<第4回> <第5回> <第6回>


<第4回>
 救急車で公平(吉田栄作)と見知らぬ中年男が運ばれてきた。男が駅のホームでよろけたのを助けようとして、公平も一緒に線路に落ちたらしい。幸いどちらも打撲で命に別状はない。「電車がきてたら、あの人と心中するところでしたよ」。公平が軽傷で、冴(財前直見)は胸をなでおろした。なぜ公平が西日暮里駅にいたのか。しかも夜中の出来事。「女ですね」「きっと同棲よ」。萌子(星野有香)とまゆみ(安西ひろこ)は決めつけた。「あんたは諦めた方がいいわね」。恵子(横山めぐみ)にも鼻であしらわれたが、それぐらいでへこたれる冴ではない。「どんな女がいようと、あたしは負けない。狙った獲物は絶対に落としてみせるわ」。冴は気合を込めて宙をにらんだ。
 井上圭太(井上 順)、公平と線路に落ちたこの男は大のギャンブル好きだった。大部屋に患者たちを集めては花札ざんまい。「また、やられた!」。落合(久保 晶)も中田(伊藤俊人)も酒木(桑原貞雄)も大枚巻き上げられてしまった。「病院内でギャンブルなんて!」。久美子(京野ことみ)が叱っても井上は「お姉ちゃんも一緒にやろうよ」と反省の色は全くなし。挙げ句には明日の馬券を買ってきてほしいと久美子に頼む始末。「お断りします。私はドクターです」。久美子は井上をにらんで病室を出ていった。  冴は一樹(剣太郎セガール)に公平との仲を占ってもらっていた。「チャンスは誕生日1度きりです」「分かりました。誕生日のビッグプレゼントで勝負に出ます」。思い立ったら行動あるのみ。勝負はまずライバルの素性をつかむことから。冴が西日暮里駅で張り込んでいると、改札から公平が出てきた。こっそり尾行していくと、公平はとあるアパートの部屋の前で止まった。「どんな美人が出てきても、あたしは驚かないわよ」。ところがドアを開けたのは男。公平からケーキの箱を受け取ると、うれしそうに部屋の中に招き入れた。「まさか、あの男が恋人ってこと?ウ、ウソォ!」。さすがの冴も絶句した。  ショックに打ちのめされた冴が夜勤のために病院へ戻ってみると、ナースステーション前のソファに患者たちが不安そうな顔で集まっていた。「井上さんがまだ帰ってこないんですよ」「えっ!」。実は井上が間違いなく当たる馬券があると言ったものだから、患者たちはお金を渡して買いに行ってもらったのだ。冴と萌子もボーナスの残りを全て手渡していた。「あのクソ親父、なにが倍にして返すよ!バースディプレゼントはどうするのよ!」。冴が怒りをぶちまけていると、斉藤(大滝 純)が近寄ってきた。「警察に届けろよ」。久美子はあわてた。「まだ持ち逃げと決まったわけじゃないでしょ」。斉藤は憎々しげにつぶやいた。「アイツはそういう男なんだ。自分勝手に生きて、他人はどうなってもいいんだ」。
 警察への通報をめぐってみんなが騒いでいると、当の井上が帰ってきた。「みなさん、お揃いでどうしたんですか」。酒が入って上機嫌だ。「久しぶりに外へ出たら、すっかりいい気持ちになっちゃって」。ちゃんと馬券も買っていた。「これで明日のレースが終わったら、みんな大金持ちだ」。みんなに馬券を配っていた井上が斉藤に気づいて声を上げた。「透じゃないか。お前、この病院に勤めていたのかあ」。ところが斉藤は「オレの前からとっとと消えろ」と言い捨てると、振り返りもせずに歩き去った。
 「あの気取った斉藤先生の父親が競馬オヤジだったとはねえ」。翌朝のナースステーションはその話題でもちきりだった。医師だった井上は妻と息子の斉藤を捨てて、離れ小島の船宿で気ままに暮らしていたらしい。斉藤は父親を強制退院させるよう、総婦長の玲子(鷲尾真知子)と久美子にねじこんだ。「アイツがとんでもないことをしでかしてからでは遅いんです」。父親に対する憎悪はかなりのものだった。そこへ公平がレントゲン写真を持って入ってきた。井上の胸部のレントゲン写真。「骨に異常はありません。しかしこの影は・・・」。肺ガンだった。それでも斉藤は無言のまま、ナースステーションを出ていった。
 大部屋では患者たちが井上を囲んで盛り上がっていた。馬券が的中したのだ。「退院する前に予想していって下さいよ」「よし!オレに任せろ」。井上は得意満面だ。けれども井上の肺ガンはかなり進行していた。手術をしても生存率は低い。「あの人もかつて医師だった。隠しておくのは難しいだろう」。公平は本人に告知することにした。
