<第1回> <第2回> <第3回>


<第1回>
 神崎京子(高島礼子)、元警視庁の敏腕刑事。2年前、夫と子供、そして正義をこよなく愛してきた彼女からすべてを奪い去ったのは、3発の銃声だった。失意と絶望の日々の中から、彼女が新しく見つけたのはボディーガードという生き方だった。今日も依頼主の社長に襲いかかった暴漢を、負傷しながらも身を張って守った。状況を正確に読み取る洞察力、とっさの判断力、そして男顔負けの闘争本能と格闘能力。すべての面で京子は一流のボディーガードだった。しかし、心の内にはぽっかりと大きな穴が開いていた。常に死の危険と向き合いながら、自らの死に場所を探していた。
 京子がアパートの自室でトレーニングしていると、勢い良く階段を駆け上がってくる音が聞こえた。「京子さん、いますか?」。息せき切って部屋に入ってきたのは牧田修一(山口達也)。ボディーガードの派遣会社“ガーディアン”の社員で、京子をアネキのように慕い、情報収集などの仕事を手伝っている。「新しい仕事なんですが」。2人は事務所に向かった。
「彼女の身辺を守ってもらいたいんだ」。京子の前に女性の写真を並べたのは猿渡浩平(寺田農)。彼も元警視庁の部長刑事で、現在は“ガーディアン”を経営している。
 写真の女性はジャーナリストの平野久美(松下由樹)。カルト宗教団体“空の礎”内で起きたリンチ殺人事件を追跡取材しており、教団にとって不利な証拠をつかんだらしい。「彼女の家の飼い犬が何者かに殺された。脅迫状も舞い込んでいる」。教団の仕業である可能性が高い。久美の安全を心配した夫の真司(羽場裕一)が、ボディーガードを依頼してきたのだ。仕事を引き受けた京子は、久美が対談番組に出演しているテレビ局へ向かった。
「もし本当に潔白なら、教団の代表者が出てきて説明すべきでしょ」「布教活動で忙しくて無理です」。対談相手は教団側の井坂弁護士(大高洋史)だったが、久美は一方的にやりこめていた。
「身辺警護をお願いすることになった神崎さんだ」。収録に立ち会っていた真司が京子を久美に紹介した。「いざとなった時に逃げ出したりしないでしょうね?」「ご心配なく」。久美と京子は互いを値踏みするように見た。そこへ井坂弁護士が血相を変えて近寄ってきた。「このアマ、調子づきやがって!」。久美につかみかかろうとしたが、京子は素早く井坂の腕をねじり上げた。「さすが」。真司は舌を巻いた。
 真司は久美と出会った頃は同じジャーナリストだったが、現在は経営コンサルタントをしているという。「仕事があるので、妻のマネジャーばかりしているわけにはいかないのです」。そのことに対して久美は不満を抱いていた。
「あんな仕事辞めて、私の仕事を手伝ってくれたらいいのに」。真司がいなくなると久美はこぼした。その言葉を京子は胸にとどめた。
 平野夫妻と別れた京子は、行きつけのバー“ペイパーバック”に立ち寄った。「平野久美ってカッコいいじゃない」。オーナーママの永井由香里(立河宜子)は弾んだ声を上げたが、牧田は対照的に「俺はああいうタイプは苦手だな」と舌打ちした。京子は牧田に真司の動きを見張るように命じた。そこへホステス同伴で店に入ってきた男が馴れ馴れしく、京子に声をかけてきた。「温泉へ一緒に行かないか。警視庁の福引きで当たったんだ」。この男、立花健太郎(古尾谷雅人)。現職の警部補で、京子が警視庁を退職後に赴任してきた。事件現場で2人が顔を合わすと、すぐケンカになってしまう。しかし立花は京子のことが気になって仕方ないから、ついちょっかいをかけてくる。
「刑事ってヒマなのね。私は明日から仕事よ」。久美の講演旅行に同行するのだ。京子はさっさと店を出ていった。
 講演会は無事に終わったが、久美は苛立ちを隠そうとしなかった。
