数々の有力選手を指導する長光歌子さんが
フィギュアスケート界を楽しく語ります!

歌子の部屋

vol.39

対談企画 ゲスト:飯箸靖孝さん

全てのスケート競技の基盤となるリンクの管理や制作を行う会社に勤め、30年以上も氷に関わり続けるプロフェッショナル。飯箸さんに氷に関するお話を聞いてきました。

2019.7.30

飯箸靖孝さん
飯箸 靖孝(いいはし やすたか)
飯箸 靖孝(いいはし やすたか)
千葉県松戸市生まれ松戸市育ち、高3冬より松戸市内のスケートリンクでアルバイトを開始し、1995年にリンク制作を行うパティネレジャーに入社、2005年からはイベント担当として業務に当たっている。30年以上もリンクに関わる氷のプロフェッショナル。

パティネレジャーさんについて―

長光歌子先生(以降:歌)パティネレジャーの前身の、パティネ商会を創業された大橋和夫さんという方は、スケーターとしては世界選手権にも出場されたことのある、とても紳士で素敵なジャッジの方で、世界選手権、オリンピック(1984年ロサンゼルス、1988年ソウル)でもジャッジをされていました。当時ジャッジというと厳しい方が多かったのですが、選手のいいところなんかをとても優しい言葉で伝えてくださって、リンクの制作会社というよりもそちらのイメージの方が強いです。私に近い歳のコーチたちは、みんな大橋さんにはお世話になっていると思います。

リンク作りについて―

まず、会場内にリンクを作るとき、どのように位置を決めるのですか

飯箸靖孝さん(以降:飯)まず弊社がおおよそのリンクの位置を決めて図面を出します。その後ジャッジ席や仮設スタンドの位置により、会場設営を行う会社さんと調整を行いリンクの位置を決めていきます。リンク自体の大きさは変わらないのであまり困らないのですが、屋外に置く冷凍機やポンプなどの設備がどうしても大型なので、そちらの場所を決めるのも、重要になってきます。

中よりも外が重要になってくるのですね、もともとが体育館だったりする場合は元のフロアの上に作られているんですよね?床の保全も大変になってくるのではないでしょうか。

そうですね、昨今大会を行う会場は収容人数の多い大きな会場ばかりです。特に普段はバレーボールだったりバスケットボールだったりを行う体育館ですので、水を絶対に漏らさないように1枚に繋げた巨大な防水シートを引いて、そこからリンクの土台作りを始めていきます。

とても繊細な作業になりますよね。

はい、こちらの防水シートがまず1次対策となっていて、その上に断熱材を引いてベニヤ板を引きます。そしてさらにその上に1枚防水シートを引きます。こちらのシートを引くことで、どこかに穴があって水が漏れても、下にもう一枚シートがあるので、床が漏れることを防ぐことができます。

その上に水を撒いていくんですか?

そうです、小指の太さ位の冷却管というものを置いて、水を撒いていきます。

良くお見掛けするあのパイプですね。

そうです、全体にわたるようにパイプを敷いて、そのパイプの中に冷却液を循環させながら水を撒いていきます。そうするとパイプの周りから凍り始めます。

最初は本当に薄い氷ですよね。何日くらいかけて作るのですか。

公式練習の1週間くらい前から会場入りをするので、1週間ほどかけて作ります。

あれは不思議なのですが、張りたての綺麗な氷はあまり滑らないですよね、その後大会までに何か工夫されているのですしょうか。

確かに無垢な氷は粘りがないですね。本当に氷を作る期間が短いときは氷締めという、表面を荒らして整氷することを繰り返したりします。何回も滑っていただけるとその分氷は良くなっていきますよね。滑って整氷して滑って整氷して、ですがやはり仮設だと大会が終わる頃が一番いい氷になってしまいます。本当は早く沢山滑ってもらえると嬉しいです。世界選手権なんかは、公式練習が2日あるから氷のコンディションは良くなりますよね。選手も初めは不満があるかなと思っています。

本当に透明なので良く滑るのかなと思いきや不思議に滑らないんですよね…どうしてなんですかね。締まっていないのかな。

締まっているという表現が本当に的確ですね。

段々と氷が良くなっていくな、締まっていくなというのを感じますね。大会のロゴなんかも作られているのですか。

氷に入れるロゴですね。あちらはビニール系の網戸のようなメッシュ素材に印刷しています。メッシュにすることで布によって氷の結びつきが分断されないように、しっかりした氷になる様になっています。

なるほど、そんな工夫がされいているなんて初めて知りました。氷はどのくらいの厚さにしているのでしょうか。

今は7cmぐらいの厚さになっています。冷却管の太さが9mmくらいの太さなので、その上でジャンプをしたりしても管が損傷しないようにするには、最低でも5~6cmは必要になってきます。あんまり厚くしすぎても冷やすのが伝わらなかったり、撤収に時間がかかってしまったりします。

初日なんか傷のない透明な氷を見ると、こんな厚さで大丈夫なのかなと不安になってしまいますね。

透明だと不安になるのは私たちでもわかりますね(笑)

昔ドイツの世界選手権で、多目的な会場だったことがあって、前日まで馬術の大会をやっていたので、公式練習日にはまだ氷が薄くて不安になった記憶がありますね。撤収にはどのくらいかかるのでしょうか。

撤収は1日で終わりますね。設営もリンクの形を作るのは一日ですね。

すごい、もう少しのんびりとやっているものだと思っていました。水はどうしているのでしょうか。

すべてポンプで排水しています。代々木はプールだったので昔は割って下に捨てていた事もありましたが、今は溶かして排出する方が効率的にも良いですね。

海外では日本よりリンクにかかる費用が安いと聞いたことがあるのですが、氷を作る仕組みは違ったりするのですか?

基本的には同じシステムを使っていると思いますが、床構造や管の中に流す物体、電気代だったりは違ってくると思います。日本では撤収の事も考えて今やっているシステムが理にかなっていると考えています。

そうなんですね。ショーなんかも同じでしょうか。

特設リンクを作るにあたって、ショーも大会も苦労は変わりません、かけられる時間は短くなりますが、手順は変わらないので。ただ、最近では夏場のアイスショーでは早く凍らせるために、水を0度近くに冷やすためだけに別途で機械を入れたりしています。

確かに冷えた水のほうが早く凍りますね。

長光歌子(ながみつ うたこ)
長光歌子(ながみつ うたこ)