あらすじ
<第10回> <第11回>

<第10回> 「崖っぷちの大勝負」
 秘書課の面々は鳴りやまない電話の対応に追われていた。すべては駅前開発計画の見直しを発表したちはる(中谷美紀)に対する抗議だった。なにしろ総額3百億円が動く大プロジェクト。利権をめぐって地元の多くの企業がからんでいた。市役所内の反応もちはるの予想を裏切って厳しかった。「あなたは職員全員を敵に回しましたね」。友枝(小野武彦)の言葉にちはるはショックをうけた。
 疲れきったちはるが藤田(松崎しげる)の店に顔を出すと、叔母のすみ子(鷲尾真知子)が婦人団体のメンバーと待っていた。「あの計画には不満だったのよ。応援するからね」。前市長であるちはるの父親の死後、計画は地元企業の意向をうけた国会議員、黒沼(鶴田忍)によって変更された。暴力団とのつながりもウワサされる黒沼がこのまま黙っているわけない。「敵ばっかりかあ」。さすがのちはるも少し弱気になった。
 その黒沼が現れた。「市長と2人きりで話したいんでね」。ちはるは市長室で黒沼と向きあった。ドアの外では友枝と小日向(高橋克実)が心配そうに耳をそばだてた。八潮(柳葉敏郎)も落ちつかない。黒沼は単刀直入だった。「私なら今すぐに工事を再開しますね。もちろん地元の建設業者を使ってね」。自ら利権がらみを告白したようなものだ。この週末には市民文化センター建設工事の入札が行われる。黒沼は地元業者の名前を口にした。「清濁あわせ飲むという言葉をご存じですか?」。黒沼はニヤニヤ笑った。つられてちはるも笑ったが、市長室を出るなり八潮に向かって叫んだ。「こいつ、逮捕して!あたしに圧力かけようとしたのよ!」。オロオロする友枝と小日向とは対照的に、高井(長野里美)、山田(正名僕蔵)、ユミ(松丘小椰)はちはるを信頼の笑みで見ていた。黒沼は険しい表情でちはるをいちべつすると、出ていった。「ったく。あー、ムカムカする、あの親父」。ちはるは吐き捨てるに言った。
 「絵に描いたような悪徳代議士よ」。その夜、藤田の店は黒沼の話題でもりあがった。カウンターには風間(吉沢悠)と優子(奥菜恵)も顔をそろえていた。マリは八潮が沈んでいるのに気づいた。「なんかあった?」「いえ、別に」。実は昼間、館浜署に呼ばれて県警本部への復帰を打診された。八潮は素直に喜べなかった。もう毎日ちはると会えなくなるのだ。市長とSPという立場をこえて、自分の気持ちがちはるに大きく傾いているのに、八潮は気づいていた。だから藤田が誘ってくれたチャリティのフォークダンス大会にも「市長が参加されるのなら」とOKした。「えっ、嘘?」。当然断るものと思っていたちはるは驚いた。
 翌朝、八潮が公舎に着くと同時に、窓ガラスの割れる大きな音が響いた。「市長!どうしました!」。ちはるの足元には窓ガラスの破片と紙にくるまれた大きな石が落ちていた。そしてちはるは手の甲に傷を負っていた。紙には”駅前開発の計画見直しを中止しろ!公共事業は市内の業者に!”の文字が。同じ文面は秘書課のファックスにも届いていた。「あたしがこんな暴力に屈するとでも思ってんのかね」。それでもちはるは八潮と2人きりになると聞かずにはいられなかった。「何かあってもあなたが守ってくれるでしょう?」八潮は即座に答えた。「はい」と。
 ちはるはケーブルテレビのカメラの前できっぱりと明言した。「館浜市長、織原ちはるは決して暴力に屈することなく、市民のための駅前開発を実行する。以上」。夜は藤田の店にいつもの顔ぶれがそろって、フォークダンスを練習した。楽しそうなちはるを八潮が見守るような笑みで見ていた。マリは八潮の気持ちを敏感に察知した。テーブル席では風間が優子を説得していた。「行けよ、チャンスじゃないか」。優子が東京のキー局からヘッドハンティングされたのだ。しかし優子の心は揺れていた。風間と離れたくなかったのだ。
 「あたし帰ります」。優子が足早に出ていくと、風間は首をかしげた。「なんで、あんなに悩むんだか」。優子の気持ちの分かるマリはじれったかった。「あんたさ、ずっと彼女と一緒に仕事してんでしょ。なのに何も感じない」「?」。風間はポカンとしたまま。「ダメだ、こりゃ。あたしも帰ろっと」。バカバカしくなったマリも店を出た。
 突然マリの悲鳴が響いた。「!」「!」。ちはる、八潮、風間が飛び出した。「急に後ろから口ふさがれて、ナイフ突きつけられて」。マリの足元にはバッサリ切られたマフラーが落ちていた。「入札価格を教えろって。市長にそう言っとけって」。ちはるはおびえるマリにかける慰めの言葉を探していた。
 その夜は八潮が公舎に泊まりこんでくれることになった。真夜中、寝つかれないちはるは八潮にたずねた。「あたし、市長辞めたほうがいいのかな?」。八潮は静かに言った。「あなたは単なるお飾りでも操り人形でもなかった。まわりが何を言おうと自分が正しいと信じたことを貫き通す人でした。お父様以上の頑固さで。貫いてください。あなたらしく」。八潮の言葉は目覚めたマリの耳にも届いた。「一緒にいるから好きになる」。マリは涙をこらえて、毛布の中にもぐりこんだ。
 翌朝市役所に向かう公用車の中でちはるの携帯電話が鳴った。黒沼だった。「きょうは市民文化センターの入札日でしたね。ここはひとつ、大人の判断をお願いしたい」。黒沼の高笑いが伝わってきた。ちはるは電話を切ると、ハンドルを握る八潮に頼んだ。「寄って行きたいとこがあるんだけど」。2人を乗せた車はあの場所へ向かった──。

