数々の有力選手を指導する長光歌子さんが
フィギュアスケート界を楽しく語ります!

歌子の部屋

vol.44

対談企画 ゲスト:薄田隆哉さん

かつては自身がアイスショーで活躍をされ、今は数々のアイスショーの構成、演出を手掛ける演出家薄田隆哉さんにアイスショーについてお話を聞いてきました。

2020.2.26

薄田隆哉さん
薄田 隆哉(うすだ たかや)
薄田 隆哉(うすだ たかや)
アイスショーの演出を専門に行う演出家・ディレクター。
ペア競技者としての選手を引退後、単身アイスショーの世界に飛び込み、一時は世界的に有名なアイスショーでの主役も勤めた。
その後千葉で指導を行いながら、アイスショーの構成・演出を行っている。

演出や構成など具体的にどんなことをされていますか

薄田隆哉さん(以降:薄)関わるショーにもよりますが、例えば(髙橋)大輔さんが主役をされていたクリスマスのアイスショーでは最初から最後まで構成をさせていただきました。
まずこんな曲でお願いしますといわれたらその曲に沿って進行しますし、それ以外のグループナンバーや、特に2部構成のショーの時はテーマを決めて進行していきます。前回のクリスマスのショーの場合は、日本にいながらヨーロッパにいるような、会場にいる時間だけでもイギリスやドイツのクリスマスを感じてもらえるイメージでストーリーを作りました。

長光歌子先生(以降:歌)薄田さんのクリスマス企画は、アットホームで人と人の関わりを大事にされていて、心にジーンとくるような構成ですよね。薄田さんの温かい人柄が表れていて毎回すごく心に沁みます。

直接みなさんから演出について意見を頂ける機会がないので、そう言っていただけると嬉しいですね!

人との関わり方、物語の進め方にいつも温かみを感じています。

ショーの度にメッセージを込めた演出ができるようイメージしています。家族のクリスマスストーリーや国ごとのクリスマスの表現、ストーリー、シーンをイメージできる演出、クリスマスだからこそ起こりうる奇跡みたいなものもイメージします。こんな家族がいてほしい、こんなストーリーが起きてほしいなという期待に応えながら、更に教会の1番上から街全体を眺め各家庭の幸せや悲しみなども見守っている様なイメージを表現できればなと思い構成しました。

クリスマスは決まったテーマが多いのに毎回よく違った発想をされているなといつも感心しています。

そうですね。特に曲選びは難しいです。

また、最初に大阪のなみはやドーム(現:東和薬品RACTABドーム)でやったときの空間の演出が美しく、クリスマスの神聖な感じがとても伝わってきました。

あの時は試合のピキッとした雰囲気とは変わって、いつもの目線から範囲を広げて空間をフルで使えるようなレーザーでの演出にこだわりました。あの時は確かフィナーレで選手が遠くにいる家族に手紙を読んで、レーザーで流れ星を出す演出を入れたりもしましたね。

選手以外にも会場の演出も含めて指示を出されるのですか

音に関してはスケーターが持ってきてくれた音源をもとに、その音源の作り手を想像してシーンを作ります。シーンを言葉にして世界観を伝えたり、特効さんとも相談して雪を降らせたりしています。
クリスマスのショーは毎年ストーリーが違っても、僕は最後のメリークリスマスの文言と雪は定番にしているんです。文言は、クリスマスをイギリスで過ごした際、イギリス人の妻に連れられて行ったミサでの出来事がもとになっています。そこで出会った人たちがとてもいい人ばかりで、日本人の自分を温かく受け入れてくれて「Merry Christmas」「Peace be with you」と挨拶してくれました。「平和」という意味の言葉。あなたにとって平和でありますようにと声をかけてもらったのをきっかけに、フィナーレの定番として最初に「Peace be with you Merry Christmas」という言葉で始めています。

とても素敵なエピソードですね!
演出でいえば照明も凝られていますが、どんな調整をされていますか?

照明さんとは「こういうストーリーなのでこんな雰囲気にして欲しい」という説明や、意見を交わしながら演出をしていきます。寒色系、暖色系でと説明しても伝わらないので、町の風景や写真などでイメージを共有してすり合わせしていきます。

最近は空を飛ぶ演出もありますね。

今でも覚えているのは荒川静香さんに空中でスタートしたいと言われ、吊り上げを使ったことです。

それはいつ頃ですか?

たしか10年ほど前です。ワイヤーで釣り上げて雲の上を歩きながら見えないようにワイヤーのベルトを外してオープニングに入る。という演出をしたいと本人の希望がありました。練習ではイメージ通りだったのですが、オープニング第一発目、お客さんが入ると会場の温度が上がりますよね。その時のリンクの空調がオートになっていて、急に雲が消えてしまったんです。本当に焦りました。それ以降は開場の5分前から空調の調整を行うようにしています。

最近はプロジェクションマッピングなんかも使われるようになりましたね。

スケーターを見せるのとプロジェクションマッピングを使い分けないと、お互いの良さを伝えられない。プロジェクションマッピングで選手が見えなくなってしまったり、選手がマッピングを遮ってしまうこともある。どちらを見せたいのかはっきりさせないとお互いを活かせない。リンクでのプロジェクションマッピングは横から見るとピンボケしているムービングライトみたいになってしまうので、見せ方が難しいですよね。

お客さんの観る位置は様々ですもんね。大変なジレンマを感じることでしょうね。

薄田隆哉さん

オープニングフィナーレやエキシビションの選曲の決め手は

プロデューサーさんのテーマに合わせたり、その年その年のテーマで「やりたい!」という意見をきいて選曲しています。早いときは3ヶ月以上前に決まったりもしますが、遅いときは1、2か月前に決まったりします。
1月に行われたアイスエクスプロージョンでは、大輔さんの情熱、感性など内から出てくる芸術的なパッションをイメージして選曲をしました。周りの人の支え、シングルとしての情熱を燃やし切って、燃やし切った後からまた始まる。みんなが集まってみんながもっている力を大輔さんに注いで“NEW髙橋大輔”が始まるというイメージで、そこからオープニングがスタートできるような曲を選びました。

ひとつのテーマをそこまで膨らませるなんてすごいですね!絵本作家にもなれそうですね。

そうですね、今振り返ってみると小学校時代に短編小説を読むことが好きで、星新一さんのショートショートをたくさん読みました。その時に風景や情景のイメージを自分の頭の中で想像して膨らませながら読んでいたことが、今思えば少なからず影響があるのかなと感じています。

本を読むって大事ですよね。ひとりひとり想像する世界が違ったりすることがおもしろいですし。

同じ言葉でもまったく違うものを思い描いていたりしますよね!子供の時に本を読んで想像することがたまたま好きだったことが、今活かされているのかもしれません。

フィギュアも曲のアレンジやチョイスで個性が出ますよね。

今回の演出では、以前、テイストをうかがった時に男で盛り上がる男祭りなんかもいいよねという話がありました。「男性らしい」「力強い」などのあまりフィギュアとは結び付きにくいイメージを表現したいと思っていた時にたまたま不死鳥(フェニックス)のお話を頂いて、偶然でしたがイメージと曲がピッタリですごくよかったです。大輔さんの個性ですね。

長光歌子(ながみつ うたこ)
長光歌子(ながみつ うたこ)