 冴はなんとかして斉藤と父親を和解させてやりたかった。「お父さんのこと、許してあげたらいいじゃない」「アイツは病院のプレッシャーに耐え切れずに、酒に逃げて、ギャンブルに逃げて、最後にはオレとお袋を捨てて、離島にまで逃げたんだ。今ごろ出てきて、肺ガンだってよ。笑わせるな」。斉藤はうっ憤をぶちまけた。
 翌日、久美子の母親・光子(田島令子)が病院にやって来た。娘と斉藤を結婚させたい光子は、斉藤の父親が入院していることを聞きつけたのだ。「親戚になる方なのよ。ご挨拶しなきゃ」。斉藤は光子を押し止めた。「そんな必要はありません。あの人とはとっくに親子の縁を切っていますから」。
 そのころ、公平は井上に肺ガンを告知していた。「手術すれば病巣をすべて取り除ける可能性があります」。井上は首を横に振った。「いや、手術はいいよ」。冴は怒りを爆発させた。「元気になって、ちゃんと息子と向きあえよ。このまま死ぬなんて許さない」。井上はポツリとつぶやいた。「オレにそんな資格はないよ」。冴は言葉を失った。

<第5回>
「バカヤロウ!うるせえ!離せ!」。ウイスキー瓶を振り回して、男の患者がベッドの上で暴れていた。小山内恭一(山本耕史)、小説家を目指しているが、なかなか夢かなわず、アルコール依存症になってしまった。なんとか冴(財前直見)と恵子(横山めぐみ)が2人かがりで押さえつけた。「すいません。主人の辛さに気づけなかった私が悪いんです」。謝ったのは妻の静(小松千春)。夫には小説に専念してもらい、静が働いて家計を支えているらしい。
 翌朝のカンファレンス。久美子(京野ことみ)から小山内の病状に気をつけるよう指示があった。アルコールの離脱期のため、幻覚症状がみられるという。「克服するためには家族の協力が必要だ」。公平(吉田栄作)の言葉にふだんなら大きくうなずく冴のはずなのに、今朝は浮かない表情。恵子から公平には妻子がいるらしいとほのめかされていたからだ。「妻は強しか」。冴はため息をついた。「そのアザはどうしたんですか?」。小山内は冴の腕のアザを不思議そうに見つめた。「あなたが突き飛ばしたのよ」「ごめんなさい。この人、酔っている時のことは全然覚えていないの」。静は冴に頭を下げた。「あなたは小説を書くことだけを考えていればいいのよ」。献身的といえば聞こえはいいが、静の看護ぶりは甘やかしすぎているように冴の目には映った。「あの奥さんのやり方じゃ、きっと治らないわよ」「患者さんの病気を治らないって断言するナースがどこにいるのよ」。冴がボヤいていると、久美子にたしなめられてしまった。
「飲んでいるな」。小山内のデータをチェックしていた公平は顔をしかめた。断酒しているのに何も症状が出ないのはおかしい。隠れて酒を飲んでいる可能性が高い。久美子が病室を捜していると、小山内が戻ってきた。「ごめんなさい」「調べればいいだろ、先生!」。小山内は久美子の襟首をつかんで締め上げた。「あんた、何してるの!」。飛び込んできた冴が小山内の腕をふりほどいた。「私物まで勝手にチェックするのはやりすぎよ」「あの人を救うためなの」。ナースステーションで冴と久美子がやりあっていると、静が血相を変えてやって来た。「あの人、どこにもいないんです」。病院を抜け出した小山内は、酒屋の自販機の前で倒れていた。手にはビール缶をしっかり握り締めていた。「うるせえ!飲んでやる!どうせ、オレのことなんか誰も信じてないんだ!」。激しく暴れる小山内を冴と久美子が必死に取り押さえた。
 病室に連れ戻された小山内は注射でようやく眠りについた。静がサイドテーブルに置かれたヘアトニックの容器を久美子に手渡した。「これは!」。中身はウイスキーだった。「捨てても捨てても、どこかに隠し持っているんです。先生のせいではありません」。久美子は自分の無力さを痛感した。「結婚する前はあんな人じゃなかったんです」。静は冴にこぼした。「あなたのために小説家になりたいって思うことがプレッシャーになってるんじゃないの?」。しかし静は自信たっぷりに言いきった。「あの人には才能があるんです」。
