<第7回> <第8回> <第9回>


<第7回>
 ハウステンボスの広場で朗(長瀬智也)と黎子(本上まなみ)、そして絵里花(奥菜恵)と圭一(萩原聖人)の4人は出くわしてしまった。圭一がふだんの冷静さをかなぐり捨てて、朗に殴りかかった。絵里花が止めようと2人の間に割って入った。3人が我に返った時、黎子の姿はこつ然と消えていた。
 絵里花と圭一はそれぞれの胸の内に複雑な思いを抱えて東京へ帰った。朗は野村医師(嶋田久作)に電話を入れた。なぜ視界に色彩が戻らないのか。「高野さんは彼女の中に自分を見ているのです。自分を信じて下さい」。被害者と加害者なのに2人は同じ傷を心に負っていたのだ。
しかし朗には気がかりなことがあった。間もなくやって来るひとみの一周忌。その日を迎えたら自分がどうなるのか、そして黎子がどうなるのか。
「どうして黎子さんを探さないの?」。東京に戻った圭一は妹の麻衣(水谷妃里)から責められた。
「黎子ちゃんは間もなく戻ってくる」。
圭一はひとみの一周忌に黎子が姿を見せると確信していた。一方、朗は九州・福岡の町で黎子の行方を追っていた。黎子はフラワーサービスの会社を辞めて、アパートも引き払っていた。分かったことは彼女が鈴置ひとみという偽名を使っていたことだけだった。
 絵里花が再び朗のもとにやって来た。野口(飯田基祐)が設計事務所へ復職してほしいと言っている。朗はうれしかったが、黎子がいるかもしれない九州を離れる気にはなれない。「あの女のこと、どう思っているの!」。絵里花は詰問した。「彼女といると苦しかった…でも一緒にいたいと思う」
「それは愛なんかじゃない。あの女はひとみを殺したのよ。そんな女のために苦しまないで!」。
朗のモノトーンの視界の中で、絵里花の顔がゆがんで見えた。
 東京に戻った絵里花は圭一に呼び出された。「お礼を言いたくて」。黎子がハウステンボスにいることを知らせたのは絵里花だった。4人が出会った瞬間、朗と黎子はしっかりと手を握りあっていた。しかし、その事実を認めようとしない圭一に対して、絵里花は2人の秘められた一夜を告げた。
「朗が怒りに任せてなのか、それともあなたの愛する人が体で償おうとしたのか知りません。それでも彼女のこと、許せるんですか!」。朗と黎子が結ばれていたなんて。思いもかけない告白に圭一は言葉を失った。
 朗が設計事務所に復職した。
「絵里花、お前の説得のおかげだよ」。野口は素直に喜んだ。絵里花もまた朗と仕事のできるうれしい半面、なにやら釈然としない。黎子への思いを断ちきったから東京に帰ってきたとは思えなかったからだ。「朗の仕事、フォローしてやってくれ」。朗が色彩を失っていることは3人だけの秘密になった。朗は部屋が見つかるまで山本(川端竜太)の世話になることにした。
「どう考えたって絵里花、お前のことが好きだぜ。ひとみちゃんの一周忌が終わったら、彼女の気持ちにこたえてやったらどうだ?」。
山本は黎子のことを知らなかった。
 朗は良枝(涼風真世)の店を訪れた。黎子がひとみを名乗っていたことに、さすがの良枝も驚きの色を隠さなかった。「自分が奪ってしまったひとみの人生や、夢や、苦しさまでも背負い込んで生きようとしているんだと思います」。
そして黎子は必ず良枝のもとにやって来るはずだと、朗は確信していた。「彼女から連絡はありませんか?」「ないよ」。朗が視線を落としたデスクの上には、ひとみの一周忌の案内状が置かれていた。黎子はきっとその日、姿を現すに違いない。
 朗が帰ってしばらく後、ホステスの香織(田村たがめ)と加奈(河村和奈)がスカウトしてきた女を事務所に連れてきた。「面接してもらえますか」。香織の後ろから入ってきた女が伏し目がちに頭を下げた。「よろしくお願いします」。良枝はその女をじっと見つめた。
その女はまぎれもなく黎子だった…。

<第8回>
 ひとみの一周忌に黎子(本上まなみ)が姿を現わした。一同がじっと息を殺して見守る中、黎子は墓前に手を合わせた。「帰ろう」。
圭一(萩原聖人)が黎子を強引に連れ帰ろうとした。「やめろ!」。
朗(長瀬智也)が2人に割ってはいろうとすると、絵里花(奥菜 恵)がさけんだ。「朗、関係ないでしょ!」。4人のやりとりを見ていた良枝(涼風真世)は黎子に近づくと、彼女の頬を平手打ちした。
