<第1回> <第2回> <第3回>


<第1回>
 堂々とそびえ立つチャペル。その上に輝く十字架。神々しく広がるこれらの光景を隔てる大きな鉄の門に、一人の女性が立った。名前は、阿部まりあ(観月ありさ)。冗談のようだが、これ本名。
 シスター志願でサンタ・ビアンカ・クローチェ修道院へやってきたのだ。
 掃除中の若いシスター吉野(上原さくら)は、まりあを見て見学希望者か新聞の勧誘員かと思ったようだが、まりあの説明を聞くと修道院内に案内してくれた。
 そこには教育係のベテランシスター・馬場(吉行和子)。慢性空腹状態に悩む大山(森公美子)、クールでどこか理由ありの戸川(北浦共笑)らが揃っていた まりあは、早速修道服に着替えミサに出席。院長の沢木(吉行和子)に紹介された。「美しい……」まりあを見て感嘆の声を上げる司祭。
 翌日、シスターとしてのまりあの生活がスタートした。だが、薄味で美味しくない食事。掃除は心を込めてしっかりと!などと質素を旨とし、しきたりで縛られた暮らしはなかなか大変で、慣れるのには時間と努力とが必要なようだった。シスター馬場の厳しい目も光っている。
 だが、院長の沢木は味付けが必要なら塩を使うことを許し、まりあと修道院に来た日があまり変わらない吉野は、一緒にがんばって行きましょうと励ましてくれた。
 その夜同室の二人は、吉野がこっそり隠し持っていたウィスキーを飲み寝付けない時を過ごしていた。
 まりあは、そんな吉野に心を許して、シスターになろうとしたいきさつを打ち明けていた。
 亡くなった母はシスターで、父は大工をしていた。ある日チャペルの修理に来ていた父は母と知り合い恋に落ち結婚を決意した。周囲の猛反対を押しきって。
 しかし、母はまりあを生んで体を壊して急死してしまった。
 父はそれを自分のせいだと責め、まりあにはそんな思いをさせたくないと修道院に行かせる決心をした。その父も昨年癌で亡くなってしまった。だから自分はここに来たのだと…。
 ここまで話し終えて二人はベッド入ったが、まりあは眠れなかった。
天井をジッと見つめ、そして父と撮った写真を手にとりしばらく考えにふけると、思い切ってベッドを抜け出したのだ。行き先は、父の眠る墓地。新しい生活への不安と寂しさを抱え、まりあはたまらず父の墓石にすがりつきにきたのだ。「お父さん、さみしいよ…なんで死んじゃったの……」。
 頬に伝う涙。でも、答えは返ってくるばすもなく…疲れと眠気が押し寄せ、墓石にしがみついたまま、まりあが眠りに落ちてしまった時だった、「こんな所で寝てると風邪ひくよ」。耳元でささやく声が聞こえたのだ。
「お父さん!会いたかった…お父さん…」寝ぼけまなこのまりあは、見知らぬ男にそれだけ言うと、また深い眠りに落ちていってしまった。
 まりあに父と間違えられた男は日下部譲(長塚京三)。
 職業・弁護士。しかしこの男、離婚を迫られ泣き付いてきた男の依頼には、アシスタントの岩田元(城島茂)を依頼者の妻の浮気相手に仕立て、離婚調停を有利に展開させ、自身は家賃も滞納し続けているといった弁護士らしからぬ男だった。
 日下部は、眠り込んだまりあをタクシーに乗せ、事務所に着くと後は運転手にまりあを託して行こうとしたが、「いいですけど、ずっと起きなかったらどうします?」。そう言ってニヤリと笑った運転手を見て、思わずまりあを事務所に運びいれてしまった。
「大変です!まりあさんがッ」。
 翌朝、修道院では当然のようにまりあ脱走騒動がおこっていた。そして……
 「こないで、こっちに来ないで!あなたはだれですか?」。
 「悪いが俺は子供には興味ないんだよ」。
 まりあが目覚めた日下部事務所でも。まりあは自分の失態も知らず、誤解したまま、手にした法律書で思い切り日下部を殴り倒していた。
 そこにやって来た岩田は、ひとまずまりあを送りとどけてくれるという。まりあが“全寮制の女学校“と偽った修道院まで。
 戻ってきたまりあは、沢木の取り計らいもあって一週間のチャペル清掃を課せられ、無断外泊を許されることになった。
 しかし、吉野たちは、まりあを一人にはしなかった。沢木の教えに従い、罪を共に償おうと一緒に掃除を始めたのだ。まりあの中に、この場所を慈しむ思いが芽生えはじめていた。
 しかし、この修道院に立ち退きをせまる魔の手がせまっていようとは知るよしもないまりあ。しかも、その相手というのが……。

