<第1回> <第2回> <第3回>


<第1回>
 「朝だぁ、起きろ」。隅田川沿いのかなりガタのきた2階建て。声を張り上げているのは菅野あき(夏木マリ)。1階で“あき”というスナックを女手一つで切り盛りしている。布団の中でモゾモゾしているのは娘の冴(財前直見)。「お前、今日から出勤するんだろ」「そうだ!」。冴はあわてて布団から飛び出した。
 菅野冴の仕事は看護婦。だがナースになった理由はイイ男でお金持ちの医師と結婚するためだった。「新しいドクター!新しい恋!そして結婚」。冴は今日から新設された科に異動するのだ。「頑張るんだよ」。あきの声援を背に受けて、冴は家を飛び出した。
 セント・マーガレット病院。ここが冴の職場。「あそこね」。冴はざわついているナースステーションに飛び込んだ。ナースの橘萌子(星野有香)、佐野まゆみ(安西ひろこ)らが仕事の分担をめぐって大騒ぎ。「総婦長が見えられるから静かにしなさい!」。声を張り上げたのは主任ナースの村瀬恵子(横山めぐみ)。そこへ総婦長の一条玲子(鷲尾真知子)が姿を現わした。「何を騒いでいるの!もうすぐ院長が担当のドクターを連れていらっしゃいます」。その一言で冴は目を輝かせた。「この新しい科に相応しいフレッシュな人材を、担当医として迎えることにしました」。院長の吹雪光一郎(秋野太作)の後ろから現れたドクターを一目見て、冴は絶句した。ドクターは女医。しかも以前に冴の盲腸手術を担当した相沢久美子(京野ことみ)ではないか。にこやかに挨拶する久美子に向かって、冴は小さく「ケッ」と舌打ちした。
 冴がふてくされて屋上でタバコをふかしていると、恵子がやって来た。「外科からも他のドクターが応援に来るそうよ」「あー、良かった。もちろん独身でしょうね」。冴は立ち直りが早い。そんな2人の様子を給水塔の上からじっと見つめている少女がいた。「バッカみたい」。その少女、入院患者の上原美咲(河辺千恵子)は吐き捨てるようにつぶやくと、2人の前を通りすぎていった。
 「若い女の子と張り合って、ドクターを狙うんなら、もう少しお腹をひっこめた方がいいわよ」「あんたの下手な手術のおかげで、あたしの美しい体が傷ものになったのよ」。冴と久美子が言い合っていると、外科医の斉藤透(大滝 純)が口をはさんだ。「ケンカするなら外でしろ!早く上原美咲を連れて行け」。美咲は生まれつきの心疾患だが、オペ当日になると逃亡を繰り返すため、斉藤は退院勧告を出していた。それが一転して総合医療科へ移されることになった。「つまり、ここはやっかい者の吹きだまりの科だってことよ。患者だけでなくナースもね。ドクターだって研修あがりで一番安くすむから、あたしが雇われたのよ」。久美子はきっぱりと言い切った。「でも、あたしが任された限りは立派な科にしてみせる」。圧倒された冴は何も言えなかった。
 病室前の廊下では美咲の母親、亜矢子(相本久美子)が冴を待っていた。「よろしくお願いします」。亜矢子は弁護士。夫を数年前に亡くしたが、経済的には何一つ不自由はない。「これから仕事ですので」。冴に菓子折りを手渡すと、足早に帰っていった。
 「この人たち、各病棟のトラブルメーカーばかりじゃない」。ナースステーションで資料を見ていた冴は呆れ返った。総合医療科へ移ってくる患者は美咲をはじめとして、医師や看護婦をさんざんてこずらせているやっかい者の患者ばかり。久美子の言葉は本当だった。そこへ矢口春子(幸田まいこ)が飛び込んできた。「すぐ来て下さい!美咲ちゃんが」。冴はナースステーションを飛び出した。
 美咲は母親が持ってきたシュークリームを病室の壁にぶつけて暴れていた。「そんなに元気あるんなら、さっさと手術を受けて退院しな」。美咲は冴にもシュークリームを投げつけた。冴が難なくよけたら、後ろからはいって来た久美子の顔面に命中。「あの子は元気そうに見えても心疾患なのよ。発作が起きたら命取りなの」「はい、分かりました、ドクター」。冴は笑いをこらえて、顔を洗う久美子にタオルを手渡した。
