<第4回> <第5回> <第6回>


<第4回>
 ひとみ(菅野美穂)の墓前で再会した朗(長瀬智也)と黎子(本上まなみ)は、モーテルで一夜を共にした。翌朝、ベッドの隣りで眠る裸の黎子に気づいて、朗は息をのんだ。どうしてひとみを殺した女とこんなことになってしまったのか?朗は1人モーテルを出た。目覚めた黎子はベッドサイドに置かれた封筒に気づいた。中身は百万円の札束。良枝(涼風真世)が強引に朗に手渡したものだった。
朗がアパートに帰ってくると絵里花(奥菜恵)が待っていた。「心配していたんだよ」「……ひとみの墓に行った…」。
そして朗は部屋の中に消えた。
 新東京国際空港。出発ロビーに圭一(萩原聖人)と麻衣(水谷妃里)がやって来た。「何日ぐらい行くの?」「長くても4日だな」。
圭一は一足先にオーストラリアへ帰っているはずの黎子を追って、機上の人となった。
 絵里花は恋人の山本(川端竜太)から呼び出された。「ずっと好きだったんだろ?朗のこと」。本心を見透かされた絵里花はポツリとつぶやいた。「ずっとひとみになりたいと思ってた」「なれよ。朗と付き合ってひとみになれよ。…死んで良かったじゃないか、ひとみちゃん」。絵里花は顔を歪め、一人出て行った。
 翌日、北斗興産の専務室。修一郎(西岡徳馬)に圭一から国際電話がかかってきた。黎子がオーストラリアのアパートに戻っていないという。「飛行機に乗らなかったのか?」。修一郎は激しい後悔の念にさいなまれた。そこへ村越常務が入ってきた。顔面そう白で、雑誌記事のコピーを差し出した。
北斗興産、総会屋へ莫大な利益供唯の見出し。「潰せないのか」「遅かれ早かれ出ます」。村越常務は首を振った。
 中村設計事務所。「お前、本気か!」「おかしいですか?」。野口(飯田基祐)の声に朗は怪訝そうに答えた。朗が野口に手渡したのは萩野夫妻から依頼されたビストロのデザイン画。のぞきこんだ絵里花もア然となった。色使いがまるでメチャクチャなのだ。「明日、描き直してくるよ」。朗は絵里花の前で努めて平静を装ったが、内心は絶望的な思いにとらわれていた。
「どうして色が」。朗の視界からすべての色彩が失われていたのだ。
どちらを向いても何を見ても灰色なのだ。
 ひとみの墓前にオーストラリアへ帰らなかった黎子の姿があった。
花を供えて出口へ向かうと、入れ代わりに良枝が近づいてきた。2人に面識はないが、すれ違う瞬間に、黎子は直感的に良枝が誰なのか気づいた。しかし声をかけることはできない。黎子は物陰に隠れ、硬直した体を震わせていた。
その時、朗が姿を現わした。「何驚いてンだい。私が墓参りしているのが意外かい?」。良枝は苦笑を浮かべた。
「事故の解決金、このお墓に使ったんですね」。良枝は墓前の真新しい花に目をやった。「…きっといい子なんだろうね。…おそらくさっきすれ違った子だ」。朗はあたりを見回したが、黎子の姿はすでになかった。
「しっかり見るんだった。ひとみを殺した女の顔を」。良枝は再びひとみの墓の前に座り込んだ。
 色彩の回復しない朗は総合病院の眼科を訪れた。医師は精神的なショックを指摘し、心療内科での診察を勧めた。「心の病気を扱うところです」。ひとみを失った心労が、朗の視界から色彩を奪ったのかもしれない。同じ頃、朗を訪ねて黎子が設計事務所にやって来た。絵里花はビルの屋上で向かい合った。
「彼に何の用事があるんですか!」「…渡して下さい」。黎子は札束の入った封筒を差し出した。
「どうしてあなたが持ってるんですか!」。まさかモーテルの一夜を打ち明けるわけにはいかない。
「ごめんなさい」。ひたすら謝り続ける黎子。絵里花はひとみが朗の腕に抱かれたまま息をひきとったことを告げた。「ホントに眠っているようだった」。黎子の目から涙があふれた。
「あんたなんか、泣かないで!」。2人が向かい合っているのは14階建てのビルの屋上。絵里花は冷たく言い放った。「ここから飛び降りて、グシャグシャになって死んでよ!」。黎子はビルの縁へ向かって、フラッと歩き出した…。

<第5回>
 「それは恋愛感情です」。心療内科医の野村(嶋田久作)の診察を受けて、朗(長瀬智也)は黎子(本上まなみ)を抱いてしまった本当の理由に気づかされた。朗はそんな自分が許せなかった。