<第11回> 「愛さえあれば!」
 市長公舎のリビング。「あたし、時間つぶしてくるから」。マリ(山口紗弥加)が気をきかせて出ていった。八潮(柳葉敏郎)と2人きりになったちはる(中谷美紀)は平静を装って切りだした。「県警本部に戻るんだって」「ご存知だったんですか」。明日から3日間の引き継ぎが終われば、もう会えない。「後任は若くてカッコイイのにしてよね」。ちはるは淋しさをこらえて冗談めかした。
 翌朝、八潮は後任SPの杉原(佐野賢一)を連れて迎えにきた。「よろしくお願いします!」。杉原は感激の面持ちだ。ちはるは市長室に着いても、八潮のことが気になって仕事が手につかない。ぼんやりしていると友枝(小野武彦)と小日向(高橋克実)が血相を変えて現れた。ちはるの収賄疑惑を告発する怪文書だ。市民文化センター建設を落札した建設会社から3百万円を受け取ったというのだ。「賄賂?バカバカしい」。身に覚えのないちはるは笑い飛ばしたが、念のために口座を確認した。「ウソでしょ」。何者かが3百万円を振り込んでいたのだ。「犯人なら分かってるわよ」。ちはるは館浜署の刑事にまくしたてた。国会議員の黒沼(鶴田忍)だ。「黒い噂がありますからね」。刑事もそう言ってくれたが、証拠がなければ相手は国会議員。警察もうかつには動けない。動いたのはマスコミ。仕方なくちはるは釈明の記者会見を開いた。「怪文書に書かれたことは事実無根です」。ちはるが足早に出ていこうとすると、市会議員の小早川(高知東生)が現れた。「はたしてそうでしょうか」。小早川は落札した建設会社と、父娘二代にわたっての癒着を主張した。「いい加減なこと言わないでよ!」。ちはるは小早川につかみかかろうとしたが、八潮に制止された。
 ちはるの口座番号を知るのは経理課の限られた職員だけ。八潮は挙動不審な塚田係長(大高洋夫)の周辺を探りはじめた。ちはるの潔白を信じるケーブルテレビの優子(奥菜恵)と風間(吉沢悠)も独自に取材を始めた。「やっぱり黒沼だな」「ええ。そしてその手先になっているのが小早川ね」。2人でコンビを組む仕事もこれが最後。優子は東京のキー局にヘッドハンティングされたからだ。そのキー局のプロデューサー水野(石井愃一)から、ちはるを取材したテープを貸してほしいと頼まれた。「不正入札疑惑については触れないから」。しかしオンエアされたワイドショーでは、ちはるはまるで犯罪者扱い。「なんだよ、これ」。優子と風間は怒りにふるえた。
 ワイドショーの報道は、ちはるの収賄疑惑を主張する小早川に追い風となった。議員たちからはちはるに対する野次が飛んだ。「あんたが入札価格をもらしたんだろう!」。小早川は議長に向かって手をあげた。「私は市長の不信任案を提出します」。場内から拍手が起きた。決議は明日午後の臨時議会だ。「申し訳ありませんでした」。藤田(松崎しげる)の店でちはるに会った優子と風間は、ワイドショーの一件をわびた。「いいわ よ、あたしは何もやってないんだから」。ちはるはあっさり水に流した。それよりも気がかりなのは明日の臨時議会。可決されたら市長を辞めなければならない。「失業保険って出るのかな?」。さすがのちはるもすっかり弱気。優子と風間も黙りこんでしまった。
 その頃、八潮は銀行のATMの録画から、3百万円を入金した男を割りだした。木村吾郎(大須賀王子)は小早川との関係が噂される暴力団の構成員。別件逮捕したが、木村は黙秘を続けた。取調室を出た八潮に耳寄りな情報がもたらされた。経理課の塚田係長(大高洋夫)が小早川の関係する消費者金融に多額の借金を抱えていたのだ。つながった!
 八潮は塚田の自宅に向かった。「借金をタテに小早川から、市長の口座番号を教えろと脅されたんじゃないですか?」。八潮はちはるの市政に対する情熱を訴えた。「この館浜市に必要な人なんです」。しかし塚田は「私は何も知りません」と言うと、家の中に消えた。
 一夜明けて、臨時議会当日。「決議の前にお話ししたいことがあります」。発言席に立ったちはるは静かに語り始めた。「市長なんか偉くない。市民の皆さんがあたしの上司でした。そして父の言っていた市民のための政治の意味が、最近ちょっとだけ判ってきたんです」。小早川はちはるをにらみつけていたが、他の議員たちは耳を傾けだした。「不信任案の決議には従います。でも外部の圧力なんかに負けないで、あくまでも市民のための政治を目指してください」。ちはるは駅前開発計画を変更させられたいきさつを訴えた。「そんな事実はない」。小早川はくってかかると、質問のほこ先を友枝に向けた。「助役ならご存知でしょう。圧力があったのか、なかったのか」。小早川は笑みを浮かべた。緊張の表情で発言席に立った友枝は小声ながらはっきりと言った。それは誰も予想していなかった一言だった──。


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