<第4回> <第5回> <第6回>


<第4回>
 「引き受けてくれないかな?」。
立花(古尾谷雅人)がボディガードの依頼話を猿渡(寺田農)の事務所に持ってきた。相手は人気マジシャンの葉山麗花(真矢みき)。プレゼントの花束に爆薬が仕掛けられており、麗花とマネージャーの平塚(光石研)が危うく一命を落としかけた。
「断る理由もないわね」。京子(高島礼子)は麗花がリハーサルをしている劇場へ向かった。
 麗花は苛立っていた。「あなた、本当にやる気あるの!」。助手の千里(岡田理江)は麗花の思うように動いてくれない。「彼女は先代が連れて来たんだよ。可愛いけど、あんまり器用じゃなくてね」。
平塚が京子に耳打ちした。先代の葉山麗花は篠田雄一郎(西田健)という男性で、現在の麗花は二代目になる。千里は楽屋で麗花にくってかかっていた。「皆の前で怒鳴ったりしないで下さい。大先生に言いつけますよ」。先代と千里は男女の仲らしい。
 その頃、猿渡は事務所のスクラップブックの中から先代葉山麗花にまつわる事件の記事を見つけた。5年前、当時人気絶頂だった先代の篠田は、弟子で後継者と目されていた井原雄二(春田純一)に刺された。実は先代のマジックの大半は、井原が考案したものだった。「そこで井原が独立しようとして、先代が邪魔したらしい」。
猿渡は当時のいきさつを牧田(山口達也)に説明した。井原は刑務所へ。先代はその時のケガがもとで引退し、今の二代目が後を継いだ。そして井原は先月末に出所していた。「京子と立花に伝えてきてくれ」。牧田は事務所を飛び出した。
 牧田が劇場に着いてみると、事件が起きていた。千里が何者かに殴られて、意識不明のまま病院へ運ばれた。千里は麗花の吹き替えをこなすだけあって、背格好がよく似ている。「麗花さんと間違えて狙われた可能性もあるわね」「すると、身代わりになって…」。京子と立花が顔を見合わせていると、牧田が息せき切ってやって来た。
「やっぱり!」。牧田は猿渡から託された事件の資料を2人に手渡した。「先月末に仮釈放になったそうです」。立花が井原の写真を見せると、麗花と平塚の表情が青ざめた。立花はショーの中止を主張したが、麗花は首を横に振った。「あの男が来るなら、なおさら中止には出来ないわ。私が実力で二代目になったことを、あの男に判らせなきゃいけないのよ」。しかし助手がいなければステージはできない。
「あなた、やってもらえないかしら?」。千里の代役を京子が務めることになった。
 場内が暗くなり、舞台のどん帳が静かに上がった。ステージ中央の麗花にスポットライトが当たった。そして上手から京子が登場した。「あいつ、なかなかサマになってるじゃないか」「全員、配置につきました」。舞台の様子をモニターテレビで見てニヤついていた立花は、部下の声に表情をひきしめた。
 同じ頃、客席の後部ドアから1人の警備員が場内に入ってきた。
井原だった。ステージの上では客席からの拍手に対して、麗花と京子がおじぎしている。井原はその2人に向かってゆっくりと近づいていった…。

<第5回>
 「あの女、お前の所でかくまってやってくれないか?」。病室を見舞いに訪れた京子(高島礼子)は、ベッドに横たわる立花(古尾谷雅人)から頼まれた。あの女とは坪井園子(川島なお美)のことだ。
 園子の夫は暴力団の幹部。少し前に傷害と麻薬取締法違反で逮捕された。その裁判が来週から始まる。園子は検察側の証人として法廷に立つ。そしてその動きは夫の組織に伝わっていた。
 立花は園子の安全を図るために、極秘裏にホテルの一室に園子をかくまっていた。ところが京子と合流して、事情聴取のため警察へ向かおうとした時、ホテルの地下駐車場で2人組の男たちに銃撃された。立花は肩に被弾した。「俺たちの動きが漏れているようだ」。
 立花は警察内部の動きに不審を抱いていた。「だから裁判までお前のアパートで彼女をかくまってほしいんだ」。猿渡(寺田農)と牧田(山口達也)は心配したが、京子は引き受けた。
 「なかなかいい部屋じゃない」。京子の部屋にやって来た園子は、まるでお客さん気分。「ここにいる間は私の言うことを聞いてくれなきゃダメよ」。京子にぴしゃりと言われて、園子は不満そうだった。命を狙われている危機感がない。「別にあの人が狙ってるんじゃないわよ」。園子は離婚したいが「向こうは未練があるみたいで、判子を押してくれないのよ」。京子がシャワーを浴びている間に、園子は勝手にベッドで寝ていた。
 翌日、京子は立花の見舞いに行くために、園子のボディガードを牧田に頼んだ。京子が病室を訪ねると、先客が2人いた。捜査二課の門田(深水三章)と大杉(長江英和)。「そろそろお暇するか」。2人は京子を避けるように、足早に病室を出ていった。「本来二課の仕事なのに、俺が犯人を挙げてしまったから、アイツら機嫌が悪いんだよ」。立花は笑い飛ばしたが、京子はひっかかるものを感じていた。立花が警察組織の中で孤立しているというウワサを猿渡から聞かされていたからだ。
 その夜、園子はひどくうなされた。「どうしたの、大丈夫?」「助けて、あたしを助けて」。園子は京子にしがみついた。「夫に殺される夢を見たわ」。園子の夫は麻薬の禁断症状で、連日園子に暴力をふるった。「あたし、本当は怖いの。法廷であの人と顔を合わせたら、何も言えなくなってしまうかもしれない」。園子は胸の内に秘めていた恐れを打ち明けた。「あなたなら出来るわ。私が守ってあげるから」。2人の心に通じ合うものが生まれた。
 初公判の日、京子と園子が裁判所に到着すると、猿渡が待っていた。「裁判は中止だ」。昨夜、園子の夫が拘置所内で自殺したという。「服を引き裂いて紐を作って、それで首を吊ったらしい」。猿渡が事務所で事情を説明していると、血相を変えた立花が飛び込んできた。「あんたに見てもらいたい写真があるんだ。この中に知っている男はいるか?」。立花は1枚の写真を園子に差し出した。警視庁の釣り同好会の記念写真。立花と数人の同僚刑事が写っている。園子の目は1人の男で止まった。それは門田だ。しかし園子は「いないわ」と首を横に振った。「嘘をつかないほうがいいぞ」。立花はすごんだが、園子は頑なに口を閉ざした。
 京子は園子とアパートに戻った。
そしてしばらく経って京子は廊下に不審な気配を感じた。その瞬間ドアを蹴破って、銃をかまえた男が飛び込んできた。「逃げて!」。京子は園子の前に立ちふさがった。男の銃が火を吹き、京子の胸に当たった。「か、神崎さん!」。倒れた京子は動かない…。