 静の言葉が現実となった。小山内の応募したミステリー小説がコンテストに入賞したのだ。「やっぱりあの奥さんはタダ者じゃなかったのね」。冴は脱帽した。小山内の病室はお祝いの花束で埋まった。「おめでとう」「ありがとうございます」。小山内はロッカーに隠していた酒瓶を全部出した。「今までオレは自分の才能に自信が持てなくて、酒に逃げていた。でも、もう必要ない。一生、酒は飲まない」。小山内は静に誓うと、2人はしっかりと抱き合った。
 夜勤の冴と恵子がナースステーションで日誌の整理をしていると、かなえ(宮川由起子)が飛び込んできた。「小山内さんがまたお酒を飲んで暴れています」。静はさっき帰ってしまった。「うるせえ、酒持って来い」。床にはペットボトルが転がっていた。「まさか、そんなワケないわよね」。冴は給湯室でそのペットボトルに静が何かを注いでいるところを目撃していたのだ。アレはお茶ではなかったのか。「すいません、私がついておきながら、こんなことになってしまって」。昨夜の出来事を知らされた静はひたすら謝った。「また、オレ、酒を飲んだのか」。小山内はうなだれた。「大丈夫よ。私が必ず立ち直らせてあげるわ」。静は母親のように小山内を抱きしめた。冴はどこかしら違和感を感じた。「あの奥さん、旦那さんが回復するの、あんまり喜んでないような気がするんだけど」「そんなわけあるはずないでしょ」。冴の疑念は恵子に一笑されてしまった。
 小山内の病室に編集者がやって来た。「すぐに第2作にとりかかって下さい」。いっぱいのファンレターを手渡されて、小山内は表情をほころばせた。「このヒモでオレを縛ってくれませんか」。冴は小山内からヒモを手渡された。「早く立ち直って小説を書きたいんです。だから絶対に酒を飲まないように、このヒモでベッドに縛りつけてほしいんです」。小山内の決意に冴は心打たれた。「いいわ。もっと丈夫なロープを持って来てあげるわ」。
 冴が避難用のロープを持って病室に戻ってみると、信じられないような光景が待っていた。小山内をベッドに縛りつけた静が馬乗りになって、小山内の口に酒瓶を突っ込んでいるではないか。「飲んで!あなた、飲むのよ!」「静さん!止めなさい!」。冴は静をベッドから引きずり下ろした。小山内はぐったりとして動かない。「すぐ処置室に運んで!」。静は病室から逃げ出した。

<第6回>
 まゆみ(安西ひろこ)の様子がおかしい。カンファレンス中に、田中智樹(橋 龍吾)という青年が訪ねてきた。恋人らしい。ところが「何しに来たのよ。帰ってよ」と表情を強張らせた。職場に突然やって来た智樹も非常識だが、まゆみの態度はいささか度を越していた。公平(吉田栄作)のことを新しい恋人だと偽ってまで、智樹を追い返したからだ。「あんなに邪険にしなくてもイイだろ」。見かねた冴(財前直見)がたしなめても、まゆみは「あんなヤツ、別になんとも思ってないから」と吐き捨てた。
 まゆみは仕事に対しても投げやりな態度を見せるようになった。そのくせ男性患者の前ではやたらと愛想がいい。「ちっとも言うことを聞かないんだから」。恵子(横山めぐみ)はため息をついた。
かたや冴は公平に妻子があると知ってから元気がない。「若い頃はいくらでも男が寄ってきたのに」。冴もため息をついていると、公平の娘の未来(碇由貴子)を見つけた。「パパ、この病院に好きな女の人がいるんだよ」。冴にしてみればダブルショック。公平は現在不倫中ということか。「あんたが相手なんでしょ」「何わけの分からないこと言ってるのよ」。冴は公平の不倫相手が久美子(京野ことみ)だと一人勝手に決め込んで斉藤(大滝 純)にボヤいた。「あんたがしっかり捕まえておかないからいけないのよ」「ボクの久美子に限って、不倫なんてあるわけない」。それでも公平に妻子がいるとは斉藤にとっても初耳だったらしい。
 まゆみと萌子(星野有香)がつかみ合いのケンカをした。萌子の恋人をまゆみが横取りしたという。「あんなダサイ男、単なる遊びよ」「なんやて!」。冴が止めて入ったが、萌子の怒りは収まらない。他人の痴話ゲンカの仲裁よりも、冴が気になるのは自分の結婚相手。入院患者の一樹(剣太郎セガール)に占ってもらった。「結婚線がはっきりと浮かび上がっています。今年中です」「やったあ!」。しかし障害が一つあるという。「子供です」。未来のことだろうか?