 「朝まで一緒にいてやってくれ」。黎子から朗との事を告白された父・修一郎(西岡徳馬)に頼まれて、圭一(萩原聖人)は黎子とシティホテルにチェックインした。圭一は黎子が朗に抱かれたことを知らなかったが、これ以上2人を接近させることは危険だと感じていたのだ。圭一は黎子をベッドに押し倒した。黎子はまるで人形のように、圭一にされるがままだった。「…どうしてあんなことに…」。
 この言葉に圭一は事故を思い出してのことかとドキリとしたが、2人の気持ちはすれ違っていたのだった。
「あの時は声をかけることができませんでした」。黎子は覚悟を決めて良枝(涼風真世)に電話した。
「教えて下さい。私はどうすればいいのですか」。意外にも良枝は柔らかい笑みを浮かべて答えた。
「もう少し現実を見るんだね」。
 父親の修一郎は不動産会社の重役とはいえ、7百万円を用立てるのは簡単ではなかったはずだ。「恋人の弁護士もあんたのためにかなり危ない橋を渡っているよ」。黎子が罪の意識にかられて勝手に動くことは、修一郎や圭一にとってプラスにはならない。「いい加減、悲劇のヒロインぶるのはやめなさい」。良枝は優しく諭すように言った。
 帰宅した黎子は麻衣(水谷妃里)から圭一がパースに行っていたことを教えられた。ホテルの部屋で圭一はそのことで一言も黎子を責めなかった。さっきの良枝の言葉が耳の中でよみがえった。「私、何やってんだろ」。激しい自己嫌悪に陥った黎子は圭一にEメールを送った。法律事務所で残業していた圭一はすぐさま黎子の部屋に電話をかけてきた。しかし黎子は受話器を取れなかった。
 心療内科・診察室。朗は野村医師とのカウンセリングでひとみとの出会いを振り返っていた。「2年付き合っても何も変わらなかった。ずっと楽しかった。そんな女は初めてでした」。自分の腕の中でひとみが息を引き取った朝を朗は忘れられなかった。「キスをしたら、目を覚ますような気がしたんです」。そんなに愛した恋人を殺した黎子をどうして好きになってしまったのか。「俺、憎めますか?あの女のことを」。野村は朗に聞き返した。「高野さん、自分のことを憎めますか」。野村は続けた。「高野さんは彼女の中に自分を見ているんです。それが判った時、高野さんは色が見えるようになるかも知れません」。あまりにも残酷な診断だった。
 「色々とご迷惑をおかけしました」。黎子は修一郎に頭を下げた。
オーストラリアの部屋を引き払い、東京で働きながら解決金を返していきたい。「私も何かを諦めたいんです」。修一郎は納得してくれたが、一つだけ条件をつけた。
「高野朗にはもう会うな」。
 朗が担当した仕事にクレームがついた。だが朗の仕事にミスはなかった。しかし金丸建設の担当者は朗をクビにしないと、今後一切仕事を回さないとねじこんできた。
「どうしてなんだ!」。朗は身に覚えがなかったが、絵里花は知っていた。圭一を紹介してきたのが、金丸建設だったことを。
 黎子は朗に会うつもりだった。
 ふと電機店の店頭のテレビに目が釘付けになった。北斗興産本社ビルにマスコミ取材陣が詰めかけている。総会屋グループへの利益供与疑惑に捜査のメスが入ったのだ。
記者会見場のひな壇に並ぶ幹部の中には修一郎の顔もあった。「私の一存で指示しました。明日捜査本部へ出頭いたします」。深々と頭を下げたのは上田常務だった。記者たちの追及は修一郎にも向けられた。「会社ぐるみじゃないんですか!」「失礼だな」。修一郎は記者をにらみつけた。
 柏木法律事務所。「あなたの差し金なんですね」。絵里花は圭一に詰め寄った。
「弁護士は常に依頼者の味方ですよ」。圭一は笑みを浮かべてはぐらかしたが、朗をクビにするよう金丸建設に働きかけたことは間違いない。「証拠もなしに騒ぎたてると、名誉棄損で訴えますよ」。絵里花は唇をかみしめて引き下がるしかなかった。
 辻谷家。「本当に知らなかったのですか」。黎子は疲れきって帰宅した修一郎に問いただした。本当に父親は疑惑と無縁なのだろうか。「どういう意味だ。私を疑っているのか?」。修一郎は黎子をにらみつけた。
 臨海副都心。朗が桟橋から海をながめていると黎子がちかづいてきた。本当の気持ちを彼女に打ち明けるつもりだった。「憎しみで君を抱いたんじゃない」「憎しみだったら良かったのに」。それだけで十分だった。朗も黎子もお互いにひかれあっている気持ちをもう隠す必要はなかった。「会わなければ何も始まらなかったのに…」
「もう二度と君には会わない…」。