<第6回>
 「事情を説明していただけますか?」。ガーディアンの事務所。猿渡(寺田農)と京子(高島礼子)の前で恐縮しているのは、ボディガードを依頼してきた初老の男、篠田(二瓶鮫一)。「たしかサラ金に追われているからとおっしゃっていましたよね」。京子は念を押したが、まったく信じていなかった。篠田をかくまっていたホテルのトイレに仕掛けられたワナは、プロのヒットマンの仕事だった。サラ金とのトラブルどころの話ではない。
 「私は元東京地検の検事だったんです」。篠田は重い口を開いた。かつて主任検事として、暴力団追放キャンペーンの先陣に立った時、ある組織の総長の息子を逮捕した。彼は自らの失敗にけじめをつけるために、拘置所で自決した。それ以来、篠田は組織につけ狙われ、妻子に危害が及ばないように離縁し、検事当局も辞職した。
 篠田を狙うヒットマンの名前は葦辺(竹内力)。まだ幼い息子の匠(藤井大夢)と下町のアパートで暮らしている。買い物袋を抱えて仲良く家路を急ぐ姿は、あたかも母親に逃げられた父子のようだ。しかし息子を寝かしつけると、葦辺はヒットマンの顔に変わった。今夜はノートパソコンである情報を検索していた。過去5年以内に警察を辞めた女捜査官のデータ。篠田の暗殺を阻止した京子の存在に、葦辺もまた一目置いていたのだ。やがてパソコンに京子のデータが送られてきた。刑事としての輝かしい手柄の数々。しかし独断専行の傾向があるとの指摘も。さらに夫と娘を殺害されたあの事件のことも、葦辺はつかんだ。
 翌日、京子は篠田を別のホテルに送り届けると、牧田と交代した。重責に牧田は緊張の色を隠さなかった。「リラックスするのよ」。京子は辺りへの警戒を解かぬまま立ち去った。その後ろ姿を物陰から葦辺がじっとうかがっていた。
 立花が葦辺のデータを届けてくれた。コードネームは“いぬ”。決して通常の銃火器は使わず、完ぺきに暗殺をやり遂げる。ブロウガンや吹き矢を使用したこともある。「顔も素性も一切つかめていないらしい」「今度の相手は、ただ守りの姿勢では守りきれないわ」。京子はまだ見ぬヒットマンに戦慄を覚えた。相手はプロ中のプロなのだ。一瞬の隙が命取りになるのは間違いない。
 京子はバー“ペイパーバック”へ向かった。ママの由加里(立河宜子)やリカ(森順子)が初めて来た男性客を囲んで盛り上がっている。「初対面なのに、つい本音で相談したくなっちゃうの。不思議な人。京子も聞いていただいたら」。京子が取り合わないでいると、その男性客が話しかけてきた。「ボクはたった1人の息子が生きる支えです。あなたは何を支えに生きているのですか」。まるで京子の過去を見透かしたような、この男こそ、葦辺だった。「余計なことでした」。葦辺は店を出ていった。カウンターの上には、犬の折り紙が一つ残されていた。コードネームは“いぬ”! 京子はあわてて店の外に飛び出した。葦辺は向かいの通りから不敵に笑うと、姿を消した。
 篠田は日本を離れる前に、どうしても出席したいパーティーがあると言い出した。大学の同期生である弁護士の激励会。パーティー会場の人込みは一番危険だ。猿渡も駆り出されて、京子と2人でボディガードすることになった。篠田に1人の男が近づいてきた。「私の信頼している元部下なんですよ」。東京地検の大里検事(大石継太)。「奥様も娘さんもお元気ですから」。その時、一同の背後に酔客を装って葦辺が近づいてきた。手にしたワインボトルにはブロウガンが仕込まれていた。何気なく振り向いた京子の目に、ボトルを振り上げた葦辺の姿が飛び込んできた…。


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