数々の有力選手を指導する長光歌子さんが
フィギュアスケート界を楽しく語ります!
歌子の部屋
vol.68
対談企画 ゲスト:矢野桂一さん
幼少時から音楽に親しみ、音響業界に就職。現場でフィギュアスケートに出会い、その芸術性の高さに惚れ込み、音響や音楽編集で更なる競技の発展を目指し尽力される、矢野桂一さんに歌子先生とお話を聞いてきました。
楽曲編集を始めたきっかけは―

矢荒川静香さんから曲の編集を頼まれたのが初めです。2002年の長野でエキシビションをやった時、「向こう(海外)で作ってもらったプログラムの、出だしの音が聞こえないんです。音量を上げることはできるんですか?」という相談から始まりました。その頃は音響の調整だけしかやってなかったのですが、編集に興味を持ち始めたころだったので、ちょうど良いなと思いました。編集したものを聞いてもらったら「すごく聞こえるようになりました!」と、とても喜んでもらえて、それから毎年荒川さんから音源が送られてきて、それを編集するという関係になりました。
歌会場で音楽が聞こえづらい時はよくありますものね。
矢はい。私も『会場で聞こえるような感じで』というのを頭に入れながら編集をしていたら、少しずつスポーツの音楽のレベル感がわかるようになってきたんです。本格的なクラシックの専門家が聞けば、「この音がこんなに大きく聞こえるのはおかしい!」と気になると思いますが(笑)。
歌そうでしょうね(笑)。また、昔と比べたら音楽も多様性が出てきましたね。
矢どこからこんな曲探してくるの!というくらい様々な曲があります。
歌編集は以前より難しくなったんじゃないですか?
矢そうですね。難しいですし、この曲をどう表現するんだろう?と感じる事が多いです。同じポップスでもバラード系だと最後に盛り上がりがあるので音源としては組みやすいのですが、同じようなテンポで進む曲はどこを切っても同じような感じになってしまいます。そう思うとクラシックはすごいと感じます。力がありますよね。
歌そうですね。
矢こういう編集のお手伝いをするようになる以前は、クラシック曲を一曲全部通して聞くということはあまりなかったのですが、通して聴いてみると結構色々なところに「こんな綺麗なメロディーがあったのか」と気がつくことがあるんです。こういうメロディーを使ってみたらいいんじゃないかなと思いついたり、すごく自分自身も勉強になっていますね。他人と同じような楽曲の組み合わせ方をするよりも、違う毛色のものを入れてみたりとか、それは音楽編集をやっていてとても楽しいところです。

どのくらい編集をやられているのでしょうか―
矢小さい子からの依頼もお受けしていますし、ショートとフリーどちらもやっているので、既に出来上がっている曲の修正なども含めてですが、多い年で90曲くらいやっていると思います。ゼロから作るというのはそのうちの3割~4割くらいです。
歌どういうところを修正されているのでしょうか?
矢いろいろありますね。「ここの部分がうまく繋がらないので、なんとか音楽的に綺麗に繋いでください。」というのもあれば、「なんかちょっと一部に効果音が欲しいです」とかもあります。
歌私たちコーチはわがままなので、本当にご迷惑をおかけしていると思います(笑)。「ここで2秒欲しいから何とかしてください」というようなこともよくありましたよね。
矢大ちゃんの曲で覚えています(笑)。
歌矢野さんにはバンクーバーの時、ショートもフリーも何度も編集して良くしてくださって、「ここはお客さんの歓声がすごく大きくなるから、もうちょっと音量上げましょう」とか、「後半ここでシンバル入れましょう」とか、細かくやってくださいましたよね。初めは九州の岡崎先生が編曲してくださったのをどんどん膨らませてくださって、あれは感動的でした。今でも思い出します。
矢先生の「なんとか盛り上げたい」という思いも伝わってきましたし、ラストランナーという物語もあるので、最後なんとか盛り上げようと頑張りました。
楽曲を作るときのこだわりは―
矢音楽的な立場からもスケーターの持っている個性とか、その個性を活かしながらストーリー性が出るような形にしたいなと思っています。ゼロからの場合、知っている子だったらなんとなく想像できますけど、小さい子だと演技を見たこともない子もいるんですね。でもその子を見て想像しながら作っていると、滑る姿が見えてくるんです。それが見えてこなかったら構成を変えたり、編集し直すというのがこだわってる部分でもあります。
歌最近は歌詞入りの曲も増えましたよね。
矢そうですね。歌詞があるので前後の文脈の繋がりを考えたりするんですけど、演技にもならないといけないので、なるべく歌詞の中でも同じ言葉が出るところを使って繋げてみたり、できるかぎり対応はしています…。最終的にちゃんとした意味になってるのかな?と心配することがあり、そこは苦労しますね。
歌そこは確かにちょっと心配ですよね。
音楽の著作権について―
矢著作権は昔からある問題です。クラシックに関しては著作フリーなので基本的には問題ないですが、作曲者に直接掛け合いに行くしかない場合もあります。それでもダメな場合があって、急遽曲を変更したこともありました。
歌そうなんですね。
矢cobaさんは協力的でしたよね。
歌本当にありがたかったですね。
矢これ切っちゃって大丈夫かなって思っていたんです。頭にガラスの音をつけた時も、こんなの勝手につけて怒られないかなって思っていたんですけど、ご本人も凄く喜んでくださって。
歌本当に。何年かしてからもショーの時に生演奏で出てくださったり。それはすごくラッキーなことなんですね。
矢ラッキーでしたね。著作権問題ってこれからもついてまわることだと思うんですけど、試合ってなるとやっぱり非営利なものなので、今後もう少し緩和してもらえるように働きかけができたらいいなと思っています。
- 長光歌子(ながみつ うたこ)