•  ソチ五輪翌シーズンとなる今季の全日本選手権が28日に終わった。今大会を振り返ると、2018年平昌五輪に向けて世代交代があったと言っていいだろう。特に女子は顕著で、全日本の表彰台に上ったのは3人とも10代選手だった。初優勝の宮原知子が16歳、銀メダルの本郷理華が18歳、そして今季ジュニアデビューしたばかりの樋口新葉は「彗星のごとく現れた」13歳だ。将来有望な逸材がシニアと遜色ない実力を発揮して、一気に表舞台に躍り出てきた。

     今季は浅田真央が休養し、鈴木明子や安藤美姫は昨季限りで現役を引退するなど、日本女子はエース不在中だ。そのエース候補の最右翼だった村上佳菜子が今季はなかなか結果を残せずに不振に陥っている。クセのあるジャンプの影響が大きいようで、減点対象になって得点が伸びず、昨年まで2年連続2位だった今大会で表彰台を逃す羽目に。

     全日本でメダリストになった若手3人娘は、ジャンプやスピン、ステップなどの基本技術がしっかりしていることが共通点に挙げられる。基礎がしっかりしているお陰で、伸びしろの幅が広く、さらなるレベルアップが図れる。そして、3人3様の個性が見られるのがいい。宮原はスタミナと豊富な練習量を武器にどんなジャンプ構成でも作れる強みがある。本郷は166センチの上背と手足の長さを生かしたダイナミックな演技が特徴だ。そして、浅田真央の再来とも言える「超新星」の樋口は、圧倒的なスピードとパワフルな勢い、弾むゴムまりのようなぶれのない力強いジャンプなど、どのエレメンツもすでにシニア顔負けの技術を持つ。

     おそらくこの3人は今後、さらなる飛躍を遂げるはずで、大いに期待できる。この3人に全日本では後塵を拝することになってしまったが、ソチ五輪代表の村上もこのまま負けてはいられない。今回浮き彫りになったクセのあるジャンプを修正して回転不足や減点対象にならないようにしてきてほしい。技術的にも表現面でも優れている20歳の奮起を促したいところだ。


  •  また男子は、全日本3連覇を果たした20歳の五輪王者・羽生結弦を中心に、羽生の同世代のシニアやジュニアで活躍する17歳の宇野昌磨と14歳の山本草太ら若い力がどんどん出現してきそうだ。世界選手権代表にはまだジュニア勢は選ばれず、昨年大会に続き銅メダルを獲得した25歳の小塚崇彦と総合5位と振るわなかった24歳の無良崇人のベテラン選手が選出されて健在ぶりをアピールした。今回の全日本では、昨年大会の総合7位から躍進して銀メダルに輝いた宇野が世界ジュニア選手権で日本男子としては5人目となる初制覇を狙う前に、シニアの四大陸選手権で肩慣らしをして自分の実力を図るいい機会を得た。表彰台に上る力を見せられるのか、はたまたシニア勢を向こうに回して初優勝を勝ち取るのか。楽しみな試合になりそうだ。

     今後のジュニア勢の活躍が期待される中、全日本選手権後に突然の現役引退を町田樹が発表した。世界選手権代表に選ばれ、挨拶に立った町田が発したの衝撃の言葉だった。

     「この全日本をもって現役を引退することを本日(28日)決断しました。今後は新たな道でゼロからスタートして、(早稲田大学大学院に入り)スポーツ科学の研究者としての道を進んでいくことにします!」

     まだまだ町田イズムがたっぷり詰まった演技を見たり、「氷上の哲学者」としての町田語録を聞いたりしたかっただけに、非常に残念な決断だった。今季掲げたテーマである「極北」の2つのプログラムの完成形を世界選手権で見たかったファンは多いに違いない。もう競技会で町田の演技が見られない寂しさはあるが、彼が決めたセカンドキャリアの人生を今後は応援していきたいと思う。


  •  日本スケート連盟から新人賞が発表され、男子は佐藤洸彬、女子は樋口新葉が受賞した。

    【世界選手権代表】(中国・上海)
     男子:2連覇を目指す羽生結弦、小塚崇彦、無良崇人
    女子:宮原知子、本郷理華、村上佳菜子
    ペア:高橋成美、木原龍一組


    【四大陸選手権】(韓国・ソウル)
    男子:宇野昌磨、無良、村上大介
    女子:宮原、本郷、永井優香
    ペア:高橋、木原組
    アイスダンスはキャシー・リード、クリス・リード組、平井絵己、マリオン・デ・ラ・アソンション組

