<第10回> <第11回>


<第10回>
 「あなたにボディガードしてもらいたい人がいるのよ」。由香里(立河宜子)に誘われて、京子(高島礼子)はとあるクラブを訪れた。
 「仕事柄、いろいろと恨みを買うことが多いんですよ」。オーナーの杉崎真司(羽賀研二)は立ち振る舞いのすべてがキザな男だった。そのくせ店に現れた2人組、ヒデ(土平ドンペイ)とカズ(問田憲輔)の顔を見るなり逃げ出した。「いつになったら金を返してもらえるんだ!」。杉崎はかなりの借金があるらしい。男たちがナイフをふりかざして襲ってきたが、京子の敵ではなかった。「僕を守って下さい」。しかし京子は断った。「どうしてなの?」。由香里に向かって京子は冷たく言い放った。「あの手の男は苦手なのよ」。
 由香里は猿渡(寺田農)にも頼んでみたが「京子がダメと言うんなら仕方ないよ」とそっけない。代わりに牧田(山口達也)が引き受けることになった。「しっかりした人でなきゃ困るのに」。由香里も牧田も不満げだ。
 同じころ、京子が部屋でトレーニングをしていると、立花(古尾谷雅人)が訊ねてきた。「京子ちゃんが仕事断るなんて、どうしたのかと思って」「たまには休んでもいいでしょ」。平静を装っていた京子が突然肩を押さえてうずくまった。「どうした?」。立花は京子を病院に連れて行った。
 「この小さな影が分かりますか?」。医師は京子に撮影したレントゲン写真を示した。最初の手術で取り除けなかった弾丸の破片。それが神経を傷つけていたのだ。「再手術すれば何とかなります。半年もすれば回復します」。京子が杉崎の仕事を断ったのは、この痛みのせいだった。「このことは誰にも言っちゃダメよ」。京子は立花に口止めした。
 杉崎と牧田は開店前のクラブで、金融業者の大岩(菅田俊)と向き合っていた。大岩の両脇にはヒデとカズがにらみをきかしていた。「この前はウチの奴らを可愛がってくれたそうだな」。すごむ大岩の前に杉崎は1枚の小切手を差し出した。名義は若林幸子となっている。「今度はどこの金持ちをだましたんだ。不渡りになったりしないだろうな?」。大岩たちが出ていくと、杉崎も立ち上がった。「さてと、行くか」。
 杉崎と牧田が向かったのは、とあるホテルのレストラン。「私のために時間を空けてくれてうれしいわ」。杉崎にすり寄ってきたのは四十代の有閑マダム。どうやら彼女が幸子らしい。「一番いい部屋を取ってあるから」。幸子は杉崎を部屋に連れ込もうとしたが、杉崎は血相を変えて逃げ出した。ジゴロまがいのことをしなければならないほど杉崎は金策に追われていた。
 「だからこっちから契約解除しました」。事務所に戻った牧田は由香里に憤然と言った。由香里は京子のアパートを訪ねて、再度杉崎のボディガードをしてくれるように頼んだ。「借金取りに追われているだけで、命を狙われているわけじゃないでしょ」「分かったわよ。もういいわ!」。由香里ははき捨てると出ていった。京子は大きくため息をつくと、出かける用意をした。
 深夜のクラブ。客のいない店内で杉崎はヒデとカズに殴られていた。「この小切手、止められていたよ」。大岩は憎々しげにつぶやくと、首吊り用のロープを取り出した。「俺を始末したら税務署のワイロのことがバレるぞ。あんたの奥さんが教えてくれたよ」。大岩の形相がゆがんだ。「俺を本気で怒らせたな」。大岩に殴られて杉崎は吹っ飛んだ。「真ちゃんいる?」。由香里の声に男たちの動きが一瞬止まった。その隙をついて杉崎は由香里の手を取って逃げ出した。「さ、早く!」。追ってきたヒデとカズを京子が投げ飛ばした。3人はラブホテルに身を隠して、杉崎のケガの治療をした。由香里は杉崎の寝顔を心配そうに見ている。「あんた、どうしてあの男にこだわるの?惚れているの?」。京子の問いかけに由香里はポツリポツリと話し出した。
 高校生の時、2人はつきあっていた。「彼はサッカー部のキャプテンですごくカッコ良かったのよ。あのころのまま時間が止まっていれば、彼は私の青春時代のヒーローだったのに。人生って残酷ね」。
 由香里もいつしか眠ってしまった。杉崎はベッドを抜け出すと、バスルームで手首を切って自殺を図った。「今更死んでも何も解決しないわよ」。京子は杉崎の手から剃刀を取り上げた。「僕はもうどうすればいいのか分からないんです」。杉崎の目から涙がこぼれた。「由香里みたいに心配してくれる人がいる限り、頑張らなきゃダメよ」。京子の励ま
しにも杉崎は何も答えられなかった。
 翌日、杉崎の携帯電話にかねてから懇意にしている鎌倉の財閥の会長、河原(山谷初男)から電話が入った。「ありがとうございます。すぐにお伺いします」。金を貸してくれるという。「これで店を手放さなくて済む。俺は救われたよ」。無邪気に喜ぶ杉崎を見て、由香里も笑顔になった。しかし京子だけは嫌な予感がした。「一緒に行くわ」。3人を乗せたタクシーは鎌倉に向かって発進した…。

