数々の有力選手を指導する長光歌子さんが
フィギュアスケート界を楽しく語ります!

歌子の部屋

vol.39

対談企画 ゲスト:飯箸靖孝さん

全てのスケート競技の基盤となるリンクの管理や制作を行う会社に勤め、30年以上も氷に関わり続けるプロフェッショナル。飯箸さんに氷に関するお話を聞いてきました。

昔と変わったことはありますか―

長光歌子先生

昔より良くなったことはありますでしょうか。

先ほど水で床が濡れないようにするお話が出ましたが、防水シートが昔は分割されていたので、それらを全て会場で圧着する必要がありました。業務用のアイロンのような圧着機を使って繋げていくのですが、それらの作業だけで1日かかってしまい、氷を作り始めるまでに3日くらいかかる頃もありました。

それはどのくらい前ですか。

私は浅田真央さんが初出場で優勝したグランプリファイナル(2005年・代々木)からイベントに携わるようになりました。当時は冬季には代々木にリンクがあって、機械も会場にあったので、整氷をするくらいでしたが、その後代々木で冬季リンクがなくなって、弊社が機材を入れてリンクを作るようになりました。競技会で一からリンクを作った記憶があるのは2007年、東京体育館で行われた世界選手権ですね。あの頃はそれこそリンクの形を作るだけで3日かかっていましたね。

あの時は「(フィギュアスケートが)凄いことになってきたな」と思いましたね、既設のリンクではなく、体育館に新しくリンクを用意するなんてって。

今は防水シートが2枚ですが、あの時は3枚用意しましたね。本当に濡らしてしまってはいけないので。

最近整氷車が小柄になりましたよね?

2009年に代々木のグランプリファイナルで、世界で初めて競技会ではうちが導入したんですよ。10分で整氷を仕上げなければいけないのですが、ISUの方もこんな小さな車で大丈夫かと心配されて、事前にテストがあって、それをクリアして大会に導入することになりました。会場によっては荷重の問題があり、大きな車だと氷が割れてしまったり導線の問題から、最近の様々な所でやるようになったショーでも活躍しています。

なるほど、確かに重さや小回りが利くなんて言うところも大事になってきますね。いつもクルクルクルクルかわいいなと思って見ています。何台もありますよね?

氷を削る車が3台と、お湯を撒く車が2台あります。やろうと思えば1台でどちらもできるのですが、分業の方が効率よく整氷ができますね。

今度はそんなところも注目してみようと思います(笑)皆さんとても上手に運転されていますよね。

免許が要る車ではないのですが、うちのスタッフは皆どこかのリンクで普段から整氷しているので、慣れと経験の賜物ですね。後はまっすぐ進めるセンスですね。

2台でシンクロして整氷していくのを見ていると綺麗で飽きないですね。いつも同じコースを走るのですか?

会場の整氷車の出口の場所を考えて、このルートで整氷しようというプランは会場で決めますね。同じところを2度走らないように気を付けています。最後に未整氷レーンを通って出口から出るのが良いですね。

なるほど!

整氷の仕事について―

一番苦労をされていることは何ですか?

大会が始まってしまうと、会場の熱気で氷が安定しなくなる事でしょうか。いつも想定はしていますが、会場によって全く環境が違いますので、氷を作り始める時から感じを探りながらやっていますね。

外気なんかによっても変わってきますよね。

夏と冬では大きく違いますし、実は夏場のアイスショーなんかでは湿度が大きく関わってきますね、湿度が高いと氷面が霜だらけになってしまいますので、選手も大変だと思いますし、もっと頻繁に整氷を入れたいとは思っていますね。その点冬場は湿度が低いので、霜だらけになることはないですけれど。

夏と冬では大きく違うんですね。皆さんは寒かったりはしませんか?

特に寒くないですね、3月くらいになると逆に暑くなってきますね。この前の世界選手権なんかは熱気が凄くて氷の管理がとても大変でした。場内25度くらいあったと記憶しています。

そうなんですね。プロフェッショナルとして心掛けていることはありますか。

会社の今の代表にも昔から言われていますが、「365日練習している選手たちにとっては、大会のショートとフリーで本当に大切な2/365なんだから、そこに労力を惜しむな」というのを言われていて、私もそれに倣って皆さんがベストなパフォーマンスができるように心がけています。

それは選手やコーチたちに伝えたいですね!本当に試合に行っていい氷だなと思うことが多いので、いつもありがたいと思っています。

いえ、そういっていただけると嬉しいです。

長年やってこられて本当に困ってしまった事はありますか。

10年以上やっているんですが、大会が終わってしまうと苦労も困ったことも割とすっかり抜けてしまう感じですね。でも水の重さだけで0.07 * 30 * 60 =126 m3で126トンもありますので、荷重が問題だったりすることもありますね。面なのでそこまで1か所にはかかりませんが、やはりそれだけの重さがかかりますので、初めて設置する体育館などは心配しますね。

そこにさらに整氷車も載せるんですよね、まさかそんなに重いとは思いませんでした。

先生に質問なのですが、海外での整氷はどのようになっているのでしょうか。海外のメディアの方に、整氷を褒められることが割とあるんですが、いったいどこが違うんだろうかと思っているんです。

そうですね、海外では一度凄いトゥの失敗で大きく穴が開いてしまったときに穴を埋めているのを見たことがあるのですが、それ以外では整氷はしても、穴埋めしているのを見たことがないような気がします。そのあたりがきめ細かく見えるのではないでしょうか。練習のリンクだとよく見かけるのですが、日本では選手たちに自分で埋めさせているのも良いですよね。

長光歌子先生

小さなイベントリンクの運営なんかもされているようですが―

今も冬だけのリンクを何か所か作っています。

とにかくちょっとでも小さい子供たちが氷に触れる機会を増やしてあげてほしいですね。

まさしくそうですよね。一時は民間のリンクは殆ど閉まってしまい、残っているのがほとんど行政のリンクなのですが、日本の選手たちがこれだけ頑張ってきてくれて、フィギュアスケートが人気になって、あちこちでまたリンクの数が増えてきて。

一時期公立のリンクができて、今までのリンクが立ちいかなくなって、閉鎖になったということがあって、当時は結構苦しかったけど、今は公立のリンクでもフィギュアの練習ができるようになるなど進歩がありましたが、当時の選手たちは苦しかったと思います。通年リンクが増えるということは本当に良い事ですよね。

長光歌子(ながみつ うたこ)
長光歌子(ながみつ うたこ)