    【世界ジュニア選手権】(エストニア・タリン)
    男子:宇野、山本草太、佐藤洸彬(ひろあき)
    女子:樋口新葉、永井、坂本花織
    ペア:古賀亜美、フランシスブードロ・オデ組




  •  フィギュアスケートの全日本選手権は28日、長野市ビッグハットで行われ、女子はショートプログアム(SP)2位の宮原知子がフリーで131.12点を出して逆転し、合計195.60点で初優勝を飾り、来年3月の世界選手権(中国・上海)代表に決まった。

     16歳の宮原は小柄なために演技が小さく見えてしまい、ジャンプも高さがないために回転不足を取られることが多い。その課題克服のために取り組む中で、今回の全日本ではしっかりと高く跳び力強く回り切ることを意識して臨んでいたという。フリーでも3つのジャンプでアンダーローテーションと判定され、なかなか課題をクリアできないが、ジャンプ構成で果敢に挑戦して全日本女王の座を引き寄せた。プログラム後半に難しいジャンプを持ってきた。ダブルアクセル(2回転半ジャンプ)+3回転トーループの連続ジャンプを2本決めて16.58点を稼いだ。技術点では基礎点57.42点にGOE(出来栄え点)加点が10点近くついて2位以下を圧倒する66.88点の高得点だった。

     「緊張はしていたんですけど、ジャンプでしっかり足に力を入れて跳べていたので良かった。3回転+3回転は跳ばなかったんですが、練習をしてきたダブルアクセル+3回転トーループを2本跳べたのは良かったです。優勝はしたんですけど、ジャンプも足りないところがあったりして、完全に飛び抜けているわけではないので、これからもしっかり練習していきたいです。しっかりノーミスするんだという気持ちと緊張を振り払うようにした。3回転+3回転の回転不足が多かったので、勢いがつく後半に3回転トーループをつけるほうが得点は高くなるのでジャンプ構成を変えました」

     今回の全日本は強気で臨むことを決めていたという宮原に勝利の女神が微笑んだようだ。


  •  SP首位だった18歳の本郷理華は、フリーでほぼミスのない演技を見せる会心の出来で121.93点を出し、合計188.63点で総合2位に入った。演技は両手でガッツポーズして満開の笑顔だった。

     「今日はジャンプがすべて決まって、アッコ(昨季限りで引退した鈴木明子)さんにアドバイスをしていただいた表現の面とか頑張ってきたところが出せたので良かったかな。順位よりもSPでもフリーでも自分のできることが出せたのが嬉しいです。最終グループで滑れるだけでも成長したかなと思ったので、順位は気にしていなかった。長久保コーチからは『力を入れすぎず伸び伸びやってこい』と言われました。ここまでたくさんの試合に出られていい経験になったので、残りの大会や次のシーズンにつなげていきたい」

     そう演技後に話していた本郷の次の試合は、2月の四大陸選手権と3月の世界選手権だ。2つの大きな国際大会に初めて出場することになった本郷が、どこまで世界に顔を売ることができるのか、いまから楽しみだ。


  •  総合3位に入ったのは、合計181.82点を出した全日本ジュニア女王で先のジュニアGPファイナル3位の樋口新葉だ。SP3位と好発進した13歳の勢いはすごかった。フリーでも爆発したパワフルな演技が期待されたが、この日は極度の緊張感に襲われてしまい、冒頭の3回転ルッツでパンク。その後は動揺せずにしっかりと演技をまとめた。並みの13歳でないのは、プログラム後半で緊張から足が動かなくなってジャンプでミスを出しながらも最後まで諦めずに滑りきったことだ。技術点では宮原に次いで61.79点の高得点を出すなど、しっかりと基本技を身につけている強みがある。ジュニアが表彰台の一角を占めたのは大健闘と言ってもいい結果だろう。

     「いま持っている自分の力を出し切るという目標を達成できなかったのは悔しいですけど、フリーで117.47点を出せたことは良かったです。今日はミスをしないようにしたいと思い、緊張し過ぎてしまって足がすくんでいます。こんなに緊張したのは初めての経験でした。この全日本は大きな大会で出てみたい試合ですごく楽しかったんですけど、完璧な演技ができなかったのが残念です。ジュニアデビューした今年はすごく成長できた1年だと思います」

     あまり緊張したせいで演技後は足に力が入らない脱力状態に陥り、報道陣の前に両脇を抱えられてきた樋口は立っていることもできずに椅子に座って質問の受け答えをしたほどだった。

     16歳の永井優香が合計168.55点の総合4位に入ったほか、優勝候補だった村上佳菜子はSP9位と出遅れた影響が大きく、フリーでも4位と振るわずに合計168.29点の総合5位に終わった。