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<第1回> <第2回> <第3回><第1回> 「天下御免の向う傷」
江戸は吉原での華やかな花魁道中。茶屋の二階からその行列を見下ろしている豪商黒田屋仁兵衛(大出俊)に、木陰から短筒で狙いをつける若衆がいた。銃声がして弾丸が仁兵衛の顔をかすめた。狙撃は失敗。
茶屋から仁兵衛たちの用心棒が現れ、逃げる若衆を追う。肩を斬られた若衆を助けたのは、額に鮮やかな三日月型の刀傷の直参旗本、早乙女主水之介(北大路欣也)である。斬りかかる浪人たちを白扇一本であしらう主水之介は、「人呼んで旗本退屈男とは、身共がことだ」と見栄を切る。その格好よさにやじ馬たちはやんやの喝采だ。
主水之介の屋敷で傷の手当てを受けた若衆は女だった。それも美女。九州は豊後の国日田の代官所の役人村山新八(篠塚勝)の妹で、たえ(麻乃佳世)という。
日田は天領で、九州諸国の年貢米が集まるところ。江戸との商いも活発だ。しかし、富が集まれば悪事も生まれるもの。村山は日田の商人たちと黒田屋との悪事を探っているうちにその証拠をつかみ、「江戸で黒田屋の悪事を暴く」と言って日田を出たまま行方不明になった。たえは江戸に出て黒田屋を訪ねたが、門前払い。もう兄はこの世にいないと思いつめたたえが、黒田屋を撃ったのだ。
話を聞くうちに、主水之介の退屈の虫がうずいてきた。用人の喜内(矢崎滋)は、主の身を心配して止めようとするが、主水之介の妹、菊路(佐藤友紀)は、兄の心はもう九州に飛んだ、と分かっていた。
主水之介はたえと共に旅立ち、日田領内に入り、代官所に西国郡代の塩谷兵衛助(丹波哲郎)を訪ねた。西国郡代と言えば、幕府を代表して大名にも匹敵する地位。「一介の旗本に会う用はない」と言う塩谷に主水之介は、自分はただの旗本ではないと言う。かって将軍家斉公が逆賊に襲われた時、命を守るために身をもって刀を受け、額に三日月型の向こう傷を負った。以来将軍の言葉によって、傷の行く所勝手次第。天下御免の向う傷となったことを伝えるのだった。
塩谷はなかなかの人物だが裏は分からない。村山の消息は知らないという。すでに村山の後任も決まっていた。木村作之丞(赤羽秀之)という男で、たえの許婚だった。
その夜、日田の商人たちが主水之介のために一席設けた。中には南蛮貿易で富を得るものもいて、豪華な席である。だが、宴を終えて主水之介が、村山家に戻るとたえの姿はなく、「女はあずかった。助けたくば明朝竜の岩屋へ来い」と書いた文を結んだ矢が射込まれた。「いよいよ、敵も動き出した」と、主水之介の口許に笑みが浮かんだ。
翌朝、日田山中の洞窟、竜の岩屋には、昨夜の宴に集まった商人たちがいた。山伏姿の男たちが五十箱もの木箱を積んでいる。中味は阿蘇で産出する硝石から製造した火薬。もちろん禁制の品である。火薬を江戸から受け取りに来たのは黒田屋だった。
商人たちと一緒に木村がいた。そして、縛られたたえも。主水之介をおびき出して、亡き者にしようという算段だ。山道を行く主水之介に、山伏たちが襲いかかる・・・。<第2回> 「京洛の花嵐」
春の宵。ほろ酔い気分の早乙女主水之介(北大路欣也)の目の前の駕籠が、三人の雲水に襲われた。主水之介は雲水の白刃を白扇で叩き落とした。乗っていたのは豪商・西国屋徳右ヱ門(河原さぶ)。翌日、主水之介の屋敷に西国屋から菓子折が届く。中にはぎっしりと小判が詰まっていた。
主水之介の用人の喜内(矢崎 滋)は、これで借金も返せると喜ぶが、妹の菊路(佐藤友紀)は、「いわれもなく大金を出す人はいません。兄上は悪事に加担したのですか」と、険しい表情。主水之介は金を返すことにした。
その返し方が主水之介らしい。場所は西国屋が、新しく京都所司代に決まった神保内膳正(佐々木勝彦)を接待する高級料亭。西国屋が神保に大金を渡し、京都での仕事への便宜を図るよう依頼するその席に現れ、菓子折りを投げつけた。
主水之介は京に上る。そこで、西国屋を襲った雲水の一人、耳助(本田博太郎)と武家風の女に尾行されているのに気づく。女は静枝(多岐川裕美)という美人だ。静枝にはお小夜(黒川芽衣)という十三、四歳の娘がいた。逆に静枝の後をつけた主水之介は、母と娘が、とある大きな墓に手を合わせているのを見た。何か深い事情がありそうだ。
着任した神保は、伏見の大店の井筒屋に難癖をつけ、店を取り潰した。利権を西国屋に安く払い下げるためだ。井筒屋を役人たちが青竹で封鎖する様子を見ていた主水之介は、西国屋が近くの駕籠の中にいるのを見た。
