数々の有力選手を指導する長光歌子さんが
フィギュアスケート界を楽しく語ります!

歌子の部屋

vol.39

対談企画 ゲスト:飯箸靖孝さん

全てのスケート競技の基盤となるリンクの管理や制作を行う会社に勤め、30年以上も氷に関わり続けるプロフェッショナル。飯箸さんに氷に関するお話を聞いてきました。

氷にまつわる小話―

長光歌子先生

ヨーロッパの氷は良く滑るという話をたまに選手から聞いたりはするのですが、水の質なんかは関係あるんでしょうか。

私自身は海外の氷を経験したことがないので、はっきりとは言えませんが、おそらく関係はあると思います。カナダの高地のリンクだと、空気抵抗が少なくてスピードスケートの記録が出やすいといったこともありますし、水の影響も実は調べてみたら大きくかかわっている、なんて言うことはあると思いますね。

そういうの誰か研究したら面白いですね。フィギュアの場合はタイムを競うわけではないですが、やっぱり選手達は良く滑る氷を好みますよね。滑らないと回転にもジャンプにも関わってくるので、選手達やコーチたちは、良く滑る、よく浮く氷の会場だとホッとしますね。たまに浮きすぎてしまって失敗をするようなときもありますけれど、大抵公式練習で合わせてきますね。氷は硬すぎず柔らかすぎず…

硬さ柔らかさという問題は必ず付きまといますよね。

硬すぎるとやはり足に悪いように思いますよね。降りた衝撃が脚に返ってきてしまいます。大会のリンクは先ほどおっしゃられたように、断熱材を置かれたりしていて、緩衝作用がある為か、着氷時に音が響くんですが脚への負担は少ないみたいですね。氷の表面の硬さだけではなく、コンクリートの上に直接氷を引いている所では、足への負担が多いと思います。

衝撃は吸収された方が良いのですか?

硬いと浮き上がりも悪いですね、なので全日本などの特設リンクの場合は選手のジャンプも高くなる傾向があります。

そうなんですか!ジャンプの蹴りが吸収されてしまうので、逆に悪いのかなとずっと思っていました。

4回転なんかは目に見えて変わってきますね。体操の床のようにたわむ方がジャンプしやすいんだと思います。

では仮設で大会やった方がいいということなんでしょうか。

そうですね、全然違いますね。選手側としては大会に入るときには毎回どんな氷なんだろうという期待と不安をもっていきますね。でも全日本なんかは毎回特設リンクなので、練習リンクより跳べるというのが良く言われていますね。

そうだったんですね!逆に勉強になりました。

そういえば平昌オリンピックの選考会があった武蔵野の森の全日本の時も、本当に素晴らしく良く滑りました。

実は2007年の東京体育館の時も断熱材2枚ではなく3枚入れました。

だから、みんな跳びやすかったんですね。よく浮いたと選手たちは実感したと思います。

その違いが判るんですね、今ちょっとゾクッとしました。我々は硬い方が良く跳べるものだと思っていましたが、こういうお話しの機会があって本当に良かったです。

でも、いろんな方に「どんな氷が良いんですか」と結構聞かれたりするんですが、具体的に答えられないんですよね。良く伸びて…という感覚的な事しか答えられないですよね。

基準になる指標がないですからね。我々も同じような質問で困ってしまいますね。

ここのリンクよりはここのリンクの方が滑るねというようなことはわかるんですが、どんな氷が良いというのは本当に難しい事ですよね。寒すぎても良くないですし、大体室温でいうとどのくらいの温度がいいと思われますか?

会場にもよりますが15度から20度が多いですよね、20度を超えるとこちらはひやひやしますね。選手たちにも温度は大事ですよね。

寒すぎると身体が動かないし、暑すぎても普段寒いところで練習しているので、疲れてしまいますよね。

最後に―

飯箸さんには思い出の選手はなんかいますか。

私は競技上がりではなくアルバイトから今の会社に入って、氷に愛着を持ってしまっているので、選手に対して氷がきちっとできているかの方が大事になってしまって、選手そのものにはあまり目が行かないですね、オフの時は大会なんかも見ていますが、氷やフェンスがどうしても気になってしまって、そちらばっかり見てしまいますね(笑)

プロフェッショナルですね!今回は凄く選手ファーストで氷を作ってくださってくれている事が分かって、本当に良いお話を聞けたと思います。氷が綺麗にできているという状況を当たり前だと思ってはいけないし、選手やほかのコーチたちにも聞いていただきたいお話でした。本当にいつもありがとうございます。

いえいえ、こちらこそこれからもよろしくお願いします。

長光歌子先生
長光歌子(ながみつ うたこ)
長光歌子(ながみつ うたこ)