数々の有力選手を指導する長光歌子さんが
フィギュアスケート界を楽しく語ります!

歌子の部屋

vol.68

対談企画 ゲスト:矢野桂一さん

幼少時から音楽に親しみ、音響業界に就職。現場でフィギュアスケートに出会い、その芸術性の高さに惚れ込み、音響や音楽編集で更なる競技の発展を目指し尽力される、矢野桂一さんに歌子先生とお話を聞いてきました。

2021.11.19

矢野桂一さん
矢野 桂一(やの けいいち)
矢野 桂一(やの けいいち)
音響デザイナー。幼少時から音楽に親しみ、音響業界に就職。現場でフィギュアスケートに出会い、その芸術性の高さに惚れ込む。競技の発展を目指し現在は音響構成をしながら、フィギュアスケート選手が使用する音楽の編集を請け負っている。

歌子先生との出会いについて

歌子先生は、会場でいつもお顔を拝見して、おはようございますという挨拶を交わす間柄でした。

そうですね。まだ大輔がジュニアのころは、楽曲も自分たちで悩みながら編集していました。長野のジュニアグランプリの時に大輔のエキシビションナンバーがなくて、会場で音楽室にお邪魔をして、矢野さんに葉加瀬太郎さんの曲で演技曲を作っていただいたのがちゃんとお互いを認識した最初だと思います。「これからお世話になるな」って予感めいたものはありました。

高橋大輔という選手は、今までの選手とは全然滑ってる印象が違うんですよね。「この子すごい踊れるな、センスあるな!」っていうのが最初の印象です。ダメダメな時もありますけど(笑)。

ほとんど全部見てくださっていますからね(笑)。

音楽が始まると着氷だとか動きひとつひとつがガラッと変わるので、そこにすごく惹かれました。そういう選手のお手伝いができるんだっていう嬉しさもありましたね。

ありがとうございます。その節は本当にお世話になりました。矢野さんは音楽の編集だけでなく、音響設計もされていますよね。

はい。もともとの仕事の一部なんですが、音は目に見えないので、いろいろな反射とか邪魔になるものなど物理的なことをかなり勉強しました。この会場だったらこのくらいの量のスピーカーが必要だとか、日本の大きな競技会でスピーカー配置のプランニングをしています。

そうなんですね!おかげさまで日本の競技会では安心して滑れています。

矢野桂一さん

音楽と出会ったきっかけは―

小さいころから母親が洋楽好きで、音楽は良く耳にしていました。自分で意識するようになったのは中学2年ぐらいの時で、ギターを買ってもらって友達と一緒にバンドみたいなことを始めて、本格的に楽器をやりはじめたのが高校に入ってからですね。バンドを組んで学園祭とかで演奏していました。

青春ですね!基本的には独学ということですか?

独学ですね。うまい友達に教えてもらいながら、メインはギターでドラムもたまに入れ替わって演奏していました。

すごいですね。私は手が不器用で、絶対音感もないし演奏はダメなんですよ。ただ、父がすごくクラシック音楽が好きで、毎日のように聴いていたので耳にはなじんでいたんです。スケートを始めていろいろな曲で滑る機会が増えて、そこから深くなっていきました。

僕も理論とか音楽論とかっていうのは全然勉強していないんです。耳でコピーしてやるバンドだったので、今もクラシックの曲を触る時はドキドキします。ただ、クラシック音楽もすごく好きで、途中でロックも好きになって、クラシックとつながりのあるプログレッシブロックっていうクラシックの曲をロックアレンジした曲に惹かれていきました。ずっと音楽に関わるために何ができるだろう、表舞台より裏方かなと思っていて、音響という仕事に興味を持ったのが始まりです。

フィギュアスケートとの出会いは―

当時僕は一般財団法人ヤマハ音楽振興会(以下:ヤマハ)の東京支部にいました。ヤマハがスケート連盟さんに曲提供や、競技会での音も大事だということで音響の協力も始めたんです。始まりは85年の代々木の世界選手権でした。預かった音源をスタジオに持って帰り、そこでコピーをして一巻ずつリールに巻いて「これが誰々選手のショートプログラム、フリースケーティング」って絶対間違えないように会場に運ぶ係でした。

そういうアナログな時代ですものね。

次の年の大会で初めて現場にテープデッキなどの機材を全部持ち込んで、預かった音源を現場で編集、コピーできるようになりました。昔は音楽タイムがアナログで若干違うんですよ。テープデッキの精度とか回転の速度とか。選手の申告タイムというのがあるんですが、こっちで計ると3秒くらい長かったり短かったりするんです。

そんなに違いますか。

違いましたね。それを調整してコピーするのが大変でした。

それは申告タイムに修正するんですか?

はい。合わせます。2台のデッキでコピーしていくんですけど、元のテープをかけて1回計ります。調整が必要な場合、デッキの微妙な速度調整で、何パーセントか上げたり下げたりして、我々の基準の速度のデッキにコピーしていくと、会場にあるデッキと同じ時間で流れるようになります。

それは大変な作業ですね。

長光歌子(ながみつ うたこ)
長光歌子(ながみつ うたこ)