数々の有力選手を指導する長光歌子さんが
フィギュアスケート界を楽しく語ります!
歌子の部屋
vol.64
対談企画 ゲスト:青木愛さん
幼少時より水泳に触れ8歳の時にシンクロナイズドスイミング(当時)を始める。2001年にはジュニア世界選手権でチーム銀メダルを獲得、2008年の北京オリンピックに当時チーム最年少として出場し活躍した青木愛さんに、歌子先生とお話を聞いてきました。
音楽について

歌同じ音楽に合わせる競技ですが、水中ではどうやって音を聞いているのでしょうか。
青実は水中にもスピーカーがあり、音楽は水中でも聞こえるようになっています。ですが海外など設備が悪いところや、曲調が水中では聞こえづらいもの、飛び込んだ瞬間は泡で聞こえないことなどがあり、そういった時は「ンッンッンッ」と誰かが水中で声を出し、全員で合わせます。
歌なるほど、凄いですね!フィギュアでもたとえば海外だと設備が悪くて、音が小さかったり、音質が悪くて割れてしまったりすることもあります。
青海外あるあるですね(笑)。
歌フィギュアスケートの演技は音に合わせているものの、完全に音を聞いてしまうとタイミングを上手く取れなかったり、引っ張られたりしてしまうので、完璧に音と同時の演技というわけでは無いのですが、アーティスティックスイミングでは全員が同時に動かないといけないので、音楽に完璧に合わせることになりますよね?
青そうですね、全員でカウントのタイミングを合わせて動きを一致させています。8人いたらカウントのとり方が速い選手、遅い選手がいて、陸上でカウントを合わせる練習をします。目をつぶって演技をして、コーチが「誰遅い!誰早い!」を指摘してだんだん合わせていきます。
歌本当に時間のかかる競技ですね…。
青私は本当に練習が嫌で、毎日何でこんなつらい思いをしているんだろう…と思っていました(笑)。めちゃ怒られるし、辛いですし…。でもテレビで村上佳菜子さんも言っていたので演技競技あるあるだと思うのですが、テレビや映画を見ていると、気付いたらBGMを聞いて「この曲を演技で使えそう!」とか「この曲ならこういう振付したら格好いいよね!」とか考えてしまうので、本当にアーティスティックスイミングが好きなんだと思います。
歌それはとても分かります。私もマッサージなどに行ってクラシックが流れていたりすると演技が思い浮かんでしまい、「今は考えさせないで~」ってなったりします(笑)。
青(笑)。
オリンピックへの憧れは
歌子供のころからオリンピックを目標としていたそうですが、それはどういった理由でしょうか。
青やはり、奥野さんのシンクロの演技をしている姿を幼稚園の頃から見ていて、当時はオリンピックがどういった大会なのかもわかっていなかったのですが「私もオリンピックに出る!」と言っていました。そこから競技を始めて、歳を重ねるごとにどんどん大会の難しさを知って、練習の大変さも知って、いつしか「出たい!」という目標に変わっていったんです。
歌実際代表に選ばれたときはどんな気持ちでしたか。
青オリンピック選考会は1次選考会と最終選考会に分かれていて、シンクロはチームの8人と補欠を1人入れての9人しか出場できないのですが、1次選考会では11位だったんです。シンクロは順位が上下することが殆どないので、最終選考までの3か月、あまり自分の事を「頑張った」と言いたくはないのですが、本当にシンクロ人生で一番頑張りました。代表になれなかったら辞めるつもりでいたので、プールサイドで結果を待っている時に次何をしようか、大学を休学していたので大学へ行って教員免許を取って~と考えていたら、7位で呼ばれて、「まさか」という驚いた気持ちが強すぎて、喜んだ記憶がありません…。世界ジュニアの時もそうでしたが、代表に選ばれると、日本を背負うと言うプレッシャーが強くて、頑張ろうという気持ちにはなっても、嬉しいという感じではなかったですね。
歌11位から7位なんて、本当に努力をされたんですね、普段の練習を10とすると、当時の努力はどのくらいでしたか?
青うーん、恥ずかしいけれど100くらいですね。私は上手にサボることが苦手で、サボるのがばれるタイプだったのですが、引退して大分経って井村雅代先生から「あんたももっと真面目に練習していたらソリストになれたのにな」と言われたときは、嬉しかったのと同時に、サボってたのやっぱりバレていたんだと感じました(笑)。
歌よく見られていたんですね(笑)。アーティスティックスイミングは一番大きな大会が終わってオフはどのくらいの期間あるのでしょうか。
青オフは1~2週間くらいでしょうか、練習はすぐに始まるのですが、練習の内容は基礎がメインとなります。クラブによっては息抜きの時間もあるのですが、井村シンクロは徹底的に基礎をやりますね。水から離れてしまうとすぐに感覚が鈍ってしまうので、オフの間も水泳はするようにしていました。
歌本当にフィギュアスケートよりもかなり厳しい競技ですね、息ができないだけではなかった(笑)。
青(笑)。先生が髙橋大輔さんをオリンピックに連れて行った頃は、オリンピックに対してどう思われていたのでしょうか。
歌大輔を教え出した時は、恥ずかしながらかなり楽観的に思っていて、この子はとても才能があるのでオリンピックの代表にしなきゃいけないなと思いました。本人が頑張って実現してくれたので良かったですけど(笑)。

家族の協力について
歌アーティスティックスイミングの人口は増えているのでしょうか。
青あまり私たちの頃と変わっていないと思います。中学へ上がるタイミング、高校へ上がるタイミングでやめてしまう子が多いです。小さい子供で「やりたい」という子は少し増えているかもしれませんが、結果が出ないとすぐに辞めてしまう事が多いですね。フィギュアスケートほどではないですがお金もかかりますし。
歌フィギュアの場合、特に女子の場合はお母さんが味方についてくれないと…親の協力がないとなかなかできない競技ですね。
青アーティスティックスイミングは勝手にやれと言われればできるんですけれど、代表戦以外の大会では衣装の装飾も母が行うことがほとんどなので、家族の協力が必要ですね。
歌私が親なら、針で指を刺すばかりだったでしょうね。
青私ももし自分に娘ができて、アーティスティックスイミングをやりたいと言い出したらどうしようかと悩んでいます(笑)。
歌やはり家族の協力が必要ですよね。
青自主練習ができる競技でもないですし、プールの貸切にもお金がかかりますね。
歌本当にそういう部分は似ていますね。本番用の衣装は練習でも着るのでしょうか。
青競技会の直前は馴らしのために着用します、北京の時の衣装なんかは全体にスパンコールがついている衣装だったので、動きづらくないかとか、水を吸うと重くなるので試したり、隙間があったりしないかなどをチェックします。
歌フィギュアスケートでは本番でいきなり衣装を着ることで緊張してしまう子もいるので、当日や前日の練習で着ておきなさいという事がありますが、そういうことはありますか。
青確かに子供達にはさせますね、何曜日に本番衣装持ってきてね、といった指導をします。それも慣れてもらうためと、また実際の衣装での練習を見てみて、水上にどの部分まで出した方が綺麗かを指導するという面もあります。
歌なるほど!コーチ達はプールサイドから見るのですか?
青プールサイドに審判台があります。その高さは試合によって違うのですが、審判の見るような位置から見て、胸をもっと張る様にとかそういった指導ですね、下を向いていると「水面に何か落ちているの?」とか聞いたりします。
歌全く同じです、フィギュアスケートでも下を向いて演技をしている子には「リンクには何も落ちてないよ!」っていう事がありますね(笑)。
- 長光歌子(ながみつ うたこ)