数々の有力選手を指導する長光歌子さんが
フィギュアスケート界を楽しく語ります!

歌子の部屋

vol.36

対談企画 ゲスト:中塩美悠さん

今シーズン現役を引退し新しい旅立ちに向かう中塩美悠選手。パワフルなジャンプを武器に活躍し、ジュニアグランプリファイナルへの出場経験もある中塩選手に、引退について林祐輔コーチとともにお話を聞いてきました。

スケートへの想いについて―

長光歌子先生

私は、一昨年のショート落ちした全日本の後から変わったんですよ、考え方が。生まれてはじめてショート落ちしたんです。後にも先にもその時が初めて。スケートに行くことがしんどくて、もうリンクに行くのもいやだったんですけど、その後は凄く練習したんですよ。もう今までにないくらいに。私にはいつかショーで滑りたいという夢があったから、ショーに出るという「就活」のために練習に行こうと思ったんです。そこから、ショーのためには表現が必要じゃないかとか、スケーティングの練習の方が必要じゃないかとか色々考えるようになったし、音楽の表現の仕方とかについてやってた、武史先生と佳菜子ちゃんとかが出てたテレビ番組なんかも見ました。そこで「フリの一つ一つに意味をつけて踊る」と佳菜子ちゃんが言ってて、私もやってみようと思ったり。で、ショートでお話を作って踊ってみたら、先生に「めちゃよかった」って言われたんですよ。

へえー。それを感じ取った先生もすごいね。

今年、ショートがすごくいいね、と言われて、「あ、これはいいことなんだ」と思った。結果にこだわらずに、見せるためのスケートですね。正直、結果を求めても後がないと思ったから、それよりも将来のためになる練習をしようということに変わっていきました。

ショート落ちした時は、正直、どうするかなと思ったし、これで離れることもあるだろうなと覚悟もしてました。どこかに移りたいというのかなと思ったけど、そうじゃなかったね。4月に滑っているのを見て、何か違うなと思ったし、今年の感じはすごいんじゃないと。前の年はギスギスしてたけど。そういう風に変わったことに、僕はびっくりしました。

美悠ちゃんにとっては、必要なことだったんだね。私は順位とか点数だけじゃないと思っている方で、いかに人の記憶に残るかが大事と思ってる。「あの時の美悠ちゃんはよかったよね」といわせることが一番大事と思ってる。今年の美悠ちゃんは、人の心に記憶を残す、ということでは成功してると思いました。

どん底になった時に、「何のためにリンクに行ったらいいんだろう」と真剣に考えて、そうしようと思ったんです。来シーズン頑張ってもどうこうなれるわけではないから、だったら次のことを考えて、表現することを目的にスケートをしようと思ったんです。

そこはゴールがないからね。だから、頑張るんじゃなくて、楽しんでやって欲しいです。今のあなたの年でできてることもあるけど、何年か経ってその時のあなたにしかできないことが絶対にあるのよ。だから、年を取ることは決して悪いことではないと思う。よく大輔のことでも、どの年の表現が好きですかとよく聞かれるけど、その時その時の年齢にあったその場の表現があるのよね。内部はどんどん成熟していくし。だから、最後まで終着点はないから、どんどんよくなって欲しいし、還元していって欲しいよね。人って自分のやったことを次に伝えていく事が、生まれてきてからの大きな仕事なんだと思います。今まで美悠ちゃんは辛いことがいっぱいあったと思うけど、その方が次に伝える時の言葉が多いのよ。だからぜひ、悩んでいる若い子たちに声をかけてあげて欲しいのよ。多分あなたの言葉に救われる人がたくさん出てくると思うから。それは覚えておいて欲しい。順風満帆にいった人ほど、裏は少なくなるから、やはり言葉も少なくなるの。辛かった分だけ、自分の経験伝えることも是非していって欲しい。…なんて、かっこいい事を言いすぎました(笑)。

ファンの方がいるという事―

私よりファンが多い方はたくさんいるから、私が言っていいことかわからないですが、私は光栄なことにファンアカウントを作ってくださっている方もいるんですけど、そんなに思ってくれるのに、恩返しができていないじゃないですか。思ってくださっている分がこちらは返せなくて、私は申し訳ないなという気持ちになるんです。

美悠ちゃんのいいところだよね。

ファンはあなたのスケートを見るだけで満足しているんだからね。出てきてくれることでもういい。あなたの言葉もいらんし、恩返しっていうのは、あなたがスケートを滑るだけでいいのよ。それで完了してる。出て来てくれるってことで、もう還元してるわけよ。国体でも見に来てる、飯塚でも来てる、あなたの顔を見にきているんだから。

そうそう。

そう、笑顔で滑りきれば、もうそれだけでファンは満足だと思う。

美悠ちゃんが見たくて来る人がいて、そこについて来る人たちがいて、スケートを見て何かを感じてファンが増えていく、ということになれば、それだけでも恩返しなのよ。昔は悲惨だったんだから。全日本だって、ご父兄と関係者しか来なかったっていう時代があって、それを私たちは知っているから。だから、美悠ちゃんのスケートが見たくて足を運んでくれれば、それだけで恩返しなんですよ。すごいことよね。

本当に凄いことだと思います。

鈍感力で乗り切ってください(笑) 美悠ちゃんは聞くことは素直に全て受け入れるんだけど、人に説明する時はすごく気を使ってものを言ってる。それはけっこう大変だと思う。本当にスケート能力が高かったから今に至ってるけど、こういう強くて鈍感じゃないと生き残れないスケートという競技の中では、美悠ちゃんはちょっと特殊なんだと思う。

センシティブだと潰れてしまう子が多いですよね。気質の強い選手が勝ち残りますからね。

私の場合、それこそ母に助けて貰っていたんだと思います。嫌なことがあったらすぐに電話するんですけど、母も「美悠ちゃんそうじゃないんだよ、これでいいんだよ」みたいに諭してくれたりしました。

お母さんもうれしいよね、こんなかわいい娘さんで。いいなー。

私がやりたいことをやっているから母も嬉しいみたいです。


全員今日はありがとうございました。楽しかったです!

中塩美悠さん
長光歌子(ながみつ うたこ)
長光歌子(ながみつ うたこ)