「ちょっと付き合って」。良枝と黎子は4人を残して、墓地から出ていった。「ああしないと収まらないからね」。2人きりになると良枝は苦笑を浮かべた。「娘を殺した女の声を忘れるわけないだろ」。
黎子が店へ面接にやって来た時、良枝は彼女が誰なのか気づいていたのだ。「勇気あると思ったよ。ひとみの名前を名乗るんだからさ」。良枝は黎子を見つめた。「だけど私はひとみの母親なんだ。やっぱりあんたを許せないよ」。
 黎子は実家に戻った。「無事で良かった」。1年ぶりの娘との再会に修一郎(西岡徳馬)は手放しで喜んだが、黎子は冷やかだった。
「あの事件のことは本当に知らなかったのですか?」。総会屋への利益供与事件。
「あれは常務と総務部長が勝手にやったことだ」。
修一郎は吐き捨てたが、黎子は父親が関わっていたと確信していた。
「黎子、未来を自分の人生を考えるんだ。」「お父さんの考え方は間違っている!」「なんだと!」。
修一郎は我が耳を疑った。今の黎子にはもう父親の言いなりにならない強い意志が感じられた。
 朗は上司の野口(飯田基祐)からファミリーレストランの全面改装の仕事を任された。かつてひとみが働いていた店だ。「お前がやるべきだ。現実から逃げていてはダメだ」
「分かりました」。朗は引き受けることにした。
 そして朗は黎子のパソコンにメールを送った。“来てくれてありがとう。大事な仕事をしています。それが終わったら会いたい”。ファミレスの改装デザインがまとまったら、黎子に会うつもりだった。しかし依然として色彩が戻らない。朗と同じように黎子もモノトーンの世界にいた。「同じ悲しみを分かち合う人間がいてくれることは、きっと心強い支えになると思いますよ」。心療内科医の野村(嶋田久作)は黎子を診察室に連れてくることを朗に勧めた。
 圭一は黎子にオーストラリアでの事故の記憶を執拗によみがえらせようとした。
「あの瞬間、何が目に入ったの?」「何が聞きたいんですか!」「助けたいんだ。だから思い出してくれ」。しかし黎子が事故の瞬間を思い出そうとすると、記憶の中で“何か”が白い世界をけがした。「私が殺したのよ。償わなきゃ。責任取らなきゃ」。黎子は自分に言い聞かすようにつぶやいた。
 朗が手がけていた改装デザインにOKが出た。「ホントですか!」
「良かったね」。絵里花も喜んでくれた。朗は早速メールを黎子に送った。“終わった、会いたい”。黎子はすぐに設計事務所に電話をかけたが、応対に出た絵里花は朗が外出中だと偽ると、一方的に電話を切った。朗も黎子の家に電話を入れるが、聞こえてきたのは圭一の声だった。「彼女を出してくれ」「断る。彼女は目が覚めたんだ。キミとのことは一時の気の迷いだと言っている」。朗が黎子の家に駆けつけると、玄関前で圭一が腕組みして待っていた。「言っただろ。彼女はキミに会いたくないんだ」。朗は拳を握りしめて圭一をにらみつけた。
「休んで申し訳ありませんでした」。黎子は良枝の店に姿を現わした。「あんたは娘の命を奪った女だ。私、何をするか判らないよ。それでもいいのかい」「はい」。黎子は覚悟を決めてうなずいた。「いいだろ。あんたを気に入って通ってくるお客もいることだし」。
 黎子は他のホステスに混じって接客を始めた。カラオケを歌う酔客の中に朗の上司、野口の姿があることに、黎子は気づいていなかった。
 翌朝、野口は朗に伝えた。「墓地に来た彼女、夜の店で働いてた」。朗だけでなく絵里花もショックを受けた。朗は仕事が終わるなり、良枝の店に飛んでいくが、黎子の姿はなかった。「彼女はどこにいるんですか!」。朗は気色ばんで良枝につめ寄った。
「あの子の償いたいって気持ち、本物かどうか試してるのさ」。黎子は彼女目当てに通っている客とホテルに行ったという。「あの子は判りましたって納得して出かけてったよ」「そんなことさせるなんて!」。その時、相手の男から電話がかかってきた。「ああ、黎子は先に部屋で待っていますよ」。良枝はわざと朗に聞こえるように、ホテル名と部屋番号を口にした。朗は店を飛び出した…。

<第9回>
 深夜の病院。突然倒れた黎子(本上まなみ)は救急処置室に運びこまれた。朗(長瀬智也)と絵里花(奥菜恵)が廊下で立ち尽くしていると、足音が近づいてきた。修一郎(西岡徳馬)だった。「どうして娘がキミと一緒にいるんだ」。
 朗が黙っていると、絵里花がつぶやいた。「2人は愛し合っているそうです」。修一郎は朗に近寄ると、意外にも頭を下げた。「もしキミが黎子のことを思ってくれるなら…黎子には近づかないでくれ」。