その夜、主水之介は西国屋の留守に、江戸での知り合いだと言って本店の客間に上がりこみ、様子をうかがいながら西国屋を待つ。帰ってきた西国屋は、五千両出すから江戸へ帰ってほしいと言うが、主水之介がきくわけがない。そして、急に座をはずした西国屋と用心棒の、「小娘は土蔵に」という会話を聞いて電光石火土蔵に走りこみ、縛られていたお小夜を助け出し、用心棒たちを倒しながら、静枝と耳助の隠れ家に届けた。
静枝がすべてを話した。静枝は元播州三宅藩主、三宅備前守(川鶴晃裕)の側室お峰の方(鈴川法子)の侍女だった。十三年前、備前守は京都所司代の職にあった。神保は筆頭与力として下にいたが、西国屋と組んで悪事を行っていた。それに気づいた備前守が問い詰めようとしたところ、二人は逆に備前守備を暗殺した。お峰も主だった家臣も殺され、残されたのは幼い小夜姫を守った静枝と、耳助らわずかの者だけ。三宅家も断絶となった。
それからは、神保と西国屋の追っ手を逃れながら、仇を討つ機会を狙う日々が続いた。ただ、小夜姫はまだ事情を知らず静枝を実の母と思っている。主水之介の胸に熱いものがこみあげた。
主水之介はあるはかりごとをめぐらした。身分の高い公家の名前を使って、西国屋と神保を伏見稲荷境内におびき出した。用心棒たちを引き連れた一行が来る。主水之介の諸羽流青眼崩しが冴える・・・。
<第3回> 「どくろ屋敷の謎」
早乙女主水之介(北大路欣也)が船宿で芸者の三味線と唄を聞きながら、気分よく一杯やっていると、表でドボンと水音がする。何事かと表に出ると、掘割に男の斬殺死体があり、やがて三人の浪人が主水之介に斬りかかってきた。もとより主水之介にかなうわけもない。逃げる浪人たちは、荒れ果てた屋敷に逃げ込んだ。
屋敷の様子をうかがう主水之介の前に、着流しの浪人鏑木兵庫(村上弘明)が現れた。
「怪しい者など来なかった」と言うが、実は三人は兵庫が雇った男たちだった。
主水之介のために、出入りの植木屋の佐吉(藤沢慎介)がいろいろ調べてきた。殺された男は吉原で廓の用心棒をしていた。数日前にも別の吉原の用心棒が斬り殺されている。 兵庫が出てきた屋敷には十五年ほど前、お夕(大谷訓子)という女と四人の子供が住んでいた。ある日、一家五人が姿を消し、神隠しではという噂が立った。一年後、この屋敷の新しい持ち主が庭木を植えるために穴を掘ると、長い髪の毛のついたどくろや、子供の骸骨が出てきた。消えた一家のものと思われ、それ以来、「どくろ屋敷」と恐れられた。
どうも奥の深い事件のようだ。主水之介は北町奉行所の与力に協力を求めた。その結果わかったのは、お夕は吉原でも名高い夕霧という花魁だった。その夕霧を落籍したのが、幕府から金貨鋳造を許された金座の後藤庄三郎。庄三郎と夕霧の間には四人の子が生まれた。ところが十五年前、庄三郎の十三万両にも上る公金横領が発覚し、庄三郎は処刑された。その夜、夕霧の家に賊が入り一家を斬殺する。ただ、後から発見された子供の白骨死体は三体。誰か一人が生きていることになる。
兵庫が探しているのは、その難を逃れた子供、お園だった。実はお園(竹本聡子)はもう二十歳近くなり、蕎麦屋の小女として働いている。お園を見つけるために兵庫は、吉原の用心棒をしている男を徹底的に洗っていた。だが雇った浪人たちが、手がかりがないことに怒って殺してしまったのだ。
主水之介は江戸城に上り、目付けから詳しい情報を聞き出す。十五年前の横領事件では庄三郎の他に、鏑木兵右衛門という勘定方の役人が責めを負って切腹、知行・屋敷が召し上げとなっていた。江戸城から外へ出た主水之介は、人気のない道で黒覆面の侍たちに襲われる。諸羽流青眼崩しで難を逃れるが、これで江戸城内にも事件とかかわる者がいることが分かった。
黒覆面の一団は荒れ屋敷の兵庫も襲う。兵庫は強く、刺客たちを次々と斬り伏せるが、一人が手裏剣を投げようとする。その時、主水之介が現れて、手裏剣の男を倒した。主水之介は兵庫に、「貴公は鏑木兵右衛門のご子息でござろう」と言う。
兵庫が口を開いた。父の切腹後、女手一つで兵庫を育てた母親が二カ月前に死んだ。その直前に見せられたのが、父が綴った事件の記録だった。それによると、横領された十三万両のうち、三万両は幕府要人への賄賂として流れ、五万両は庄三郎が取った。残る五万両は、当時の勘定奉行で今は大目付けの榊原主膳(潮哲也)が私した。兵庫の父は無実なのに、詰め腹を切らされたことになる。
しかも、庄三郎の五万両は夕霧のどくろ屋敷に今も隠されていると見られる。何とかお園を探し出し、父の無実を晴らした上で、五万両も見つけたいというのが兵庫の思いだった。主水之介にもその無念さが分かった。そして、榊原の手の者がまた動き出した・・・。