あらすじ
<第7回> <第8回> <第9回>

<第7回> 「涙の初ライブ」
 「あなたは俺のことを─」。工藤(西岡徳馬)の差し出した契約書を前にして浩輔(高橋克典)は言いよどんだ。「5年もたったんだ。水に流していい頃だよ」。工藤の言葉をそのまま信じたわけではなかったが、浩輔は未来(中島美嘉)と共に契約書にサインした。2人の複雑な表情とは対照的に、綾(川島なお美)はゴキゲンだった。
 工藤は江崎(金子賢)に本音をもらした。「5年のブランクは大きい。失敗するのは目に見えている」。責任を取らせて浩輔を追い出し、江崎に未来のプロデュースを任せるつもりでいた。「あいつをそう簡単には許しません。必ずつぶします」。
 江崎はその言葉を由佳(加藤あい)に伝えた。「君だってこうなることに一役買ってるんだ」「私は兄を傷つけたいなんて、一言も―」。由佳は浩輔から未来を引き離したい一心で、江崎にデモテープを渡したのだ。「もう、俺の味方でいるしかないんじゃないのかな」。由佳は自分が江崎の共犯者であることを改めて自覚した。
 由佳はCD制作実習の録音で苦しんでいた。希望どおりの演奏をしてくれないバンドのメンバーに対して、つい声を荒らげてしまう。「そんな言い方をしたら、みんな面白くないよ」。見かねた美紀(矢沢心)の忠告も耳に入らない。由佳はこんな時こそ兄に相談したかったが、後ろめたさが先立って素直になれない。だから、アシスタントをやってくれないかとの浩輔の依頼も、「学校の実習で手一杯なの」と断ってしまった。
 デビューにむけて未来のレッスンが始まった。しかし歌うことしか関心のない未来は、ダンスやアイドルまがいの撮影には苛立ちを隠そうとしなかった。「おかしくもないのに笑えるか」「我慢しろ」。ぶ然とする未来を浩輔がなだめていると、工藤に声をかけられた。「今回の曲はプロデューサーとして君の名前は出さないでやってほしい」。盗作にこだわる上層部を説得するためだという。屈辱的な条件だが、未来をデビューさせたい一心で浩輔はのんだ。「なんで2人の名前が出せないんだよ!」。未来は怒りのほこ先を浩輔に向けた。「あんな奴の言いなりでいいのかよ!」。
 由佳が夜の繁華街で黒人グループにからまれていたところをたまたま通りかかった未来が助けてくれた。最初は未来につっかかった由佳だったが、やがて涙声になった。「お兄ちゃんときっと一緒にCD出すって約束して。あんたにそう頼むしかないの」「言われなくてもそうするよ」。口調はぶっきらぼうだったが、兄を慕う由佳の気持ちは未来にもしっかり伝わった。
 工藤がまたもや難題をつきつけてきた。江崎の手がけている新人・佐伯優子(木村真依)がお披露目ライブを行う。その前座で未来にも1曲歌わせたいらしい。「こいつはまだライブをやる時期じゃありません。仮にやるとしたら単独のステージを用意してやりたい」。浩輔が工藤とやりあっていると、困惑げな佐和子(畑野浩子)が近寄ってきた。「部長、まずいことが」。
 会議室で良二(深水元基)がふんぞり返っていた。「未来がこれまでやってきたことをマスコミにバラしたらデビューできなくなるんじゃないの?」。口止め料を要求する良二に、工藤は露骨に顔をしかめた。「あんたは仲間から金を取るヤツじゃない」。未来は穏やかに言い、良二に深々と頭を下げた。「私、歌手になりたいんだ。だから帰ってくれよ」。良二は何も言わずに部屋を出ていった。「今回のことは上層部には黙っておく。その代わりライブには出てくれ」。工藤の交換条件をもはや浩輔も未来も断るわけにはいかなかった。
 浩輔は人知れず焦っていた。未来のデビュー曲の後半部分ができない。ギターを弾き始めると、5年前の盗作を認めた記者会見がフラッシュバックのようによみがえってくるのだ。ライブまであと10日しかない。「期待してるよ」。坂井(石原良純)の何気ない激励の言葉すら浩輔に重くのしかかる。貧血をおこした浩輔はその場で倒れこんでしまった。坂井から連絡を受けた由佳がアパートまで付き添った。由佳はテーブルの上の書きかけの楽譜に気づいた。「曲はもうできたの?」由佳が楽譜を取ろうとすると、浩輔は楽譜を力いっぱい引き裂いた。「作曲しようとすると昔のことを思い出すんだ」「そんなの気のせいだよ!」「お前に何がわかる!」。浩輔は苦悩の表情でいっぱいだった―。

<第8回> 「お前の曲を待っている!」