 さいわい黎子は過労による軽い貧血だった。帰宅した黎子が部屋で静養していると、突然圭一が入ってきた。「どうして!?」。修一郎から部屋の鍵を預かったという。「黎子ちゃんは僕がいないとダメなんだよ」。口調は優しかったが、圭一は異常とも思える熱心さでオーストラリアの事故について話した。現地へ行って事故の起きた砂丘も見てきたという。そして黎子に奇妙なことを聞いた。「ひょっとしてあの事故の前から友田ひとみのこと、知っていたんじゃないの?」。ひとみに初めて会ったのはパースの空港だ。「本当にそうなんだろうか?」「―!?どういう意味ですか?」。黎子は思わず声を荒らげた。
 良枝(涼風真世)が店の事務所でウィスキーを飲んでいると、黎子が姿を現わした。「昨夜は申し訳ありませんでした」。まさか黎子がやって来るとは思っていなかった良枝は絶句すると同時に怒りがこみ上げてきた。「よく平気な顔して私の前に…。」「(もう一度)働かせて下さい。」黎子は償いのためには体を売る覚悟をもしていた。
そしてしばらく黎子の様子を見ていた良枝は店で接客していた黎子を事務所に呼びつけた。「高野朗のために体は汚しても心は汚さないつもりかもしれない。でも、男の心は汚れちゃうんだよ。そのままお帰り。2度と私の前に現れないで」。さらに声を荒げて「恐いんだよ、あんたが…傍にいてほしくないんだよ!」。立ち尽くす黎子を残して、良枝は事務所を出ていった。
「たまには息抜きしたらどうだ。お前ら、普通の恋人みたいにデートしたことないんだろ」。上司の野口(飯田基祐)から言われた言葉がひっかかっていた朗は、黎子をデートに誘った。「今日だけはひとみのこと忘れよう」。ためらう黎子を朗はアイススケート場に連れて行った。朗は黎子の手を引っ張って滑り始めた。いつしか2人は笑顔を浮かべていた。
 2人がベンチに腰かけて休んでいると、朗は見慣れた顔のカップルに気づいた。野口と同僚の美奈子(小島可奈子)だった。
「意外な組み合わせですね」。
朗が笑いながら声をかけると、野口と美奈子は照れくさそうにした。
隠れようとする黎子の手を引っ張って、朗は2人に黎子のことを恋人だと紹介した。
ささやかな幸せな気分が朗と黎子の胸の中で広がった。
 朗は自分が改装を手がけた荻野夫妻のビストロに黎子を連れていった。ひとみの死の直後に苦しみながらした仕事であることを黎子に告白した。「そんな店に連れてきて、ひどいヤツだと思っているでしょ」「戸惑っています」。黎子は正直な気持ちを打ち明けた。
 朗は精神分析の本で知った”逆説志向”について説明した。それまで恐れていたことを進んでやってみることによって、心の病を克服する。「だから敢えてこの店にしたんだ」。朗はかかりつけの心療内科医の野村(嶋田久作)のもとへ、黎子も一緒に行ってほしいと頼んだ。色が判らないと、黎子が目指しているカラーコーディネーターにはなれない。「俺と一緒なら大丈夫だろ」。黎子はうなずいた。「ひとみになんてなれるわけないし、俺はひとみの代わりを求めてるんじゃない」。
黎子は朗の手を強く握り返してきた。「ありがとう」。2人は黎子の自宅前までやって来た。その瞬間、数人の人影が2人を囲むと、カメラのストロボを浴びせかけた。
「辻谷黎子さんですね」。週刊誌の記者たちだ。修一郎の総会屋利益供与がらみに違いない。「やめろよ!」。朗が制止しようとしても、カメラマンはフラッシュを浴びせ続けた。
 なんとか黎子を自宅内に入れると、怒りにかられた朗は絵里花のアパートへ向かった。黎子のことを週刊誌の記者にしゃべったのは絵里花以外に考えられない。「そうよ」。絵里花はあっさりと認めた。「愛が憎しみに変わることはあっても、憎しみが愛に変わることなんか絶対にない。2人はうまくいかない。私、それを見届けたいの」。しかし朗の心に怒りは湧いてこなかった。むしろ同情するような目で絵里花を見返した。部屋を出て行く朗に向かって、絵里花はきっぱりと言い切った。「私、朗を憎むことにしたの!」。 朗と二人カウンセリングを受けることにした黎子は少しずつ自分の過去を語り始めた。
 数日後、圭一から朗と絵里花に見せたいものがあると電話がかかってきた。2人は圭一の法律事務所へ向かった…。


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