「ちょっとあなた、やりすぎじゃないの?」。プロ意識に徹した京子は、久美に群がってくるファンも容赦なく追い払った。「私の評判にかかわるのよ」「用心するに越した事はありません。隣りの部屋にいますから外出する時は言って下さい」。京子は久美のクレームを聞き流すと、ホテルの隣室に引き下がろうとした。「あなた、もし私が本当に殺されかけたら、映画のボディーガードみたいに身代わりになってくれるの」「最悪の場合はそうします」。京子の真剣な口調に、久美はたじろいだ。「嘘だわ」。久美は吐き捨てるように言った。
 京子が隣室に入って、しばらくするとドアがノックされた。「よっ、元気?この前言っていた温泉、すぐ近くなんだ。一緒に行かないか」。立花だった。「ちょっと静かにして」。久美が勝手に部屋を出ていった。「平野さん!」。久美はホテルの玄関前でタクシーを拾おうとしていた。「どこへ行くんですか?」「何よ!少しくらい1人にさせてよ」。その時、1台の車が近づいてくると、ウインドーが下がった。京子はとっさに久美をかばって抱きかかえた。と同時に、ガン!ガン!と銃声が2発響いた。
「ウッ!」。背中に被弾した京子がくずれ落ちた。「おい!しっかりしろ」。立花が京子の頬を叩いた。薄れゆく意識の中で、京子は夫と愛娘の命を奪った、あの忌まわしい記憶を蘇らせていた。
 京子は病院のベッドで目覚めた。幸い銃弾は急所を外れていた。
牧田が久美を連れて病室に入ってきた。「私、びっくりしました。あなたの言葉を信じていなかったから」「いいのよ、これが仕事だから」。久美も我が身を危険にさらしながら、カルト教団と対決している。ようやく京子と久美の間に信頼関係が生まれた。牧田が車で久美を自宅まで送り届けた。
「何かあればいつでもお電話下さい」「ありがとう」。そのまま牧田は張り込んだ。 「今夜は何も起こりそうにないな」。牧田が引きあげようとした矢先、久美の自宅から自家用車が出てきた。ハンドルを握っているのは真司だ。助手席に久美の姿はない。牧田の車が尾行を始めた。
 真司の車は埠頭に止まった。物陰から1人の女が近づくと、真司の車に乗り込んだ。抱き合う真司と女。「こういう展開かよ」。牧田は密会現場をカメラで撮った。翌日、早速現像した写真を病室の京子に届けた。「不倫ってやつですね」。しかし京子の反応は違った。「この女はあの教団の信者よ!」。その夜、真司は再び人目を盗むようにして自宅を抜け出した…。

<第2回>
 神崎京子(高島礼子)がボディガードを担当することになった山岡浩一(ユースケ・サンタマリア)は総合病院の外科医だった。父親で病院長の山岡光太郎(中谷昇)からの依頼だった。当初、牧田修一(山口達也)が担当していたのだが、猿渡(寺田農)から引継ぎを命じられたのには理由があった。浩一は手術ミスで患者を死なせた疑いで、遺族とモメていた。牧田は浩一に詰め寄る遺族を制止しようとして手を骨折してしまったのだ。
 京子が病院を訪れると、浩一は昼間から院長室でテレビゲームに夢中。その喜々とした姿はとても33歳の男には見えない。京子が挨拶してもテレビの画面から目を離そうとしない。「こんな馬鹿息子ですが、よろしく頼みますよ」。父親の光太郎が本人に代わって、頭を下げた。
 浩一は近くのイタリア料理店に出かけた。京子の目を気にすることなく、昼間からシャンパンをあおった。「病院の食堂はまずくてね」「もう、午後の診察が始まるわよ」「いいんだ、助手がやってるから」。その時、制止する店員を振り切って、2人の男と1人の女が近寄ってきた。「何か、御用でしょうか?」。ただならぬ雰囲気を察した京子が立ちはだかった。
「どけよ!あんたには関係ない」。浩一につかみかかろうとした男の腕を京子はねじり上げた。「お引き取り下さい」。集まってきた店員の姿を見て、3人は足早に店から出ていった。「あいつら、医学のことなんか、少しも分かっていないくせに」。浩一は吐き捨てた。3人は浩一の手術で死んだ患者の妻、永瀬文江(深浦加奈子)とその親戚、大山(武田滋裕)と中田(上戸章)だった。