 またもや美咲が騒動を起こした。屋上の給水塔の上から降りてこようとしない。「飛び降りたらダメだよ」。事務長の山田(増田由紀夫)と婦長の玲子が必死に説得しても、美咲は知らんぷり。仕方なく冴が恐々と登っていくと、美咲は涼しい顔で降りてきた。「ギャー!」。高所恐怖症の冴は思わず下を見て、悲鳴をあげた。
 「どうしてあんなガキにおちょくられなくちゃいけないのよ」。その夜、冴は“あき”のカウンターで荒れていた。「冴ちゃんをバカにするなんて許せない」。冴をなだめているのは近くのスーパーの阪本五郎(坂田聡)。「看護婦なんか辞めて、五郎ちゃんと結婚してスーパーを手伝ったらいいじゃない」「そんな!」。あきにけしかけられた五郎は満更でもない表情。もっとも冴はやけになってカラオケをがなり始めた。
 翌朝、冴がナースステーションで二日酔いの頭を抱えていると、またもや美咲が病室から消えたと連絡が入った。美咲は売店前にいた。お見舞い帰りの父親と娘。美咲は娘に近寄ると、手にしていた缶ジュースを顔に浴びせかけた。「ウチの娘になんてことを!」。父親が逃げようとした美咲を捕まえた。美咲は胸を押さえてうずくまった。久美子と冴が走ってきた。「すぐに病室に運んで!」。冴は美咲を抱え上げた。ところが美咲が笑ったのを冴は見逃さなかった。「あんた、心臓病だからって、何でも許されると思ったら大間違いよ。いい加減にしなさい」。冴は美咲の頬を張った。再び美咲は胸を押さえてうずくまった。「また、発作のふり?」。しかし美咲はうずくまったままだった。

<第2回>
 「水上さん、お迎えにあがりました」。冴(財前直見)は外科の患者、水上香織(三浦理恵子)の病室のドアを開けた。「お待ちしておりました」。香織は微笑みを返してきた。香織は自宅のマンションの階段から落ちて足を骨折した。ほぼ完治していたが、結婚を来月に控えてナーバスになっているので総合医療科へ移されることになった。香 織は若くて美人だから、男性患者からチヤホヤされている。「フン、上等じゃない」。冴はこっそり毒づいた。
 相変わらず冴の頭の中にあるのは、カッコいい独身医師をゲットすることだけ。早速目をつけたのが、ニューヨーク帰りの柏木公平(吉田栄作)だ。総合医療科担当の外科医。その公平のシャワーシーンをこっそり覗いていたら、運悪く婦長の玲子(鷲尾真知子)に見つかった。もちろん久美子の耳にも入り「まるでストーカーね」「純愛よ、純愛」。いつものようにののしりあう久美子と冴。「あたしも最近、あなたみたいなストーカーに狙われて、困っているのよ」。久美子のマンションに何者かがベランダから押し入ろうとしたらしい。「下着泥棒よ。女なら誰でもよかったのよ」。冴は憎まれ口を叩いた。  冴は公平が何かにつけて久美子に親切にしているのが気にくわない。「相沢先生なら心配ありませんよ」。こっそり耳打ちしてくれたのは同僚のまゆみ(安西ひろこ)。「斉藤ドクターと婚約しているんですって」。久美子の父親は開業医。会えば医師と結婚して後を継いでほしいと娘に言っている。そして久美子の両親が勝手に決めた相手が外科医の斉藤(大滝純)。野心家の斉藤は病院長のイスを目当てに、自ら久美子と婚約していると周囲に吹聴している。「相沢のヤツ、あたしより先に医者と結婚しようなんて、絶対に許せない」。しかし冴は誤解していた。久美子は斉藤と結婚したい気持ちなどさらさらなかったのだ。
 冴は香織の車イスを押して庭にやって来た。香織は来月、建築家のフィアンセとサンタモニカの教会で挙式する という。「彼の才能を花開かせることだけが、私の夢なんです」「うらやましい」。冴は思わずため息をもらした。ところが冴が胃の検査を勧めると、香織は急に声を荒らげた。「私のことはほっておいて下さい」。
 久美子の診断によると、香織は胃かいようの兆候が見られる。かなりの痛みがあるはずなのに、香織は薬も飲まずにトイレに流していた。食事もほとんど食べない。「足の骨折も完治しているのに、自分で歩こうとしないのは、ちょっと変よね」。主任看護婦の恵子(横山めぐみ)も首をひねった。しかし久美子は「変な詮索はしないで。彼女はちょっとマリッジブルーで不安定なだけよ」と取り合わない。「結婚間近な者同士、不安な気持ちはよく分かるって言いたいわけ」「私は斉藤先生と結婚なんかしません」。冴にからかわれて久美子は意地になって否定した。その久美子に花束が届いた。「痛い!」久美子が何気なくカードを開けると。カミソリが貼りつけられていた。カードには『ご婚約おめでとう』の文字が書かれていた。
