白い巨塔
#1
浪速大学病院の手術室では鶴川大阪府知事の食道がんの手術が始まろうとしていた。第一外科の金井講師(奥田達士)や佃医局長(片岡孝太郎)らが緊張し忙しく立ち働いている。見学室には、鵜飼医学部長(伊武雅刀)、東第一外科教授(石坂浩二)、則内病院長(田中主将)もそろった。だが、執刀医の財前五郎助教授(唐沢寿明)が現れない。オペの時間が始まろうとするその時、財前が登場した。あせる周囲を黙殺し、財前は、時計を一瞥、一気にメスを振るい始めた。神業のような財前の手並みは正確にして敏速を極めた。がんは食道だけではなく大動脈にまで浸潤していたが、財前はひるまずメスを進め、吹き出る血にも顔色一つ変えず腕を振るう。手術完了。4時間35分…驚異的な短さである。財前は見学室に一礼した。
そんなころ、里見第一内科助教授(江口洋介)は、鵜飼によって胃がんと診断された患者・小西みどりの症状に疑問を抱き始めていた。
鶴川知事の手術に対して記者会見が開かれた。責任者である東が説明しようとするが、記者は財前のコメントを求める。東は不快感を隠さず、財前の自信に満ちた解説を聞くのだった。
そのニュースを、財前の妻・杏子(若村麻由美)とその父で産婦人科の開業医・又一(西田敏行)が喜んで見ていた。又一は「五郎君の次期教授は間違いなしや。前祝をしようやないか」と興奮するのだった。
みどりの症状が気に掛かる里見は、鵜飼に診断を質す。里見は、鵜飼の見立てである胃がんだけではなく、膵臓がんを併発している可能性を指摘するが、鵜飼は「神経質すぎる」と取り合わない。
その夜、財前は、愛人のクラブママ・ケイ子(黒木瞳)のマンションを訪れた。医学部中退のケイ子は「目立ちすぎじゃないの」と揶揄しつつも、有能で逞しい財前に抱かれるのであった。
翌日、東教授の総回診が始まった。財前ら医局員を従え、外科病棟を回診するのだ。財前が、執刀した患者を前に自慢話を始めると、ほかの医局員を前に、東はピシャリと諌めた。さらに「昨日の手術は乱暴である。自分の腕に酩酊するな」と叱責するのだった。東は一年足らずで退官である。財前は加齢によっての嫉妬だと想像するが、教授選の実権を握る大物の一人ではあった。
家に帰った東は、一人娘の佐枝子(矢田亜希子)に、現役教授の間に結婚してくれ、と、弱音とも本音ともつかぬ愚痴をこぼす。だが、佐枝子は違う世界の人か、医学関係でも開業医がいい、と言う。東は語気を強め「開業医は医学の世界では負け犬だ」と決め付ける。そこへ、東の妻政子(高畑淳子)が怒って帰って来た。教授婦人会「くれない会」で恥をかかされたと言う。週刊誌に掲載された知事の手術会見の写真で財前ばかりが注目されている、今や「財前外科」ではないかなどと話題になったのだ。父をなじる母を見て、佐枝子は恥じ入るのであった。
財前は又一に呼ばれ料亭へ足を運んだ。又一は「ワシはあんたに教授になって欲しいんや。わしの果たせんかった夢、かなえてや。わしは財前ちゅう株に投資しとるんや」と、教授選支援の腹を固め高笑いするのだった。
そのころクラブ・アラジンでは、東と鵜飼が密会していた。東が「後任教授で悩んでいる」と切り出す。鵜飼は「財前の野心と言うが彼は切れる。うちの里見は理想が高いばかりで…」と煙に巻こうとする。だが、東は「理想は大いなる魂に宿り、野心は小さな魂に取り付く」と迫る。鵜飼は苦笑し「ならば、よそからいうことを聞く方を連れて来ればいいでしょう。ご自身への批判が嫌なら、教授会の票を操ればいい」と皮肉を交え指南する。
その席にケイ子が近づく。と同時に財前と又一が店に入って来た。ケイ子は二人を東、鵜飼のテーブルに案内した。又一は舞い上がって義理の息子の自慢を始める。その時、財前の携帯が鳴った。席を外し電話に出るとケイ子である。「東さん、あなたを教授にしたくないようよ。五郎ちゃんはおめでたいところがあるから注意してね。登りつめたいのならもっと陰険な用心深さを持って」と教授する。財前は、東に対して激しい怒りに襲われた。だが、席に戻った財前は何食わぬ顔で東を立てるのだった。
ある日、財前は時間を見て、岡山の老いた母に仕送りをした。それから電話をかけた。「教授になったらもう少し楽させてやれるから」。「そんなに頑張らなくてもいいんだよ」。「俺自身のためにやってるんだ」。会話を終えると、財前は「白い巨塔」を目指し歩を進めた。
里見に頼まれ、財前は小西みどりのMRIのデータに目を通していた。「間違いなく膵臓がんだ。さすが里見君」と財前。里見は「君が手術してくれるか」と頼む。財前も珍しい症例にファイトを燃やす。と、里見ががんの告知すらしていないのに、財前はみどりに「初期の胃がんと膵臓がん併発」と唐突に告知してしまう。里見は怒るが「僕の言葉でがんを受け入れ、手術する勇気を持った」と財前。「医者は神様じゃない。人間だ」と諭す里見。だが、財前は「青臭い議論より手術を急ぐのが先だ」と取り合わない。
