまり自殺に見せかけた他殺ということ?」。しかも営業マンだった清水がなぜ経理部で自殺する必要があったのか。「経理部でできることといえば、帳簿のチェック?」。ようやく事件の真相が京子の前に明らかになってきた…。

<第9回>
 「この2人、しばらくここで預かってもらえないかな」。トレーニングを終えた京子(高島礼子)がアパートまで戻ってくると、立花(古尾谷雅人)が見慣れぬ母娘と待っていた。飯田澄子(伊藤かずえ)と娘の麻美(山田さくや)は、失そうした夫を捜しに北海道から上京してきたが、到着した駅で偶然にも殺人事件を目撃した。殺されたのは情報屋の安田という男。澄子は後ろ姿しか見ていないが、麻美は犯人がナイフを刺す瞬間を目撃したらしい。
 「眠くなっちゃった」。澄子は東京に身寄りがないという。「判ったわ。いいわよ」。京子は母娘を部屋に入れた。仲むつまじい澄子と麻美を見ているうちに、京子はいつしか在りし日の雄二(近藤京三)とまり子(佐藤夏帆)の記憶をよみ返えらせていた。
 「ウチは北海道で農家をやってたんですけど」。不景気続きで澄子の夫、康志(吉田建)は出稼ぎで東京に来た。ところが今月になって連絡が途絶えてしまったという。勤務先のタクシー会社でも行方は判らないという。「それでこの子と2人で出てきたんです」。3人は迎えにきた牧田(山口達也)の車で警察に向かった。
 澄子と麻美は接見室に通された。「この中にいるかな?」。犯人の面通しだ。しかし麻美はきっぱり言った。「いない」。立花は落胆の色をのぞかせた。
 立花は新しい上司の柴田部長(佐戸井けん太)から犯人検挙を急かされていた。柴田は警察学校の同期生。「俺と同期のお前が出世して、誇りに思っているよ」。本人の前では取り繕っても、内心では面白いわけがない。
 翌日も面通しが続けられたが、麻美は首を横に振るばかり。
「どこかに寄って食事して行きましょうか」「その前に寄りたい所があるんですが」。京子は車を澄子の夫が働いていたタクシー会社へ向かわせた。しかし所長の対応は素っ気なかった。「こっちも困っているんだよ。売上金と車持ってドロンだもんな」。
 3人が事務所から出ると、所長の目を盗んで、女子社員がこっそり耳打ちした。「飯田さん、会社の若い女の子とできていたんです」。車の中には重苦しい空気が漂っていた。「あの人、私たちを捨てて、どこかへ行ってしまったのね」。澄子は涙声になった。
 京子がふとバックミラーをのぞくと、白バイが急接近し、京子の車に停車を命じた。不審に思いつつも京子は車を停めた。そして外に出るなり、警官が襲いかかってきた。不意をつかれて一度は車を強奪されたが、京子は負傷しながらも澄子と麻美を助けた。しかし警官は取り逃がした。「ナイフで刺したの、あの人でした」。麻美はきっぱりと言い切った。
 京子はガーディアンの事務所に戻ってケガの治療をした。
「大丈夫か?」。立花によると、白バイは先月警察から盗まれたものだった。
「ちょっとこのファイルを見てくれるかな」。立花は写真ファイルを麻美の前でめくりだした。「この人です」。立花の浮かない表情を見て、猿渡(寺田農)が口をはさんだ。「お前、このリスト、ひょっとして」。立花は重い口調で言った。「ここ3年の警察官の退職者リストなんだ」。
 犯人の名前は長友啓一(伊達昌平)。暴力団から押収した拳銃を別の組織に横流しして、懲戒解雇された元警官だ。盗まれた白バイのことを考えれば、警察内部に他の協力者がいる可能性は高い。情報屋の安田は、そのあたりの秘密をつかんで殺されたらしい。
 立花は柴田部長に報告した。「ところで、その目撃した少女はどこにいるんだね?」。立花は京子のアパートを伝えた。
 京子の部屋から澄子と麻美が姿を消した。机の上には”いろいろとお世話になりました”と書かれた置き手紙があった。不吉な予感にかられて、京子は部屋を飛び出し、国道の脇に立つ2人を見つけた。澄子はスピードをあげて走りすぎる大型トラックをじっと見つめていた。その横顔にはおびえと、ある決意が同居していた。「麻美はお母さんと一緒に来る?」「そこにはお父さんもいるの?」。澄子は麻美を抱いたまま、車道へ足を踏み出した。激しいクラクションの音。「何、するの!」。京子は夢中で2人を突き飛ばした…。


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