 「素敵だったわ!」。未来(中島美嘉)はライブで江崎(金子賢)の曲を歌った。「よかったよ」。綾(川島なお美)も江崎も、ステージから降りてきた未来を笑顔で出迎えた。2人はレコーディングの話を切りだした。「歌わないよ」。レコーディングするのは浩輔(高橋克典)の曲。未来の気持ちに迷いはなかった。「悔しかったら、曲作れ!」。ライブ会場から立ち去る浩輔の背中に向かって、未来は叫んだ。
 浩輔がアパートに帰ると、由佳(加藤あい)が手料理を作って待っていた。先日貧血で倒れたのを坂井(石原良純)が心配して、由佳に監視役を頼んだらしい。そこへ工藤から電話がかかってきた。呼び出されたバーには江崎の顔もあった。「江崎君のアレンジを手伝ってもらえないかな」。後輩である江崎のアシスタントをやれというのだ。実は江崎の曲をライブで歌う代わりに、浩輔に仕事を世話すると江崎は未来と約束したのだった。約束を破れば、未来はますますかたくなになるだろうし、浩輔をひきこんでおけば、何か利用できるかも知れないという企みが江崎にはあった。
 浩輔を心配して後を追ってきた由佳にこの件を話すと、由佳は気色ばんだ。屈辱的な申し出を浩輔は引き受けたのだ。「今は音楽の仕事から逃げるわけにはいかないんだ」。浩輔は自分に言い聞かせるようにつぶやいた。
 浩輔は胸のうちを坂井に打ち明けた。「俺の作った曲を未来が歌う。今あの会社から逃げだしたら、俺たちの夢を永久に捨ててしまう気がするんだ」。坂井はそれを聞いて安心した。そして浩輔は坂井に人探しを頼んだ。「俺が前に進むにはどうしてもその人を探しださなければならないんだ」。
 一方、未来は公園で一人ランニングをしていた。「いつかコンサートだってやるんだ。持久力つけておかないと」。いつかそう言った浩輔の言葉を思い出していた。そんな未来の前に、レコーディングのためのレッスン日を知らせに佐和子(畑野浩子)が現れるが、未来はつっぱねた。佐和子が、江崎が浩輔に仕事を紹介したこと、そして浩輔はもう曲作りを諦めたんじゃないかと告げると、未来は走り去った。未来は浩輔のアパートまでやってきたが、やがて背を向けて歩き出した。偶然由佳と会い、未来はためらいながら浩輔の様子を尋ねた。「お兄ちゃんは、曲が作れなくたってそのうち別の道を見つけるよ。私がちゃんと見守るから」と由佳はムッとして答えた。「あいつはきっとあの歌を最後まで作る。私にはわかる」「お兄ちゃんを裏切った奴が偉そうに言わないでよ!」。興奮気味の由佳とは対照的に、未来は穏やかに言った。「妹だったら、信じてやれよ」。
 浩輔はグローバルサウンドの一室で慣れないパソコンと悪戦苦闘しながら、江崎の曲をアレンジしていた。5年間のブランクを実感していた。「今の俺にはお前の才能がうらやましいよ」。浩輔の正直な告白に江崎は思わずつぶやいた。「どうして島崎未来は僕の歌を歌おうとしないんですか。このままじゃ契約を打ちきられる。あなたから、僕の歌を歌うように話してください」。浩輔にとって屈辱的な話だったが、浩輔に頼むことも江崎にとって屈辱だった。
 浩輔は未来を呼び出した。「このままじゃ、俺のせいでお前まで道連れになる」。未来はひるまなかった。「落ちこぼれ同士、一緒に頑張ってきたんだろ。私一人うまくいっても仕方ないんだよ。こんなとこ来る暇あったら曲作れ」。説得するつもりの浩輔が逆に説き伏せられてしまった。
 坂井に頼んでいた人物の消息がつかめた。浩輔はある雑居ビルのバー『ノア』をたずねた。「俺、吉村浩輔です」。店の奥から50代の偏屈そうな男が出てきた。その男こそ、浩輔が5年前に盗作した曲を手がけた川上(マイク真木)だった。「俺の中ではあの出来事はとっくに終わってる。許すも許さないもない」。川上はフッと微笑むと、浩輔の前に酒のボトルを置いた。「曲を作るのも自分を許すのも君自身だ。ま、一杯飲んで帰りな」。
 浩輔の中で何かがふっ切れた。帰宅するとギター片手に一心不乱に曲作りに打ち込んだ。由佳も楽譜の清書を手伝い、ついに曲が完成した。
 浩輔は、由佳と未来を川上の店に呼び出し、ピアノの前に座った。静かにイントロを弾き出し、浩輔は未来のための曲『STARS』を歌い始めた―。

<第9回> 「自分の力を信じたい!」