 その遺族たちは病院側の態度に業を煮やして、裁判に訴えた。第1回公判には多くのマスコミの取材陣が裁判所前に詰めかけた。
「ちょっと通して下さい」。人垣に囲まれて、京子と浩一は身動きつかなかった。
「ほら、どいて。警察だ」。2人を助けてくれたのは立花(古尾谷雅人)だった。
「実はそちらにちょっと用があってね」「えっ、僕のこと?」。立花はそのまま院長室までついて来た。「この写真の女性をご存知ですね?」「あ、俊子ちゃん」。写真の女性は奥野俊子(春木みさよ)。「うちの医学部の学生なんだ。最近、連絡が取れなくて困っていたんだ」。彼女と恋人関係にあったことを浩一はあっさり認めた。
「死体で発見されました」。死後約1カ月が経過していた。「まさか、そんな!」。
浩一は絶句した。俊子はこの山岡総合病院に行くと言ったきり、連絡を絶っていた。
そこへ父親の光太郎が姿を現わした。
「うちの息子がその女を殺したと言いたいのかね?その日だったら、息子は1日中、病院内にいたよ」。くしくもその日はいま訴えられている手術を浩一が行っていた当日だった。単なる偶然ではない何かを京子は感じていた。
 その夜、京子のアパートに思いがけない訪問者があった。文江だった。「山岡浩一に会わせて下さい。あなたは女性だから、私の気持ちを分かってくれるでしょ」
「悪いけど、帰って下さい」。凶弾によって夫と娘を奪われた京子にとって、文江の怒りと悲しみが理解できないわけがなかった。しかし京子は自らの感情を押し殺して、文江を追い出した。「あなたには人の気持ちが分からないの!」。
ドアの向こうから聞こえてくる文江の悪態に、京子はじっと耐えた。「浩一先生の医療ミス事件てさあ、何だか変だと思わない?」。京子は看護婦の立ち話を偶然、耳にした。「いつも大先生が自分でやるのに、あの日に限って若先生に任せたでしょ」。
京子は浩一に問いただした。「親父が急に代わってくれって言ったからさ」「お父さんがやれって言えば何でもやるの?」「逆らえないよ」。そんな2人の姿を盗撮しているカメラマンがいようとは、さすがの京子も気づいていなかった。写真週刊誌に掲載された2人の写真には、思わせぶりな記事がつけられていた。女性は疑惑の医師の愛人か?
「男のボディガードに代えてくれ」。光太郎は猿渡にねじ込んできた。「私は構いませんよ」。意外にも京子はあっさり引き下がったので、再び牧田が浩一のボディガードを担当することになった。「それでクビってわけ?ひどいね」
「いいのよ。いい加減、うんざりしていたから」。京子から事情を打ち明けられたバーのママ、由香里(立河宜子)は憤慨してくれたが、京子は冷静だった。対照的に牧田は張り切っていた。「任せて下さい」。
 そこに立花が姿を現わした。検死解剖の結果、俊子は妊娠4カ月だった。「相手は浩一?」「まあ、そう考えるのが普通なんだが」。
立花は歯切れが悪かった。死体の遺留品として時価2百万円の指輪が見つかった。指ではなく、ポケットから出てきたという。浩一はプレゼントした記憶がなく、しかも俊子の物にしてはサイズが大きすぎる。では、指輪はいったい誰の物なのか。
 医療ミス裁判の判決日。浩一には無罪判決が下された。裁判所前に出てきた浩一には牧田がぴったりと寄り添っていた。マスコミの取材陣が取り囲んだ。「とにかくホッとしています」。そこへプラカードを振り上げた大山が殴りかかってきた。「この野郎!」。間一髪、牧田が阻止した。しかしその瞬間、別の人影が浩一にぶつかった。包丁を握り締めた文江だった。浩一の背中から見る見る間に鮮血があふれてきた…。

<第3回>
 猿渡(寺田農)の事務所にアイドル歌手、桜井レナ(榎本加奈子)のボディガードの依頼があった。