ところが、後日、みどりの最初の診断が鵜飼医学部長による見落としであると知った財前は、「あとがうるさそうだ」とばかりに里見に手術を降りると言い放った。
そんなころ、里見第一内科助教授(江口洋介)は、鵜飼によって胃がんと診断された患者・小西みどりの症状に疑問を抱き始めていた。
鶴川知事の手術に対して記者会見が開かれた。責任者である東が説明しようとするが、記者は財前のコメントを求める。東は不快感を隠さず、財前の自信に満ちた解説を聞くのだった。
そのニュースを、財前の妻・杏子(若村麻由美)とその父で産婦人科の開業医・又一(西田敏行)が喜んで見ていた。又一は「五郎君の次期教授は間違いなしや。前祝をしようやないか」と興奮するのだった。
みどりの症状が気に掛かる里見は、鵜飼に診断を質す。里見は、鵜飼の見立てである胃がんだけではなく、膵臓がんを併発している可能性を指摘するが、鵜飼は「神経質すぎる」と取り合わない。
その夜、財前は、愛人のクラブママ・ケイ子(黒木瞳)のマンションを訪れた。医学部中退のケイ子は「目立ちすぎじゃないの」と揶揄しつつも、有能で逞しい財前に抱かれるのであった。
翌日、東教授の総回診が始まった。財前ら医局員を従え、外科病棟を回診するのだ。財前が、執刀した患者を前に自慢話を始めると、ほかの医局員を前に、東はピシャリと諌めた。さらに「昨日の手術は乱暴である。自分の腕に酩酊するな」と叱責するのだった。東は一年足らずで退官である。財前は加齢によっての嫉妬だと想像するが、教授選の実権を握る大物の一人ではあった。
家に帰った東は、一人娘の佐枝子(矢田亜希子)に、現役教授の間に結婚してくれ、と、弱音とも本音ともつかぬ愚痴をこぼす。だが、佐枝子は違う世界の人か、医学関係でも開業医がいい、と言う。東は語気を強め「開業医は医学の世界では負け犬だ」と決め付ける。そこへ、東の妻政子(高畑淳子)が怒って帰って来た。教授婦人会「くれない会」で恥をかかされたと言う。週刊誌に掲載された知事の手術会見の写真で財前ばかりが注目されている、今や「財前外科」ではないかなどと話題になったのだ。父をなじる母を見て、佐枝子は恥じ入るのであった。
財前は又一に呼ばれ料亭へ足を運んだ。又一は「ワシはあんたに教授になって欲しいんや。わしの果たせんかった夢、かなえてや。わしは財前ちゅう株に投資しとるんや」と、教授選支援の腹を固め高笑いするのだった。
そのころクラブ・アラジンでは、東と鵜飼が密会していた。東が「後任教授で悩んでいる」と切り出す。鵜飼は「財前の野心と言うが彼は切れる。うちの里見は理想が高いばかりで…」と煙に巻こうとする。だが、東は「理想は大いなる魂に宿り、野心は小さな魂に取り付く」と迫る。鵜飼は苦笑し「ならば、よそからいうことを聞く方を連れて来ればいいでしょう。ご自身への批判が嫌なら、教授会の票を操ればいい」と皮肉を交え指南する。
その席にケイ子が近づく。と同時に財前と又一が店に入って来た。ケイ子は二人を東、鵜飼のテーブルに案内した。又一は舞い上がって義理の息子の自慢を始める。その時、財前の携帯が鳴った。席を外し電話に出るとケイ子である。「東さん、あなたを教授にしたくないようよ。五郎ちゃんはおめでたいところがあるから注意してね。登りつめたいのならもっと陰険な用心深さを持って」と教授する。財前は、東に対して激しい怒りに襲われた。だが、席に戻った財前は何食わぬ顔で東を立てるのだった。
ある日、財前は時間を見て、岡山の老いた母に仕送りをした。それから電話をかけた。「教授になったらもう少し楽させてやれるから」。「そんなに頑張らなくてもいいんだよ」。「俺自身のためにやってるんだ」。会話を終えると、財前は「白い巨塔」を目指し歩を進めた。
里見に頼まれ、財前は小西みどりのMRIのデータに目を通していた。「間違いなく膵臓がんだ。さすが里見君」と財前。里見は「君が手術してくれるか」と頼む。財前も珍しい症例にファイトを燃やす。と、里見ががんの告知すらしていないのに、財前はみどりに「初期の胃がんと膵臓がん併発」と唐突に告知してしまう。里見は怒るが「僕の言葉でがんを受け入れ、手術する勇気を持った」と財前。「医者は神様じゃない。人間だ」と諭す里見。だが、財前は「青臭い議論より手術を急ぐのが先だ」と取り合わない。
ところが、後日、みどりの最初の診断が鵜飼医学部長による見落としであると知った財前は、「あとがうるさそうだ」とばかりに里見に手術を降りると言い放った。