 翌朝のナースステーションはその話題で持ちきり。「案外、菅野先輩だったりして」「冗談じゃないわよ」。冴にし てみれば、とんだ濡れ衣だ。冴は患者の黛一樹(剣太郎セガール)に占ってもらった。「カミソリ入りの花束の犯人は、この病院の中にいます」。そこへ担当ナースの萌子(星野有香)が病室に戻ってきた。「また、あたしの一樹さんに手を出して」。一樹は大会社の御曹司とも芸術家ともウワサされているナゾの患者。しかもルックス抜群だから、狙っているナースは数知れず。「早く自分の患者さんのところへ戻って下さい」「分かったわよ」。冴は香織の病室へ向かった。
 まゆみが汚れたシーツを丸めて怖い表情で立っていた。冴が一樹のところで油を売っていたものだから、代わり にシーツ交換をさせられたらしい。「そんなに怒らないでよ」「先輩、たしか香織さんのフィアンセって、和也さんって言ってましたよね。その人、死んでますよ」。サイドテーブルに置かれていた写真を見て、思い出したという。香織のフィアンセ竹ノ内和也は昨年、救急外来で亡くなった患者だった。「あたし、担当だったからよく覚えているんです」。まゆみはきっぱりと言い切った。
 「絶対におかしいって」。冴は久美子に知らせた。調べてみると、香織の家はマンションの1階。どうやって階段で転ぶというのか。「あんたんとこのベランダから飛び降りたストーカーも、きっと足くらい折ったわよね」「香織さんがストーカーだと言うの!患者さんを疑うなんて、あなた、それでもナースなの!」。久美子は一笑に付した。
 恵子は和也のデータをパソコンで検索した。確かに昨年末にくも膜下出血で亡くなっていた。「昼間に自宅で倒れて、夜まで発見されなかったらしいわ」。担当医は久美子ではない。「やっぱり無関係なのか」。冴が納得しかけた矢先、恵子が声をあげた。「この人、前にも救急外来で受診してるわ」。その時に診察したのは久美子だった。
 久美子は香織の車イスを押していた。「先生、このイス、ストッパーが少し甘いみたいなんです。ちょっと座ってみてくださらない?」。久美子は香織に代わって車イスに座ってみた。その瞬間、香織はストッパーを外して、階段の下へ向けて思い切り車イスを押した。

<第3回>
冴(財前直見)と恵子(横山めぐみ)は幼稚園からのつきあい。優等生だった恵子がいつも落ちこぼれの冴の面倒を見てきた。そんな2人の同級生でモデルの向井俊介(川崎麻世)が内科に入院してきた。「地球上のイイ男はみんなアタシのものよ」。ナースステーションを飛び出していった冴の後ろ姿を見ながら、恵子はいつものようにため息をついた。
 「菅野!」「俊介!」。感激の再会をはたした冴は総婦長の玲子(鷲尾真知子)に直訴して、俊介を総合医療科に移してしまった。俊介は重度の糖尿病だった。モデルの体型を維持するために、無理なダイエットを繰り返していたのだ。「しっかりした食習慣を身につけないと命取りになるわ」。久美子(京野ことみ)の言葉に恵子は表情をひきしめた。 「感激だなあ。恵子ちゃんに看病してもらえるんだったら、ずっと入院していたいぐらいだよ」ベッドの俊介からうっとりと見つめられて恵子は満更でない様子。冴は面白くない。「昔から女を見る目がないんだから。やっぱりアイツはバカよ」。同僚の萌子(星野有香)とまゆみ(安西ひろこ)相手にボヤいていると、久美子から書類を手渡された。「主任から聞いてないの?」。院長(秋野太作)が学会で発表するために、受け持ちの患者の症例レポートを作らなければならない。「休み返上で学会の資料作りだなんて!」。看護婦たちの不満のほこ先は恵子に向けられた。「どうしても資料を作りたいなら、主任おひとりでどうぞ」。まゆみと萌子ばかりか、冴までも「デートで忙しいから」と知らんぷり。
