数々の有力選手を指導する長光歌子先生が
フィギュアスケート界を楽しく語ります!

歌子の部屋

vol.38

アメリカの歴代フィギュアスケート選手の中で、歌子先生の一番を教えてください

歌子先生に歴代アメリカ選手の思い出と、一番の選手について伺ってきました。

歌子先生

男子シングルについて―

 男子シングルでも最初に思い出すのは、札幌オリンピックです。イギリスのジョン・カリー選手やカナダのトーラー・クランストン選手を見て、男が踊る時代がきたな、こうならないといけないと思って、その頃から男子を踊らせたいと思うようになりました。そこにケニス・シェリー選手と、もう一人ジョン・ミーシャ・ペトケビッチ選手がいて、二人ともとてもアメリカンで男らしい溌剌としたスケートをしていました。ジョン・カリー選手やトーラー・クランストン選手がとても芸術的な滑りをするのに対して、アメリカの2人は見る人を元気にさせる、軽やかな男のスケーティングという感じで対照的でした。
 そしてアメリカ男子で1番を選ぶとしたらスコット・ハミルトン選手ですね、小さい頃のご病気で小柄でしたが、アメリカ人の「競技をエンジョイし、さらに観客を楽しませながら、その上でいい演技を見せる」という、そういう精神を凄く感じました。生で演技を見たことはないのですが、あんなにワクワクさせてくれた人はいません。スケートの素晴らしさを伝えてくれた一番の人だと感じます。スコットは本当にスケートも上手でしたし、尊敬していました。そして後日談なのですが、大輔がHipHopのスワンレイクがショートプログラムだったシーズン(2007-08シーズン)の第1戦目のGPスケートアメリカ、それにスコットさんが解説でいらしてたんです。大輔もスコットの大ファンだったということをよく聞いていたので、スコットと親しい連盟の方にお願いしてお会いすることができました。その時に大輔が「あなたの大ファンです!」と伝えると、スコットさんが「いやいや、僕が君のファンだよ」と大輔に言ってくれて、本当に嬉しかったのを覚えています。あのスコットさんがそんなふうに大輔に言ってくれるなんて!と凄く感動しました。

スコット・ハミルトン

スコット・ハミルトン選手

 年代で見ていくと次にブライアン・ボイタノ選手ですね。ボイタノ選手も本当に素晴らしかった!コーチになってから、時々アメリカに選手を連れて行けるようになり、ちょうどその頃にオリンピックの頂点を狙っている選手の一人でした。彼はオリンピックの年(1988年カルガリー)には全米中のリンクを単身で泊まり歩いて武者修行をしたそうです。精神をそこで修養したんでしょうね。ブライアン・オーサーさんと同世代で、ブライアン同士オリンピックで競い合っていました。
 トッド・エルドリッジ選手は正統派でスケートもうまくてジャンプも上手でした。それから忘れられないポール・ワイリー選手!ポールさんはハーバード大学へ行って、勉強をしながらスケートも上手かった。まさに文武両道で、今でいうネイサン・チェン選手のようですね。爽やかながら熱い!!アメリカの精神を感じる、素晴らしいスケートで大好きでした。
 フィンランドの世界選手権(1999年ヘルシンキ)で、その年シニアデビューしたティモシー・ゲーブル選手のクオリファイの演技を見た時は驚かされました。ちょうど彼の演技が始まった直後に会場に入り、彼の顔も名前も分からず、あまりスケートの上手くない選手だなとぼんやり見ていたら、4回転ジャンプをポンポン跳ぶんですよ、3回転に見えるくらい軽やかに跳んでいて、スケーティングとの落差に本当に驚いた記憶があります。勿論、年々スケーティングは上手くなりました(笑)
 そしてエヴァン・ライサチェク選手ですね、大輔と同年代で、付き合いがとても長いです。大輔が脚を怪我して戻ってきたバンクーバーオリンピックのショートプログラムの滑走順抽選の時に、エヴァンが大輔や私のもとにやってきて「よくここに戻ってきたね!」って本当に熱く言ってくれて嬉しかったです。アメリカのエヴァン選手、そしてジョニー・ウィアー選手、スイスのステファン・ランビエール選手、カナダのジェフリー・バトル選手、チェコのトマシュ・ベルネル選手、そして大輔。彼らが切磋琢磨していたその頃はみんながみんな個性的で、一番思い出に残っている時期です。
 ジェレミー・アボット選手もスケートもジャンプも上手くて大好きな選手の一人です。ジェイソン・ブラウン選手は彼がジュニアの頃から見ていますが、トランジションが本当に美しくて、繊細で綺麗なスケートが大好きです。昨年のイメチェンにはびっくりしました(笑)

歌子先生

 アダム・リッポン選手と村上大介選手は大輔共々、ニコライ・モロゾフコーチの家に一緒に住んでいた時期がありました。
 大輔と私が試合に出かける前日に、日本の食材を売っているスーパーまで出かけ、お鍋の材料を買い込み、みんなで楽しく夕食を囲みました。アダムも大介君もすごく喜んでくれました。翌朝、アダムがキッチンで何かごそごそしているな…と思っていたら、出発する時に、「昨夜はありがとう。お礼に初めてクッキーを焼いてみました。頑張ってきてね!」とクッキーを手渡してくれました。思いがけない事でびっくりし、彼の優しさに嬉しくなりました。今でも忘れられない出来事です。

長光歌子(ながみつ うたこ)
長光歌子(ながみつ うたこ)