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<第10回> 「南国の対決」
早乙女主水之介(北大路欣也)が長崎商人の香味屋重三郎(夏八木 勲)と出会ったのは、縁日の雑踏の中でだった。しかも、重三郎がおこよ(平沢 草)という女を無理やり連れ去ろうとしているところだった。
見過ごせずに止めに入った主水之介に、重三郎は南蛮渡りの皮鞭術で立ち向かう。腕が立つ。そこに、渡海屋庄兵衛(中田浩二)ら別の長崎商人たちが駆け寄り、「おこよは長崎から来た遊女で、これから長崎に帰るのでこちらに渡して欲しい」と言う。どうやら一方が絶対悪いということではなさそうだ。
主水之介はおこよに、「どちらと帰りたいか」と聞く。おこよが重三郎を見てうなずくのを見て、主水之介は手を引いた。だが主水之介は、重三郎と去ったおこよが主水之介に目配せして、そっと落とした木札を見逃さなかった。長崎の出島の鑑札だった。
重三郎や渡海屋が江戸に来たのは、出島のオランダ商館の館長が五年に一度、将軍に挨拶しに来るのに付き従ってだった。遊女たちも連れていた。主水之介は、重三郎という男に興味を感じ、退屈の虫が騒ぐ。主水之介は渡海屋の宿を訪ね、「長崎まで同行したい」と頼む。渡海屋も、天下御免の旗本は何かに利用出来ると思い、承知する。主水之介は品川から船に乗った。
出島でも、重三郎と渡海屋との遊女の奪い合いが続く。オランダ人商人の宴会から帰る十人もの女たちを、重三郎とその手下が連れ去ろうとするが、今度は渡海屋も用心棒をそろえている。形勢不利の重三郎は女たちを置いて逃げた。後を主水之介が追った。
主水之介は重三郎に、「わざわざ長崎に来たのは、お前に興味を持ったためと、退屈の虫が騒いだためだ」と言う。聞いた重三郎は喜び、主水之介を自分の船に招待した。
船室にはシャムの仏像がある。曽祖父はその昔、タイのアユタヤに日本人町を開いた山田長政だという。「海はいい。どこにも仕切りがなく、どこへも行ける」。そう語る、自由人の重三郎に主水之介は共感するものがあった。
船室には江戸で出会ったおこよがいた。おこよが、遊女の奪い合いの真相を話した。江戸から長崎に帰る前の晩、おこよは渡海屋が仲間の五島屋善右衛門(石山律雄)と、自分たち二十人の遊女を異国に売り飛ばす相談をしているのを聞いてしまった。重三郎と帰ることにしたが、もしかして渡海屋の仲間だといけないと思い、わざと鑑札を落として自分たちの身元が分かるようにしたのだ。
重三郎は以前にも、外国に売られる女を助け出し、アユタヤの日本人町の仲間に託したことがある。もちろん、鎖国の禁令に触れている。重三郎は当時としてはスケールの大きな日本人だ。主水之介は渡海屋たちの計画から女たちを守ろうと決めた。
主水之介の策略と、諸羽流青眼崩しの剣、そして重三郎の勇気と体術や拳法。二人の活躍で渡海屋たちは成敗された。しかし、狭い長崎をこれだけ騒がせては日本にはいられない。重三郎は女たちを連れてアユタヤに行くことになった。「一緒に」と言われて一瞬心が動いた主水之介だったが、やはり旗本である。
江戸に帰った主水之介には、大海原を走る重三郎の船が見えるような気がした。