 恵子は山田事務長(増田由紀夫)から、看護学校の講師にならないかと打診された。「あなたのような優秀な人をあんな掃きだめに置いておくのはもったいない」。休みもきちんとあり、給料も今の倍になる。「私にはナースをまとめていく能力も、患者さんをケアする力もないと、おっしゃりたいんですか!」。恵子は憤然として断った。
 「カンパーイ!」。冴の母親、あき(夏木マリ)が常連客と祝杯をあげていた。商店街のクジ引きでグァム旅行が当たったのだ。そこへ五郎(坂田聡)が雑誌を抱えて入ってきた。「俊介兄貴ですよ、おばさん」。グラビアには俊介のモデル姿が。「へえ、これがあの俊介!」。悪ガキ時代の俊介しか知らないあきは目を丸くした。高校生の頃、冴と俊介はツッパっていた。五郎は2人の使い走り。いつもそんな3人の尻ぬぐいをしてきたのが優等生の恵子だった。「変われば変わるもんだね」。あきは感慨深げにつぶやいた。
 俊介の病室に後輩のモデルが見舞いに来た。「みんな入院してくれたら、お姉さんがまとめて面倒みちゃうわよ」。若くてイイ男たちに囲まれて、冴はゴキゲン。俊介も笑顔で応対していたが、後輩たちが帰ると急に頭を抱え込んだ。「残酷だな。どんな人間も歳をとるんだ」。サインをしてもらおうと冴が差し出したグラビア雑誌を、俊介は振り払った。2人の様子を廊下から見ていた恵子は「病気で焦っている患者さんに、仕事の話が厳禁だってことぐらい、新人のナースだって分かることでしょ」。恵子が冴を叱っていると、まゆみと萌子が口をはさんだ。「ちょっと言いすぎじゃないですか」。それでも恵子の怒りは治まらなかった。「男を捕まえるためだけにナースやってるなら、今すぐ止めてほしいの。きちんと仕事してるまわりが迷惑するわ」「分かったよ。俊介にはもう近づかない。後は恵子に任せるよ」。いつになく冴はおとなしく引き下がった。
 冴がブルーな気分で帰り支度をしていると、公平(吉田栄作)が声をかけてきた。「たまには食事でもどうだ」。久美子も一緒というのが不満だが、冴の返事はもちろん「行きまーす!」。公平が連れて行ってくれたのはもんじゃ焼き。「幼なじみの主任が困っているのに、あんたはのんきね」「あたしだって苦労しているのよ」。またしても久美子と冴は口げんか。「いい加減にしろ!医師とナースのチームワークは患者にとっても大切なんだぞ」。公平に叱られて2人はうなだれた。
 その夜、深夜勤務の恵子がナースステーションで学会の資料を作っていると、萌子が血相を変えて飛び込んできた。「向井さんが!」。俊介が屋上でワインをラッパ飲みしていた。「俺はモデルとしてもうダメなんだ。若いヤツがドンドン追い抜いていくんだ。優等生のお前には俺の気持ちは分からないよ!」「あなたはモデルじゃなくとも、イイところがたくさんあるわよ。ちゃんと治療して元気になって」。説得しようと近づいた恵子を俊介が抱きしめた。「高校生の時から、ずっと憧れていた。俺のそばにいてくれるか」。俊介は恵子にキスした。
 「昨夜の屋上でのことは報告しなくていいのですか?」。翌朝の申し送りで萌子が切り出した。「主任と患者の向井さんがキスしていたんです」。まゆみも追い打ちをかけてきた。「ナースとしての自覚が一番足りないのは主任です」。2人は冴の味方をしたつもりだったが、当の冴は「そういう噂話は大っ嫌いなんだよ」と吐き捨てた。「患者を本気で好きになって何が悪いんだ。そんなことでガタガタ騒ぐな」。冴のものすごい剣幕にまゆみと萌子は言葉を失った。「向井さんとキスしてたのは本当です。お騒がせして申し訳ありませんでした」。恵子は深々と頭を下げた。
 翌日、恵子は婦長室を訪れた。「私には彼女たちをまとめていく器量などありません。ナースを辞めます」。事務長の勧めてくれた講師の話を受けるつもりだと打ち明けた。冴はナースステーションで学会の資料作りをしていた。「そんなことしても無駄ですよ。主任、辞めるみたいですよ」。萌子が冴に耳打ちしていると、恵子が姿を現わした。「あんた、それで本当にいいの!」。冴は恵子に詰め寄った。そこへ春子(幸田まいこ)が走ってきた。「向井さんが勝手に退院するって荷物をまとめているんです」。冴と恵子は俊介の病室に向かった。


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