 浩輔(高橋克典)のプロデュースで未来(中島美嘉)のデビュー曲制作が動きだした。浩輔の指示に未来は素直に従った。一方、江崎(金子賢)は工藤(西岡徳馬)に揺さぶりをかけてきた。「あの2人のCDを出すなら、ぼくは今後この会社での仕事をお断りします」「何とかしますから、少し時間をください」。さすがの工藤も動揺を隠しきれなかった。
レコーディングにむけての準備は順調に進み、綾(川島なお美)や坂井(石原良純)も胸をなでおろしていた。「未来ちゃんの歌が出たら、お父さんもどこかで聴くかもしれないですね」。坂井の言葉に綾は一瞬戸惑いの表情を見せたが、「さ、乾杯しましょ」と笑顔でとりつくろった。「何やってんだよ」。浩輔が未来に声をかける。未来は綾の不審な様子が気になっていた。
 レコーディングの予定もCD発売日もまだ決まっておらず、浩輔は業を煮やしていた。せめてレコーディングだけでも、という浩輔から工藤は逃げるように去っていった。帰ろうとしたその時、偶然にも録音スタジオにキャンセルが出たという情報を聞き、浩輔はスタジオを押さえた。「いよいよ明日からだ」。その夜、浩輔は未来をあるクラブに連れていった。「お久しぶり」。浩輔の旧知の歌手・加納美穂(川上麻衣子)が声をかけてきた。この店で歌っているらしい。浩輔は未来を紹介した。「聞いてみたいわ。なんならここで歌う?」。美穂は値踏みするように未来を見た。「いいよ」。未来はステージに立つとバンドの演奏に合わせて歌いはじめた。ざわめいていた客たちが未来の歌声にクギづけになった。「いい子、見つけたわね」。美穂は浩輔に耳打ちした。
 レコーディング当日、ミュージシャンやエンジニアが次々とグローバルサウンドのスタジオに集まってきた。楽曲の録音のみで歌入れはなかったが、浩輔は未来にも見学させることにした。「何でも勉強か」「わかってきたな」。未来が苦笑したその時、浩輔の携帯電話が鳴った。美紀(矢沢心)からだ。「由佳(加藤あい)がいないんです」。最近元気がない様子で、昨日、今日と学校を欠席していた。アパートにも姿がなく、携帯電話も通じない。「私が探す。浩輔は仕事してろ」。未来は言うなりスタジオを飛びだした。浩輔も録音を午後からにしてくれるよう、頼子(牛尾田恭代)に頼むと、未来の後を追った。警察に事情を話すが、由佳らしい人物がからんでいるような事件はないとのこと。とりあえず家出届けを出すように言われただけだった。「俺は兄貴失格だ。自分たちのことに必死で、あいつのことを考えてやる余裕がなかった」。浩輔は自分を責めた。浩輔はアパートに戻ると、ドアの間にはさんである封筒に気がついた。由佳からだ。未来のデモテープを江崎に渡したこと、バンドとのトラブルを仕組んだこと―、浩輔と未来の邪魔をしたことを詫びる手紙だった。「今の私は一人になってみなきゃダメだって、自分にとって音楽って何なのか、もう一度考えてみなきゃダメだって気づいた。必ず、もっと元気になって、もっと強くなって帰ってきます」。浩輔は放心状態だった。「未来と一緒に頑張って」。由佳の手紙はそう締めくくられていた。「きっと帰ってくる。あいつを信じよう」。未来の言葉に浩輔は笑顔を取り戻した。
「すみません。遅くなって」。浩輔は急いでレコーディングスタジオに戻った。待っていたのは佐和子(畑野浩子)だけ。ミュージシャンは全員帰ってしまっていた。「工藤部長、契約を打ち切るつもりですよ」。契約書には、浩輔が仕事を放棄すれば一方的に解約できる条項がある。それを盾にとるつもりなのだ。「江崎さんを助けてあげて。あの人、5年前のあなたと同じなんです」。江崎には才能があるし、それに相応しい評価を得ていた。それでも常に不安にかられていた。「あの人はきっとあなたが恐いんです。彼を変えられるのは、あなたしかいません」。佐和子は会社側の立場でありながらも、切実に浩輔に訴えた。
昨晩浩輔たちが訪れた店に、片岡(峰岸徹)という男が現われ、美穂に話し掛けた。「昨日、ここで話をしてたの、吉村浩輔さんですよね」「そうだけど?」。美穂が答えると、片岡は笑みを浮かべた―。
 先日来、未来は父親についての情報を得ようとしていたが、綾はつっぱねていた。「このままじゃどんな気持ちで歌っていいかわからない」。父親に会いたがっている未来に綾はついにおれた。「会ったとしても傷つくだけかもよ」。そう言って連絡先を未来に手渡した。未来は花屋の店主をしている父親(長谷川初範)を訪ねた―。


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