お互い自問自答しながら、朗は黎子に背を向けると歩き出した。黎子はのど元まででかかった言葉を飲み込み、朗は背中でそれを感じていたが、二人の距離は離れていった…。

<第6回>
「最近やっとメールが返ってきたの」「忘れたかったんだろうな、東京でのこと」。
絵里花(奥菜恵)は荻野夫婦の店で恋人の山本(川端竜太)と食事をしていた。朗(長瀬智也)が設計事務所を辞めて、故郷の長崎に帰って1年が過ぎていた。当時、圭一(萩原聖人)が血相を変えて事務所にやって来た。時同じくして黎子(本上まなみ)が失そうしたのだ。黎子の行方は今日まで杳として知れないままだ。
絵里花はかつて朗の住んでいた部屋で1人暮らしを始めた。まもなく朗に会いに行くつもりだった。
 長崎・佐世保市。朗は建物の外装メンテナンスの仕事をしていた。
日焼けして明るい表情をしている。「今夜飲みに行かないか」。上司の作業員が誘ってくれた。「すいません。ちょっと予定があるんですよ」。絵里花が東京からやって来るのだ。空港の到着ロビーで待っていると、絵里花が笑顔で出てきた。1年ぶりの再会に朗も表情をほころばせた。「山本は?」「ドタキャンされちゃった。仕事だか
らって」。絵里花は朗と2人きりで会いたかったのだ。
 絵里花はハウステンボス内のホテルにチェックインした。「山本とはうまくいってんだろ?」「まあね。朗は彼女できた?」「テキトーに」。朗は笑ってごまかしたが、ひとみのことも黎子のことも1日たりとも忘れたことはなかった。
 圭一の法律事務所に修一郎(西岡徳馬)が姿を現わした。「黎子から連絡が来たんだよ!」。タイプで宛名書きされた封書。文面には、北海道のある町で元気に働いていると書かれていた。しかし電子メールを利用したサービスなので本当に北海道で投函されたとは限らない。「これを手がかりに黎子の行方を調べてくれないか」「やってみます」。
 圭一は恭順な態度を見せたが、修一郎に対する不信感を完全に払拭できたわけではなかった。総会屋への利益供与事件の渦中にいた修一郎は、黎子の捜査願いを出さなかった。マスコミの注目を浴びたくなかったからだ。圭一には、修一郎が娘の安否よりも自らの保身を選んだかのように思えた。
 朗と絵里花はハウステンボスの園内を見て回っていた。2人はガラス作品の展示館に入った。
「朗、色はまだ判らないの?」「そんなことないよ」。朗はガラス作品の色を正しく指摘したが、すべて解説板に書かれていた。
 2人は遊覧船に乗った。運河に浮かぶ白鳥を見ているうちにオーストラリアでの出来事が朗の脳裏に蘇えった…。朗は気絶した。
「こういうこと、よくあるの?」。朗が目覚めたのはホテルの部屋。絵里花が心配そうにのぞき込んでいる。「…もう平気だと思ってたのに…。忘れたらダメなんだ」。
ぼう然とする朗に絵里花は抱きついた。「私じゃ力になれないの?」「…判らないよ」。朗は絵里花の体温を感じながらも黎子のことを考えていた。
 良枝(涼風真世)がクラブの事務所で帳簿をつけていると、酔っ払った圭一が入ってきた。「残念ながら彼女から連絡はありませんよ」。黎子が失そうして以来、圭一は週1回必ず店に現れた。いつも悪酔いしてホステスたちの評判は悪い。「もうすぐひとみさんの一周忌だ。彼女は絶対あんたに連絡を取るはずだ」。
 圭一は修一郎のもとに手紙が届いたことを告げた。「ひょっとすると(高野朗と)一緒にいるかもしれないね…」「バカバカしい!」。気色ばむ圭一に良枝は追い打ちをかけた。「彼女の心の傷が判るのは彼だけかも知れないね」。圭一はグラスに残った酒をぶ然と飲み下した。
 ハウステンボス内のカフェテリア。絵里花は1人で朝食をとっていた。観光客に混じって、園内の草花の手入れをする作業服姿の女性スタッフが通り過ぎていく。その微笑みに満ちた横顔を見ていた絵里花は自分の目を疑った。
「ずいぶん楽しそうなんですね、人ひとり殺しておいて…」。植物の世話をしていた作業員が振り返った。それはまぎれもなく黎子だった。黎子の顔から微笑みが消えた。
「…どうして長崎なの! どうしてハウステンボスなの あなた、まさか…」その時、離れたところにいた同僚の作業員が呼びかけてきた。
「ひとみちゃん、こっちお願い」。
…驚く絵里花。何と黎子は“ひとみ”と名乗っていたのである…。


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