レナは作曲家との不倫スキャンダルから逃れるために渡米していたが、急きょ帰国することになったのだ。「この仕事、俺にやらせて下さい」。牧田(山口達也)はレナのファンだ。「そういう感情は仕事の邪魔になるだけよ」。
京子(高島礼子)がレナのボディガードを引き受けることになった。
 空港の到着ロビーにはたくさんのマスコミ取材陣が待ち受けていた。替え玉を仕立てて、牧田はレナを京子の車に乗せた。「あなたがボディガードなの。どれくらい強いの?」。レナは無邪気に聞いてきた。ぬいぐるみをしっかり抱きしめている。尾行してきた車をまくことぐらい、京子には朝飯前だった。そして予約していたホテルの部屋へ難なくレナを送り届けた。
「お風呂入れてくれる?」「あたしは付き人じゃないのよ」。日頃甘やかされているレナには、京子の反応が意外だった。その時ロックしていたドアが突然開くと、2人組の男達が乱入してきた。
「レナ、よくも俺をだましやがって」「やめて!」。男達はレナを拉致しようとしたが、京子の鍛えぬかれた肉体には敵わなかった。
ところが気絶した男にレナは心配そうに駆け寄った。
「大丈夫?社長」。その男はレナの所属プロダクションの伊達社長(藤木孝)だった。
「今回の帰国はレナとマネージャーが社長に内緒でやったことらしい」。猿渡から説明されて京子は憤然とした。不倫スキャンダルがからんでいるのかもしれない。
「とにかく今回の仕事はこれで終わりですね」「悪かったね」。
京子が事務所を出ていった直後、電話が鳴った。牧田が出てみると、レナからだった。「僕、レナさんのファンなんです」「じゃあ、私を助けてくれる?」。レナの甘えた声に牧田は聞き入った。
 京子が行きつけの由香里(立河宜子)のバーに立ち寄ると、立花(古尾谷雅人)が待っていた。
「レナのサインもらってくれないかな?親戚の子に頼まれたんだ」。というのは口実で、どうやら立花もファンらしい。しかし殺人事件の一報が入って、立花はそそくさと店を出ていった。事件現場は公園。殺された男は麻薬不法所持で指名手配中だった。ポケットからツーショットの写真が出てきた。その写真に写っている男は被害者。そして女はなんとレナだった。
 牧田はレナが伊達に軟禁されているホテルの部屋に向かった。ホテルのボーイに変装した牧田はレナと示し合わせた自殺狂言で、まんまと伊達の目を盗んでレナを脱出させた。「おたくの牧田がうちのタレントを誘拐したんだよ!」
「ちょっと待って下さい。すぐに対処しますから」。伊達に怒鳴り込まれて、猿渡はようやく牧田の不始末に気づいた。
 その頃、牧田はレナを車に乗せて夜道を走っていた。「で、どこへ行けばいいの?」。レナが口にしたのは生まれ故郷の町。「友達の結婚式に出るのよ」。高校の同級生、河田明美(馬渕英里何)の結婚式に出るために、わざわざアメリカから戻ってきたのだが、それは友情ではなかった。「ずっとどっちが男の子にもてるかって、ライバルだったのよ。負けるわけにはいかないのよ」。
 京子のアパートに猿渡から牧田とレナを追いかけてほしいと連絡が入った。「俺もそうなんだ。一緒に行こう」。京子は立花の車に同乗することになった。公園で発見された他殺体は、麻薬の運び屋だった。「そんな男がどうしてアイドルと一緒に写っていたの?」
「帰りの飛行機が同じだったらしい。それでヤツは運んできた麻薬をレナに預けたようだ。本人が気づかないように」「ヤバイわね」。
2人の顔に緊張の色が走った。
 牧田とレナの車が山道を走っていると、急に追い越した車が道をふさいだ。2人の男が降りてくるなり、牧田に銃をつきつけた。
「お前には用はないんだ。動くなよ」。一瞬の隙をついてレナはぬいぐるみをしっかり抱いたまま、林の中へ逃げた。牧田はひそかにPHSの短縮ダイアルをプッシュした。立花の車の中で、京子の電話が鳴った…。


戻る


[第1-3回] [第4-6回] [第7-9回] [第10-11回]