数々の有力選手を指導する長光歌子さんが
フィギュアスケート界を楽しく語ります!

歌子の部屋

vol.69

対談企画 ゲスト:橋本聖子さん

幼少時よりスケートに慣れ親しみ、難病と闘いながらも高校2年生から全日本選手権を10連覇。自転車競技も合わせ7度オリンピックに出場し、東京オリンピック・パラリンピック組織委員会会長を務めた橋本聖子さんに歌子先生とお話を聞いてきました。

オリンピックを目指したきっかけは―

長光歌子先生

東京オリンピックの聖火を見て感動した父が私に聖子という名前をつけ、小さな頃から「お前はオリンピックの選手になるんだぞ」と言われていましたが、私自身がオリンピックを目指したきっかけは小学校1年生の冬にあった札幌オリンピックでした。競技のチケットはとてもじゃないけれど手に入らなかったのですが、真駒内という競技場に聖火台があって、その聖火だけを見せに連れて行ってもらったんです。その聖火を見た時に明確に「小さい頃からやっているスピードスケートでオリンピックに出る」と目標を立てました。

そうなんですね!聖火ってぐっと胸に来るものはありますよね。

オリンピックを好きな方々は聖火に対してリスペクトしてくださいますね。火というものは人間の原点のようなもので、そういった事を忘れないためにもオリンピックの度にギリシャのオリンピアという所で火を起こすんです。そういう伝統を続けていく事で、みんなが大会を大事にしていくのだと思います。

儀式ですね、人間の原点である火に対する恐怖や尊敬なんかを感じますね。

橋本聖子さん

7度出場されたオリンピックについて―

オリンピックに挑むときは「いつも初心に」と思っていました。初出場の時は前年に病気になって、間に合わないのではいかという思いはありましたが、ただ「諦めたくない」という気持ちが強かったです。オリンピック出場権を得た時は、「諦めなければ出られる、小学生の時から夢見ていたオリンピックに本当に出場できる」という感動が初出場の時の気持ちです。

それは素敵ですね。

しかし、さすがに、その次のオリンピックは病気の治療薬がドーピングに引っかかるので、諦めざるをえないと思っていました。3年間で体質改善をしてギリギリ克服できて、そこからは「ここまでやれば大丈夫」という自信がつきましたね。

それは凄い。夏も自転車競技で出場されていましたが、違いはありますか?

スケートも自転車もメインに使う筋肉は同じで、自転車では前に、スケートでは横に蹴るかの違いです。オランダやカナダ、アメリカでも夏冬出場している選手は多いので挑戦しましたが、苦しくなるとスケートの筋肉が横に蹴ろうとして相当苦しみました。そこから前も横もどちらも使いこなす筋肉をつけて、その使い方がスケートに活かされましたね。複数の競技を同時にやる事は相乗効果もリスクもありますが、完全にスケートから離れて自転車競技者になると、スケートがものすごくよくわかるようになったんです。無駄なことやもっとやった方がいいこともわかって非常にプラスになりましたし、メンタルでもプラスになりましたね。

違う種目を夏冬っていうのはよっぽどストイックさがないとできないですよね。

よく言われるんですけど、自分自身ではそうでもないんです。「できるはずがない」という人が周りには多くて、日本人だけなぜできないのかという感覚でした。リスクを先に考えてチャレンジしない、そのリスクを避けることは自分で自分の限界を決めているだけなのに、自分の先を見たいと思わない方がおかしいと思うんです。

道を切り拓いてこられましたよね。

髙橋大輔選手もシングルでオリンピックに出場されてアイスダンスに転向して、今もすごく進歩されていますよね。

そうですね。今回私が今教えている選手(三宅星南選手)が四大陸選手権に選ばれまして、どういう巡り合わせか9年ぶりに大輔と一緒に四大陸選手権に行くこととなりました(笑)。彼は35歳ですけど、前より身体が若くなったそうです。

そうですか!すごいですね!

聖子さんが引退されたのはおいくつの時ですか?

31歳でした。

それはやはり限界と思われたんですか?

そうですね。30歳の時に国会議員になりまして、無謀にもアトランタのオリンピックに出場して(笑)そこで辞めました。チャレンジすることはできたと思うんですが、どうしても次のキャリアという方が先になってしまいましたね。

誰にでもできることじゃないです。アスリートファーストを後押ししていただいて、ありがとうございます。

競技ごとの身体の違いについて―

先ほどの話でもあったように、身体の使い方は競技によって大きく違うと思います。フィギュアの選手は、上半身には余分な筋肉はつけないで、太ももも前の筋肉より後ろのハムストリングスをしっかり使えるようにとトレーナーさんに言われますが、スピードの選手はどうですか?

スピード選手の筋肉のつき方はどちらかというと横についているパターンが多いですね。フィギュアは回転する競技なのでお尻の高さが高いし、円形に近い筋肉のつき方をしていますよね。あまり太くなりすぎてもダメなのではないでしょうか。

シングル競技はそうですね。あまり筋肉がつきすぎると回転が鈍くなってしまいます。

スピードスケートに限らず、スポーツや種目によって筋肉のつけ方や練習方法も違いますね。

この間の東京オリンピックでも、競技ごとに身体の違いがあって面白かったです。

本当ですよね。たとえば自転車競技一つとってもロードとトラックで全然違います。ロードの選手はマラソンランナーと同じで山岳を走るため細い人が多いですし、逆にトラック競技の競輪という種目は太ももの太さが75cmくらいあることが普通です。

スピードスケートの清水宏保選手も70cmくらいあったかと記憶しています。

清水選手はやればやるだけ筋肉がつくタイプの選手でした。ただ、太ももが太いと脚をクロスしづらくなってコーナリングが大変になるんです。あれだけの筋肉がありながらも、内臓を上にあげる肉体改造で滑走時の姿勢をより低くしたり、ヨガを取り入れたり彼なりの技術で難しいコーナリングを克服して金メダルを取ることはすごいことだと思いました。

ヨガ!そういった技術を取り入れるというのはご本人の発想なんでしょうか?

清水選手の発想ですね。現在スピードスケートはいい選手がどんどん育ってきているので、トレーニングによって芸術的な肉体を日本人も作れるようになって、清水選手のような技術を身につければもっと強くなっていくと思います。

北京冬季オリンピックについて―

北京オリンピックには組織委員会の会長として行くことになります。出場する選手達が安心して大会に出場できるように努めたいと思っています。事前の隔離の中でどうトレーニングしてもらうか、そしてオリンピックとパラリンピックが終わってすぐ世界選手権などもありますよね。隔離されながらも健康を維持し、トレーニングできるように厚生労働省にかけあったり、水際対策を外務省と相談したり、実際の中身の部分はスポーツ庁につめてもらっています。この世界に入ったのは、そういった現場や、教育や福祉の現場の橋渡しになるために政治家になりたかったんです。常に現場目線でアスリートファーストの考え方を誰かが政治に繋げていかなくてはいけない、こんなにやりがいのある仕事はないと思っています。

本当にありがたいです。

長光歌子(ながみつ うたこ)
長光歌子(ながみつ うたこ)