<第2回>
 サンタ・ビアンカ・クローチェ修道院に日下部(長塚京三)と岩田(城島茂)がやってきた。酔って部屋に外泊した上、女学校に行ってるとごまかしていた二人が来たことにまりあ(観月ありさ)は慌てて「この前のことは黙ってて」と口封じをたのむ。これを聞いた日下部は、「お前みたいなのがシスターだとは神様も舐められたもんだ」と悪態を尽き、シスター馬場(深浦加奈子)に伴われ院長室へ入っていった。
「一体何しに来たんだろう?」気になるまりあ。
実は日下部の目的とは、修道院の立ち退き要求だった。
 院長の沢木(吉行和子)は、信仰心のあつい地主が無期限に土地を貸してくれる約束をしてくれたというが、日下部はすでにその人は亡くなり、後継者である息子が事業のため土地を利用したい意向であるのだと伝えた。約束よりも法律の方が強いのだとも。そして立ち退きまで三か月の猶予を与え帰って行った。
 チャペルに集った吉野(上原さくら)、戸川(北浦共笑)、大山(森公美子)らシスターたちは心配でならない。しかし、沢木はそんなシスターたちに神が守ってくれることを信じ、祈りを捧げることを促すのだった。
 しかし、まりあだけは「静かに祈るより掃除で祈りの気持ちを示しなさい」と馬場に命じられてしまう。「私も一緒に」という吉野の願いも聞き入れられず、半ば意地になって掃除に打ち込むまりあ。
 だが、そこでまりあはマリア像を破損させるという大失態を演じてしまったのだ。
 修道服に隠して外に持ち出したまりあは、陶器の店で修復を頼むが「職人もいないし不可能」と断わられしまう。どうしたらいいのか…と落ち込むまりあの前に偶然岩田が現れた。事務所にまりあとマリア像を連れてきた岩田は、工業高校美術工芸科の経験を生かして見事に修復をしてくれた。
 感謝の気持ちで一杯のまりあ。だが、そこへ戻って来て岩田から事情を聞いた日下部は、「そんなことぐらいでビクビクして。修道院なんて所詮その程度のところ」と言い放ったのだ。まりあは「物に価値があるのではなく、信じる気持ちに価値があるのです」と必死で言い返したが、まるでそのことばを試すかのように、日下部はマリア像を窓から投げ落してしまった。
 さらに、唖然とするまりあに「もし神がいるんだったら、5年前私の妻が殺された時、一体なにをやっていたのか聞いてみてくれよ!」と挑みかかるようにいうのだった。あまりの迫力に圧倒されて涙をにじませるまりあ。
 修道院に戻ったまりあは沢木に退会をするべきかと訪ねる。だが沢木は「形あるものはいずれ壊れる。それよりもあなたの心には迷いがあるようです」と返すのだった。 「今日、神を信じない人に会いました……」、悲しげに日下部のことを話すまりあ。これに対して沢木は、司祭から聞いたという日下部の素性を打ち明けた。妻が敬虔なクリスチャンであったが、5年前に暴漢に襲われ殺されたことを・・・。
 日下部の心の闇を始めて知るまりあ。
 そして翌日。日下部は再びサンタ・ビアンカ・クローチェ修道院を訪れていた。

<第3回>
 ある日の朝食。まりあ(観月ありさ)は、馬場(深浦加奈子)が日下部(長塚京三)に悪い噂があるとみんなの前で言ってるのを聞かされた。
 それは、日下部のやり方がかなり強引で、泣かされている者も多いというものだった。修道院に贈ってくれたというマリア像のことも、どんな下心があるか知れないというが、まりあは「汝の敵を愛せと聖書にもあります」といい、日下部を悪くいわなかった。
 しかし、そんな悪い噂を裏付けるような事件が日下部の身におこったのだ。
 それは、マージャンを楽しんでいた日下部のもとに、突然宮本夕子(伊藤かずえ)という女がやって来て、「子供を返して!」と叫んだかと思うと近くにあった花瓶で襲いかかってきたのだ。どうやら、日下部が以前弁護して女性らしい。
 まりあは、丁度岩田(城島茂)といる時その知らせを聞き、一緒に弁護士事務所へ向かうと、治療を手伝った。
 そしてそこであらためて、修道院の立ち退きの件を白紙にしてもらえないかと頼んでみるのだった。
 しかし、マリア像を贈ったのも損害賠償を要求されてはと先手を打ったことだし、役に立たないものは無くして公園にでもした方がと、日下部は冷たく言い放つのだった。
 その夜。静まりかえった修道院内にシスター戸川(北浦共笑)の悲鳴が響いた。
 まりあと吉野(上原さくら)そして大山(森公美子)が駆け付けてみると、そこには赤ん坊を抱いた女がうずくまっていた。
 「至急警察を!」という馬場を制し、沢木(吉行和子)は事情を聞くことにする。
 まりあはこの時まだ知らなかったが、実はこの女性は宮本夕子で、日下部に怪我を追わせた人物だったのだ。
 夕子は、親権を争ったものの、子供を夫にとられてしまった。だけどどうしても諦めることができず、子供を奪ってきてしまったことを打ち明けた。
 「子供には母親の方が必要なんです」と言う夕子に、「子供は二人で育てるのが好ましいのですが…」、沢木がそう説得していた時だった。いきなり警察と日下部、岩田がやってきたのだ。馬場の通報によって。
 これを見た夕子は、裏切られたと思い込み赤ん坊と一緒に図書館へと駆け込んだ。そしてそこにはまりあの姿も…。
 夕子は、子供を奪われるぐらいなら一緒に死ぬ!と叫ぶと、手にしたハサミを振りかざした。一瞬たじろぐまりあ。
 だが次の瞬間、信じられないことがおこったのだ。チャペルのマリア像が月明りに照らしだされかと思うと、それに呼応するかのようにまりあの表情が変わったのだ。「ハサミを渡して、全てを話して下さい」。
 そこには困り果てた表情は消え、落ち着き払い威厳さえ感じられるまりあがいた。


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