<第11回>
 「私のボディガードを頼めるかな?」。京子(高島礼子)は警察時代の同僚、森山美加(古手川祐子)からボディガードを依頼された。美加が警察の内部調査の責任者に任命されて以来、爆発物が郵送されてきたり、車のブレーキに細工されるなど、彼女の周辺では不審事がひんぱつしていた。「やっかいな仕事になるぞ」。猿渡(寺田 農)は難色を示したが、京子は引き受けることにした。
「でも、肩の具合は大丈夫なんですか?」。牧田(山口達也)が心配そうに聞いてきた。体内に残っている銃弾の破片が、京子の肩にしばしば激痛をもたらしていた。「何ともないわよ」。京子は平静を装った。
 美加は5年前に警察官だった夫を交通事故で亡くして、今は小学生の愛娘ちか(田島穂奈美)と2人暮らし。ちかの学校への送り迎えは牧田が担当することになった。京子は署内の会議にも同席した。出席者の中には立花(古尾谷雅人)もいた。「警察の建物の中でボディガードなんか必要ないだろ」「俺たちに何か問題あるって言うのか!」。部下の須藤(寺島進)、栗本(黒田眞澄)、浅田(大野正敏)らは一斉に美加に食ってかかった。
 「仲間であっても疑わなければならない時もあります」。美加はきっぱりと言い切った。「女のくせにあんまり突っ張っていると、痛い目にあうぞ!」。会議室を出た美加に、怒りで顔面を紅潮させた浅田がつめ寄った。その瞬間、京子が浅田を投げ飛ばした。「そちらこそ、痛い目にあうわよ」。
 「初日から大変だったわね」。帰宅した美加は京子にウイスキーのグラスを差し出した。「ウチの人も警察と暴力団の癒着問題を調査していたの」。その最中に奇妙な交通事故で、美加の夫は亡くなった。京子の夫、雄二(近藤京三)も3年前、暴力団の捜査をしていた時に娘のまり子(佐藤夏帆)ともども何者かの銃弾によって殺された。証拠はないが、2人とも警察内部に巣食う黒い影を感じていた。「あなたと私は、ともに戦う理由があるんじゃない?」。しかし京子は何も答えなかった。
 京子がアパートに戻ってみると、立花が待っていた。「今度の仕事は降りたほうがいいんじゃないか。森山美加は警察内部にも敵が多いし、かなり危険だぞ」。立花は京子の肩の具合も気がかりだった。「お前が心配なんだ」「私は手術するつもりないわ。もう帰って」。京子は肩の傷を、殺された夫と娘と自分を結ぶきずなと考えていたのだ。京子がシャワーを浴びていると電話が鳴った。「今度もまた生き残るつもりかい?」。聞き慣れない男の声。「あんた、誰なの!」。受話器からは発信音だけが空しく響いた。
 美加は、栗本が暴力団幹部の浜岡(六平直政)と同席している写真を手に入れた。「俺をどうするつもりだ?」。栗本は開き直った。「懲罰委員会にかけるわ」。栗本は突然、美加につかみかかった。京子は後ろから栗本に組みついたが、その刹那、向かいのビルの屋上で何かがキラリと光ったのを見逃さなかった。「あぶない!」。京子は美加を突き飛ばした。窓ガラスを貫通した銃弾が栗本に命中した。
 警察を飛び出した京子は狙撃犯の男を路地裏に追いつめたが、一瞬のスキをつかれて捕まってしまった。「これでやっと子供の所へ行けるな」。男は京子に拳銃をつきつけた。「あんた、誰なの?」。京子は死を覚悟した。銃声。男の手から拳銃が落ちた。「京子!」。立花だ。男は京子を突き放すと走り出した。「大丈夫か?」。立花は男を追うべきか迷ったが、京子の安否のほうが先決だった。「大丈夫よ。手を放して」。京子は立花の手を振り払うと、無言でその場から立ち去った。
 「京子さんがボディガードを降りる?」。美加は猿渡の言葉に自分の耳を疑った。プロ根性の固まりのような京子が仕事を半ばで降りるなんて信じられなかった。「あいつは急に怖くなっちまったんですよ」。人間誰しも恐怖心がある。しかし京子は夫と娘を殺されてから、死を恐れなくなった。「ボディガードの仕事を通して、あいつの中に人間らしい感情を呼び覚ましてやりたかった」。猿渡や牧田、そして立花の協力で京子の心の中の冷たい部分は、少しずつ溶け出した。「男に拳銃をつきつけられて、あいつは恐怖心を完全に取り戻した。そんな自分が許せないんだよ」。またもや生き残ってしまったという罪悪感が京子をがんじがらめにしていた。
 「京子ちゃん、いるんだろ?」「京子、返事しなさい!」。心配した立花と由香里(立河宜子)がアパートを訪ねた。散らかった室内に京子の姿はない。バスルームから水のしたたり落ちる音がもれてきた。「京子!」。バスルームのカーテンを開けた2人は絶句した…。


戻る


[第1-3回] [第4-6回] [第7-9回] [第10-11回]