 ナースたちの健康診断の結果が出た。ところがまゆみだけはなぜか受けていなかった。「今回はパスしたんです」。自分の健康管理もナースの仕事のうちだ。「男と遊ぶ暇はあっても、検査を受ける時間はないって言うんか」「何ですって!」。またもや萌子とまゆみがやりあった。冴はいきさつを恵子に耳打ちした。「まゆみさん、明日から産婦人科へ応援に行って下さい。少しウチの科を離れて頭を冷やしてきなさい」「そんな!」。 産科の患者はもちろん女性ばかり。しかも待合室はアツアツの新婚カップルだらけ。独身のナースにしてみれば面白くない。「あの科には近づきたくないわね」。冴は他人事のようにつぶやいた。「菅野さんと明日から2人で産科へ行くように」「エー!どうしてあたしも一緒なのよ」。しかし恵子は冴の不平に耳を貸そうとはしなかった。
 その夜、冴は何とか恵子を懐柔しようと、スナック『あき』に誘った。「わがまま言ってんじゃないわよ。恵ちゃんの言うことをちゃんと聞かないとクビだよ」。母親のあき(夏木マリ)が余計な口をはさむものだから冴の思惑は水の泡。しかも冴を目当てに毎夜通いづめの五郎(坂田聡)にいたっては「ボクは冴さんの子供がほしい」と言い出す始末。あきは冴を生んだ頃を思い出して「こんなに憎たらしい娘に育つとわねえ」とぼやいた。「仕方ないから、お恵の顔を立てて、明日から産科に行って、母性本能でも磨くことにするか」と冴も観念した。ちゃっかりと未来を手なずける予行演習のつもりだなんてことは、恵子もあきも知らない。
 翌日から冴とまゆみは産科を担当することになった。「まゆみ、とにかく頑張ってみようよ」。冴は切り替えが早かったが、まゆみは「あたしは嫌です」と頑固な態度を崩そうとはしない。しかも陣痛に苦しむ妊婦をあろうことか、突き飛ばしてしまった。「苦しむのが嫌なら、最初から子供なんか作らなければいいのよ!」。まるで妊婦が憎くてたまらないかのようだった。
 幸い大事には至らなかったものの、まゆみの行動はナースとして見過ごすことのできないものだった。「流産していたらどうするつもりだったの!」。恵子が問い詰めると、まゆみは開き直った。「甘えたことを言うような女は流産すればいいのよ」。まゆみは以前からプライベートではいい加減なところがあったが、仕事は一生懸命にこなしてきた。あまりの変わりように、冴はたまりかねて口をはさんだ。「あんた、最近おかしいよ」。そこへ智樹が姿を現わした。「まゆみ」「あんたなんかの顔、見たくないのよ。帰って!」。まゆみはナースステーションを飛び出していった。
 冴は智樹を中庭に連れ出した。「アンタ、本当にまゆみに惚れているんだね」。まゆみと智樹は幼なじみ。智樹はわざわざ故郷の北海道から上京してきた。「昔はもっと地味で清楚な感じだったんです」。高校を卒業したら結婚する約束だったのに、まゆみは突然ナースになりたいと言い残して1人上京してしまった。「手紙を書いても、ちっとも返事くれなくて。やっと見つけて、東京に会いに来たんです。俺、諦めませんよ」。
 まゆみと萌子がまたぶつかった。萌子の恋人とまゆみがまた会っていたらしい。「いくら子供が産めへんからって、他人の男とってもええってことにはならんやろ!」。怒りにかられて萌子はつい口走ってしまった。まゆみはさっと顔色を変えると、走って行った。まゆみは高校生の時に卵巣ガンの手術を受けていた。「あたしも知らなかったのよ」。恵子はまゆみが産科の患者を突き飛ばしたことを報告に行った時に、総婦長から打ち明けられたという。まゆみの荒れている理由はこれだった。智樹に対する思いは決して冷めたわけではなかった。「産科になんて行かせるべきじゃなかったわ」。恵子は自分を責めた。翌日、まゆみは恵子に告げた。「わたし、病院を辞めさせていただきます」。


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