<第10回> <第11回>


<第10回>
 朗(長瀬智也)と絵里花(奥菜 恵)は、圭一(萩原聖人)が調べあげた黎子(本上まなみ)とひとみの過去にショックを受けた。二人は小学校で同じクラスだった。当時ひとみは黎子をいじめていた。その恨みから黎子は故意にバギーでひとみをはねたというのだ。
「お前の死んだ恋人はいじめをやるような女だった。そして、今お前が愛そうとしている女は、殺意を持ってお前の恋人を殺したんだ」
圭一から見せられた事故の瞬間をとらえたビデオで、バギーは砂丘の傾斜に逆らっていた。それは黎子がひとみに向けてハンドルを切ったからだと、圭一は分析した。
 その頃、黎子は病院の廊下でぼう然と立ち尽くしていた。総会屋への利益供与疑惑で会社に裏切られた修一郎(西岡徳馬)が自宅の風呂で手首を切って自殺を図ったのだ。
「…父が」
黎子は朗に電話をかけたが、涙で言葉が続かない。
「えっ?」
伝えきれないまま電話は切れた。朗も黎子に砂丘の事故の真相を確かめたかった。修一郎は昏睡状態が続いていたが、一命は取りとめた。病院にいる黎子の元に圭一がやって来た。
「黎子ちゃんは僕が守る」
圭一は黎子を抱きしめるが、黎子は人形のように無抵抗だ。
「私の心はもう圭一さんにありません」
しかし圭一はひるまない。
「高野朗は消えたよ。本当のことを知ってしまったから」
「本当のことって?」
圭一がビデオを朗と絵里花に見せたことを黎子は知らない。
「じゃ、お義父さんが意識を取り戻したら連絡して」
圭一は悪魔のような微笑を浮かべて去った。
 朗は黎子に連絡がとれずに不安を募らせていた。自宅は無人。病院に泊まり込んでいるとは夢にも思わない。良枝(涼風真世)の店にも足を向けたが、むろん黎子の姿はない。
 絵里花は圭一の事務所に向かった。
「ひとみの性格は判っているわ。いじめをやっていたなんて信じられない」
圭一は余裕の笑みで切り返した。
「だとしたら、辻谷黎子が友田ひとみを殺した動機は?」
恋人のことをそんなふうに冷酷に言える圭一に、絵里花は恐ろしさを感じた。
 父・修一郎の意識が戻り、黎子は自宅に戻った。そして物置から小学校の卒業アルバムを捜し出した。しかしひとみの顔写真はない。黎子はバスルームに足を踏み入れた。バスタブにこびりついた修一郎の血を見ているうちに、黎子は幼い日に目撃した忌まわしい記憶をよみがえらせていた。母親もまた手首を切って自殺したのだ。その手には墨で真っ黒に塗られた万華鏡が握られていた。まだ家のどこかに残っているの
ではないか。黎子は小学校時代の思い出の品々の詰まった段ボール箱を引っ張り出した。が見つからなかった。
 朗は心療内科医の野村(嶋田久作)に疑問をぶつけた。
「母親に去られた淋しさや愛情の飢餓感から、他人をいじめることはありえます」
しかしオーストラリアでの黎子とひとみは互いのことを覚えている様子はみじんもなかった。
「砂丘で記憶の封印を破る“何か”があり、彼女は錯乱した…」
 戸惑いながら朗が設計事務所に戻ってくると、黎子が待っていた。「お父さんが自殺を!?」
朗は連絡がつかなかった理由をようやく知った。黎子は朗のデスクの上に置かれた万華鏡に気づいた。数日前、黎子はこの万華鏡を一目見た瞬間に気を失ったのだ。
「ひとみの遺品の中にあったんだ」
その一言で黎子は“何か”を思い出し始めた。
「これ、私の万華鏡なんです」…。

<第11回>
 朗(長瀬智也)は黎子(本上まなみ)に別れを告げた。「怖いんです。また好きになった人が死ぬんじゃないかって」。朗は心療内科医の野村(嶋田久作)に不安を打ち明けた。そして手がけていた設計の仕事から下りるとオーストラリアへ行く決意をした。「仕事だぞ。責任ってもんがあるだろ」。旅先の事故で亡くなったひとみ(菅野美穂)との過去に決着をつけたいという朗の気持ちは理解できるが、野口(飯田基祐)は上司という立場上、首を横に振った。
絵里花(奥菜恵)も朗をなじった。「信じられない。あの女と行くのね」「彼女とは別れた。1人じゃなきゃ意味がない」。
そして朗はオーストラリアへ単身で旅立った。
 黎子が病院で父・修一郎(西岡徳馬)のベッドに付き添っていると、圭一(萩原聖人)がやって来た。
「私たちのこと、はっきりと終わりにさせて下さい…。事故のテープを捏造されたことも、私への愛情からだと思っています」。
黎子は圭一の気持ちを察し、許した。「でも…歪んでいると思います」「僕の愛が歪んでいるなら、高野朗の愛はなんて言えばいいんだろう」。圭一は自嘲気味につぶやいた。だから黎子から朗とは別れたと聞かされて、圭一は意外の感に打たれた。
 黎子はひとみの母・良枝(涼風真世)の店を訪れた。黎子が朗と別れたことを告白すると、良枝は突然泣き崩れた。「あんたの償いなんかとっくに終わってるよ。そのために別れるなんてよしとくれ。会える時に会わなきゃ後悔するよ」。
 修一郎が意識を回復した。
「お父さん、ゆっくり話したい」。オーストラリアの事故から朗との出会いと別れまでを黎子はベッドの修一郎に話した。「何もかも私のせいだ。父さんを許してくれ」。
父も娘も泣いていたが、表情は満ち足りていた。「これからは黎子が選んだ道を応援するよ。私は大丈夫だ」。修一郎も良枝と同じく、朗を追ってオーストラリアへ行くことを勧めた。
 黎子が自宅に戻ってくると、玄関前に絵里花が待っていた。
「あっちへ行って惨めな思いをしてきて。ひとみには敵わないってことを」。絵里花の突き出した手にはオーストラリア行きの航空チケットが握られていた。戸惑いながらも黎子は受け取った。
 黎子が部屋で荷物をまとめていると圭一が入ってきた。
「僕の愛を裏切るんだな」。
圭一の目から涙があふれた。黎子は動揺したが、すでに心はオーストラリアに飛んでいた。
 朗はパースでひとみと泊まったホテルにチェックインしていた。
何を見てもひとみの思い出がよみがえってきた。朗がホテル前に停めていた四駆に乗り込もうとすると、タクシーが到着した。降りてきたのは黎子だった。朗は驚きに固まったが、黎子は笑顔を向けた。「会いたかった」。しかし朗は黎子から目を逸らすと車に向かった。「思い出の場所を訪ねて、それで忘れられるんですか?」「忘れるんじゃない。乗り越えるんだ」。朗は黎子を振り切ると四駆をスタートさせた。黎子は唇をかみしめ、その場に立ち尽くした…。


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